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Vivid Urona  作者: ディライト
うろなのマサムネ
5/8

 日曜日は今にも雨が降り出しそうなどんよりとした曇り空だった。どうやらここら周辺も入梅したようで、外ではじめじめとした嫌な空気が漂っている。前髪が癖っ毛の真帆も、髪型のセットが思うようにいかず、ぷりぷり頬を膨らませながら家を出るまでずっと髪留めをいじくっていた。

 お昼ごはんを平らげた後、約束どおり俺と真帆は畳まれた傘を片手に、歩いてすぐのところにある草薙家へと赴いた。

 うろな町散策の船出だ。

 まずは近場からということと、真帆も懇意にしてもらっているということもあり、手始めに指標をそこへと向けた。

 この辺は住宅街の外れになる。そのため、ぎっしりと一軒家で敷き詰められている住宅街中心とは違って、家と家との間に距離があるのが特徴だ。その途中は雑草が生い茂る空き地になっている。

 そんな景色を横目に映しながら一、二分ほど歩くと、程なくして横長な外壁が現れた。それは大体百メートルくらい続いており、それをちょうど二つに割ったところに門があった。

 世間一般的な明朝体で彫られた『草薙』という表札がかけられている。

 その門の前に立つと、何やら色々な動物の鳴き声が聞こえてくる。

「ここだよ」

 真帆が繋いでいた俺の手を引っ張るのをやめて立ち止まった。

「でけぇ家だ。マホんちよりもでかいんじゃないか?」

 いや、正確には敷地面積が広いのだろう。椋原家も二階建ての一軒家と倉庫になっている納屋に、プレハブが一つと一見大きく見える。しかしこの草薙家は門から覗く一軒家こそそれほど大きくはないが、とにかく庭が広そうだった。

「たぶんわたしんちより大きいよ。庭がね、すごいの」

「どんな風に?」

「『うろな町の動物園』って言われてる」

 真帆のくすりと笑う様子とは反対に、俺はその言葉を聞いて苦笑いしか出てこない。

 動物園たって、椋原家も十分動物園に数えてもよさそうなものだけど。犬三匹、猫五匹、そして一体どこで拾えるのか、兎も一匹リビングのゲージにいるし、動物園と言わずともふれあいゾーンくらいは作れるレベルだ。

 しかしそんな考えは温過ぎたことを、俺は後々痛感することになる。

 真帆はちらりと目配せしてから、取り付けられたチャイムを押した。

 ぶつりと向こう側と繋がる音がすると、機械ごしに声変わりはとっくに済まされた少年の声がした。

『あ、真帆ちゃんどうしたの?』

 どうやらカメラ付きインターホンのようで、目の前にいる真帆の姿が写し出されているらしい。

「こんにちは天兵。さっそくつれてきたよ」

『え、何を?』

「昨日言ってたマサムネ」

 真帆が俺の名を言いながら「ほらっ」とインターホンの前まで引っ張ってくる。

 俺の知らないところで噂しないでくれないかな。

『……とりあえず裏回ってくれる? 正面からは入れないんだ』

「うん。わかった」


 言われたとおりに外壁越しを通って裏へと向かうと、門の前で黒髪ミドルヘアーの一見地味目な外見をした、見た目俺と同じくらいの歳の少年が出迎えてくれた。

「やあ真帆ちゃん。それで……後ろの彼が例の?」

「うんそう」

「ども、日比野正宗です。先週からこの町に越してきたんだ」

 俺が軽く会釈をすると、彼はにこやかに右手を差し出してきた。

「新参者だね。僕は草薙天兵。うろな高校の二年だよ。見たところ僕とあんまり変わらないように見えるけど?」

「ああ、じゃあ同い年だ。俺は高校はやめちまったんだけどな」

「そうなの? またうろ高に通い直せばいいのに」

「学校がなんか肌に合わなくてな」

 がっちりと握手をしながら、他愛のない話で盛り上がる。

 同世代の人間と話をするのは久しぶりだ。そんな草薙天兵は俺がいた町の奴らとはどこか違う、飾り気のない気持ちのいい少年だった。

「へぇそんなことが……。まぁ人に歴史ありだね」

「そんなとこだ」

「天兵、マサムネが『動物園』みたいんだって」

 お互いに大体の自己紹介を終えると、真帆が会話に加わってくる。

「あ、そうなの? マサムネ動物好きなんだ?」

「おう。マホんちにも結構いるけど、なんか更にいっぱいいるらしいって聞いてさ」

「じゃあ立ち話もなんだし、中入ってよ」

 天兵のその声に従って、俺たちは通用口を開けて裏口から中に入った。

 表にあった大きな門は、動物たちを放し飼いしている庭に続いているため開けることができないらしい。


「それで?」

「ん?」

 天兵、真帆、俺の順で庭に向かって家を迂回している途中、天兵が俺に話しかけてきた。

「やっぱりマサムネはマホのペットなの?」

 俺は思わず吹き出した。

「どうしてそうなった!? しかもやっぱりってなんだよ!?」

「いやぁ、真帆ちゃんが昨日ペット紹介するみたいに言ってたから」

 真帆を睨むと、吹けてない口笛を吹きながらそっぽを向く。

「それに……」

 天兵の視線が下へと向かう。

「真帆ちゃんに手を引っ張られてるのを見るとあながち嘘でもないのかなーってね」

「誰しもが俺をペット扱いする!?」

「マサムネってカピバラみたいだしね」

「あ、確かに似てるねー」

「お前も人のことを言えた顔か!?」

 突っ込みし疲れて頭痛に苛まれる。

 もうどうにでもしてくれ。


 暫くして庭に着いた。

 というか最早ここは庭ではなかった。

 一面に青緑と草葉が生い茂り、さりげなく作られた丘は自然にマッチ。何か出てきそうな大きな池や動物小屋がよく目に映る。町外れとは言え、ここは本当に住宅街なのだろうか。そんなことを思ってしまうほど、ここは自然の箱庭だった。

 しかしなぜだか噂の動物たちの姿が見えない。

「雨が降りそうだから、みんな小屋の中なんだよね」

「そっか、じゃあ今日は見れないのかな」

「いや、一匹は見れるよ」

 天兵が指差す先に、庭の真ん中で上を見上げながら尻尾をふるふるお行儀良く座る茶色い豆柴だろうか――の後ろ姿があった。

「レオ!」

 天兵が大きな声でその犬の名を呼ぶと、ぴくりと後ろを振り返り、一目散にこちらに駆けてきた。

 両手を広げ待ち構える天兵だったが、向かった先はその後ろの真帆の下だった。

「キャンキャンキャンッ!」

「レオいいこー。よしよし」

 真帆は顔をつき合わせてなでなでしている。

「振られたな」

「ははっ。ちょっと嫉妬だね」

 天兵が苦笑する。

「レオは雨が好きだから振るの待ってたんだろうけど、雨の日はみんな小屋に入っちゃうんだ。だから今日は動物をみせてあげることはできないね」

「そりゃ残念」

「ま、でもまた見たくなったらいつでも来てよ。学校外での友達なんてなかなかできる機会ないしさ」

 臆面もなくそう言った天兵の言葉に、俺はなんとなく気恥ずかしくなって目を逸らした。

裏山おもてさんのうろなの虹草から天兵くんと草薙邸、後レオを少し出させていただきました!

描写におかしな点ございましたらご指摘お願いいたします!

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