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冒険は武器屋から  作者: 真空
13/78

閑話 モテたい冒険者と何も知らない鈍感武器屋

 なんだかテンションが上がってしまって一気に書き上げてしまいました。もしかしたら、自分はこういった種類の方が得意なのかもしれません(笑)。


 本編とは(あまり)関係がない閑話です。

 「駆け出し冒険者たちと武器屋(3)」の裏話のようなもので、本編ではあまり触れられていないルミスの容姿について触れています。というか、タイトルからお察しの通り、モテモテなルミスさんの話です。そういった話が苦手な人や、下世話な会話が苦手な人はご容赦のほどよろしくお願いします。


※ 投稿して早々にミス見つけました。修正しました。

 俺の名前はバル。

 なに、名前なんて覚えてもらわなくても良い。どこにでもいる普通の探究者だ。

 日々、簡単な依頼をこなして、その日の生活費を稼いでいる……まあ向上心の低い男さ。別に富みや名声が欲しいわけじゃない。馬鹿で勉強が出来ず、逆に身体能力はそこそこあったから、「戦う職業が向いてるんじゃね?」と思ったんだ。しかし、国軍ってのはどうも規律が厳しくて俺の性に合わん。それに、傭兵ってのも命を軽々しく扱われてそうで少し怖かった。

 だから、俺は自由で気楽に生きていける冒険者を選び、こうして探究者として日々の生活費を求めている……というわけさ。


 ただ、冒険者になった理由がもうひとつ理由がある。


 これは俺がまだクソガキだった頃……俺の出身である田舎に、ある冒険者がやって来たときの話だ。

 そいつは、近くの森で繁殖しちまったジャンボワームの討伐依頼として来た奴だった。ジャンボワームは、動きが遅いし毒も持ってないから村の男たちでも対処できる魔物ではあるんだが……。如何せん、繁殖しちまうと俺たちの手に負えないスピードで数を増やして行きやがる。このままじゃ俺たちの畑に被害が出るし、木々や草花が次々に喰われちまって森が死んじまう。そこで、村で金を出し合って冒険者にジャンボワームの殲滅を依頼したわけだ。

 俺たちは祈ったさ。

 頼むから村を救ってくれって。

 そしたら、冒険者がやって来たんだ。この人が俺たちのことを助けてくれる! と当初は喜んだものだが、その姿を見た瞬間に不安になったんだ。

 自信が無さそうな顔に、ボロボロな衣服で小汚い男だった。持っている武器も傷だらけだったし、明らかに弱そうだった。

 本当にこんな奴がジャンボワームを殲滅できるのかと不安になったが、俺たちの予想は良い意味で裏切られた。

 そいつは、たった一日で森のジャンボワームを全部殺したんだ。

 村中が歓喜に震えたさ。冒険者を中心に、軽いお祭り騒ぎ。


 俺だった感謝してたし、冒険者ってすごい奴なんだ! と子供ながら思ったぜ。

 しかし、そんなことはどうでも良いくらいに衝撃的なものを見ちまったんだ。


 村中の若い女たちが、その冒険者の周りに集まって、「冒険者さま~!」と、冒険者とイチャイチャし始めたんだ。困ったように苦笑いをする冒険者だったが、傍目から見たらハーレムを形成している王様にしか見えなかったぜ。しかも、その女の中には俺が密かに恋慕の情を抱いていた奴もいたもんだから、失恋も一緒に味わったよ。


 そんな絶望の中、俺はひとつの結論にたどり着いた。


 冒険者って……モテるんだ!


 そう確信した俺は、こうして村を飛び出して冒険者となった。

 いやモテたかったんだよ、切実に。あんな情けなさそうな冒険者がハーレムをつくれたんだから、それなりに見た目が良い俺ならもっとすげえハーレムがつくれるに違いねえ! と思ったんだが……結果は今のところ惨敗さ。


 モテたい俺からは告白はしない。魅力的な女がいたとしても、俺からはアプローチはしない。だって、俺はモテたいからだ。無条件に、女の子たちから好かれたいんだ。それで甘い桃色の甘美な日々を過ごすのが俺の人生設計なんだ。


