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冒険は武器屋から  作者: 真空
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友と嵐と武器屋(24) ~火葬~

 目の前で何が起こったのか、私にはわからなかった。

 というより、気が付いたときにはタクマくんが私に覆いかぶさるようにして気を失っていて……私たちがいた場所の周りが滅茶苦茶になっていて……もう、本当に、何があったのか……。


「タクマくん? タクマくん?」


 彼を揺さぶって起こそうとするけど、動く気配がない。まさかと思って、首元に手を当てればまだ脈はあるみたいで、ほっとする。生きていれば、治癒魔術で何とかなる……と、思うし。


 ひとまず、気を失っている彼を私の上からどかして、立ち上がる。

 私自身に怪我はないみたいだけど、何だか魔力がすごい失われていて……あの悪魔ちゃんが私の身体を使って何かしたみたい……というのが薄っすらわかる。空を見上げれば、もう嫌になるような厚い雲が天を隠していることから戦いはまだ終わっていないこともわかる。


「あ、あれ? ……なんだろ?」


 雨で視界が悪いけど、何かが落ちてくるのが見える。

 それも、ひとつじゃない。

 たくさん……いっぱい……落ちて――。


 どすん!

 と、大きな音を立てて着地したそれは、私から少し離れた場所にあった。タクマくんの様子が気になるけど、ひとまずはそれが何なのかを確認しに行くことにする。動く様子もないし、危ないものではないよね? それに、気になるものは気になるし。


 小走りで、そして一応右手に杖を握ってそれに近づく。

 遠くから見たとき、何だか奇妙なオブジェみたい……なんて思ったけど、近づいて、それが何なのかわかったとき、私は立ち止った。というより……そこから動けなくなった。


 これ……人だ。

 人の死体だ。全身の関節が、腕が、脚が、変な方向に折れ曲がって、全身が血で真っ赤に染まってるけど……これでも、人なんだ。人だった、ものなんだ。着地した衝撃のせいか、身体の一部が欠損して、そこからまだ血がどくどくと流れ出している。死んで間もないのか、びくびくと身体が動いている。


 そのとき、強風が吹いて、死体が転がって私の方を向く。

 地面にこすられて半分失った頭部が、光が失われた目が私に向けられ、その瞬間に身が竦む。


「ひっ……!」


 私は、無我夢中で魔力を練っていた。難しい魔術じゃない。最初に覚える、ただの火球。杖から発せられたその火は、私を睨んでいた死体に直撃し、瞬く間に燃え盛る。

 なんでこんなことをしたのか……私自身にもわからない。せめて遺体を焼いてあげようとか……そんな高尚なことを思ったわけじゃない。多分、それが気持ち悪くて、怖くて、意味が分からなくて、とにかく消えて欲しかったんだと、思う。


 けど、天気は生憎の雨模様で、火は中途半端に消える。

 近くにいた私のところには、死体が焼かれた異臭が漂ってきた。精神的に限界だった私は、そこでたまらず嘔吐してしまった。喉が焼け付き、胃袋がひっくり返された感覚がする。吐いたというのに、一向に楽にならない。


 地面へと視線を下していた私の耳に、どすん! という音が再び聞こえる。

 そこで、思い出した。

 あれは……人の死体が……いっぱい落ちてくることに。


 慌てて見上げれば、まるで隕石のように、火山から吹き飛ばされた火石のように、死体が殺意を伴って降り注いで来ていた。私は、その異様な光景に目を背けて、一目散にタクマくんのところへと駆けだす。そして、強く彼の身体を揺すって、起こそうと試みる。


