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猫叉先輩  作者: 灰梅澄人
2/15

猫叉先輩と僕と眠さんの話

 僕は彼女を見た。

 彼女も僕を見る。そして笑う。獣の笑みだ。

 僕は彼女を見ている。その手に持つ刀が、赤く、鈍く、光って見えた。

 彼女は僕を見ている。見ているのを知って、刃を僕に見せつけてくる。

 僕は彼女に言う。何を? 何を言えばいいんだ? 混乱しながらも言う。

 彼女は僕に言う。何を? 何を言っているんだ? 混乱しながらも聞く。

 僕はもう見ることしかできない。彼女の動く様を、ただ見るしか。

 彼女は動く。僕が動けないのをあざ笑うかのように。動き、動く。

 僕には、もう彼女を止められない。

 彼女は、もう僕には止められない。


「……」

 僕は目を覚ます。と同時に、何か夢を見たのを思い出す。とはいえ、あれは何の夢だったんだろうか。何か、見たことのある人がいたけど、でもあの光景は?

 時計を見る。午前4時。

「……寝よ」

 僕は寝直すことにした。と、同時に夢のことも忘れてしまった。


 猫叉先輩がいる。三年の女子。所属クラブ及び部活動は不明。背は小さく、厚みも薄く、だがしなやかな猫のような優美なボディラインである。運動神経は抜群で、超高校級というレベルである。対して成績はむらがある。理系がとことん弱いらしい。

そして猫耳。この猫耳には諸説あり、紛々としている。

 本物派は「リアル猫耳少女のいるこの世界最高ッ!」だそうだし、否定派は「イマドキ猫耳少女も無いだろ。あれは脳波センサーの奴だよ」だそうな。

 その猫耳をゆらゆらさせながら、猫叉先輩はお昼寝中である。場所はあまり人の来ない裏庭。というか、あることすら知られてないと言えるくらい、妙な位置にある場所なのだが、お昼のタイミングで絶好の日和を感じさせる場所であり、猫叉先輩の絶好の昼寝スポットの一つとして数えられている。

 そこで、猫叉先輩は、再確認。寝ている。

 とりあえずかたわらへ。猫の、あの独特の寝方で、眠っている。今日は猫の気が強いのだろう。尻尾は見えないから、7割くらいだろうか。

 とはいえ、無防備。にじりにじりと寄る。肉が薄いというのは逆に言うと無駄がないとも言える。生命としての最小限度のバランス。その滑らかさを、この手で。

「んにゃお」

 おっと危ない。一挙に迫り過ぎて勘付かれたか。と思ったが眠ったままなので大丈夫だ。危うく絹を裂く悲鳴が出そうだった。危険が危ない。

 にじり、にじり。猫叉先輩の寝ているベンチに腰掛ける。

 にじり……にじり……。スライドして行く。「くあ……っ」と猫叉先輩があくびめいた動きを見せるが、今度は気をつけているので動揺は無い。

 先輩はやはり無防備だ。猫の気が強くてこの隙。それだけここが安全だと認識しているからだろう。

 にじり……。さて、ここからどうするか。撫でるか、掻くか。するにしてもどこをか。頭か、喉か。思案の為所だが、たぶん一回が限度。やったら、相当に怒られるかもしれない。とはいえ、猫の撫で心地、掻き心地は法外の物だ。覚えてしまえば、抗うのは難しい。

 にじり……にじり……。そろそろ決めよう。どうするかを。

 撫でよう。頭を。

 そう決める。

 にじり………、にじり………。撫でるぜぇ、超撫でるぜぇ! と手を伸ばす。猫叉先輩はまだ夢の中だ。

 にじり! 時は来た! 撫でる!

