4話
『それにしてもお前は不思議な人間だな。異世界から来たとか、俺達の声が聞こえるとか…。おい、いつまでそうしてるんだ。』
『だって、レナったらとても良い匂いがするんですもの。甘くて蕩けるような…。』
黒い彼が咎めるように鼻先を白い彼女へとぶつける。けど彼女は私から離れようとはしない。
さっきから彼女は私の匂いを一心不乱に嗅いでいるけどそんなに良い匂いがするのだろうか。
試しに彼女が鼻先を埋めている反対側に顔を埋めて臭ってみても私にはなんの甘い匂いも感じられなかった。
むしろ緊張で汗がたくさん出たからなのか若干汗くさい…ような…。
これ以上臭っても意味がないと思い彼女を左手で撫でているとふと視界にフサフサと揺れ動く黒い尻尾が映った。
彼に目を向けてみれば私のことをジッと、まるで餌をねだるかのような目で見てくる。
「どうしたの?」
『…に、匂ってみても、いいか…?』
「え?あーうん、どうぞ。」
そんな今にもクゥーンと鳴きそうな目で見つめられたら断れるわけないじゃないか!!
彼は彼女が占領している所とは反対の首元に恐る恐る鼻先を近づけてスンスンと匂いを嗅ぐ。そして彼女と同じように青い瞳をうっとりと細めた。
『あぁ…確かに良い匂いだ…リューン様を思い出す…。』
「リューン様…?」
『そう!!どこか懐かしい匂いだなぁ思ったらリューン様の匂いにそっくりなのよ!!』
彼女の興奮した声が頭の中に響く。やっとこさ顔を上げた彼女はその真紅の瞳で私の顔をのぞき込んだ。
黒い彼はまだ私の匂いを嗅いで悦に浸っている。さっき彼女を咎めていたとは思えないほどの変わりっぷりである。
ところでそのリューン様とは一体誰のことなんだろう。様って付いてるから偉い人なのは確かだ。
『リューン様は私達を創ったこの世界の神様よ。』
「ほおお。て、神様と私の匂いが似てる…?」
リューン様って私が匂ったら若干汗くさいの…?と一瞬思ってしまったが神様とあろうものがそんな汗くさいわけないよね。
というかこんなことを考えていたら神罰が下ってしまう。いけないいけない。