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冒険は武器屋から  作者: 真空
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駆け出し勇者たちと武器屋 (5)

「あ、これ……」


 カナタさんが私に杖製作の依頼に来てから、早くも五日が過ぎました。

 私はというと、午前中は武器屋の仕事をし、午後からはこうして王立図書館で調べ物をしている毎日でした。武器屋の仕事といっても、私の店、ほとんど人が来ませんから。店内の掃除に、飾太刀の手入れ、そしてスーちゃんと遊ぶくらいしかありません。実のところ、杖づくりも完璧に素材待ちですからね。しかも芯となるヒートホースの角がないと始まらないのですから、暇な時間はこうして調べ物に費やすのが一番無駄が無いといえます。


 図書館に来ては、記憶の中にある紋様を探す日々。

 すでに図書館の一角には私専用のスペースが出来ていると言っても過言はありません。

 本を持って来ては紋様を探し、脇に積んでいく。その繰り返しです。

 私がどういった表情で作業をしていたかはわかりませんが、恐らく苦しい表情をしていたのでしょう。途中からは司書さんが差し入れとして飲み物を持って来て頂いたり、積んである本を何も言わずに元の場所に返して頂いたり……と、手伝ってくれるようになりました。


「アーチェリア様? 何か見つけたのですか?」


 私の呟きに開いている本を覗き込んできたのは、手伝ってくれたエルフ族の司書さんでした。

 特徴的なのは、エメラルドグリーンの髪の毛に、眼鏡の奥にみえる金色の瞳、そしてエルフ族特有の長耳でした。もちろん、ウサ耳ではなく、左右に尖がっているような耳です。図書館の制服に包まれたその身体は細く、まるで花瓶に飾られている花のような印象でした。


 私の後ろから覗きこんでくる司書――いえ、シェミルさんは、ページに大きく書かれた紋様を見つめます。と、同時に困惑したような表情です。あ、わかってます。わかってますから、そんな目で私を見ないで下さい。


 私が開いている本の題名は、【異教徒でもわかるコスモ神教】といいまして……まあ、何と言いますか、『漫画でわかる!〇〇』と同じような意味合いの本でした。え? なんでそんな本を知ってるのかって? それは、勿論、異世界の方々が多く来るようになってからは、異世界の文化が浸透しつつあるので、漫画だって普通に売買されてますよ? 私だって読んでます。

 話が逸れました。

 とにかく、調査に疲れた私は、てきとーに持ってきた漫画を読んで休みながら、シェミルさんが淹れてくれたお茶でも楽しもうと思ったところなのでした。そしたら、なんと驚き! その漫画に私の記憶と恐ろしく酷似している紋様が大きく出ているではありませんか。


「アーチェリア様? 一言よろしいでしょうか」

「シェミルさん? 落ち着いて下さい。お気持ちはわかりますが、今は落ち着いて下さい」


 シャミルさんは呆れ半分、怒り半分といった顔で私を見ていた。

 呆れるのも、怒るのもよくわかります。

 私が既視感を抱いていたその紋様は、この国ではごく一般的なシンボルだったのです。


 クロノタス王国の約六割の民が信仰する【コスモ神教】。

 私は教徒ではないので覚えていないのですが……コスモという唯一神が信仰の対象である宗教だった気がします。無論信者である私にとっては縁が無い話だと思っていたからでしょうか、こんな身近なことにも気づかないなんて。


 茨に護られた太陽の証。

 これは、コスモ神教を象徴したシンボルだったというわけです。

 見たことあるのは当然のことですよね。スタントラル大聖堂に行けば、大きく書かれているのが目に入ってきますから。


「はあ……何やら理由があるのかと思い、詮索しませんでしたが、最初から何を探しているのかお聞きすればよかったですわ。そしたら、こんな探し物、五分で終わりましたわよ?」