 と思ったその時、動きがあった。

「ふわーあー」

 起きた。

 猫叉先輩が起きたのではない。猫叉先輩はまだ夢の中だ。

 代わりのように起きたのは。

「姫子さん!?」

「んー、そうだよー……、って君かー」

 起きたのは、僕と同じクラスの眠姫子、通称“眠り姫”。何処でも何時でもどんな状況でも眠れるというので付いたあだ名だ。今も、猫叉先輩の寝ているベンチではなく、その後ろの生け垣の隙間に寝ていた。

「色んな意味でどこで寝てるんだよ、姫子さん!?」

「どこってー、ここだよー?」

「そうだけど、そうじゃなくて!」

「うっせー、にゃん」

 僕らが騒々しいので、流石に猫叉先輩は起きてしまった。そして気付かれる、彼我の距離。

「にゃ」

 あ、凄い引かれた。わりとショックである。そしてカチンともくる。

「なんですか、その顔。何か悪い事しましたか、僕」

「逆切れだ」

「逆切れだねー」

 ぬぐぐ。こうなりゃ自棄だ!

「ああ、そうですよ! 猫叉先輩を撫でくり回したかったですよ悪いですか!?」

「開き直った」

「怖いねー」

「もういい、撫でさせてもらいます!」

 僕と猫叉先輩の残りの距離は大して無い。それを一瞬で詰め、猫叉先輩を捕える!

 と思ったけど、流石の身のこなし。こちらの腕の動きを見切り、紙一重の言葉がぴったりの間合い管理で回避。

 くそっ! と大ぶりをしたら余裕のジャンプから、頭の上に乗られた。

「ぐっ」

 すぐに降りられたが、わりと首にダメージ。痛い。

「君さぁ、遠慮しいかと思ったら遠慮が無い時が結構あるよね」

「こちらとしては親愛の行動なんですけども。ほら、猫見たら猫可愛がりしたくなるじゃないですか。追いかけたくなるじゃないですか。撫でくり回してしまいたくなるじゃないですか!」

「あたしは特にしないなー。向こうから寄っても来ないし、近づくとすぐ逃げられるし」

「姫子さんの特性はどうでもいいのです! 世間一般の事!」

「あたし、世間一般じゃないんだー」

 微妙にしょげる姫子さんは無視して、僕の言説は続く。

「幸いにして猫叉先輩は普段から猫要素が多め。ならば当然、猫っぽくしていると可愛がりたくなるではないですか!」

「でも、自分で言うのもなんだけど少女を撫でまわしたいって言説はその根本からしてアウトでしょ」

「いやでも、猫成分多めですし」

「いや、関係ない」

「いやいや」

「いやいやいや」

「いやいやいやいや」

 千日手になりかける僕と猫叉先輩に第三者。

「要するにー、君はロリータ趣味なわけだねー」

「「ロリ違う」」

 見事なハーモニーを奏でた。そして流れる微妙な静寂。そこに一石を投じたのは、僕の言葉だ。

「すいませんでした、猫叉先輩。隙があったとはいえ、親しい仲にも礼儀あり、ですよね。ちょっと勢いに乗り過ぎました」

「うん、こっちとしてはいきなり冷静になられてビビってるけど、そう反省してくれるなら、いいよ。頭にも乗っちゃったのは悪かったね」

 猫叉先輩はそう言うのに、第三者姫子さんは首を横に振る。

「そこは認めたら駄目だよー、猫叉ちゃん。ここはちゃんと今後はしないように、って諭さないと。それに、隙だらけだったのは目的あっての事でしょー?」

「目的」というこちらの問いに、姫子さんはそうだよー、と言ってから話しだす。

「最近さー、霊が多いじゃない?」

「最近梅雨に入ったね、みたいな風に言われても、僕はそういうのさっぱりだから分かんないんですが」

 そうだったっけー? と姫子さんが猫叉先輩に確認をとる。猫叉先輩は頷く。

「そうだよ。この子は霊感が全くない、その点で言うと凡人以下で逆に珍しいタイプなんだよ」

「そうなんだー」と姫子さんは言うと、僕に説明するべく言葉を続けた。

「基本的に霊感があまりない人でも、今のこの辺り霊の多さは気になるレベルなんだよー。それに、猫叉ちゃんはそういう霊を食べちゃうくらいには霊感が強いけど、それがかえって霊を引き寄せる部分があるんだー」