「タクマくん! 起きて! タクマくん!」


 このまま、ここにいれば、死体に殺されちゃう。

 そもそも、どうしてこんなに死体が……しかもなんで上空から降ってくるの……? 意味がわからない……私が悪魔ちゃんになっている間に何があって――。


『颶風龍じゃよ、小娘。あやつの風で、一気に戦場が地獄に化したんじゃ』

「あ、悪魔ちゃん!」


 頭の中に響くその声に、私はつい声に出して驚いてしまう。

 考えるだけで意志が伝わるって聞いたはずなのに、まだ全然慣れていない。


『お前と、そこの坊主は余が助けられたが……まあた、派手にやりおったわ。少なくとも、颶風龍の近くにいた奴は間違いなく死んだじゃろう』

「じゃ、じゃあ……学校のみんなも――」

『残念ながら、な。しかし、ここで泣き出すわけにもいかんじゃろ? ほれ、さっさと逃げるぞ。死体に殺されるとか、マジ勘弁して欲しいわい。あっ、でもそれなら本当に地獄みたいじゃの。しかし、武器屋は無事かのー? 余、わりと心配』


 悪魔ちゃんの言葉は、内側から聞こえるというのに、私には全然聞こえていなかった。聞こうとしなかった。心に、そんな余裕がなかった。

 

 仲良くしてくれた、先輩のみなさん。

 可愛がってくれた水樹さん。

 ちょっと怖いけど、私たちのことをチビって呼んで面倒を見てくれた海人さん。

 ルミスさんを巡ってタクマくんと衝突することもあったけど、いつもみんなの縁の下として支えてくれた正義さん。

 知らない世界に来て困っていた私を、優しく助けてくれた先生。

 小さい私の頭を乱暴に撫でながら、豪快に笑う冒険者の皆さん。


 みんなみんな、大切で。

 私の大好きな、人たち。

 でも……みんな、死んじゃったの?


『おい、小娘。ぼさっとするな! 早くこの場を離れんと――』

「ねえ、悪魔ちゃん」


 わからない。

 私には、わからない。

 胸から溢れてくるこの感情が、私にはわからない。でも、悲しいわけじゃない。辛いわけじゃない。胸がぎゅっと張り裂けそうな痛みもないし、涙が溢れてくるわけでもない。


 頭がぼうっとする。

 何かに支配されているような、そんな感覚。目の奥でちりちりとスパークが弾け、全身の血が、沸騰するかのように熱い。……そう、身体がとても熱い。


「悪魔ちゃんなら……あれ、倒せる?」


 私は、落ちてくる死体の雨に見向きもせず、颶風龍のうねり狂う身体を見る。

 今までの私たちの攻撃なんてまるで効いていないその様子が、さらに私の血を熱くする。まるで、無駄だと嘲笑われているかのようなその態度に、血が……燃える。


『……さあの。やってみんとわからん。龍というのは、尋常じゃない生命力を持っているからの。余の炎といえど、あれを燃やし尽くせるからはわからん』

「そう……でも、あそこから引き摺り出すくらいならできるよね?」


 颶風龍は、曇天の中で優雅に泳いでいる。

 楽しそうで、愉快そうで、気持ちが良さそうな動きだった。

 そんなに、そこが良いの? そこが好きなの? 自分を護ってくれているから? そこなら、自分が無敵だから? 誰にも近づくことができない、自分の領域だから? それが、あなたの強さの本質だから?


 そんなの、私が許さない。


『……なるほどの、わかった。余も、あれにはむかついておるからの。どれ、身体を借り――』

「私が、やる」


 私が、やらなくちゃいけない。

 他の誰でもない。私の意志で、私の力で、やる。

 じゃないと……この気持ちが……ううん。

 この怒りは、収まらない!