「申し訳ないです。どうやら、焦っていたようでして……」


 紆余曲折……というか、遠回りの結果ではありますが、なんとかあの紋様に辿りつきました。

 しかし、これがカナタさんの身に刻まれていたということは……。と、考え始める前に、本に書いてある紋様に違和感を覚えました。


「……シェミルさん。これが載ってる他の本ってありますか?」

「コスモ様の【神印】ですね? 勿論、ありますわ。少々お持ちくださいませ」


 そう言って、シェミルさんは図書館の受付へと戻って行きました。おそらく、図書館の本の位置をすべて記録してある魔水晶から、該当した本を見つけるのでしょう。その間に、私はこの神印を観察します。


 複雑に絡み合った茨の輪。茨は神聖の意味を持っています。それが輪になって囲んでいるのですから、聖なる加護……いえ、もしかしたら籠の意味合いもあるかもしれませんね。茨の輪の中心には、茨でさえも焼き尽くすと言わんばかりに燃え盛る太陽があります。この太陽こそが、唯一神コスモを表しているのでしょう。だとしたら、周りの茨は……やはり加護を? いえ、本来であれば神であるコスモが加護をもたらすべき存在のはずです。


 私が抱いた違和感の正体を探していると、シェミルさんが一冊の本を大事そうに抱えて持ってきました。

 赤い表紙には神印が描かれており、それがコスモ神教に関係する本だというのが一目でわかりました。


「これは?」

「コスモ神教の教典ですわ。私物ですから大事に読んでくださいませ」


 まさかの私物でした。

 どうやら書籍を検索しに行ったわけではなく、自分の私物を持ってきたようです。

 先ほどまでの言動とこの教典を持っていたことから考えるに、シェミルさんは熱心なコスモ神教の教徒のようですね。先程までの呆れたような顔では無く、嬉しそうな顔をしていることから……もしかして…私を勧誘しようとしているのでしょうか。

 残念ですけど、私は神様の存在とか信じない人なので、丁重にお断りしましょう。


 何はともあれ、教典ということはこの表紙の神印は正しい紋様のはずです。さっきの漫画だと間違っている可能性があったので、他の書籍で確認しようと思ったわけですが……。これ、教典も漫画も全く同じですね。


 じゃあ、私はどこに違和感を――。


「あっ」


 またしても簡単なことだった。

 どうも最近の私は抜けている。


「アーチェリア様?」

「シェミルさん。この神印の太陽の部分って本当はひび割れていませんか?」


 そう、記憶が正しければカナタさんの紋様の太陽はひび割れていたのだ。

 しかし、コスモ神教の太陽はひび割れた様子などない。


 私の質問に顔を青白くして狼狽えるシェミルさん。

 あたりをキョロキョロと見回した後に、鬼気迫る表情で、けれども小さな声で私に言ってきました。


「な、なんてことを言うんですの、アーチェリア様! 私はあなた様に悪意が無いのがわかっていますから大丈夫ですが、他の教徒が聞いたら殺されてますわよ!」

「こ、殺されるほどに、いけない質問だったんですか?」


 当たり前です!

 と、きっぱりと言うシェミルさん。普通に殺すという単語が出てくるあたり、コスモ神教の教えも物騒だなー、と思いつつシェミルさんが解説する。


「いいですか? この太陽はコスモ様を表しているのはわかりますわよね? それがひび割れた……つまりは茨の護りを突破してコスモ様が傷ついてるということですわ。アーチェリア様の先ほどの発言は、『あんたたちの神様っては本当は死んでるんじゃないの?』と同意義になりますわよ!」


 そう言われると、確かに軽率な発言であったと思う。

 反省はするが、さらに気になることも増えたので質問を続ける。


「この茨なんですが……コスモ様を護っているんですか? 神であれば他の者を護ると思うのですが?」

「コスモ様は神ではありますが、その御力は非常に小さいものなのです。我々はコスモ様から調和と安寧の加護を受け、その愛に応えるべく、我々教徒、そして二十四枚の翼がコスモ様をお護りするのですわ」


