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水そうのなかの魚

作者: 姫川乃愛

ぴろりろりろりん♪

私の携帯電話のメール着信音は、なんだか自分が馬鹿になったような気がする音だ、と私は常々感じていた。

大学一年生ともなると、周りは携帯電話を所有している友人がほとんどになる。中学、高校から使っている人も多い。彼らは携帯に関してそこそこ熟知していて、着信音を流行のアーティストの曲などに変える者も少なくない。私も高校入学から携帯電話を持つようになった口なので、着信音の変更くらい、やろうと思えばできるのだろう。

しかし、私は携帯を所持し始めて三年間、一度も着信音を変えたことはない。特定のアーティストに熱くなるタイプではないし、私は興味のないことに対してとことん無関心な人間だから。生まれてこの方十八年、自分のそんな性格を放置し続けた結果、私の携帯電話から発せられるのは、無味乾燥な初期設定の音ばかりだ。

一定時間触れなければ自動で暗くなるハイテクなディスプレイを明るくすべく、私は携帯電話――大学入学を期にスマートフォンに機種変更したのだが、三年間携帯携帯と呼び続けていたため癖が抜けない。それに「スマホ」という呼び方はなんだか間が抜けて格好悪いように思える――の側面についている細長いボタンを押した。予想通り、画面上部の細いリボンにはメールの受信を示す小さなアイコンが表示されている。一呼吸おいて受信箱を開いて、私はいささかがっかりした。なあんだ、と思い、その一瞬後に、メールの発信者に少し罪悪感を抱いた。

発信者はサークルの部長だった。内容は次回の会合の集合時間と場所の連絡。それ自体は何の問題もない。私は文芸サークルに所属している。「文芸」というしかつめらしい名前とは裏腹の、不真面目なサークル。週に一回きりの活動日も、部員の出席率はまばらだ。その空気は、寛容ではあるがあまりにあけっぴろげすぎる気がして、私にはあまりなじめない。しかし、それは私にとって別に不都合なことではなかった。文章を書くという行為は、仲間が多ければ多いほど良いというものではない、というのが私の考えだから。

メールの内容は問題ない。発信源にも不満はない。それでも、私はがっかりした。今日も、私が一番ほしい人からのメールはもらえなかった、と。


*・*・*


大学の近くのファストフード店は混雑していた。

店の入り口から一番遠い奥まったスペース――壁際のソファになっている方の席――に座っていた待ち合わせの相手は、私を見つけるとにっこりと笑って手を振った。

由乃(よしの)、いきなり呼び出してごめんねー。忙しかった?」

ところどころ語尾を伸ばした特徴的な口調で彼女は聞く。彼女は薄着が好きで、空気にはまだ冷たさが残る五月半ばだというのに、ひらひらした下着みたいな服を着ていた。

「いいえ、予定なんかないわ。とっても退屈していたところだもの。久しぶりね、瑠璃子(るりこ)

彼女の向かいに座りながら、私はゆっくりと言った。瑠璃子はおひさー、と言って笑う。喉の奥に秘密の工場でも仕込んでいるのではないかと疑ってしまうような、不自然に高くて細い声。瑠璃子という人は、もともとは低く抑制のきいたハスキーボイスの持ち主であったのに、あるときから――誰に聞いたのかは知らないが――「低い声では男の人にもてない」と信じ切っていて、そのうえ「男の人にもてない」ことを心底恐れている人でもあるので、わざわざ声を変えているのだ。私は彼女の声を聞くたびに、その声は変よ、と言ってしまいたくなるが、無論黙っている。お互いもう子どもではないのだから、自分のことくらい自分で決めればいいのだ。

「……だってアメリカよアメリカー。そんなところに留学するって決めてたんなら、わざわざ高校の卒業式に告白なんかするなって感じー」

そう不満を漏らしながら、瑠璃子が眉を曇らせる。高校時代の友人である彼女は、最近恋人――私と瑠璃子の高校時代の同級生。名前は忘れた――と破局した。原因は恋人の米国留学で、電話もメールもするし、長期休暇には帰ってきて二人の時間も作るから待っていてほしい、という彼の願いを彼女は「ソッコーで断った」らしい。

