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冒険は武器屋から  作者: 真空
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姉と聖女と武器屋(7)

 短めですが、良い引きになる部分まで書けたので投稿します

 街の中心を南北に縦断するスタントラル大通り。

 北へ進めば、荘厳な門とともに上流階級の貴族や王族が住む【貴族街】が見えてきます。そしてその奥の丘……いえ、山にあるのが【王宮】です。王宮の左右には巨大な滝が見え、その膨大な水が街の湖へと流れ、私たちの生活水として使われています。


 逆に南に進めば、見えてくるのは荘厳な雰囲気が感じられる【スタントラル大聖堂】です。大聖堂の前には広場があり、そこにはコスモ神と思われる女神像が建てられています。そして、その神を護るようにして二十四の翼が囲い、剣や槍といった武器が掲げられています。

 大聖堂は、その名の通り相応しく巨大な建築物です。管理局の約三倍といったところでしょうか。まあ、ここで多くの教徒たちが生活しているのですから、当たり前といえば当たり前ですよね。

 全体的に白を基調にしており、柱、床、壁には汚れひとつありません。ところどころに、コスモ神教の教典の一部を描いたと思われる壁画や、絵画が飾ってありました。そのため、大聖堂というよりは、私の第一印象は美術館でした。


「前々から、コスモ神教なので【コスモ大聖堂】などではないかと思っていたのですが……あの聖女のことですから『スタントラルに建てるんだからスタントラル大聖堂でいいでしょ?』と言ってそうです」

「ああー。確かに。それは想像できる」


 私とカルは、先日の聖女との約束通り、スタントラル大聖堂に伺いました。

 まずは、シシルのところに案内してもらおうと思い、入り口の見張りをしているであろう僧兵の方に話しかけます。あのリオンさんと同じように、聖職者の槍(プリースト・スピア)を持ち、服装こそ聖職者らしい修道服を着ていましたが、その強面と体格はまさに屈強な騎士でした。


「あの……」

「ん? 何か用かね、お嬢さん」


 その見た目とは異なり、大分紳士そうな方でした。

 いや、神罰隊のこともあったため、コスモ教徒ではない人は一蹴されるのではないかと危惧していたのですが……やはり、あれは一部の熱心すぎる教徒なんでしょう。


「実は、私たちシシル……いえ、聖女様に呼ばれてきたんですが……」

「うん? 聖女様に? ……そんな連絡は聞いてないな。それ以前に、君たちは誰なんだい?」


 え? 連絡が来てない。

 それって……どういうことでしょうか。

 私は意外な展開に少し呆けていると、それを怪訝に感じたのか、僧兵さんの目つきが厳しくなります。

 あー……厄介な展開になりそうです。


「あら、来てくださったのですね」


 しかし、そんなときに大聖堂の奥から白い修道服を着たシシルが現れたのでした。

 店で会ったときと同様に、地面に着きそうなくらいに長い白髪に、翠色の瞳。

 あ……【瞳】。


「って、やばい」

「ん? うおっ!?」


 私は急いでカルから眼鏡を乱暴に奪おうとしますが、恐らく熟練した冒険者の危機察知能力のせいで避けられてしまいます。

 待ってください。今、彼女に目を見られるわけにはいかないんです。


 私がカルと取っ組み合いをしてる最中、シシルは僧兵さんに話しかけていました。


「ハーケン。彼らは私の友人で、私が彼らを呼んだのです。通していただけますね?」


 上品に微笑みながら、優しい声色でハーケン……と呼ばれた僧兵にそう言いました。

 対して、そのハーケンさんは「はっ! 勿論であります!」と背を伸ばします。

 何も確認なしに良いのでしょうか? と、警備体制に不安を感じますが、まあそれが良しとなるのが聖女という立場なのでしょう。どうやら、教徒たちからの信頼は厚いようです。


「……それで、何をしてるのかしら、アーチェリアさん? そちらの方は?」

「ん? ……何か印象が……」


 どうやら、カルはやっと先日会ったシシルとの違いに気づいたようです。

 驚愕を露わにして身体の動きが止まります。

 その隙を見逃さず、私はカルから眼鏡を強奪し、装着します。

 あー……視界が歪む世界の再来です。


 しかし、これでやっとシシルと向かい合うことができます。


「お久しぶりです、シシ……いえ、聖女様。こちらは私の姉のカルティミス・アーチェリアです。私は断ったのですが、彼女は私の護衛をすると言い張りまして……申し訳ありませんが、彼女も同席させていただけないでしょうか」

