5話
『もしかしたらレナはリューン様にこの世界へ連れてこられたのかもね。』
「リューン様が…?」
『きっとそうだわ。最近魔獣どもが増えてきてるしこの世界が負で溢れないようにあなたを呼んだのかも…。』
「ちょっとそんなこと言われたって私にはなんの力もないし…ひゃあっ!!」
彼女と話し込んでいると急に鎖骨の辺りをザラリとしたものが通り過ぎた。突然の刺激に口から今まで自分でも聞いたことのない声が上がる。
黒い彼がその狼の長い舌で私をペロリと舐めたのだ。そして一言、『甘い…。』と呟く。どういうこっちゃ。
「あ、甘いって…どういうこと?」
『甘いんだ。まるで蕩けるような…。』
それってさっき白い彼女が言ってたこととまるっきり同じじゃないか。
そう思っていると今度は反対側から同じような刺激が走る。また口から変な声が出そうになって反射的にこらえたらなんか嬌声みたいになった。
うわ、私にもこんな声って出せるんだ死にたい…。
『ホントだわ、甘い。それにその声も甘くて蕩けちゃいそう…。』
「そ、そそそそそそそんなこと言わないでええええぇぇ……!!!!」
『ど、どうした!?どこか痛いのか!?』
私は堪らなくなり身体をくの字に折ってまるで土下座でもするかのように顔を埋めた。
今なら恥ずかしさで死ねる。そう思った。
だってこの2匹やたらと声が良いしそんなギャルゲーや乙女ゲーとかで使われてそうな甘い台詞をかけられたらそりゃ顔も熱くなる。
その後2匹に散々匂いを嗅がれ、頬や喉元を舐められて大幅に体力を失った私は気づけば白い彼女を枕に眠ってしまっていた。
夢を見ていた。そうよく見る夢。幼い頃から週に2、3回のペースで見続けている夢だ。
私はいつも広い花畑にいてそこで昼寝したり、小説を読んだり、あるいはゲームをしたりしている。
なんで花畑にそんなものがあるのかと言われても、不思議なことに願ったらそれが出てくるのだ。
残念なことに現実で自分が持っている物しか出てこないけど。そうじゃなければいちいち新しい小説とかゲームを買わなくていいのになぁといつも思う。
そしてそこにはいつも決まって同じ人物が居る。肩までの黒いサラサラの髪に白いローブを羽織っている綺麗な女の人。
私が昼寝するときは自然に膝枕をしてくれたり、たまに花冠を作って頭に載せてくれたりする不思議な人だ。
この人のおかげで 私は花冠を作ることが出来るようになった。私の女子力まだまだ大丈夫。
そうやって長い年月交流をしているけど実は言葉を交わしたことはなかった。
いや、私からたまに一方的に話しかけたりはするんだけど彼女は絶対に喋らないのだ。いつも顔の表情で答えてくれる。
最初のうちは大変だった。私もまだ幼かったうえに相手は喋らないから中々意思疎通ができなかった。
けど時が経つうちに自然と彼女の意図が分かるようになった。こう、心に直接文字が書かれるような感じで彼女から私への要求が伝わってくるようになったのだ。
こんな風に夢で束の間だけど彼女と過ごす穏やかな時間。私は大好きだった。
「玲那。」
あの人が私の名前を呼んだ。
お話の区切り方がおかしいと思いますがご了承ください。