「付き合ってあげればよかったのに。付き合い続けるかどうかは彼が留学してから考えたって遅くなかったんじゃない?」

彼女の元恋人とやらに同情したわけではないが、とりあえずそう言ってみる。

瑠璃子は小さな声で、ありえない、と漏らした。明るい色で細く長く描かれたきつそうな眉がひゅうっとつり上がる。

彼女はその顔のままひたすら言い募る。高くか細い声で。

「由乃、あんた本気ぃ?大好きな人と離ればなれで暮らすなんて、あたしは絶対耐えられない。恋って、好きな相手とずっと一緒にいたいと思うことでしょー?二人で一緒に生きて、ああ幸せだなって実感するために付き合うはずなのに、そうじゃないなんておかしい。マジありえない」

 夢中で話しているうちに気分が高ぶってきたのか、瑠璃子は唇を尖らせた。春らしいいちご色のルージュが彼女の薄い唇の上でてらてらと光る。

「私は、それは違うと思う」

とっさに、反論していた。

「逢えない時間で想いを募らせるっていう恋愛、私は好きよ。艶っぽくて素敵じゃない。それに、一緒にいられるかどうかじゃなくて、その人を好きっていう感情だけで恋愛は成り立つはずだわ。それに条件を付けるのはおかしいと思う」

発言しながら、私は違和感が脳内を満たすのを感じた。そんな風に思えるのなら、私はなぜ彼にあんなふうに律儀にメールをよこすのだろう。それが定期的に彼と繋がっていたいがための行動であるとすれば、つじつまが合わない。

けれど、瑠璃子はその言葉で納得したようだ。

もてる女は違うわねとかなんとか、適当なことを言いながら、

「由乃はいいなぁ。経験豊富な分、なんて言うか、ヨユー?そういうのがあるよねー」

素直で善良な友人の言いように、私は、とんでもない、と思う。

とんでもない、私の欲は深い。


*・*・*


 瑠璃子とファストフード店で会うひと月ほど前のことだった。

「由乃ちゃん」

 休憩時間を講義室でぼんやり過ごしていると、男の人の声で名前を呼ばれた。

真琴(まこと)先輩」

 高岡真琴先輩は、歳も学年も一つ上の先輩だ。学部の新入生歓迎会で声をかけてくれ、この講義をとるつもりだという話題で盛り上がった。

「とられたんですね、心理学」

数日前の記憶を掘り起こしながら、彼に話しかける。

「うん。由乃ちゃんもとったんだね」

 答えながら彼はさっさと私の隣の席に腰かけてしまう。強引に、というより、こうして当たり前、という態度だ。ずいぶんとなれなれしい、と思い不満な顔をしてしまいそうになったとき、気づいた。私が入ってきたときはそれほどではなかったのだが、三百人は収容できるはずの大講義室はすでに八割方埋まっている。今は講義開始五分前なので、講義が始まるころには席はいくらも余っていないだろう。知らない人の隣に座るのも当たり前なのだ。

 大学とはすさまじい場所だ、と思った。褒められたことではないとわかっているが、私は人見知りが激しい。最初からこんな調子では大学生活が心配だ。

「どうしたの?」

「……いえ」

首をかしげている彼に笑いかける。頬が引きつる感覚に、自分が苦い表情になったのがわかった。

彼は少し不思議そうな顔をしたが、すぐにほほ笑む。

「友達が土壇場でみんな違う講義に移っちゃって。由乃ちゃんに会えてよかったよ」

「私も同じです。抽選で外されるくらいなら最初から違う講義をとったほうが予定狂わなくていいからって」

「あはは、そっか」

あ、

「友達甲斐がないよなあ、付き合ってくれてもいいのに」

また、

「……先輩って、よく笑うんですね」

「え?」

彼が驚いた顔をする。分厚いまぶたの奥で、日本人にしては淡い茶色をした彼の瞳が揺れた。

それを見た瞬間、私は彼のまぶたに触れたいという感覚にとらえられた。重たげな一重の、ふっくりと柔らかく温かそうな彼のまぶた。自分でもそのわけのわからない衝動に戸惑ってしまい、ただ彼の目と自分のそれを合わせることしかできなかったけれど。