『……そう来たか。確かに、余との意思疎通が可能な今ならば、お前でも余の魔力を感じることができるじゃろう。だがしかし、余はただの【炎】ではない。地獄の業火……【煉獄】じゃ。お前に扱いきれるか?』


 まるで挑戦めいた悪魔ちゃんの言葉に、私は頷く。

 今なら、わかる。

 ルミスさんは……私の中の悪魔の存在を知っていて……そして、こういうときのために、私にこの杖を創ってくれたんだ。この杖に込められた想いは……そういうことだったんだ。


 落ちてきた死体が、私の周囲に張られた炎の膜に当たり燃え尽きます。血が、肉が、そして骨までもがすべて燃えて、ただの灰が私に降りかかる。死体さんたちには申し訳ないけど、ここで逃げ出すわけにはいかない。


 ここで逃げれば、あいつに負けたことになる。


『なるほどの……こりゃ、余の負けじゃ。小娘……いや、カナタよ。お主の覚悟は本物じゃ。そして、その胸に抱く怒りもまた……余の【煉獄】に相応しい! いいじゃろう、その怒りで自らの身を焼き、我らに仇名す敵を滅ぼそうぞ!』


 内側から、すごい魔力の放出を感じる。

 今までの赤い炎じゃない。すごく怖くて恐ろしい……まるで凍えるような青い炎が杖の先に灯る。それは、聖なる炎なんかではなくて、明らかに邪悪な炎だった。


 空気さえも焼き、音を殺す悪魔の炎。

 私に……これが扱いきれる? ……いや、扱う。制御する。私のものにする。これは悪魔ちゃんの力かもしれないけど、彼女は今は私の内にいる。私の力の一部に過ぎない。それに……この杖が、それを可能にしてくれる。杖が青い炎に包まれてもなお、その黄金の瞳の強い輝きは失われない。むしろ、まだ行けると、私の背中を押すようにも感じる。


 熱い……本当に、身体が燃えるように熱い。

 少しでも気が抜ければ、倒れてしまいそうで、心が折れれば、もう立ち上がれない。

 だから、これが私の最後の一撃。


 ルミスさんに託す……私の、一撃。


「心を焼き尽くす猛き焔よ! 我が身を糧とし、その姿をここに!」

『具現せしは棺。魂さえを燃やし尽くす、劫火の棺。その旅路に幕を下ろし、安寧なる死をもたらせ!』


 私の詠唱に続いて、悪魔ちゃんも言葉を紡ぐ。

 私の中に彼女がいて、彼女が私と同調しているからか、私と彼女に間にそれ以上の言葉はいらない。すでに、私たちはひとつの結果を思い描いていた。私たちがこの戦場に灯す、その炎の行く末を……。


 【煉獄】の果てを。


「『火葬(クリメイション)』」




■■■




 気づけば、私は走り出していました。

 背中にセフィロトを担ぎ、あの颶風龍に向かって走り出していました。


 絶望的な状況で、冷静な判断が出来なくっていたのは確かです。

 肩にいるスーちゃんが、何度か私の頬をぺちぺちと叩いて引き留めようとしていましたが、もう止まれないのです。


 頭上から降って来る彼らは、私を信じて戦ったのですよ?

 無残に、無情に散っていった彼らは、私の勝利を信じていたんですよ?

 それなのに、私一人があんなところにいてこそこそしているだなんて、耐えられますか? 

 それに、シシルの守護魔術が破られた時点で、すでにこの戦場に安全な場所はないのです。であれば、どこにいようと同じこと。私が龍に向かって走り出さなくとも、危険であるのに変わりはありません。


 セフィロトが動くとか、成功するだとか、そんなことはどうでもよくなっていました。こんな矮小な身でありながらも、あの龍に一太刀入れないと気が済まない思いでいっぱいでした。


「はあっ! はあっ! はあっ!」


 背負ったセフィロトの重さに苦しみながらも、私は前に進みます。

 すると、暗雲が立ちこみ、この血と泥にまみれた戦場において一際明るい光を感じます。それは、あのマルンさんの花火のような激しい光ではなく、今にも燃え尽きそうな小さな青い炎がいくつも灯っていたのです。


