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冒険は武器屋から  作者: 真空
7/78

駆け出し勇者たちと武器屋 (6)

かなり長くなってしまいました。

二つに分けることも考えたのですが、今回の終わりまでで、「駆け出し勇者たちと武器屋」の一区切りになるので、このままにしました。

一部としては長いかもしれませんがご容赦くださいますようお願い致します。


加えて、今回の話では残酷な描写があります。

ご注意ください。


※ 6/14 誤字訂正しました

 

 振り下ろされたのが木材であり、それが予想以上に腐食が進行した脆い物であったのが幸いでした。

 頭に走る衝撃とその痛みに崩れ落ちそうになり、意識が飛んでしまいそうになります。しかし、


「き、きゃあああああああああああああああああああああああ!」


 という、カナタさんの叫び声で気を取り直します。

 脚に力を入れて、何とか身体を支えると、目の前の男を見ました。


 白いローブを着た男は、そのフードで顔を隠し、見えるのは口元だけでした。体格はそれほど良いわけではありません。その口元に白髪混じりの髭が見えることからも年老いていることがわかります。

 どうやら振り下ろした木材が脆かったことに気づき、それで私を一撃で仕留められず苛ついているようでした。だから、武器は重要なんですよね。


 冷静に状況を把握しようと努めますが、右目に赤いカーテンがかかったように視界が塞がります。それに気づいて頭に手を伸ばすと、出血していることに遅れて気が付きました。しかもかなり深い傷らしく、素早く治療する必要があるのがわかります。


「ル、ルミスさん……血、血が……」

「……いいですか? 私は大丈夫ですから、私の背後の方を見ていて下さい。他に仲間がいるかもしれません」

「は、はい……」


 気丈に振る舞い、混乱している彼女に、私は大丈夫であると思わせます。

 はい。いつもの嘘ですね。結構やばいです。

 少なくとも、走って逃げるのは無理ですね。さっきから、脚がガクガクと震えています。

 せめて相手には気付かれないようにしなくてはなりませんね。


「……一体、何が目的ですか?」


 先に襲ってきた相手を許す気は毛頭ありませんが、今は戦いを回避したいのは事実です。

 まずは会話をして、何とか時間を稼ぎましょう……。


「何が、目的……だと?」


 私の言葉を聞いて、可笑しそうに笑うフードの男。

 それが不気味で、恐ろしくて、掻きたくもない冷や汗が頬を伝って地面へと落ちて行きます。しかし、無愛想な顔を最大限に生かしつつ、その感情を顔に出すことはしません。


「私たちが何かしたでしょうか。それにしたって、ここまでされるようなことをした覚えは無いんですが」

「覚えはない、か」


 私の言葉で、顔から笑みが消えました。

 その瞬間に背筋が凍ります。この男から発せられる殺気がひしひしと伝わって来て、瞬きさえも忘れて私はただ立ち尽くしていました。


 男は、持っていた角材を無造作に投げ捨て、その代わりに袖から短刀を取り出します。

 刃に街頭の光が反射して、銀色の鋭い刀身が見えます。まるで子供用の包丁の刃渡りしかありませんが、特徴的なのはその先端にある『返し』でしょう。まるで釣り針の先のように、短刀の先端が欠けて、するどい刃が男自身に向いています。

 その形状を不思議に思いましたが、意味がわかったと同時に、あの短刀を造った人間の残酷さが垣間見えました。なんて趣味の悪い武器なんでしょう。


 男は、その短刀を私に向け、静かな怒りを感じさせながら言いました。


「娘よ、貴様は無自覚もしれないが、我らの神を貶める発言に、我らが許すはずもない」

「神を……貶める?」


 あっ。

 もしかして、さっきの食堂での会話を聞かれていたのでしょうか。

 確かに、何回か『神を殺す』発言をしました。脳裏で「これ、教徒の方々が聞いたら怒るでしょうね」と、軽く思ってはいましたが、まさか本当に聞いてるとは思いもしませんでした。