「そうかな?」

私のそんな衝動は全く知らない様子で、彼は首をかしげる。その拍子に彼の左腕が机にあたって、こつんと薄っぺらな音を立てた。

「そうですよ。今だって笑ってらっしゃるし」

こんな感じ、と私は唇の端に指を当てて口角を持ち上げてみせる。中学時代の英語の先生が提出物を確認したしるしに貼ってくれたニコニコマークのシールみたいに。

「周りにはそう見えてるのかあ。知らなかった」

彼はまたけらけらと笑う。無防備で、あけっぴろげで、気持ちのいい笑顔だと感じた。

「由乃ちゃんは友達が取ってないから登録を変えようとかは思わないの?」

「あぁ、別にそういうことは思わないですねぇ」

「そっか。一人でも平気な人なんだね」

屈託なく言われる。本当に何の遠慮もためらいもない言い方で、私はその声を耳の真ん中で受け止めた。

「あの、それは違うと思います」

「ん?」

彼が意外そうな顔をする。

「なんて言うか、そういうことじゃないんです。一人でも平気とか」

言いながら、私は決して一人が嫌いではない、と自分を顧みる。私は人ごみが苦手で、友人が五人も集まるととたんにその集まりに参加したことを後悔してしまう。そうでなくても一人の時間は意地でも作ろうと思うたちで、徹夜で友人と遊んで――肉体的なことではなく精神的に――疲れない、という感覚は理解できない。しかし、彼にそう思われるのは自分の本意ではなかった。

「……うまく、表現できないですけど」

「……」

彼は不思議そうな顔をする。いい加減なことを言いやがってと憤慨したり、変なことを言うやつだと気味悪がったりしているわけではない。純粋に困惑している、という表情だった。

それからすぐに講義が始まったので、私たちはお互いに黙っていた。

男の人が隣に座るのは、心浮き立つことではなかった。ちっとも楽しいことじゃなく、むしろ窮屈なことだった。ずっと昔の初デートみたいだ。早く講義が終わってこの圧迫感から解放されたいような気がしたし、それでいて私は彼とこのまま別れたくないと思ってもいた。彼とはこの講義を受け持っている教授の、マイクを持つときに小指を立てる癖について笑いあえるような関係でいたかったのだ。

一人でも平気な人なんだね。

ひとりでもへいきな。

ひとりでも。

ひとり。

彼の何気ない一言を頭の中で反芻するたび、私は悲しくなった。どんどんどんどん悲しくなる。際限なく。わけもわからず。

私と彼の周りにだけ、違う気流が流れているようだった。私たちは広い講義室の中ほどにいて、たくさんの人に囲まれているのに、右隣にいる彼の存在ばかりがくっきりと際立って、ほかのことは何も考えられなくなる。

講義はそんな私をおいてするすると進んだ。時々周りがざわつく。教授の話が面白いから。ここは私の大嫌いな人ごみだ、と思った。自分が炊飯器の中の米の一粒になったみたいな気分。小学校で飼っていたうさぎの一羽一羽の見分けがつかなかったのによく似ていた。

じゃあ今日はこの辺で、と教授が言う。時計を見ると、終礼が鳴る三分くらい前だった。

「ごめんね」

先に口を開いたのは彼の方だった。

「へっ?」

私は今まさに彼に話しかけるタイミングを計っていたところだったので、驚いて頓狂な声を上げてしまう。

「ひとりで大丈夫な人なんていないよね。いい加減なこと言ってごめん」

彼は一息に言ってそのまま黙ってしまう。少しぶっきらぼうな口調だった。太くて硬そうな黒色の髪が少し顔にかかって、それがやけに子どもじみて見えた。

信じられない、と思う。この人は、私のせいで、ではなく、私のために考えていたのだ。広い講義室の中ほど、私の右隣で、私と同じようにたくさんの人に囲まれながら。

彼が淡く微笑む。ゆったりと落とすような優しい笑み。

「ひとり者同士、よろしくね」

はい、と自然と答えていた。


*・*・*


大学生というものは、基本的に暇を持て余しているものだと見なしていたのだが、たまには追いつめられることもあるらしい。私たちの大学でもたまに自殺者が出るそうだ。下宿先のアパートで首を吊ったり、お風呂場で手首を切ったり、薬をたくさん飲んだりするらしい。

「信じられない」

 私は思わずそう口にしていた。瑠璃子は大きくうなずきながら、

「だよねー。でも本当にあるらしいよ。あたしが野球サークルのマネージャーやってるって話はしたでしょー?サークルの先輩の部屋、大学からすっごく近くて築年数もそんなに経ってないのに、すっごく家賃安いの。同じアパートでもほかの部屋はもっと高いのに」