 初めてコスモ神教の話を聞きましたが、そういうことですか。

 つまりは、コスモ様が「私、皆に平和与えるよ! でも私自身は弱いからすぐやられちゃうかも……」と言ったところで、教徒と……二十四枚の翼? が「コスモ様をお守りするんだー!」と言っているわけですか。

 なんでしょう、この複雑な共依存。この神様、さては相当なやり手ですね。


 まあ、それはさておき、カナタさんの肩の紋様では太陽はひび割れていました。

 シェミルさんの話によればそれはありえないとのこと。仮に、ひび割れている紋様を見たとするならば、それは異教徒の悪戯だろうとのことでした。まあ、その言葉を言いつつも、シェミルさんの眼光は鋭かったのですが……殺意が凄まじかったですね。


 カナタさんは勇者であり、異世界にいたときは私と同じ無論信者だったはずです。異世界人の多くがそうなので、まず間違いないでしょう。というより、コスモ神教の存在さえ知らないことが考えられますね。異世界人にとって、宗教はそこまで重要なものではないでしょうし。なので、カナタさんがコスモ神教に喧嘩を売っているのはありえません。


 ……そもそも、あれが人に刻まれているというのは、どういった意味合いになるのでしょう?


「シェミルさん。……仮にですよ? 仮にこの神印が人に現れたら、それってどういうことだと思います?」

「人に、神印ですか? それはありえないですわ。天使様たちの加護を受け、天使の刻印が刻まれた【巫女】様はおりますが、神印が刻まれるなど、聞いたことがないですわ」

「だから、仮に、ですよ? そういったことが起こったとしたら、その人の身に何が起きてると思います?」

「はあ……そうですね……。途方もない話ですし、恐れ多い想像ではありますが……もし、人の身に神印が刻まれているとしたらば、その人には」


 次の言葉は、私が抱える問題をさらに大きくするものでした。


「コスモ神様が宿っているのではないでしょうか?」







 ありえねー。

 と、私らしくもない感想を胸中に抱きつつ、図書館を後にして街に出かけていました。現実を見たくないだけかもしれませんが、とにかく気分転換が絶対に必要だと思ったのです。といっても、武器を創ることしか取り得のない私に、お洒落や料理といった女の子らしい趣味はありません。(お洒落は無頓着ですが、料理は……才能が無いらしいのでやりません)無駄なことにお金を使うのも馬鹿らしいと思うので、必要なもの以外にお金も使いたくないですしね。


 そのため、私が街に出て行う気分転換は、ズバリ、ウィンドウショッピングです。

 勿論、素材屋さんや武器屋だけですけどね。

 店外からでも見ることのできる貴重素材や、武器の品々を見て自分の中の創造心を育もうという取り組みです。しかし、決してお店の中に入ることはありません。これでも、私は同業者の間では割と有名人らしいですから、気軽に武器屋に入りますと「冷やかしなら帰んな!」と怒られる可能性があるのです。あ、いえ……実際に怒られました。


 スタントラル大通りを北から南へと下りつつ、色々な素材屋と武器屋を回ってきました。なぜ北から? と訊かれると、図書館が街の北方面に位置するからとしか言いようがありません。途中、知り合いの冒険者や親しい武器屋の方ともお会いし、それとなくお喋りしては別れ、お喋りしては別れを繰り返していました。そして、その冒険者の中には――。


「あ……ル、ルミスさん」

「おや、カナタさんではありませんか」


 カナタさんがいたのでした。

 勿論、偶然です。私もびっくりのあまり、手に持っていたアイスクリームを落としそうになったくらいです。甘いものは大好きなんです。ここで落としたらカナタさんに逆恨みするところでした。

 危ない危ない。


 と、同時に、非常に困りました。まだ私の中で、カナタさんに紋様のことを伝えるべきかどうか迷っていたからです。常識的に考えれば、カナタさんの身に起きていることを正しく伝えて、認識させてあげるべきなんでしょうが……。如何せん、まだそれが本当に神印かどうかは確証が無いんですよね。全部が明らかになった後の方がいいですかね? それで変な勘違いして問題を増やすのもどうかと思いますしね。

