表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エンゼルプラン  作者: 夏多巽
第八章 三月三十日 前半
136/173

愛情の理由

本日より1月5日まで9日間連続更新を予定。

 昔の夢を見た。


 父さんと母さんがいて、ありきたりの、それでいて平和な日常を過ごしていた頃の夢だ。

 まだ幼い俺は両親に手を握られ、ふらふらと身体を揺らしながら歩く。そんな俺を見て両親は微笑んだ。


 続いて、場面は数年前の情景へと切り替わる。


 紫と蓮の三人で街へ出かけた時の光景がそこにあった。

 ゲームセンターのクレーンゲームにのめり込んだ紫が、目当てのぬいぐるみを獲れずに眉を寄せている。それを見かねた蓮が代わりに挑戦するとあっさりと手にすることができた。

 紫はぬいぐるみを手にして、嬉しいような納得がいかないような微妙な表情を浮かべている。そんな彼女に蓮はいつものように苦笑いするのだった。


 何事もない日々の姿。それがあの頃は当然だと思っていた。




 扉の開く音で意識が覚醒する。


 頭を動かし時計を見るとちょうど八時だった。

 窓からカーテンの隙間を縫うように光が差しており、一筋の光が絨毯を明るく染め上げている。

 不思議と爽快感のある朝だ。懐かしい過去を夢に見たせいだろうか。


 そんなことを考えていると、ベッドの上に何か重いものが圧し掛かる感触がした。

 昨日の朝も同じようなことがあった記憶がある。

 その感触がした方向へ目を向けると、その記憶が正しいことを実感した。


「トリス? 今度はどうしたんだ」


 トリスは俺を一瞥するとシーツの下に頭を突っ込んでそのまま中へ潜り込んでいった。シーツに不自然な膨らみが出来上がり、隠れているのは一目瞭然だ。白い山の下からか細い鳴き声がした。何かに怯えているように思える。


 廊下をばたばたと走る音が近づいてくる。

 音は俺の部屋の前で静止すると、半開きになった扉を全開まで開いた。

 音の主はトリスの飼主たる三白眼の少女だった。


「由貴さん、ここにトリスが……あ、やっぱりいたのです。由貴さん、そのままその子を隠してください。いいですね、誰か訪ねてきてもここにはいないと答えるのです!」


 彩乃は部屋に飛び込んでくるなり唐突にそんな要望を突きつけ、そのまま扉も閉めずに部屋から出ていった。


 何だ? 何が起きている?


 そして、間もなく三人目の客が部屋を訪れた。


「由貴……ああ、起きてるね。ねえ、トリスがこの部屋に来なかった? 君に懐いていたみたいだし、もしかしたらと思って……」


 慎さんが開いた扉の隙間から顔を出し、ベッドの上の山を見た瞬間苦笑した。


「……ほら、そんなところに隠れてないで、別に怖がるような真似はしないから」

「一体どうしたっていうんだ? つい今し方彩乃も来たが……」


 慎さんはやれやれと首を振った。


「昨日母さんが暴露したトリスの秘密の件だよ。初音さんのところで調べるって話だったろう? それでトリスを貸してほしいって彩乃に頼んだら、当然というか大反対してね。トリスもびっくりして逃げ出すし……昨日のうちに相談したかったけど、昨日は昨日でばたばたしていたから」