 しかし、全然モテない。女の子たちから見向きもされない。

 なぜだ? 冒険者というのはモテるんだろう? と疑問だったんだが……あの冒険者と比較して、なぜ俺がモテないかやっとわかった。


 そうだ。あの冒険者はジャンボワームを殺したからモテたんだ。

 つまり、モテるためにはアクション……そう、女の子から好意を向けられる行動が必要だったんだ! つまり、男として女に『良いところを見せる』ってのが前提条件としてあったわけだな。


 俺ってば、やっぱ馬鹿だなー。

 でも、ま。わかれば簡単だな。俺の良いところを、たっぷり女子にアピールしてやんぜ。


 ……しかし、今まで何もしてなかった男が、いきなり積極的に迫ると、それは怖くないか? いや、怖いよ。ぜってえ、不審がられる。魅かれるんじゃなくて、肉体的にも精神的にも引かれる!


 それは駄目だ! と思い立った俺は、今まで拠点にしていた管理局支部を離れた。俺を知らない街に行ってやり直せばいいだけの話だ。じゃあな、女の子たち。別の街でハーレムを築いたら迎えに来てやんよ。


 しかし、どうせ別の街に行くなら、色んな女の子がいる場所がいいなあ……。

 ということで、俺は様々な人々が往来する王都に、そう、スタントラルに来たわけだ。






 俺は、管理局の二階にある(なんで階段がねえんだ……)酒場でのんびりしつつ、女の子たちを見ていた。まずは、ターゲットを一人に絞る。んで、そいつに俺のことを惚れさせたら、次の女の子に移る。一度に複数のことをやると失敗してしまうのは、俺の昔からの特徴だ。だから、まずは最初の子を選ぶ。


 んー……流石、本部だけあって女性が多い。しかもレベルも中々に高い。


 まず、目に入ったのは受付嬢たち。

 受付に立っている三人の女の子たちは全員獣人だ。管理局じゃ珍しいもんじゃねえが、ここに貴族やら王族が来たらなんて言うんだろうな。全員、奴隷にしてやるとか言うのかね。ははっ。笑えねえや。


 一人は白兎はくと族のウサ耳少女だ。見た目通り元気いっぱいって感じで、動きひとつひとつが大きいな。可愛がりたい、構ってあげたいって気分にさせられるが、残念ながら俺はロリコンじゃねえ。すまねえな、ハーレムに加えてやれなくてよ。


 その右にいるのは愛猫あいびょう族のネコ耳の女性だ。年齢は二十代前半ってところかな? 俺からしたら、ちょっと先輩って感じだ。んー……顔も悪くねえし、年齢も全然大丈夫。ただなあ……ちょっと身体が残念かな。俺はもうちょっと肉付きが良い方が好みだ。とくに胸部の。……いやいや、差別とかしてるわけじゃないよ? 単に、俺の魂がそう言ってるだけさ。


 そして最後の一人は……おっと。こいつはすげえや。闘牛とうぎゅう族だな。あの頭に生えている角と、その体格からして間違いねえ。だって、俺よりも身長たけえし、服の上からでも筋肉がやべえってなんの……。それ以上に……あの服の膨らみはやべえな。ただ、髪が長くて顔が良く見えねえから、何とも判断しにくいぜ。


 その他の冒険者の女や、酒場で働く女を色々と見たが……どうも、こいつだ! っていう奴がいねえ。俺の求めるレベルが高すぎるのかもしれねえが、求めるならやっぱ最上級のハーレムだろ? じゃあ、そこで妥協はしたくねえわな。


 女の子を見てるだけで食っていけるなら楽なんだが、もちろんそんな仕事はねえ。それに俺も冒険者のはしくれ。ここまでの旅路で金も尽きてきてることだし、まずは一仕事行くか……。


 と、席を立とうしたら、管理局の扉が開いた。

 別にそれ自体は不思議なことじゃねえし、よくあることだ。当たり前だろ?


 ただ、いきなり周りの冒険者たちが騒ぎだした。

 なんだなんだ? と怪訝に思って他の奴らからこんな声が聞こえてきた。


「ルミスさんじゃねえかっ!?」

「はあ……いつ見ても綺麗だよなあ」

「ルミスお姉様……素敵…」


 おいおい。そのルミスって人、大層な人気じゃねえか。さっき入って来た奴か?