 大学内のカフェテリア――ほかの生協や学食とは違い洒落た雰囲気の店で、特に女学生から人気があるらしい――でそう語る彼女の声はいきいきと楽しそうだ。彼女の場合、死というものに対して何らかの覚悟を決めているわけではなく、ただ単にそれを自分とは関連性のないことのように位置づけているのだろう。ガラス張りの店内から見える、自分とは無関係の人たちみたいに。

「事故物件ってこと?」

「うん。怖いよねー」

 彼女はからりと言い、カツの挟まったサンドイッチを大きく一口噛みとる。その様子はいかにも健康そうで、生気に満ち溢れている感じがした。

「部屋の中に入ったの?」

「うん。でも全然フツーっぽかったよー。謎のシミがあるとか、入ると寒気がするとか、そういうことは全然なかった」

「ふうん……」

「がっかりだよねー」

瑠璃子は邪気なく言ってのけた。彼女の話は、無理やりに声を抑えているせいか、どんな話題でも同じトーンに聞こえる。子どもが言うみたいな口ぶりだ。私もつい、そうね、と同意しそうになったが、それはいくらなんでも不謹慎すぎる気がして、苦笑いにとどめた。私の言葉は、彼女のそれほど悪意なく響いてはくれない。

「大学でもねー、飛び降り自殺があったんだって。去年の十一月。ほら、あたしたちがよく行くソーカ棟」

「あぁ……」

ソーカ――総科とは総合科学部の略称だ。全学部の一年生はここで教養教育を受ける。

「あたしたちは普段三階までしか行かないけど、それより上って教授たちの研究室になってるでしょ?その最上階から、ね」

「そう……」

 頭の中で、まだ見たことのない秋のキャンパスを思い浮かべる。

「その日の朝はキレーな秋晴れだったって。一コマと二コマの間の休み時間、雲一つない空だったのに、ソーカ棟の上から突然雪みたいな白いものが降ってきたんだって」

「雪……?」

 異様な光景だ。想像の中の十一月は、色づいた葉がまだ落ちきってもいないのに、その上に雪が降っている。

「実際は細かくちぎった紙の破片だったんだけど、その場にいた人はなんだろうって足を止めるでしょ?上を見上げたら、人が落ちてきたんだって」

 頭の中でその日を想像してみる。空中に放り出され、落下する体。下でそれを見ている人。足元に散らばる白い紙片。私たちは高校生で、地元で受験勉強をしていたはずだ。その同じ時間、同じ世界で起こっていたこと。

「その教授、研究がうまくいかなかったらしいよー。予測していた結果が出なかったんだって。学会での発表が近くて、すごく焦ってたみたい。最期に自分が書いた論文をびりびり破いて、研究室の窓から撒いたんだって」

「……そう」

 話はここで終わりらしく、すっかり冷めてしまったコーヒーをごくごくと飲み干して、瑠璃子は満足そうなため息をひとつついた。短く切った爪に塗られたピンクのマニキュアが目につく。窓の外に目を遣ると、カフェテリアの前の通りには人気がなくなっていた。私たちが話しこんでいる間に昼休みが終わったらしい。私たちはお互いが空きコマであることを知っているので、ゆっくりと時間をかけて昼食をとる。

 会話の間ほとんど手つかずだった卵ときゅうりのサンドイッチをかじりながら、私は先ほどの想像について考える。

 私はそれを「落ちる教授を目撃してしまった人」の視点から形にした。瑠璃子がその立場で語ったから。しかし、一度聞いてしまえば、今度は視点を逆にしても想像できるはずだ。目撃者から当事者へ。今まではそうだった。

 あんな高いところから飛び降りるくらいだから、よっぽど絶望していたのだろう、と考えてみる。けれど、うまく想像できなかった。死を選ぶほどの絶望とは、いったいどんな形をしているのだろう。

 落ちていくとき、彼はいったい何を思ったのだろう。何を見たのだろう。

 それを、文章で書くことはできないだろうか。


*・*・*


おかしいな、と思う。

こんなはずじゃなかったのに。

最初はおそろしく順調に行っていたはずだった。私と真琴先輩は日に何度もメールのやり取りをしたし、五月に一緒に出掛けもした。先輩と大学の外で会う、というのは新鮮で楽しかったし、その日食べたオムライスも悪くなかった。男の人にお金を出してもらった初めてのごはん。よく晴れた気持ちのいい日で、彼は半そでのTシャツの上に長袖の薄い上着を羽織って、その袖口を折り返していた。高校球児だったという彼の、血管が浮き上がった腕。美しいかたちをしていた。