「勿論、邪魔立てはしませんよ」


 カルが自前のイケメンフェイスに、女性にしては低めのイケメンボイスでシシルに言いますが、残念ながらそちらはハーケンさんです。

 ほら、ハーケンさんが反応に困ってますよ。

 眼鏡が無いと、本当に何も見えないんですね。


「護衛……ですか? まあ、詳しい事情がわかりませんが、お話は私室にて伺いましょう。こちらです」


 私とカルはシシルの案内の元、大聖堂の中へと足を踏み入れました。

 カルは現在視力が低下中で周囲が全く見えないので、私が手を引っ張っています。


「ふふ、手を繋ぐのは姉妹っぽいな」

「何を喜んでいるんですか……。それより、眼鏡を奪ってしまってすいません」

「気にするな。必要なことなんだろう?」


 気にするな、と言いますが、銃が武器であるカルにとって視覚を奪われたことはかなり致命的ともいえます。私のせいではありますが、それで護衛できるんでしょうか……。


 シシル先導の元、私たちは大聖堂の中を見て歩きました。

 教徒たちの修道服も白、椅子は木材が白く塗られ、テーブルには白いクロスが掛けられています。

 見渡す限りの白さが眩しく、頭がくらりとします。どうやら、よほど白さを大事にしているようです。


 廊下を歩いていると、何人かの教徒とすれ違いました。

 彼らはシシルを見ると立ち止まり、まるで神に祈るかのように恭しく頭を下げます。

 シシルはそれに対し、微笑みながら軽く礼をします。

 その後、決まって教徒たちは私とカルをもの珍しそうに見るんですよ。

 それはそうでしょうね。

 こんな白しかない空間に、紅の髪の女が二人もいれば……悪目立ちします。

 

 大聖堂の奥、それこそ一般教徒が入れない様な区画に案内され、私たちはそこにあるシシルの部屋に辿りつきました。

 彼女が部屋の扉を開けて中に入ると……散らかってました。


 一人が住むにしては広すぎる部屋に、彼女の私服と思われる露出度が高い服が部屋の至る所に散乱しています。しかも……その中には下着もあったりして目のやり場に困ります。白く清潔な印象を持つ箪笥からは、カラフルな服がだらしなくはみ出ていますし、外套なども仕舞わずに壁や椅子に掛けたままです。それだけでなく、アクセサリや小物が床を埋め尽くさんと言わんばかりに散らかっており、なんでしょう……無性に片付けたいです。


「あー……たるいわね」


 部屋に入って扉を閉めた第一声がそれでした。

 シシルは、自身の着ていた修道服を乱暴に床へ脱ぎ捨てると、近くに落ちていた服を適当に着始めます。

 しかもその服が胸元しか隠さない黒いチューブトップに、デニム生地のホットパンツなのですから……こんな聖女を見たら、教徒たちは気絶していしまいそうですね。


「そこの椅子に適当に座っててもらえる? お茶を用意するから」


 そう言って、シシルはお茶の準備を始めました。

 私とカルは指示された椅子に腰かけますが……辺りが散らかってるせいか落ち着きません。カルは視力が悪いので、「さっきまでと違って辺りがやけにカラフルだ」としか思っていないかもしれませんが。


「待たせたわね」


 シシルは人数分のカップと、紅茶が入っていると思われるポットをお盆に載せて持ってきました。それを慣れた手つきで私たちに配膳します。ご存じの通り、料理スキルが著しく欠如しているアーチェリア姉妹は、それを見ているだけです。下手に手伝うと大変なことになるので、これが最善なんです。


 全員に紅茶が行き届き、シシルも私たちの正面に腰かけます。

 そして、私を見ると……申し訳なさそうな顔をしていました。


「悪いわね。散らかってて」

「あ……いえ。大丈夫です。気にしないで下さい」


 気にしますけどね。

 しかし、どうやら私は思ったよりも顔に感情が出やすいようです。

 気を付けなくてはなりません。


 シシルは自分で淹れたお茶を口に運び、一息吐きます。

 そして部屋を見回しながら言いました。


「大聖堂が見渡す限り白かったでしょ? あそこにずっといると精神が参っちゃうのよね。だから、少しでも自分の部屋に色を足してかないと……正直きついのよ」


 ああ……なるほど。

 彼女の部屋も、今は服や小物が散乱しているためにたくさんの色が散々しています。もし、これらが丁寧に整理整頓されていたら、おそらく白い壁や床が目につくでしょう。あの大聖堂に一日中いたら、自分のプライベートな部屋には色が無いと頭がおかしくなりそうですね。