 口は災いの元。

 異世界人の人も上手いことを言いますね。


 しかし、なるほど。

 これで私たちが狙われる理由がわかりました。

 シェルミさんの言う通り、教会には大分過激な教えがあるようです。

 それじゃあ、謝れば許してくれるのか? と思いますが、どう考えても許していただけるような雰囲気ではありません。極論を言えば、この男に喧嘩を売ったのは私なのですから、私が襲われる理由も理解できます。納得はできませんが。

 まあ、悪いことをしたのは本当ですので、まずは謝りましょう。


「それは……すみませんでした。軽率な発言であったことは認めます。どうすれば許していただけるでしょうか?」

「今更非を認めようが、貴様のしたことを無かったことにできるはずもない。例え、我らが神が貴様を許したとしても、我ら教徒と二十四の翼は決して許さぬ」


 交渉決裂です。わかっていたことでしたが。

 背中にいるカナタさんは、男の決して許さない発言に身体をびくりと震わせていました。私は、男と対面しつつ、落ち着かせるように彼女の肩に手を置きます。


「それでは、あなたは私たちをここで殺すということですか?」

「……殺すという言葉は物騒だな。これは貴様たちに対する正当な神罰だ。お前たちは『殺されて』『死ぬ』のではなく、『神罰により』『その命を散らす』のだ」


 さて、もう交わす言葉もないだろう。


 そう、男が言うと……屋根の上、カナタさんの目の前の通路、そして男の背後から、次々と白いローブを着た人間が現れました。

 まさかここまで囲まれているとは思いませんでした。

 後ろにいるカナタさんも唖然としていることでしょう。自分が見張っていた方面だけでなく、上からも後ろからも次々と表れたのですから。


 この闇の中で白いローブは目立ちます。

 まだ隠れている人がいなければ、前に三人、後ろ(カナタさんから見て前)に二人、そして屋根の上に二人が待機して七人ですね。全員が、角材やら鉄の廃材らしきもの武装しており、短刀は目の前の男のみですか。


「それでは、お別れだ。名も知らぬ異教徒よ」


 目の前の男が構え、そして他の白ローブたちも武器を前面に出して構え出しました。


 さて、どうしたものでしょうか。

 どうしたもの……というか、やばいです。もう頭がふらふらです。どうやら思ったよりも出血がひどいようで、相手の姿さえも霞んで見えてきました。


 後ろのカナタさんを見ると、杖を前に突き出して威嚇しているようでした。

 恐らく、人と殺し合ったことも無いような少女としては、立派な抵抗でした。相手はカナタさんが魔術師だと警戒しているので有効な威嚇ではありますが、自分の力が暴走することを恐れて魔術を使えないことが知れたら迷わず襲ってくるでしょう。


 しかし、威嚇……威嚇ですか。

 それなら、やってみる価値はあるかもしれません。

 すでに頭に回る血は少ないですが、最後の力を振り絞りましょう。


「……あなた、私が誰だか知ってるんですか? いえ、誰だか知ってこのような真似をしているんですか?」


 その言葉に、目の前の男の動きがピタリと止まります。

 しかし短刀はこちらに向けたままです。できればそれはこちらに向けないで欲しいのですが…。


「誰だか? ふん、どこかの小道で武器屋を営んでいる貧乏店主だろう? それがどうした?」

「合ってますよ。貧乏ってこと以外はですけどね」


 自分でも言うのもなんですが、大金持ちですよ、私。

 少なくとも友人ひとりを奴隷に出来るくらいには。


「商売をしていると色々な人と仲良くさせて頂く機会が多くてですね。実は私は友好関係も広い方なんですよ。お元気ですかね? シシル様……いえ、シシルは」

「なっ……!?」


 わかりやすいくらいに、白ローブたちは狼狽えはじめました。

 どうやら、思ったよりも効果はあったようです。

 しかし、目の前の男だけは、動じた様子はなく、さらに怒りを膨らませてプルプルと震えているように見えます。この人にだけは、逆効果でしたか。


「き……貴様、我らが神だけでなく、我らが【聖女】様まで貶める気かっ! 貴様のような下賤な異教徒と聖女様が友人であるはずがないっ! お前たちっ! 騙されるな!」

「そう思い込むのはあなたの勝手ですよ? ですが、私たちを始末した後を考えてください? シシルは友人である私を殺したあなた方を、許すと思いますか? いや、許しませんね。私が知る彼女は絶対に貴方たちのことを許しはしない」

「に、二度までも聖女様を呼び捨てにするか、貴様っ!」

「そこまで信じられないと言うならば、証拠出しましょうか?」


 証拠だと?