 それは、この地に倒れた人々の魂の灯。

 それらの弱々しい光が、戦場に一人立つ少女の元へと集まっていきます。

 死者の魂を束ね、導き、そして彼らの無念を彼女は背負います。


 白い十字架の杖の先には、その灯が。

 ゆらめき、儚い青い光。

 しかし、一度彼女が覚悟を決めれば、その激情を表すかのように、猛き焔へと姿を変えます。周囲の空気を燃やし、音さえも殺し、雨は蒸発し、霧散していきます。彼女の魔力の奔流により生じた青い炎は、近くの遺体を一瞬にして燃やし尽くし、それさえも糧として自らをより大きくしていきます。


 この光景を見れば、純白の聖灯(ホワイトルクス)なんて言えません。

 死者の焔に囲まれるその姿は儚げで、そして美しい。

 小さな彼女には……似合わないくらいに、恐ろしい。


 彼女は……カナタさんは今、どんな顔をしているのでしょう?

 私は、いつか彼女がシューカの力を使いこなせるようになればと思い、あの杖を創りました。しかし、今思えば……そんな選択肢を与えた、いえ、与えてしまったのは、残酷なことなのではないでしょうか。


 いっそのこと、そんなことが出来ない杖ならば。

 彼女は自分の心を燃やして、あの力に身を委ねることはなかったはずです。

 それが出来るようにしてしまった自分が、愚かに感じてしまいます。


 その青い炎は渦を巻き、ついには特大の火球を彼女の頭上に創りだします。

 それは小さな太陽にも見えますが、赤き炎ではなく青い姿をしているせいか、温かさも、心地よさも感じません。あるのは、純然たる恐怖。


 そして、希望です。


火葬(クリメイション)


 カナタさんの澄んだ声が聞こえます。

 それと同時に、青き太陽は頭上の颶風龍に目掛けて上昇しました。

 その進みは決して早くはありません。

 颶風龍へとたどり着く前に、降り注ぐ死体を燃やし、燃やし、燃やし、灰へと還していきます。

 そして彼らの魂を糧として、されに大きくなっていくのです。


 自分に向かってくるその炎にやっと気づいたのか、颶風龍は一睨みした後、逆に炎に向かって突進して行きます。人間たちを葬っていい気になっていたのか、その炎さえも自分の身で消し去ろうと考えたのでしょう。


 しかし、それは愚かな行動としかいえません。

 龍は愚かにも自らの身を炎に投じたのです。

 三千世界に恐れられる……【煉獄】の炎に。


 颶風龍が、カナタさんの放った火球に……頭から突っ込みました。

 龍はそんな炎など、自分の嵐の力で消し飛ばそうと考えていたのでしょう。しかし、すぐにその炎の異常性に気づいた様子でした。


 雨で、豪雨で、消えない。

 風で、暴風で、掻き消せない。


 そればかりか、龍の鱗をいとも簡単に溶かし、燃やし、焼き、熱していきます。フィセリーが、ミズキさんが一太刀いれたその傷痕から炎が内側へと届き、内部器官を爛れさせ、灼熱地獄へと変えていきます。

 しかし、それだけではありません。恐らく、颶風龍の双眸にはありえない光景が見えていることでしょう。【煉獄】の炎がゆらめき、その姿を徐々に変えていきます。龍を囲み、包み込む、まるで揺り籠のように。あいつが逃げ出そうと、その身を震わせてもがいたとしても、揺り籠は決して逃がしません。まるで生きているかのように、死者の意思が、遺志がそれを許さないと言わんばかりに、颶風龍の身体を滅ぼしていきます。


 そう……揺り籠という言葉は、正しくもあり、そして間違っていました。


 死者を糧とし、死者に安らぎを与え、死者に眠らせる揺り籠。

 それと同時に、彼らを眠り、そして次の旅路へと送る棺でもあります。


 あれは、颶風龍の棺。

 ゆえに……火葬(クリメイション)


「すごい……」


 頭上に広がる、その幻想的な光景に、私はそう呟きました。

 実際には、一体の生物が炎にもがき苦しむ凄惨な光景なのでしょうが、私にはそれが美しく思えました。命の煌めきが、その灯が、最期に一際大きく輝くような……そんな儚さを感じたのです。