 シーツをめくって中で丸くなっているトリスに慎さんは優しく語りかける。トリスは俺に救いを乞うような眼差しを向けてくるが、こればかりはどうしようもない。

 “再誕”させられた魔物について未知の部分は多い。今後トリスにどんな問題が起きるかわからない以上、身体の状態はチェックしておきべきだ。


「安心しろ、怖がる必要はない。ほんの少しだけ我慢するだけでいいんだ。終わればすくに彩乃の元に帰れるぞ」


 懇願するトリスの視線を受け止めて諭す。

 やがてトリスは観念したかのように頭を下げると、のそのそと這い出してきた。

 腕を差し出すとトリスは寄ってきて、抵抗することなく抱きかかえられた。


 俺と慎さんは顔を見合わせて笑い合う。


 トリスを抱いたまま部屋を出て階下へ下りると、彩乃が仁王立ちして待っていた。珍しく険しい表情をしており腕を組んでいる。


「由貴さん、駄目です駄目です。トリスを怖い目に遭わせるなんて絶対許さないのです。この子は研究所で暮らしていたから、あそこがどんな場所が知っているのです。他の子が殺処分されたのもちゃんと理解しているから行きたくないのです」

「だから酷いことはしないってば。本当に調べるだけだって」

「いやいや、もしかしたら重大な事実が判明したとか言ってまた檻の中に閉じ込められるという展開もあるかも……」


 彩乃がトリスを可愛がっていたのは知っているが、それにしてもえらい過保護だ。

 心境は理解できる。母親が死んでから心の支えになっていた存在だ。それが傍からいなくなるのが耐えられないのだろう。

 ましてや父親が死んだ直後だ。まだ実感が湧かないとはいえ、心の奥底では不安で堪らないに違いない。


「由貴さん、ここが男の見せ所です。兄さんにがつんと言ってください」

「別に慎さんは何も悪くないんだから抗議する必要ないだろう。大体それはお前自身がすべきことで俺に頼むことじゃない」

「ここで甲斐性を見せなくてどうするのです。年上の女性からのプロポーズに答えるよりはずっと簡単なのです」

「関係ない話を持ち出すな」


 何故、ここで凪砂さんの話が出るのだ。


「ご存じですか? 凪砂さんは事あるごとに庭で警備している警官の人たちに愚痴を零しているのです。信頼関係は築いているのにそこから一歩も先に全然踏み込めないと嘆いてばかりで、面倒くさそうに相槌を打つ皆さんが可哀想だったのです。昨日の夜は対抗馬が現れたかもしれないと戦々恐々としていたのですよ」


 何をしているんだあの人は。それに対抗馬とは誰のこと――。


 そこで俺は『ハミングバード』でのやり取りを思い出し、顔が紅くなるのを感じた。


「……とにかく、ただ検査をするだけだ。心配しないで構えていろ。もし、何かあればその時は俺に言え。御影家の名で抗議してやる」


 正確には次期当主の寧の代理としてだが。これに関しては寧も賛同するとみていいので大丈夫だろう。


「頼もしいね、もしもの時は頼んだよ」

「そうならないのが一番だが……初音さんがいるから安心していいと思うぞ」


 慎さんは俺からトリスを受け取ると屋敷を出ていき、メイド人形が運転する車に乗って研究所へと向かった。


「ほら、機嫌直せ。今日か明日には帰ってくるさ。必要なら経過を訊いてやる」

「うー……」


 唸る彩乃を宥めていると、いつからそこにいたのか凪砂さんが物欲しそうな表情で語りかけてきた。


「それなら気晴らしに外に出かけてきたらどうかな。しばらくは私の部下の調査待ちでやることもないから気分転換を図るといい」


 凪砂さんの言う通り、現在俺たちは手持無沙汰である。

 というのも殺人事件に関しては明らかになっている証拠だけでは真相に至るには足りず、さらなる捜査を必要としている状況なのだ。加えて、糸井夏美に関わる過去の一連の事件も真相が解明された今、残すは浅賀の研究施設がどこにあるか突き止めるだけである。他にも謎は残されているが優先順位が高い二つはこの通りだ。


 そういったわけで今日は調査の予定を入れていない。寧と雫も同様だ。


 寧は部屋でゆっくり休むつもりだと昨夜就寝前に話していた。もしかすると昨日の事件が尾を引いているのかもしれないが下手に追及することはない。

 雫は本来の滞在日程を超過しているが、特に急ぎの用事も無いとのことだ。自宅の両親には既に粗方の事情を説明しており、滞在を延長する旨を伝えている。二人とも事件に巻き込まれたことを心配していたらしいが、絶対に帰るわけにはいかないと懇願したところ了承してくれたそうだ。後で俺からも礼を述べよう。