 この間ハムハムしてたのも、その一環と言うことか。とはいえ、出会ってから半年程度の中では、確かに最近はハムハムしてる場面が多いような。

「それは大変ですね」

「そうだよ。迂闊に校内で昼寝出来ないからね」

「ああ、そういう問題でしたか」

「うん」と当然のように振る舞う猫叉先輩。大変そうだと思ったけど、特に強く問題にはなっていないのか。

「それで、姫子ちゃんの霊能力については君は知っているっけ?」

 すぐに思い当たる姫子さんの霊能力というのは有名だ。

「寝ている間中、霊を寄せ付けない結界が周囲に生まれる、んですよね?」

 先の先輩の発言、それと一緒に寝ていた事。それを合わせれば自ずと答えが見えてくる。

「ああ、そうか! 姫子さんの寝る隣で寝れば、存分に昼寝出来るって訳ですね! そうでしょ、姫子さん!」

「くかー」

 寝ておられる! しかも立って! 更に空気全く読んでねえ!

 猫叉先輩はくつくつと笑っていたが、すぐに面持ちを真剣な物にする。

「あれ、もしかして」

 という僕の疑問の声に、猫叉先輩は頷く。

「その通り。雑霊さん達のお出ましだよ。っていっても」

 猫叉先輩は姫子さんを指さす。

「“眠り姫”のおかげで、いきなり襲われる事はないけどね」

 のわりには表情が依然真剣である。予断を許さないようだ。

「四体程いるなあ」

「流石に辛いですか?」

「侮ってもらっちゃ困るよ。ただ、一挙に倒せる手が欲しいってだけでね。……そう言えば、前に霊を払える物を持ってなさいって言っていたよね」

「ああ、初めて会って、僕が雑霊にとり憑かれた時ですね」

 あれは今思うと猫叉先輩に出会えた記念すべき事件だけど、それは置いておいて。

「なにかある?」

「清めの塩を持ってます」

 僕は懐から塩の入った瓶を取り出した。

「それだけあればいいね。じゃあ姫子ちゃん起こして。それから三つ数えたら一緒にしゃがんで」

「はい」

 しゃがんだ猫叉先輩に言われた通り、僕は姫子さんを起こしにかかる。

「姫子さん」

「んー。また食べてるからー」

「姫子さん!」

「もうちょっとだけー」

「起きろ!!」

 声と共に大きく揺らすと、姫子さんはようやく目を覚ました。

 そして、1、2、3!

「ふえー」

 姫子さんを強引にしゃがませる。その上空に塩が飛散して、そして見えない何かにぶつかったように弾けた。

「ふう、さっくり終わったね。もう大丈夫だ」

「そのようですね」

「そっちは、大丈夫じゃなさそうだけど?」

「え?」

 意味不明な猫叉先輩の言葉で、僕は今の態勢を把握する。

 姫子さんを、強引に引き倒して、半ば上から押し倒した、よう、な。

 慌てて手を離し、距離も離して、僕は謝る。

「あ、ごめん、なんか無理やりなことしちゃっいましたね……」

「あー、うん。別にいいよー」

 姫子さんは落ち着き払った声でそう返してくる。

 良かった。怒ってない。

「立てる?」

「うーん、どうかなー」

「なんか、どこか打ったとか、挫いたとかですか?」

「いやー、大丈夫だよ。でも、ここは君の手を使って、立ちあがりたいなあー、と」

「え? どういう意味?」

「……ふふ」

 僕の混乱をよそに、猫叉先輩はくつくつと笑っていた。

登場人物を徐々に出していくパターンですね。眠さんは便利なので今後も折々で使われます。

さておき。

既にいくらか書いてあるのを打ち直すのにそこそこ時間を使ってしまう。細かい所の手直しも出来るのは利点だが、予想より打ちこむまで時間掛るのがネック。もうちょい早くやれたらいいんだけどなあ。

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