 という男の呟きを聞き、ここが正念場だと感じました。

 覚悟を決めましょう。


「おもしろい。証拠があるというならば、それを見せてみろ……」

「ああ、いや。見せるようなものはないんですよ。正しく言えば、聞かせるというのが正しいかと……おっと、失礼。あなたの痛烈な一撃のせいで、どうにも血が足りなくてですね…」

「早くしろっ! 聞かせると言ったな? どういうことだ……?」

「簡単ですよ。シシルと仲の良い私は、彼女のことを良く知っているんです。例えば、彼女の口癖……とか、ね? 決して教徒の前では言ってはいけないような口癖を」


 カラン……と、何か金属が落ちた音が聞こえました。

 ああ、前の男の人が手に持っていた短刀を落としたんですね。


「ああ、ありえん…。なぜ貴様がそれを知って……いや、まさか…」

「わかった、でしょう? 今日のことは彼女に秘密にしてあげますから……何も無かったことにして、皆さん帰りましょうよ」


 どうやら、証拠である口癖が決定打になったようです。

 これは相手がシシルのことを知っているかどうかが問題だったのですが、そこまで彼女と親しい位置にいる人がいて助かりました。


 どうやら威嚇と言う名のはったりは成功したようですね。

 え? 私と聖女様がお知り合い? そんなわけないじゃないですか。

 そう……私とは、知り合ってませんよ。


 しばらく迷っていたようですが、男は観念したらしく、周りの白ローブに対して言い放ちました。


「……事の真偽を確かめる必要がある。ここは一度退くぞ」

「…ご理解いただいて感謝し――」


 その続きの言葉を言う前に、私は何かに殴られて地面に叩き伏せられました。

 遅れて気付く右肩の激痛と、硬い石畳との衝突に、私は悶絶していました。

 苦痛の声すら挙げれず、右肩を抑えて呻くことしかできません。その代わりに、失いかけてきた意識が少しはっきりとしてきました。


 次に視界に飛び込んできたのは、顔面に迫ってくる角材でした。

 仰向けになっている私に、誰かが叩き下ろしているようです。

 とっさに回避しようとするのですが、右肩の痛みがそれを阻害し上手く動くことが出来ません。


「や、やめてっ!」


 カナタさんが。

 そこでカナタさんが杖を突き出して、私へ攻撃しようとしている白ローブの邪魔をしました。

 その隙に、男が落とした短刀を拾おうと左手を伸ばし――。


「うろちょろすんじゃねえよ! この小娘がっ!」


 あともう少しというところで、別の男が私の左手に対してその廃材を叩きつけました。


「ぐっ……あああああ!」


 その廃材の形状が悪かったようです。

 廃材の切断面にある捩れた金属片が、私の左手に深々と突き刺さりました。想像したくありませんが、これってもしかして突き抜けてません?


「お、おい! お前たち、勝手な真似をするな!」

「おいおい。こいつらは我らが神を貶めたんだぜ? それに聖女様の口癖なんて聞いたこともねえ。はったりに決まってるぜ」

「考えすぎだぜ、グドル」

「お、お前らが知らんだけのことだ! いいから――」


 どうやら、あのグドルと呼ばれた男は部下からの忠義が低い奴のようです。切り抜けたかと思いきや、まさかの部下の暴走によってこんなことになろうとは……。


 私はまだいいですよ。納得はできませんが、自業自得な部分もあります。

 ですが……カナタさんは?