「良い機会だから今日はゆっくり羽を伸ばすんだ。もし、出かけるときは一声かけてくれ。私も同行しよう。二人で出かけるのは屋敷(ここ)に住んでいた時以来だろう。私に男の甲斐性を見せるチャンスだぞ」

「気分転換の話だけはありがたく受け取っておきます」


 俺は後半の言葉をスルーした。


 俺と凪砂さんの会話を隣で聞いていた彩乃は、じっとこちらを見つめている。


「……ずっと不思議に思っていたのですが、どうして由貴さんは凪砂さんのアプローチを受け流そうとするのですか?」

「どうして、と言われてもな」

「出逢って早三年、未だにこの調子さ。泣けてくるな」


 全く悲しみに暮れていない顔で目元を拭う仕草を見せる凪砂さん。

 未だにこの調子、というのは彼女も同じだ。

 婚約話が流れた今なお俺に恋慕を抱き続けているとは。


「一体何が不満なのです? 凪砂さんはこれ以上ないくらい優良物件なのです。普通なら喉から手が出るほど欲しいと願う男性は多いでしょうに」

「それはまあ、そうだが」

「由貴は権力や名声では動かないからな、やはり女の魅力で勝負するしかない」

「……今でも充分すぎるくらいですよ」

「君の気を惹けない魅力は私にとって価値はないさ」


 あっさりと言ってのける凪砂さんに、彩乃が頬を膨らませる。


「こんなこと言ってるのです、世の女性が聞いたら贅沢極まりないと非難するに決まっているのです。持たざる者に謝罪すべきです」

「仕方ないよ、凪砂ちゃんは根っからの結果主義だからね。得たいもののために全力を尽くすのが彼女さ。そうでなきゃ草元さんも苦労せずに済んだろうね」


 どこからともなく現れた隼雄さんが会話に割り込んでくる。

 一体いつから聞いていたんだ。


「周囲を蔑ろにする気はありませんが、かといって過程に拘るのは性に合いません。何事も全身全霊が私の信条ですから」

「だよねえ。ところで、さっき言ってたこと気になるなあ。対抗馬が現れたって誰のことだい?」

「雫さんですよ、完全に油断していました」

「ほほう、それはそれは」


 隼雄さんが面白い玩具を見つけたような表情を見せる。

 この人はこの手の話に食いつきがいい。昨日も、辰馬さんが章さんと五月さんの関係を公表した後、とても興味津々な態度だったと登が語っていた。


「出逢って日が浅い二人が懇ろになるはずもないと高を括っていたのが誤りでした。昨日の捜査中に偶然雫さんの同級生と対面したんですが、彼から由貴と交際関係を疑われた直後満更でもなさそうな顔を見せたんです」

「おやおや、短期間で随分と信頼関係を築いたようだね」

「そんな邪推するようなことは何もないぞ。少し……少し誤解させるような発言をしてしまっただけだ」


 ここで迂闊な発言は許されない。

 寧からも指摘されたが、俺は表現が直接的すぎて妙に期待させてしまう傾向があるようだ。


「……由貴さんは女性の扱い方に気をつけるべきなのです。私もいきなり抱っこされましたし」

「抱っこか、悪くないな。白馬の王子様に抱きかかえられたお姫様、というのも良い」

「どっちかっていうと凪砂ちゃんの方が王子様っぽいかなあ」


 理想のシチュエーションについて隼雄さんと議論を始めた凪砂さんを見ながら俺は思う。


 正直に言えば凪砂さんとは戦友に近い関係であり恋愛感情は無い。彼女もそれがわかっているから気を惹こうとしている。俺たちの間に信頼関係はあるが、俺はその一線から先に踏み込む気はない。そんな間柄だ。