 しかし、あの規格外の生物は。

 龍という、伝説の生き物は。

 そんな儚さを……いとも簡単に踏みにじる。


「ギ……ギシャアアアアアアア!!!!」


 颶風龍の一際大きな咆哮がしたかと思えば、内側からその棺を破ろうと風を放っていました。それは、シシルの神城の盾を破り、多くの人々を天へを舞い上げた、あの絶望の風です。炎の棺は、その風が送られるたびに、少しずつ……本当に少しずつ威力を弱めていきます。出来れば、このまま消えてくれと切に願いますが……やはり、相手は、龍なのです。


 自らの巨躯をくねらせて放ったその風により、ついに棺が破られます。

 青き炎が雨の中へと消えていき、火の粉となって私たちへと降り注ぎます。いつの間にか死体の落下も止み、頭上には、全身の鱗が溶かされ、その痛々しい身を晒した龍の姿のみがありました。火球へと突進したことにより、龍の姿は雷雲から距離を取った場所にあり……まさに、無防備。


 それは、好機でした。


「……カナタさん!」


 言葉なく倒れたカナタさんの姿に叫びつつ、私は背中に背負ったセフィロトを地面と下ろします。彼女には、いくらお礼を言っても足りません。彼女の頑張りのおかげで、こうして私は、この武器を使うことができました。


 雷雲から引き摺り下ろし。

 龍の鱗を溶かしつくした今ならば。

 この子の攻撃が……通る!


 右手に持つのは、青い輝線を宙に描く魔印字用万能ペン(ルーンライター)

 セフィロトの頭部の内側に仕込まれた魔水晶に、魔印字(ルーン)を刻み込みます。

 

 その意味は、【起動】。

 そして【攻撃】です。


 颶風龍がその身を雷雲の内側へと隠す前に、セフィロトを送り出さなくてはなりません。故に、私の魔印字(ルーン)を刻む速度は、自分の限界を超えていました。多くの人々の支えにより、多くの人々の犠牲により、この瞬間を迎えることができたのです。


「それをっ! 無駄に、出来ませんっ!」


 最後の、ワンフレーズが、刻み終えました。

 その瞬間に、セフィロトが……立ち上がります。


 血晶人セフィロトが、完成した瞬間です。


 見開かれたその碧眼の先には、颶風龍の姿がはっきりと見えていることでしょう。

 プランさんが心配していた暴走の様子もなく、自らの標的だけを見据えています。


 セフィロトは、その真紅のワンピースをはためかせながら、ふわりと浮き上がります。少年でありながらも少女のように可愛らしいその姿は、まるで妖精のようで……そして龍を殺す、天使のようにも見えます。


 彼は私のことなど気に掛ける様子もなく、身体を伸ばすようにして天に浮く龍を見据えると、雨風を切って飛び出して行きます。その小柄な体躯が功を奏したのか、それともプランさんが何か手を加えたのか、あの完成版の魔導兵よりも速く、そして鋭い。


「……行けっ」


 気づけば、私はセフィロトの後ろ姿をじっと眺めていました。

 私だけではありません。

 この戦場で生き残った多くの人々が、龍に向かって一人飛んで行く彼の雄姿を見ていることでしょう。


「行けっ! ……行けっ!」


 希望を背負い、想いを背負い。

 セフィロトは、天を翔けていきます。


 颶風龍も、自分に近づくその小さな姿に気づいたようです。

 しかし、カナタさんの攻撃がよほど深手だったのか、それとも今までの人間たちの攻撃が予想以上の威力であったのか、雷雲へと戻ろうとするその動きは緩慢です。遅い……ええ、遅すぎます! セフィロトの速度ならば、余裕で追いつきます!


「行けっ! 行けっ! 行っけえええええ!」


 この戦いを、これまでの戦いを。

 すべてに終止符を!


 颶風龍の巨躯と、セフィロトの小柄な体躯が交差しました。

 

 そして……戦いは終わりました。


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