 と思い、その方向を向くと、白ローブが彼女の髪を掴んで宙吊りにしていました。髪だけで身体を支えているわけですから、当然子供の身体には耐えきれない激痛です。カナタさんは泣きじゃくって、必死に自分を掴んでいる手に対して杖を叩きつけていました。


 あ、駄目です。

 これはあれです。

 ちょっと、無理しちゃうパターンです。


「ぐ、ぐううう、ううううう!」


 刺さっている廃材なんて知ったことありません。

 左手を無理矢理に、左へと移動させます。廃材が刺さっているのは左手の親指と人差し指の中間あたりです。このまま左へ動かして行けば、廃材は左手から無くなるはずです。まあ、大怪我負いますが、さっき言った通りです。

 知ったことありません。


「ああああっ!」


 埒が明かなかったので、思い切り固定されている廃材で、左手を引き裂きました。その行動にぎょっとする白ローブの声が聞こえましたが、今あなたに反応している余裕は全くありません。


 そのまま左手で短刀を掴み、再び廃材を叩き下ろそうとした白ローブの腕を切り裂きます。


「ぐっ! このっ!」

「終わりじゃないですよ」


 この短刀の真骨頂はここからです。

 突き出した短刀を、そのまま手前に引きます。

 すると、短刀の先端部分の返しが、腕の肉に深々と突き刺さり、骨で止まった感触が手に伝わりました。切断面からは恐ろしいくらいの血が流れ出てきており、それが致命傷であることがすぐにわかります。


「そんな、貴様っ……!」

「短刀は、あなたにあげますよ。まあ、そう簡単に抜けませんけどね」


 あの短刀の返しは、やはり釣り針のそれでした。

 近くで観察することで明らかになったのですが、どうやらあの短刀の先端部分には無限に返しが続いてるようです。まあ、あまりにも微細で肉眼ではわかりにくいですが……無限に返しが続いているということは、かなりの血肉に刃が食い込んでいるということになります。一度食い込んだ釣り針が抜けないのと同じように、肉に食い込んだあの短刀を抜くためには、それ相応の犠牲が必要になるでしょう。今回はたまたま上手くいきましたが、本来であれば痛みで相手を無力化する武器です。殺すことが用途ではありません。

 まあ、こうして刺さったまま放って置けば死ぬでしょうが。


「貴様あっ!」

「許さんぞっ!」


 グドルによって宥められていた白ローブたちも、仲間が一人血まみれになっていることに気づいたようで、殺気だって私に襲いかかってきました。


 ですが、私の狙いはあくまでもカナタさんを傷つけているその男です。


「すみません。やっぱり、返して下さい」

「あ? が、があああああああああ!」


 申し訳ないことをしたと思います。

 もう戦闘不能の彼に対して、楽には抜けない短刀をほぼ無理矢理取ったんですから。いえ、綺麗に取る方法は、短刀の形状からすでにわかっていたんですよ? しかし、それを落ち着いて行う余裕は無かったものですから、仕方ないんです。


 武器を手にしたは良いのですが、ここからカナタさんのところまで辿りつく前に、私は背後にいる白ローブに殺されてしまうでしょう。方法はあるにはあるのですが……。お願いしますね、短刀――いえ、【フィッシュフッカー】さん!


 そして、先に謝ります、カナタさん。


「ごめんなさい」


 私は、カナタさんの掴まれている頭髪に向かって短刀を投擲しました。

 回転しながら宙を舞うフィッシュフッカーは、先ほどの男の血が多く残っていたために血飛沫のように辺りを鮮血に染めます。何人かの白ローブは、それに驚き、身体の動きを止めていました。カナタさんを捕まえていたそいつも同じように身構え、視界をカナタさんから離します。

 その瞬間には、フィッシュフッカーはカナタさんの頭髪を綺麗に切断していました。


「ふぇ?」


 カナタさんは突然の浮遊感に襲われ、そして重力に従って石畳へと落ちて臀部を強く打ちつけました。しかし、そんな痛みなど気にすることはなく、カナタさんは杖を再度握りしめ、周りの状況を確認します。

 そして、私とカナタさんの目が合いました。


「逃げてください」

「え、ルミスさん!? そ、その怪我……」

「早く。助けを呼んできてください」

「で、でも……」


 自分の手から重さが消えたことに気づいた白ローブは、そこで呆然としているカナタさんに気が付きます。そして、再度彼女を掴みかかろうとしたところで。


「ぎゃああああああああ!」


 フィッシュフッカーがその腕に深々と突き刺さりました。

 カナタさんの髪の毛を切断し、そのまま地面へと落ちていたと思われたそれが、なぜか再び彼らに牙を剥きました。いや、刺したのは私なんですけどね。


「今の内です。さあ、早く」

「で、でもルミスさんを置いては……」

「私は大丈夫ですよ。武器屋は、強いんですから」


 その言葉を聞いたカナタさんは、一瞬目に涙を浮かべましたが、立ち上がり、路地の奥へと走って行きました。最初に彼女の前にいた二人は、こうして戦闘不能なわけですし、彼女は無事に逃げ切るでしょう。