 筋肉ムキムキの髭面男やイケメン(俺よりは劣るが)剣士、はたまた女の魔術師まで夢中って、それは一体どんな奴なんだ。名前から推測するに女らしいし、これはハーレムの主として見とく必要があるぜ。



 さあて……どんな……。



 そして、その人を見てしまった瞬間に、俺は凍りついた。

 石化しちまったように、蛇に睨まれた蛙のように、動けなくなっちまった。

 だってよ……そこにいた女は……ルミスって人は、俺の理想の女性だったからだ。


 まず目についたのはその紅の髪だ。かなり目立つ部類ではあるが決して派手じゃねえ。むしろ、お淑やかさと気品が俺には感じられた。髪型も後ろで結ってるところとかめっちゃ俺好みだ。そして、顔立ちも美人の一言に尽きる。とくに俺が魅かれちまったのは彼女の瞳だ。吸い込まれそうになるほどに綺麗な碧眼の三白眼。一見、するどく冷たい瞳ではあるが、知的で毅然とした大人の女性を感じさせられる。そのせいで、年齢がいくつか全然わかんねえ。二十代にも見えるが、まだどこか子どものような可愛らしい顔であることから十八歳くらいかもしんねえな。そして、身長も女子にしては高いし、スタイルは……んー……バストだけはもうちっと欲しいかな。


 とにかく、周りの奴らがこんなに騒ぎたくなる気持ちもわかるぜ。

 あんな美人さん、どこかの国のお姫様にも劣らぬ……いや、お姫様より良いかもしんねえ! 可愛さと美しさを両方兼ね備えた逸材なんて早々いねえぞ!


 決めた。まずは彼女からだ。

 彼女からの俺のハーレム道を始める。


 席を立ちあがり、柵を乗り越えて二階から一階へと降りようとしたところで、不意に後ろから声を掛けられた。


「待ちな、兄ちゃん」

「ああ? なんだよ……って、船頭じゃねえか」


 そこにいたのは、さっき会ったばかりのフュリーっていう船頭だった。

 たしか、元冒険者だってのはさっき聞いたが、それにしても元ってのが信じらんねえくらいに鍛え上げられた身体をしてやがる。それに、顔元の傷痕がやけに似合ってるし……くそ、俺よりも深みがあるダンディな奴だ。


 それはともかく、フュリーは片手にエールが入ったジョッキを持ちながら、俺を見ていた。 

 その顔つきは余裕がある笑みで溢れている。

 ていうか、彼女を運んできたのはあんただろ? なんでそれがこんなところにいるんだ。


「堅いこというなよ、兄ちゃん。それよりも、お前は嬢ちゃんに声を掛けようと……いや、ナンパしようとしているだろ? 今はやめときな。いや、今だけじゃねえ、これからもやめたほうが良い」


 俺は、元冒険者とはいえ船頭をやってるだけの男に思考を暴かれて動揺しちまった。声を震わせながら「え? え? なんのことやら?」と言ってしまうくらいに。いや、情けねえ限りだ。しかし、それにしてもこいつの言ってることがわからねえ。

 いい女がいたら、声をかける。

 当たり前のことだろ。


「若いな……。俺も昔はそうだった。まあ、まずは座れよ。理由は追々説明してやる」


 偉そうなことを言う奴だと、俺は腹が立ってきたが……フュリーの余裕な態度が逆に気になる。それに、こいつはルミスのことを良く知っていそうな口ぶりだ。もしかしたら、彼女の情報をもらえるかもしれねえし……まずは、従ってみるか。


 俺たちは柵の近く、つまりは二階から一階を見下ろせる席まで移動すると、下が見やすい席に座った。これなら、ルミスさんの行動などを細かく観察することができる。


「あの嬢ちゃんの名前はルミス・アーチェリア。このスタントラルで武器屋を営んでいる女だ」


 武器屋? てっきり、管理局に自由に出入りしてそうな様子だったから同業者かと思ったぜ。一緒にこの依頼に行きませんか? という台詞でナンパしようとしてたから危なかったぜ。恥ずかしい思いをするところだった。


「それで? なんで声を掛けちゃいけねえんだ……あ、ま、まさか……。すでに男が?」

「そんな噂は聞いたことがねえな。それに、嬢ちゃんにその類の話題を振ると言葉が濁るあたり、恋人がいたこともねえんじゃねえか?」


 なんだと?