帰りのバスの中で、次は映画でも見に行こう、という話になり、バイトをしている彼の都合がよくなったら連絡してくれることになった。彼が予定を知らせてくる素振りは一向になかったが、私も彼に予定をしつこく聞くことはしなかった。重い女だと思われたくなかったのだ。ときどき確認――というより、返事を聞くことで自分を諦めさせる目的で――のように「忙しいんですね」と言ってみたことはあったけれど。そんな風に数カ月が過ぎた。勢いのよかった最初とは対照的に、だらだらとだらしなく。夏の午後の日差しみたいに。

じきに本当の夏が来て、気がつけば私は行き止まりにいた。これ以上先に進むことはできないし、かといって引き返すこともできない。期待と諦念。彼に主導権を握られた宙ぶらりんの約束が、私の行動を抑制していた。

「あなたといると、ときどきとても淋しくなるんです」

今期最後の講義が終わった後、私は彼にそう告白した。

彼は一瞬黙り込んでから、

「どうすればいいのかな」

途方に暮れたような声だった。個性のないがらんとした声。それでいて耳にこびりついて離れなくなる声。

その時、私は気づいてしまった。

絶望とは、もしかしたら真琴先輩みたいなかたちをしているのではないか。優しいのに、どこか無気力で、私の身に何が起こったか、ということに関しては誰よりも知っているのに、私を助けてはくれない。

すべてのものは絶望になりうる。人も、物も、実験も。

その考えはほとんど自分を絶望させる。たとえそれが真実でも、彼にだけは絶望になってほしくなかった。

「わかりません」

私が言うと、彼はやれやれというふうに黙る。心の中で彼がため息をついたのがわかった。

「ごめんなさい。変なことを言ってしまって」

「いや……」

口ごもる彼の姿はまさに絶望だった。他のものには見えなかった。

私は、どうしよう、と思う。大変なことになってしまった、とも。

私は彼を、失ってしまう。


*・*・*


教育学部棟の四階、一番奥の教室が第一美術室兼美術サークルの部室だった。絵を描く部屋だからか、私と真琴先輩が一緒に心理学を受講している大講義室とは違い、ひとつひとつの机が分離されている。椅子も、背もたれと繋がった一枚の板を上げたり下ろしたりして使うタイプのものではなく、最初からきちんと椅子の形をしていた。中学校や高校の教室と同じような部屋だ。

「来たんだね、由乃さん」

昼休みの美術室など尋ねる人もなさそうなものだが、村尾光(ひかり)先輩――いつか一度だけすれ違った、真琴先輩の幼馴染――は頻繁に来るらしい。真琴先輩が教えてくれた。彼の話では、村尾先輩は教育学部の美術教員養成コースでは結構な有名人――幼いころから大きな絵画コンクールで賞をいくつもとっていて、美術雑誌の取材もたくさん受けている――らしいので、昼食を共にする友達がいないわけでもなさそうなのに。

彼は闖入者である私の顔を見て、面白そうに笑った。細い銀色のフレームの、インテリっぽい眼鏡の奥の瞳が線みたいに細くなる。どこか陰がある笑い方だった。

「すっかり夏ですね。空の色が明るくて」

 私は窓の外を眺めながらぽつりと言う。ここから見ると、四階というのは存外高いものではないように思えた。

「そうだね。由乃さんは女の子だから、もう日傘とか差してるのかな」

「はい」

一言二言しか言葉を交わしたとこのない二人なのに、まるで数年来の友人のような振る舞いだ。お互いをつなぐ役割の真琴先輩はここにいない。だから私たちが一緒にいる理由はない。双方がそれを不自然なことだと承知済みで、それなのに一緒の空間にいて世間話をしている。そうしたいと思っている。

非日常。その言葉がぴったりだった。

「水そうがあるんですね。きれいな魚」

美術室の入り口から奥へ石膏像が整列している終点に、金魚鉢が置いてある。覗き込むと、やけにまるまるとした金魚と目が合った。背から腹にかけて鮮やかな赤と白のグラデーションが描かれているところはまさに金魚なのだが、体の形が丸すぎる。正方形に近い形。夏祭りの屋台で見る金魚とは少し種類が違うようだ。