 ふふ、嘘を吐いた甲斐がありました。


「……お前は、一体何者なんだ?」


 グドルが、私を見て言います。

 その声色は少し怯えているようにも聞こえました。

 しかし、何者と訊かれても……返答に困ります。


「ただの……武器屋ですが?」

「嘘を吐け。ただの武器屋が、二人をここまで痛めつけることができるかっ! しかも、なんだ、あの短刀の動きは……! 短刀が空中を飛んで返ってくるはずがないだろうがっ!」

「あのですね……。私は武器屋ですよ? ただの武器屋です。お仲間の一人にフィッシュフッカーが喰い込んだのは運が良かっただけですし、投げたフィッシュフッカーが戻ってきたのも偶然です」

「待て、フィッシュフッカーだと? それがあの短刀の名前だというのか? なぜ、それを知っている?」


 私的には、あなたがそれを知らなかったことが驚きですけどね。

 道理であの子に嫌われているわけです。


「何度も、言わせないで下さいよ……。私は武器屋ですから……【武器の声】が聴こえるのも当たり前じゃないですか…。その子が言って来たんですよ。自分の名前はフィッシュフッカーだって……」

「武器の声を……聴く?」


 私にとっては当たり前のことなんですけどね。

 武器が私に語りかけてくるんですよ。

 自分の名前とか、自分の使い方とか、自分の主人のこととか、自分がどういう風に変わりたいとか…。ある意味、この子たちの方が、人間よりも素直で可愛いと思うときがありますよ。


「もういいでしょう? もう、私も限界ですよ。ただの武器屋が無双なんてできるわけがないじゃないですか。指一本動かせません。立っているのがやっとなんです。右肩も骨が折れてますし、頭と左手は、これ縫合しなきゃ不味い怪我ですよ。女の子の身体をここまでして、ひどい人たちです……」


 この言葉に偽りはありません。

 急に動いた反動、そして体自身の限界が訪れ本当に動けませんでした。実はというと、最初の一人を倒したあたりで、もう息も絶え絶えという感じでした。ただの武器屋が……いえ、ただの女の子が戦えると思わないように。


 グドルは、もう私の言葉に意味はないと感じた(どうやら嘘吐き女と思われている様です。本当のことですが、このときばかりは嘘は吐いてないので些かムッときました)ようで、最初のような冷めた声で言いました。


「……仲間が傷ついた以上、貴様をこのまま生かしておくことはできない」

「…私が、シシルの友人だとしてもですか?」

「聖女様の、友人であったとしてもだ。それが確かなら、我らは罰せられるだろう。しかし、貴様のような存在が友人としたこと自体が聖女様の間違いだと、我らは確信している。聖女様の間違いを正すのも、また我らの使命だ」


 そこまで言われたら、何も言うことはありません。

 どうやらここまでのようですね。


 グドルの手にあったのは、フィッシュフッカーでした。

 どうやら男の手から無事に引き抜いたようです。名前も知らないというのに、その引き抜き方は知っているのですから不思議なものです。

 フィッシュフッカーさんと、私の目が合いました。いえ、武器に目はないので、ただそういう感覚があったということです。私に語りかけてきた内容は、感謝と謝罪でした。いえいえ、感謝するのはこちらの方ですし、あなたは武器なのですから謝罪するのは筋違いというものです。


 フィッシュフッカーさん。先ほどは助けて頂きありがとうございました。

 グドルもあなたの名前を知ったので、これからは仲良くやれると思いますよ?

