3話
出会った2匹の狼は簡単にこの世界のことを教えてくれた。
まずこの世界の名前をスクライド。そしてこの森はファーレンという国の端にあるザヴェードの森と呼ばれること。
スクライドという世界の名前を聞いて私は本当に異世界に来てしまったのだと痛感した。
しかもこのザヴェードの森は魔獣が多いため人間が立ち入ることは少ないそうで、なんでこんな所にいたのか聞かれたけどそもそもどうやってここに来たのかが分からない。
私がここまでの経緯を話すと2匹もよく分からないといった顔で耳と尻尾を垂れさせた。
そしてそのまま私は2匹のねぐらへと連れていかれることになった。こんな所に放っておくわけにもいかないと無理やり背中に乗せられたのだ。
連れていかれた場所は樹齢千年はありそうな超巨大な大木の根本にあるこれまた大きな穴の中だった。
白い彼女に上着のフードを咥えられ黒い彼の背中から降ろされる。少し暑くなってきたので上着を脱いだ。
私はそのままペタンと座り込み、2匹も私を囲むように伏せる。
『明日、ザヴェードの森の出口まで送っていってあげるわ。今日はもう日が暮れちゃうからここで休んでいきなさい。』
「ありがとう。でもどうしてこんなに親切にしてくれるの?餌なのに…」
『餌?誰の餌だ??』
「え、貴方達は魔獣でしょ?人間を食べたりするんじゃないの??」
『ん?俺たちは魔獣じゃないぞ?』
「え、違うの!?」
私は驚いた。
会話中に時折開く口から垣間見える鋭い牙は簡単に魔獣と結びついたからだ。
そんな私の反応に不満そうに鼻先で頬をつついてきたのは白い彼女。
『そりゃ見た目は魔獣と大差ないかもしれないけどあんな野蛮な奴等と私達は違うわよ。』
「ご、ごめん…。」
彼女は魔獣を相当嫌っているようだ。あからさまに不機嫌になったので素直に謝ると彼女は無言で頭を垂れる。
これは撫でてくれと言う意味だろうか?よく分からないながらもゆっくり撫で始めると嬉しそうに喉を鳴らし始める。
そして最初の時みたいに私の首元に鼻先を埋めて幸せそうに目を閉じた。
そんな表情を見せられたら動物好きの私はたまらなく嬉しくなって彼女を抱きしめつつ更にその首元を撫でてやる。
黒い彼がそんな彼女を見て呆れたように首を振った。
『俺達は神に仕える神獣なんだ。』
「神獣…?」
『あぁ。魔獣は人の持つ恨み辛み悲しみといった負の感情から生まれる。俺達神獣はそんな魔獣で世界が溢れかえらないように神から創られた獣なのさ。』
ほうほう。つまり魔獣と神獣は見た目こそよく似ているけど対極の存在ということか。
私がいた日本で言うなら魔獣は怨念から生まれた悪霊みたいなもので、さしずめ神獣はそんな悪霊を祓う霊媒師みたいな感じだろう。
あと私が思っていたとおり魔獣はほとんどが肉食なんだそうだ。そんなのがたくさん住んでいる森にトリップするとか…うわっ怖い。
私は自分の運の無さに思わず身震いした。