「自己紹介がまだだったな」


 そこで、カルが切り出します。

 手を繋いでる私の方向はわかるためでしょうか、今度は間違いなくシシルの方を向いていました。


「ルミスの姉であるカルティミス・アーチェリアだ。この場はルミスだけが呼び出されたと承知しているが、彼女は現在狙われている身でね。私が護衛として来た」

「……シシル。シシル・ホワイトベルよ。……それで、さっきも聞いたけど、護衛とはどういうことかしら? 前も言った通り、神罰隊はもうあなたを襲わないわよ?」


 シシルがそう言うのも当然の反応でしょう。

 ここまで来たら仕方なく、私はキョウヤという勇者のことをシシルに伝えました。彼がライカさんたちを殺そうとしたこと、そしてそれらは私に対する挑戦状だといいうことを。


 全てを聞いて、シシルはしばらく瞑目していましたが、いきなり「ふふん」と口角を吊り上げました。

 何やら得意げな表情です。


「あなた、そんな人に狙われるなんて優秀な武器屋なのね」

「光栄なお言葉ですが、私の店は赤字経営ですよ。そもそも、私はキョウヤと会ったことさえないんです。狙われるのは正直心外ですよ」

「厄介な奴に狙われるのは、厄介なことができる人なのよ。無価値な人間はただ巻き込まれるだけ。謙遜するのもいいけど、自分の優秀さを少し誇ってもいいんじゃない?」

「……そんなことはしたくないですね。私が武器屋を営んでいるのは、結局のところ自己満足なんですから」


 シシルはというと、「あら、そうなの」と私の言葉にさほど興味が無いようです。このままお喋りするのも楽しい時間になるかもしれませんが、精神衛生上ここには長時間滞在したくありません。そのため、私はさっさと本題に入ることにしました。


「それで、今日はどうして――」

「まあ、落ち着きなさい。まずはお茶でも楽しんで? 少し私とお喋りしましょうよ」


 その翠色の瞳は、まるで蛇が獲物を狙うかのような捕食者の眼光を宿していました。背中のあたりがぞくぞくして、冷や汗を感じます。


「……あなた、部下の報告によると……私の口癖を知っているようね」

「……そんなこと言いましたかね?」

「それで脅したとも聞いたわ」

「脅すなんて……私は逃げるために必死に嘘を吐いただけですよ」


 そう。

 と、端的に応えるシシル。

 ただ座っているだけのはずなのに、重圧が体に加わり息が苦しくなります。

 これが最強の探究者と呼ばれる人の実力ということでしょうか。


 シシルは、続けて言います。


「すでにお分かりの通り、私って大分外面がいいのよ。本当は、こんなに不真面目で自分勝手なのにね。だけどまあ、聖女っていう教会のプロパガンダを担う身として、周囲のイメージ通りのキャラクターを演じなきゃいけないってのは承知しているのよ。だからね、その口癖を人前で言うことなんてほぼないのよ」


 それこそ。


「知ってるのは、神罰隊のグドルと大司教。そして、私がかつて供に旅をした仲間たちだけだわ。教会は間違いないとして、仲間たちが私の口癖なんて広めることは考えられない。……なのに、なぜあなたは知ってるの?」

「そう言われましても……」

「そもそも、あなた。私の知り合いだって虚言を吐いたそうね」

「……そうでしたでしょうか」

「……………本当に知り合いなんじゃないの?」


 その言葉に、私は固まります。

 シシルは、翠色の瞳でじっと私の瞳を覗いています。

 その奥にある、私の【魂】を見るためでしょう。

 しかし、カルの眼鏡がそれを阻害しているはずです。直に見られなければ、彼女の瞳の効果は薄れますから、まだ確信はしていないでしょう。


 まずは、この局面を切り抜けましょう。

 いつも通り、嘘を吐いて。


「何を言ってるんでしょうか。それは、シシル自身が虚言だと言ったではないですか。私たちは先日が初対面ですよ。襲われたときには、必死でしたからあなたの友人と嘘を吐いただけです。それに関しては謝罪します」

「別にいいわ。もう、私は友人のつもりだし、それにシシルって呼び捨てにされるほどの間柄だもの」


 シシルは、ふうと一息吐きました。

 私は自然にカルの手を握っていました。カルもそれを意識しているのか、優しく、しかし力強く握り返してくれます。


「そうやって、はぐらかすのも彼にそっくりなのよね……。優秀な武器屋ってのも、すごい引っかかるし」

「何を言ってるんでしょうか」

「もう、遠回しに攻めるのはやめるって言ってるのよ。……ねえ、アーチェリアさん? 私だって信じられないし、論理的じゃないし、証拠もなければ確証だってないことだって重々承知してるわ。本当、神様に回し蹴りしたい気分」


 シシルは私の顔に向かって手を伸ばして来ます。

 ゆっくりな動作にも関わらず、私をそれを邪魔することはできません。

 カルも止めようとしているのを視界の端に捉えますが、自由に動けないようです。


 ついに、彼女の手が掛けている眼鏡に触れます。

 恐らく、それを外して私の魂を見るためでしょう。

 かつて、私の正体を看破したあの悪魔のように。


 そしてシシルは目前、それこそ唇が触れ合うような距離で私に囁きます。


「あなた、スグハなんじゃないの?」


 彼女に手に力が込められ、眼鏡が奪われました。

 

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