 ふふ、早く気付けばいいですね? あなたの柄には仕込み糸があることに。それで、投擲したあなたを引き戻したり、遠くの敵を突き刺したりすることができることに。本当に、釣り針なんですね、あなたは。そのおかげで、カナタさんを助けることができました。


「グドルさん、その子のこと可愛がってくださいね。殺した相手から奪った武器だからといって、雑に扱ってはフィッシュフッカーが可哀想です」

「最後まで……お前の言うことがよくわからなかったよ……」


 どうやら苦しませずに殺してもらえそうです。

 グルドさんが……いえ、フィッシュフッカーさんが狙っているのは私の首元でした。

 使い方によっては、先ほどの人のように拷問の様に殺すこともできるので、覚悟もしていたのですが……思ったよりも優しい人ですね。


 カナタさんは逃げ切れたでしょう。

 そもそも、すでに彼女を追いかけるような時間も、労力もないでしょうしね。

 結局、約束をすぐ破ってしまうことになってしまいました。

 それも私自身の自業自得で。

 これは救いようがありませんね。

 ただ……杖、創ってあげたかったですね。


 目を瞑って、結果だけを待ちます。

 不思議と怖くはありませんでした。

 まだ現実を受け入れ切れていないだけかもしれませんが、心が安らかなのは良いことです。

 別れを言いたい人が多くいますが、まあ、みんなまとめてで良いでしょう。


 みなさん、さような―ー。



「駄目ええええええええええええええええええええええ!!」



 その声に、ぎょっとして私は目を見開きます。

 声の主はカナタさんでした。

 そして、声の方向からやって来たのは、青白い炎の塊でした。


「なぁっ!? ぎ、ぎゃああああああ!!」

「嘘だろっ! 何だよ、これっ! 熱いっ! 熱いよぉっ!」


 その炎からは、火が弾ける音も、燃え盛る音もなく、無音のままに二人の白ローブを焼き尽くします。

 路地に響くのは二人の男の叫び声だけでした。しかし、不思議なことにその炎が彼らの全身を覆うと、その声すらさえも私の耳には届かなくなります。


 まさか……あの炎があまりにも高熱であるがために、瞬時に周りの空気を食い尽くしてしまい、音が聞えてこないのでしょうか? いや、それだと炎自体もすぐに消えてしまうはずです。

 普通の炎なら、の話ですが。


 炎を間一髪逃れたグルドは、カナタさんを見て震えた様子でした。

 それは、屋根の上の二人に対しても言えることであり、見ているものが信じられないといった顔でした。


「カナタ……さん?」


 私が声を掛けたその少女の背後には、白い炎の翼が見えました。

 近くにある鉄を溶かし、石畳を焦がすその様子から、その翼からは圧倒的な熱を発していることがわかります。鳥の様に羽ばたく素振りは見せませんが、仮に羽ばたいたとしたら、その熱風で私を含めここにいる全員が死に至ることでしょう。


 そして、その翼で悠然と歩いてくる彼女の姿は、あまりにも神々しかった。


 カナタさんは私の目前まで来ると、その纏っている熱を消し去ります。あのまま近づいていたら、私もそこの二人と同様に音も無く死ぬことになりますから助かりました。

 そして彼女は何をするわけでもなく、ただ私の前に立っているだけでした。


「カナタさん……じゃないですよね?」


 その私の問いかけに、反応はありません。

 しかし、髪が短くなったことによって彼女の表情は前よりも良く見えます。

 ずっと無表情のままでした。

 先ほどの叫び声のような激しい感情は感じられませんでした。


 もう一度、彼女に言葉を投げかけようとしたとき、彼女の姿をした何かは、静かに言いました。


『我は………裁きを下す者』


 ただ、一言。

 それだけです。


 次の瞬間には、白き炎の翼が勢いよく広げられ、その熱波が辺り周辺に広がっていきました。

 彼女が守ってくれているのか、私にその熱波が当たることはありません。しかし、その衝撃は私の弱っていた身体全身に打ちつけられ、限界が訪れたのか意識が薄れていくのを感じました。


 最後に知覚できたのは、青白い炎に焼き尽くされる二人の白ローブの姿と、音が無い空間にただ一言響いたグドルの言葉でした。


「あなた様が……神……」


 果たしてこの暴虐が神の業なのか。

 それこそ、神のみぞ知ることなのでしょう。

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