 決めました。

 まだ、隠しておきましょう。


 カナタさんは、そんな私の隠し事なんて露知らず、辺りを見回した後に、小さな声で言ってきました。


「あ、あの……実は、相談がありまして……」

「はあ。……ひとまず、どこか落ち着ける場所に座りましょう。こんな道端では本腰入れて話せませんし」


 本音は、アイスクリームが溶けそうだから落ち着いて食べさせて下さい。なんですけどね。






 この辺りの地理に詳しくないとのことでしたので、私がたまに来る食堂にお邪魔しました。食堂といっても、飲み物やスイーツなどの軽食もあるので、カフェテリアとしても人気があるようです。まあ、買い食いしている人でも快く受け入れてくれる店主の器の広さも人気の要因でしょうね。良かったです。本当に良い人で。


 アイスクリームも食べ終わり、注文した飲み物が届いたところで、カナタさんが本題を切り出しました。


「実は……学校の先生が……わ、私に、神様が宿ってる……なんて言うんですけど……」

「はあ。神様ですか。またスケールの大きい話ですね」


 私が悩んでいた時間を返して欲しい。

 そして、その教員は考え無しなのか問い質したい。以前、勇者学校にいる教員の方々は素晴らしい人々なんでしょう、とか思ってましたが前言撤回するしかないようです。


 カナタさんは、私の素っ気ない反応に困っていたようでした。当然でしょう。普通はもっと「どひゃー!」とか「マジっすか!?」と驚く場面にも関わらず、私は平然とお茶を口に運ぶだけ。真剣な相談をしているというのに、この態度では話を聞いてくれてないのでは? と思われても仕方ありませんね。でもね、カナタさん。わかって下さい。素っ気ない反応で、クールっぽく見えるかもしれませんが、内心はもの凄く焦っているんですよ? どうしたものか、と必死に考えを巡らせているんです。


 ひとまず、注文したお茶を口に含み、香りと味を堪能します。その見事な味わいに心が温まり、気持ちに余裕が出来てきます。


 あ、いえ、嘘です。全然余裕なんてないです。パポン辺りでしたら、私のこの姿を見て「優雅なルミスも大好きぃ!」と言いそうですが、内心は全然優雅ではありません。例えるのであれば、『牢屋に閉じ込められて、後三分で処刑される最中、脱出の方法を考えなければならない囚人』の気持ちです。


 そんな私の脳内で、やっとひとつの結論が導き出されました。

 知ってしまったのならば仕方がありません。

 否定しましょう。


「いいですか、カナタさん」

「は、はい……」

「その教員がどういった方か私は知りませんが、その方が不勉強だと思います」

「不勉強……ですか?」


 はい。

 と、真っ直ぐカナタさんを見て言います。


「まずですね、神様が人に宿るなんてことはあり得ません。絶対に」

「そ、そうなんですか……? でも【巫女】という人たちには天使が――」

「天使はあり得ますが、神様は人界には降りてきませんよ。そもそも、神様が、わざわざ人界に来る理由がありません」

「で、でも、先生は私の……この、肩にある【魔刻印】を見て、神の印だーっ! って……」

「だとしたら、暇な神様ですね」

「じゃあ、その……私に、その……神様の力は?」

「無いですね」


 そして、私はきっぱりと言い切りました。

 それは神の印ではないと。

 あなたに、神様は宿っていないと。


 それと同時に、なぜか私の方でも思考の整理がつきました。もしかしたら、無意識的にわかっていたのかもしれません。これは神印の形に似た、別の何かであり、コスモ神とは全く関わりはないということを。それを言葉にしただけで、私自身もすっきりしてしまうのですから、単純なものです。


「……そう、ですか……。そう、ですよね……」


 カナタさんは、俯き、強く杖を抱いていました。

 顔は見えずとも、彼女が落胆しているのは声色でわかりました。


 よくよく考えれば、彼女が私に言いたかったのは、「ルミスさんなら……神様の力も制御できる杖が創れますか? そしたら、私は皆を傷つけずなくても大丈夫ですか? 皆を私の力で守れますか?」ということだったのでしょう。