 無論彼女が魅力的な女性であることには疑いの余地はない。男女問わず人気の高い男装の麗人、抜群のプロポーション、行動力と決断力。どれをとっても文句のつけようもなく、彼女を慕う者から向けられたやっかみの視線は数えきれない。その好意を独占している俺は恵まれた存在なのだろう。


 何故、凪砂さんが俺に拘るのか疑問に思う時がある。彼女が要求する理想の男性像のハードルは高いが、決して越えられないものでもない。彼女と肩を並べて戦うことのできる男性は俺の他にもいる。俺に固執する理由はないのだ。


 実力を認めてくれるのも、好意を向けてくれるのも嬉しい。

 しかし、疑問に思う。

 何故、ここまで袖にする男に対してひたむきになれるのだろう?


「ううむ、その顔は“どうしてこんな絶世の美女がここまで自分を愛してくれるのだろう”と不思議がっているとみた」

「……よくわかりますね、余計な修飾を省けば正解です」


 凪砂さんは愚問とばかりに笑った。


「なあ由貴、私だってたまたま条件に見合った男子をキープしようとするほど不自由しているわけじゃない。君と同じくらい凄い男は他にもいたし、その中には私に告白(プロポーズ)してきた者もいる。だが、私はそれらを全て断った。君との婚約を視野に入れていたからじゃない。ただ君のことが(・・・・・・・)好きだからだ(・・・・・・)


 あまりにストレートすぎる言葉に俺は少々面食らった。


「率直に言って君は魅力的な男だ。ぶっきらぼうであるが素直な性格で、曲がったことを嫌い物怖じせずに誰彼構わず遠慮なく切り込むのは個人的にとても好ましい。その上で気遣いも忘れず、積極的にフォローに努めようとする人の好さがある。何より私のような癖の強い女でも辛抱強く接してくれる。これだけ揃えば充分だろう?」


 一つの曇りもない眼で真っ直ぐに俺を見つめる凪砂さん。そこに嘘偽りの色は一切無い。彼女の言葉全てが本音で彩られていることは誰にも疑いようがなかった。


「はあ……女性にここまで言わせるなんて罪な男なのです」

「色男は辛いよねえ、わかるよその気持ち」


 隼雄さんは一人で勝手に頷きながら俺の肩をぽんと叩いた。

 その悟ったような眼は一体何なのだ?


「俺も若い頃は何人も女の子を振り回していたよ。自分で言うのもなんだけど俺ってプレイボーイだったからね。家柄が良いってこともあって仲良くなりたいという子は多かった。なにより不遇な少年時代を過ごして得られた渋さに惹かれたんだろーなー。でも、最終的には誰か一人を選ばなくちゃいけない。そうなると何をもって選択すべきか、その判断基準に迷うわけだ。当然俺も悩みに悩んだよ、下手すれば人の人生を大きく左右するかもしれない決断なんだからさ。それを自分の意思だけで決めるってのは相当なプレッシャーだよ。だけど、それを乗り越えてこそ――」

「由貴さん、無視しても問題ありません。半分くらい盛ってる話ですので」


 隼雄さんの声を聞いてやって来たらしい秋穂さんが俺に耳打ちしてきた。

 彼女の登場に気づかないまま隼雄さんは喋り続けていたが、彩乃に袖を引っ張られてようやく顔を向けた。


「おはよう秋穂ちゃん、よく眠れたかい?」

「ええ、ひとまず目先の問題は片がつきそうですからね。私たちも一息つけそうです」

「お疲れ秋穂さん、ゆっくり休んだ方がいいんじゃないか?」

「そうですね、もう少し片付ける仕事が残っていますのでそれを終えたらゆっくりしたいと思います。私のことより由貴さんの方こそ今日は絶対にゆっくり、穏やかに過ごしてくださいね」