 それは俺の中ではかなりの高得点だ。

 遊んでばかりいる馬鹿な女よりも、きちんとした貞操観念がある清楚な女の方が誰でもいいだろ?


「声を掛けちゃいけねえ理由だがな……ふたつある。まずは、周りの奴らを見ろ」


 俺はフュリーに従って周りを見る。

 すると、なんだか俺に視線が集まっていた。何人かの冒険者とは目が合って、その度に舌打ちやら地獄に堕ちろといったハンドサインや、狂ってる奴からはナイフが飛んできたりした。ま、そのナイフは俺のこめかみに突き刺さる前にフュリーが綺麗に受け止めていたがな。


「わかったか?」

「わ、わかんねえ。俺はあいつらに喧嘩を売った覚えはねえぞ」

「違うな。お前はすでにあいつらの敵になっちまったのさ。さっき、お前さんが柵を乗り越えようとした瞬間に、嬢ちゃんに声を掛けるっていうお前の思惑はバレバレだからな。あいつら……そうだな。簡単に言えば、お前さんのライバルだ」


 な、なにぃ!? こんなにたくさんいるのか。

 てか気付いたら全員俺のこと睨んでるぞ。おい、酒場のマスターまで鋭い目線してんじゃねえよ! いや、待てよ。三階の方からも視線が……嘘だろ……。

 あんなに注目されている人だ。

 多少ライバルはいると思ったが、こんなに多いとは俺も驚きだ。しかし、だからこそ恋は燃え上がるってもんよ。


「わかった。俺が抜け駆けしようとしたから、あいつらは俺のことを敵視しているわけだろ。しかし、それがなんだ。どこの世界でも、判断の速い奴が勝つ。当たり前のことだろ」

「ふん。正論かもしれねえが、兄ちゃんがさっきやろうとしたことは、あいつらにとっての協定違反だ。そして、それがふたつ目の理由でもある」


 協定違反?

 なんだ、それは。

 たった一人の女のために、そんなものまであるのか。


「嬢ちゃんの邪魔になることはしてはならない……というのが、たったひとつの協定だ。お前さんはそれを破ろうとしたわけだ。知らなかったとはいえ、早計すぎたな」


 邪魔? 何が邪魔だっていうんだ? 今だって、ただ立って……。

 って、うおっ!?


「ルミスだぁっ!」


 という、大声が聴こえたかと思うと受付嬢のウサ耳少女が飛び出してきた。

 すげえ、跳躍力とスピードだぜ。そんなにただの武器屋の女が回避できるはずも無く、小柄な体躯に押し倒されてしまったぜ。


 それと同時に周りの冒険者がみんな立ち上がる。

 なんだなんだ? と疑問に思っていたら全員がその光景を恍惚に眺めていた。


「ああ、いいな。押し倒されるルミスさん」

「パポンちゃんとの絡みも癒されるわよねえ……。はあ、ふたりまとめてお姉さんの妹にしたいわぁ……」

「おお……見ろ、あれを見ろ!」


 一人の男が指差したかと思うと、全員がその先にある一点を注視する。

 ウサ耳少女が彼女を押し倒して、ちょうど腹のあたりで頬ずりしている。随分と懐かれているんだな、母性もあるだなんて女性として素敵だ。と、思うが……どこにそんな注目する要素が……?


