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冒険は武器屋から  作者: 真空
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武器屋アーチェリア

初投稿です。色々と至らぬことがあると思いますが、頑張ってみようと思います。

応援、よろしくお願い致します。

 

 街中に響き渡る鐘の音で、私は目を覚ましました。

 微かに見える視線の先にあるのは煉瓦で出来た頑丈な壁。

 手元にずっしりと感じるのは鍛冶するときに使う愛用のハンマー。

 鼻孔を突くのは、工房特有の土と煙の匂い。

 それで、私は工房で寝てしまっていたのか、とようやく昨夜の記憶が蘇ります。


 そうだ。

 夜遅くまで新しい武器の構想を考えていたら、ついつい寝てしまったんでした。最初は机に向かってアイディアと構想を思いつくままに書いていたんです。しかし、途中で行き詰まり、工房でハンマーを握れば変わったアイディアが浮かぶかも、と思った矢先に寝てしまったようで……。


 ベッドでは無く、座った状態で長時間を過ごした身体は、悲鳴を挙げました。

 私は少しずつ身体を伸ばし、無理に痛まない様に気を付けながら工房を出ます。


 朝の鐘が鳴ったのだから、急いで開店の準備をしなくてはなりません。

 まずは洗濯、そしてどんなに忙しいときでも朝食はしっかりと摂ります。その後、店の床掃除をして、棚に飾る武器の手入れを行い、私自身の身形を整えます。


 鏡の前で眠そうな顔をしている自分を見ます。

 これは寝不足では無く、生来こういう目つきなんです。自分でも可愛くないと思いますがすでに諦めています。それに加えて私の表情筋は死んでいるのか無愛想な顔です。接客業としては笑顔が大事なのだろうけど、私にそれを求めるのは酷という話です。それに武器屋に来る冒険者たちが、いちいち店主の顔を見てるとは思えません。あの方たちの興味は顔よりも武器にあります。だから、化粧も適当に隈を誤魔化す程度で大丈夫……一応、淑女としての体裁は保てているはずです。正直に言うと、化粧は苦手なんです。唯一自慢出来るとしたら、この碧眼だけかもしれません。

 その後はヘアメイクです。真紅と表現するのが適している髪の毛を、左半分前髪をピンで留め、右は無造作に流す。鎖骨辺りまである髪の毛は動くときの邪魔になるので適当な分の髪の毛を掴む上で結ぶ。これが私流の仕事中のヘアスタイルです。


 橙色を基調とし、白いフリルが可愛らしく装飾されているドレスを身に纏い、様々な仕事道具がポケットに収納されているエプロンを装着する。最後にもう一度、鏡で自分の姿を映して問題が無いことを確認すると店の前に出る。


 今日も太陽は元気よく輝いており、この調子であれば冒険者たちも活発的に動くだろうなと予想する。事実、行動力がある何人かの冒険者たちの姿が見えている。誰も彼もが、これから始まる冒険のために準備を行っているのだろう。

 何のために冒険に出かけるかは知らない。

 金のためだろうか。

 困っている人を助けるためだろうか。

 もしかしたら正義のためなのかもしれない。


 目的が何であれ、彼らの最終目標は変わらないはずです。

 生きて帰ってくる。

 それが彼らが成し遂げなけれなばならない使命のはずです。


 ならば、私もあなた方のために最善を尽くしましょう。


 店の扉に掛かっている木札をひっくり返し、その名前を表に出す。

【武器屋アーチェリア】

 それが、私、ルミス・アーチェリアの自慢の店です。







 私の店が構えているこの街の名前は、【時を司る都スタントラル】であり、ここロノクタス王国の王都でもあります。

 時を司るというのは、都の中心にある湖に雄大にたたずむ時計塔が由来でしょう。

 毎日、決まった時刻の時計塔の大鐘楼が鳴り、街中にその存在感と時刻を知らせてくれます。そのため、この街の住人達は規則正しい生活を送ることが出来ている、というわけです。

 古い時代から存在する時計塔ではありますが、どうやって建てられたか、なぜ決まった時刻に鐘が鳴るのか、そもそもどうやって中に這入るのか、わからないことが多くあると聞いております。

 この時計塔を一目見ようと観光に来る貴族や旅人もいるが、人口の多くを占めるのが冒険者たちでしょう。


 といっても、冒険者には二種類存在します。細かく分ければもっとたくさんいるのですが、本当に大まかに分けて二種類です。だって、これは住む世界が違う人たちの区分なのですから。


 この世界に生まれて、この世界で冒険を生業にして生きていく人たちを【探究者】といいます。

 彼らは国境や国に束縛されず、自分が生きたいように冒険し、自分の欲しいものを探しています。それが強さか、富みか、名声かは……人それぞれですが。

 そして、別の世界から召喚されてきた異世界の人間を【勇者】と呼んでいます。彼らは、この世界に混沌をもたらしている邪龍を倒すために、王国が召喚した異世界の人間です。冒険者と同様に街を巡ってはいるが、彼らの目的はあくまで邪龍討伐であり、国と、正義と、国民にために戦っています。


 私にとっては、どちらも大切な商売客ではあるけども、探究者と勇者の間では、その思想の違いからよく争いが起きるため、店内にどちらもいらっしゃる場合は最善の注意を払うことにはしています。まあ、いざ暴れられても私ではどうしようもありませんけどね。。



 少し話が逸れました。

 本題は、この街には冒険者がよく集まるということです。

 まず理由のひとつとして勇者の召喚があります。国が王城にて異世界より勇者を召喚しているため、自然とこの街には新米の勇者が増えていく傾向にあります。また、召喚された勇者にとってはこの街が第二の故郷になるということで、懐かしくなった勇者たちが里帰りをするというのも珍しくないようです。


 そしてふたつ目として、この街は様々な国の中心点に位置しており、中継地点として最適だということです。そのため、このスタントラルは貿易と商売が盛んであり、世界でも有数の賑わいを見せている街になっています。


 そんな街で、武器屋アーチェリアは、大通りから少し外れた場所にひっそりと建っています。

 本当はそれこそ大通りに建築したかったのですが、周りの喧騒がうるさいということと、土地が高価すぎたというのが理由で、ここで小さい店を立ち上げることになりました。

 始めた当初はお客様も少なく、人気はありませんでしたが、最近では何名かのリピーターも増えてきており、安定した暮らしが出来ています。

 まあ、実のところお金には全く困っていないのですが。



 開店してもすぐに店にお客様がいらっしゃることは滅多にありません。

 そのため、その間に他の業務を粛々とこなしたり、昨日の夜の様に武器のアイディアを練ったりしているのです。今日はというと、掃除が隅々まで至らなかったこともあり、細かい拭き掃除をしていました。それらが大体終わりに近づいたとき、ようやく店の扉が開く音が聞こえてきました。

 扉の方に向き直り、私はへそ辺りに手を添え、恭しく頭を下げる。


「いらっしゃいませ」


 そして顔を上げると見慣れた少年が「お久しぶりっす」と軽く挨拶を返してきた。


 それに対し精一杯の営業スマイルを返しますが、内心では溜息を吐いていました。

 この少年が来ると大抵忙しい一日になることは決まっています。

 まあ、今更そんなことを言っても仕方ないですし、忙しいのは嬉しい悲鳴ともいいますから、最上、最高、最善を尽くすことに致しましょう。


 さあ、今日も一日頑張りましょうか。

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