 どうやら昨日沙緒里さんと一戦交えた件は既に知っているようだ。朝にあれほどしつこく念を押したにも拘わらず、誘拐された各務先生を救出するために工場に突入し、沙緒里さんと戦った。前者はともかく後者は弁明のしようがない。


「まあまあ、大活躍だったんだから固いこと言わない言わない」

「……隼雄様は少々甘やかしすぎです、一度厳しく言い含めなければまた同じことを仕出かしますよ?」


 全くもって信用のない自分に情けなくなる。何一つ間違っていないのが余計に悲しい。


「お出かけになるのは結構ですが、行き先でまた大立ち回りを繰り広げることのないようお願いいたします。何かあればあなたのご両親に合わせる顔がありません」

「善処するよ、本当に」


 俺とて好き好んでトラブルに首を突っ込みたくない。誘拐事件には率先して突っ込んでいったのは確かだが、あれは急を要する展開だっただけだ。


「本当にお願いしますよ、せめて今日ぐらいは……」


 不安そうな溜息を吐いて秋穂さんはその場を後にした。


「秋穂ちゃんね、昨日の事件のこと聞いた時物凄い不安そうだったよ。あんなに表情が崩れるところ初めて見たなあ」

「流石に無茶しすぎたか……」


 ほんの僅かな間とはいえ親代わりとして俺の面倒を見てくれた秋穂さんを不安にさせるのは心苦しい。

 これ以上悩みの種を増やす真似はしたくない。


「それじゃあ今日は屋敷でゆっくり休むか? 由貴が望むなら私も付き合うぞ」

「しかし、ずっと家に閉じこもるってのも性に合わないな……気晴らしに出かけようか」

「私もずっと家の中にいたので久しぶりに外に出たいのです」

「それなら『ハミングバード』に行こうか。白鳥さんたちも彩乃さんの様子を気にしていたからな」

「……そうするのです」


 昨日は慌ただしく店を出て行ってしまいろくに礼を言うこともできなかった。

 今日は客としてゆっくり過ごすとしよう。彩乃の顔を見れば畔上奈々と松田郁斗も喜ぶだろう。


「決まりだな、朝食後にまた集まろう」

「そういえば雫はまだ寝ているのか?」


 大体この時間なら既に起床しているはずだ。いつもは部屋を出た直後に顔を合わせることが多かったが、今日はまだ見ていない。

 先に食堂へ行っているのかと廊下の方へ視線を向けると、廊下の角から貌を覗かせる雫の姿があった。その隣には五月さんも立っている。


「ああ、起きていたのか。おはよう」

「……お、おはよう由貴くん」

「どうしたんだ……?」


 雫は何故か俺と視線を合わせようとしない。

 よく観察すれば彼女の顔はその瞳に劣らず紅くなっている。


「あの、雫さんなら先程からここに立って皆さんのお話に耳を傾けていましたが……」


 不可解な状況に困惑していると、事情を知っているらしい五月さんがおずおずと説明してくれた。


「先程って?」

「ええと、凪砂様が『対抗馬が現れた』と仰ったあたりからです」


 つまり雫は、自分が俺に好意を抱いているという話を全て聞いていたらしい。

 赤面の理由はそれか。


「……雫、その、凪砂さんの言うことはあまり気にしない方がいい」

「いや、改めて言うが別に不快なわけではなくてだな、あなたのことは本当に良い人(・・・)だと思っているし、私を助けてくれて心から感謝しているのだ」


 雫はちらちらと恥ずかし気に眼を合わせて、そう弁解した。

 こんなとき、どう反応するのが正解なのだろう。


「……ああ、ありがとう」


 とりあえず無難な返事で濁すことにした。

 雫も無言で頷いてその場を小走りで去っていく。


「……凄く初々しい反応だね、こりゃ凪砂ちゃんが焦るのも無理ないなー」


 雫の足音が消えてから、隼雄さんは納得したように言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