 そこで俺も気付く。目がくわっと見開かれる。

 そうだ。押し倒している状況ということは、服が引っ張られている状況であり、彼女の上半身のボディラインがくっきりとわかっちまうんだ。そして……そこにあったのは、俺が想像していた控え目なバストではなく、堂々と存在を主張するナイスバストだった。

 

 もう一度言う…ナイスバストだった……。


 完璧だ。

 本当に、理想の女性だった。

 感動して涙が出てきそうだ。

 この感動を、お前らと一緒に共有したい。さっきは俺が悪かった。協定があるとするならば、俺もそれに従おう。郷に入れば郷に従え……俺はそんなことも理解できなかったわけだ。


 握手をしよう。

 そして、わかり合おう。

 と、立ち上がり歩み合おうとしたところで、また会話が聞こえてきた。


「なるほどな、あんたの『着痩せ説』正しかったわけだ。完敗だよ。数多の敵の動きを見破っただけの観察眼だけのことはある」

「ふふ。当然さ。だが、具体的な数値までは……」

「やめておけ。そんな事実を知っちまったら妄想が止まらん」

「今は…彼女の姿を目に焼き付けておこう……。あの光り輝く山を…」


 一歩前へ歩み出そうとした足を戻して、席に座り直した。


 この管理局の冒険者は馬鹿と変態しかいねえのか?

 これが管理局の総本山でいいのか?

 この世界は間違ってんじゃねえか。


 残念ながら、俺にはまだあいつらと同じステージに立てる覚悟がねえ。


「ふん。兄ちゃんもだが、あいつらもまだまだ若いな。そんなこともわかってなかったとは。ちなみに、バストサイズはだな―ー」

「船頭よ。彼女の邪魔しちゃいけねえと言ってたが、実際に邪魔してるのはあの白兎族じゃねえか?」


 俺は無理矢理目の前のエロ親父の言葉を遮った。

 やめろ。彼女の個人情報をそこまでぺらぺらと喋るな。

 俺自身、自分はかなり性欲に忠実な人間だと思ってたが、ここにいると、自分が井の中の蛙ということを思い知らされる。俺はまだまともな方だった。いや、なんだか周囲が騒いでると一周回って冷静になるのと同じで、周囲が変態だらけだと一周回ってまともになっちまったようだ。


「ん? いや、確かにややこしい状況ではあるが……。嬢ちゃんは、あの受付嬢に用事があってきたわけだ。嬢ちゃんがここに来るときは、決まって依頼の発注だ。それが終わるまで……つまりは彼女の仕事が終わるまで、邪魔しちゃいけねえのさ」

「なるほどな。あくまで協定は、彼女のためにか」


 その後も、俺は周囲の冒険者の実況を聞きつつ、彼女の動向を観察した。

 よく考えれば、これは立派なストーカー行為ではないかと思ったが、そんな常識に囚われちゃいけねえのかもしれない。

 しかし、あの白兎族と随分親しげに話している様子だが……全く表情が変わらないな。


「気付いたか?」

「ああ、なんだか表情が――「そうだ。胸もだが、尻も良い感じに主張してて実にそそられる。それに身長が高いだけあって、脚も長い。その黒いストッキングも――」


 俺は船頭の頭を掴んで思い切りテーブルに叩きつけた。

 なんて目で女を見てんだよ。せっかくシリアスな雰囲気だったのに台無しじゃねえか。しかも、なんであんならひらひらしたドレスから尻の大きさまでわかるんだよ。まあ、脚は……スカート部分が膝下までだからわかるが、その長さまでは把握できる気がしねえ。


「ふん、若いな兄ちゃん」

「どんなに余裕見せたって、お前がエロ親父ってのは変わらねえから」


 呆れて、おっさんから目を離して彼女の方に向き直ると、一人のガキが彼女に話しかけていた。

 なっ……!? 協定はどうしたんだ……!?

 他の奴らも動こうとしないし……はっ!? もしかしたら俺は試されているのかもしれない。そうだ、ここで協定に従った行動を示せるかどうか試しているんだ。

 そうと決まったら、俺は柵に足を掛ける。そして、そのまま空中から俺の拳を――。


「落ち着け、兄ちゃん」

「うるせえ! 黙ってろおっさん! 彼女の邪魔をする奴は生かしちゃおけねえ!」

「短期間に随分らしくはなってきたが、落ち着いて周りをよく見てみろ」


 ああん?