 それが、彼女自身が抱く願いであり、武器(つえ)を欲する意思だったのですから。


 ああ、失敗してしまいました。

 少々、自分でも想定外のことが起きすぎて、カナタさんのことを考えていなかったようです。

 なら、私はどうすべきなのか。


 それこそ、迷う余地はありません。

 武器屋としての役目を果たすだけです。


「大丈夫ですよ」

「へ?」

「神様の力なんてなくとも、あなたは十分に強い力を秘めてます」

「……みんな、そう言うんですけど……私にはどうしても、実感がわかなくて…」

「そのための私ですよ?」


 その言葉に、顔を上げるカナタさん。

 驚いているような、困っているような、不安で仕方のない顔でした。


 安心して下さいよ。カナタさん。

 あなたの目の前に座っている女は、嘘は吐きますが、約束は破らないのが信条なんです。


「約束しましょう。私はあなたのために最高の杖を創ります。それこそ、あなたの力で、神様だって殺せちゃうくらいに最高の杖を。……だから、信じて待ってもらえませんか?」


 私にできるのは、武器を創ることだけ。

 だから、武器を創ることであなたを支えます。


 しばらく、沈黙の時間が続きました。

 私は先ほどから、ずっとカナタさんを見ています。カナタさんもそれに応えるように、私の目を見ていました。

 そして。


「ぷっ……」


 カナタさんが笑いました。

 辛そうな笑みではなく、柔らかい微笑を私に見せました。


「ふふっ……ルミスさん、神様を……殺すって……物騒ですよ?」

「お望みであれば、ちゃんと創りましょうか?」

「そんな冗談で……え? 本気なんですか?」

「さあ、どうでしょうね?」


 意地悪っぽくそう言うと、それに対してカナタさんは不満げな顔を――それこそ、十二歳の女の子らしい可愛らしい表情で――して、また笑いました。


「わかりました。……約束、ですね。ルミスさんが、私の最高の杖を、創る。……だから、私もそれを信じて待っています」

「はい。約束です」


 するとカナタさんは右手の小指を出して来ました。私は、それに対して首を傾げますが、すぐに意味を理解し、私も小指を出してカナタさんと結びます。


「わあ……ルミスさん。指切り知ってるんですね!」

「え? ああ、はい。前に勇者の方から教えてもらったことがあるので」

「なるほど……。それじゃ……ゆびきりげんまん、嘘吐いたら……なんにします?」

「そうですね。裸で街を一周練り歩くことにしましょう」

「……私、絶対に信じてます」


 私たちは約束を交わしました。

 その後は談笑し、また『可愛いもの』論争が起きたり、おやつにケーキなどを食べたりして楽しい午後を過ごしました。気付けば、街の外から夕方を知らせる鐘の音が聞こえてきて、時間の流れが早いことを実感します。


「そろそろ帰りましょうか」

「そうですね。……ルミスさん、今日は……その、ありがとうございました」

「いえ、私も楽しかったですよ。それじゃ、行きましょう」


 代金を支払い、店の外に出ると、陽が落ちた後の涼しい風が頬を撫でました。

 食堂が大通りから少し離れた位置にあるため、辺りに設置されている街頭の数は多くありません。そのせいか、まだ夕方だというのに周辺は暗く、不安を煽るような暗い雰囲気を創り出していました。


「途中までご一緒しますよ」

「あっ……はい。ありがとうございます」


 何か予感めいたものがあったとは言い切れません。

 ですが、嫌な感じがしたのは確かなことです。

 明るい道に出ればそんな心配は無くなると思い、遠回りにはなるのですが、大通りを目指そうと路地に入ったところで。


「おい」


 と、声を掛けられました。

 振り向いて、視界に入って来たのは、目前まで迫ってきた角材で――。



 そして。

 夕暮れの路地に、容赦ない一撃で角材が割れる小気味良い音と、女性の悲鳴が響き渡りました。

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