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Vivid Urona  作者: ディライト
プロローグ
3/8

プロローグ3

 


 ◇◇◇



 真帆に連れられて再び住宅街の方にとんぼ帰りしてきた俺は、何やら普通の家庭よりも一回りも二回りも大きな敷地を持つ椋原家へと引っ張られてきていた。

 母屋と見られる木造建築の家、すぐ傍に納屋、そしてもう少し離れたところに申し訳程度に置かれるプレハブ小屋。

 どこにでもよくあるような一軒家に住んでいた俺にとっては驚愕の広さだ。

 真帆はそのまま俺の手を引っ張りながら敷地内の中央をのしのし歩いていくと、母屋の玄関ドアを開いて元気な声で母親を呼びつけた。

「おかーさーん! また拾ってきたー!」

「え~?」と奥の方から声が聞こえてくる。

 真帆が言った妙な発言も気にならないほど、内心俺は焦っていた。

 体中びしょ濡れでどでかいリュックサックを背負い、まだ中学生の女の子に手を繋がれて、挙句の果てにその少女の家に押しかけてきているのだ。

 どう足掻いても変質者である。

 身なりを整えようにもへたった髪型を整えるしかなく、程なくして二メートルくらい先にあるドアからすらっとしたスタイルの良いとても若く見える綺麗な女性が出てきてしまった。

 その人は猫目の辺りが真帆にとてもよく似ていた。

 思わず魅了されていると、その女性は俺を上から下まで品定めするように見ると、頬の辺りに手を添えて大きなため息をついた。

「あんたねぇ~……。別に拾ってくるのは構わないんだけど、人間拾ってくるとは流石に予想外よ、真帆」

「だって困ってるんだよ? 放っておけないもん」

 どうやら真帆にとって俺は、ダンボール箱に入れられ捨てられた子猫にでも見えているのだろう。

「このずぶ濡れの格好を見ればそんなことはわかるんだけどねー」

「あ、あの俺、日比野正宗と申します。突然こんな身なりで押しかけてしまってすいません」

「ご丁寧にありがとう。私は真帆の母で、椋原詩織です。それで一体どういう経緯でこういうことに?」

 俺は先ほど真帆との間に起こった出来事を詳細に話した。

 真帆もたまに口を挟んできて、マサムネはお金がびしょびしょになっちゃって使えなくなっちゃったんだよとか、うろな町に住みたいけどお仕事もなくて寝るところもないんだよとか、学校も行ってないから頼れる友達もいないんだよとか、言ってくれなくてもいいことまで喋ってくれた。

 その間、真帆のお母さんはこくこくと頷きながら熱心に聞いてくれていた。

「……そう。それで、あなたはこれからどうしたいと思っているの?」

 突如として向けられる真摯な視線。俺は思わず顔を背けてしまう。

 先ほど真帆に出会う寸前まで、この町を出ようと思っていた。俺の肌にはこの町は合わないと思ったからだ。

 でもそれじゃあ、また同じことの繰り返しにすぎない。

 判を押したような毎日に白旗をあげて逃げ出してきた以前の俺に笑われるだけだ。

 これは自分を変えるまたとない機会だ。

 全身水に濡れたこの身体も、身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあるということではないだろうか。

 ならば俺の答えは一つだった。

「お、俺は……ここで、うろな町で、ニューマサムネになりたいと思ってます!」

 俺の言葉に真帆のお母さんは目が点になった。

「ぷっ、あははは! 面白いわねマサムネくん!」

 そして爆笑。隣では真帆もニヤニヤと含み笑いを浮かべている。心なしか真帆に抱かれている子犬にまで笑われている気がして、居た堪れない気持ちになった。

「いいわ、そういうことなら外のプレハブを使っていいわ。あそこ以前はうろなの小学生を集めて小さな塾を開いてたんだけど、ここ最近は使ってなかったの。キッチンは付いてるし、畳の部屋だから住む分には困らないと思うの」

「え? 本当にいいんですか?」

「ええ。トイレとお風呂だけは母屋のほうを使ってちょうだい」

 にこりと微笑んでくれた真帆のお母さんを見て、俺は思わず涙がこぼれそうになった。

 それを悟られたくなくて、俺は慌てて頭を下げてお礼を言った。

「大丈夫、この町の人たちはみーんな暖かい心を持った人たちだから。きっとあなたの望む自分になれると思うわ」

「ありがとうございます!」

 俺はもう一度深く頭を下げた。

「とりあえずマサムネはお風呂に入ってきなよ。ちょっとくさい」

「コラ真帆! そんな本当のことを面と向かって言ったらダメでしょ!?」

「はぁい、ごめんマサムネ。くさいなんて思ってないよ」

 そんな二人の心温まるような笑顔に、俺は頬を掻いてはにかみながら「うるせー」と返した。

 これから俺はここでやりたいことを見つける。

 町を歩いて、眺めて、交流して。

 そう心に決めた日は、既に六月に入ろうとしていた頃だった。

ようやく、マサムネくんが町の人たちと交流できる状況まで持ってこれました;

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