 意味がわからねえことを言ってるが、一応周りを見てみる。

 すると、何人かの冒険者たちは俺と同じように柵に足を掛けてはいるが、血の涙を流して次の一歩を踏み出さない様にしている。周りも必死に引きとめてはいるものの、血を涙を流しているのは全員だ。


 その異常な光景に俺はまたしても冷静になった。

 柵からゆっくりと足を下ろし、事情を知っているフュリーを問い詰める。


「どういうことだ!」

「よく観察しろ。嬢ちゃんとあの勇者の子供は話してるだろ? 邪険にしていないってことは、仕事の邪魔じゃねえってことだ。あいつらはそれをわかっているから排除しようとはしない。だが、嬢ちゃんに親しげに話しかけるあの勇者が憎くてたまらない……それがこの惨劇の理由だ」


 なんてことだ。

 そんなことでここまで苦しんでいるなんて。

 ……短絡的にあのガキを殴ろうとした俺の方が……ガキだったな。


 そして俺は思う。

 こいつらは、変態だし加減を知らないし馬鹿だし変態だし頭おかしいし変態だけど!

 通すべき、筋ってのがわかっている。

 そういう奴らは……強い。


「よくわかったよ。ここで、あの女性(ひと)と仲良くなるためには、ここにいるこいつらを倒していく必要があるんだな」

「おうよ。だが今のところ――」


 ガタン! と椅子を倒してフュリーが立ち上がる。

 その顔は何かを見て驚いているようだった。いや、怯えているようにも、そして憤怒しているようにも見える。周りの冒険者も一様にして立ち上がり、全員から殺気のようなものを感じる。


 な、なんだよ。

 みんなして何を見て―ー。


 そして、俺はこいつらの反応の理由を知った。

 あのガキが、ルミスさんのナイスバストに顔を沈めて、抱きしめられているのだ。

 もう一度言おう。

 あのクソガキが、ルミスさん(俺の女)のナイスバストに顔を沈めて、抱きしめられているのだ。


 何も言わない。

 ただ、他の馬鹿とは自然と目が合う。

 全員を見る。

 みんな、気持ちは一緒のようだった。


 だが、今じゃない。

 今はルミスさんの邪魔になるだけだ。

 それは俺もすでにわかっている。



 そして、その時は来た。



「案外大きいんですね。着痩せするタイ――」

「このセクハラ勇者がああ!!」


 最初の一撃は、あの受付嬢のウサ耳少女だった。

 それが開戦の合図となって、俺たちは次々に一階へと飛び降りる。

 

 クソガキは首がおかしな方向に曲がって壁に叩きつけられてぴくりとも動かねえが、そんなこと知ったこっちゃねえ。すでに、容赦とか手加減とか……そんなことをできるレベルは越えているのだ。


「おい大丈夫か! しっかりしろ!」

(このクソガキがっ! よくもルミスさんの胸を堪能しやがったな!)

「待ってろ、今、選任治癒師のところまで運んでやる!」

(誰が運ぶかよ! てめえの命はここで終わりだ!)

「もう! パポンちゃんもやり過ぎよ!」

(いいわよ、もっとやりなさい!)


 全員がガキの周りに集まって心配する芝居をしつつ、殴って、蹴って、痛みつけていく。その中には、あの変態のおっさんも、そして酒場のマスターまでいた。流石にやり過ぎか? と思うが、そこで決定的な言葉を聞く。


「このくらいなら全然治せますから、もっとやっていいですよ」


 選任治癒師の言葉だった。


 それなら、もう、止まらない。





 結局、治癒師がドクターストップ(俺たちに)するまで私刑は続いた。

 俺はというと、誰かの拳に巻き込まれて気絶してしまい、目が覚めたら次の日の朝だった。

 後で聞いた話だが、その後ルミスさんを含めた宴会があったらしく、俺は「なんで、気絶しちまったんだよおおおおお!」と激しく後悔した。


 そうと決まれば、いざというときでも気絶しない強い身体が必要だ。

 目標は決まった。

 そうして、俺は強い自分を求めて、そしてルミスさんに良いところを見せるために、今日も魔物たちを討伐する。


 最終的に目指すのはハーレムの主だ。

 モテる自分だ。


 俺の名前はバル。

 どこにでもいる……愛の探究者さ。



 本編よりもやや長めの文量でした。

 はい。大分カオスですね。


 あともう一話ほど閑話を挟んで、次の物語を始めます。

 次はコメディではなくて、設定などの説明回になりそうです。

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