「それ、ピンポンパールって品種だよ。絵を描く参考にって部員が持ってきたんだ」

村尾先輩が説明する。金魚鉢は、ひらひらした縁が青のグラデーションになったやつだった。底には水色と半透明の小さめのビー玉が敷き詰められ、水草もセットされている。小さいが立派な世界だ。

「この子、退屈しているみたい」

まんまるな体で、もったりとひれを動かす金魚は、私にはそう見えた。

「絶望しているだけだよ」

私のすぐ後ろの席に腰かけた彼はあっさりと言う。その言葉に迷いはない。まるで自分には金魚の気持ちがわかるのだと言うように、断定的な口調だった。

「余計深刻に聞こえますけど」

「そうかな。絶望はいつも身近にあるものだよ。俺は、仲良くやってる」

「仲良く……?」

そんなことができるのだろうか。

「別に難しいことじゃない。それに、いいものをかきたいなら、溺れてみるのも悪くないよ」

村尾先輩はゆったりと笑った。ずいぶん大人っぽく笑う人だ。

私の祖父は近所では評判の穏やかで優しい老人だったが、実は新興宗教にはまっており、子どもだった私に会うたびに水をかけていた。たっぷりの水で罪を洗い清めれば地獄に堕ちない、というのが祖父の主張だった。彼の水かけは、ホースでちょろちょろ、というような生易しいものではなく、風呂場の水を大きなバケツに汲んで顔にたたきつける、というものだった。音に喩えるなら、ばしゃあっ、とか、ずばんっ、といった感じで。絶え間なく何度も。浴槽の水が少なくなってバケツに汲みづらくなると祖父は蛇口をひねり、そこからごうごうと流れる水を直接バケツで受け止めた。水がたまるまでの数秒間だけ私は自由に息ができるのだが、そういうとき、祖父は本当に忌々しそうな顔をした。その顔のまま低くしわがれた声で、まだ足りない、とつぶやくこともあった。まるで私の中の悪性が見えているみたいに。私自身が悪性そのものみたいに。

その祖父は、六年前がんで他界した。私が中学校に入学したばかりの時だ。彼は死ぬ三年ほど前から入退院を繰り返していたが、最後の半年は特に痛みがひどく、モルヒネを打っていたそうだ。モルヒネで痛みが和らいだとき、彼は本当に幸せそうに笑った。清潔なにおいのする白い布団に埋もれるように横たわっている彼の、深くしわの刻まれた顔。それは私にひとしきり水をかけた後、満足そうにほほ笑んでびしょびしょに濡れた私の髪を撫でてくれた彼の笑顔と同じだった。村尾先輩の表情はそれを彷彿とさせる。

――よかったねぇ由乃ちゃん。悪いものは全部流れたよ。これできっと天国に行けるねぇ。本当におめでとうねぇ。

――いいものをかきたいなら、絶望に溺れてみるのも悪くない。

 村尾先輩と祖父は似ている。痛みを受けた先にいいことがある、と言うところなんて全く同じだ。

「いいもの……?」

「君は文芸サークルに入っているのに、全く小説を書かない。読み専ではないような口ぶりなのに、なぜ書かないのかと噂になっていると君の先輩から聞いたよ」

「書いています。サークルには出していないだけです」

大学に入学してから書いた小説はどれもこれもよそから借りてきた表現だらけのような気がして、書いた端から削除してしまった。初めてのことなのでよくわからないのだが、これがスランプというやつなのかもしれない。

「いくら書いても納得のいくものが書けないんだね」

彼はすべてお見通しだ、とでも言いたげに尋ねる。

「そうです」

背後で彼が満足そうにうなずいたのがわかった。それからすぐに、脚にゴムがはまった椅子がリノリウムの床と擦れあう音が聞こえた。彼が席を立ったのだ。すらりと背が高く灰色のかっちりしたシャツを着た彼が私の横に立つと、私は自分が電柱の隣に立っているような気分になった。彼が金魚鉢を指でなぞる。先ほどまで絶望がどうのこうのと言っていた人とは思えない、やけに優しげな動きだ。金魚は餌をもらえると判断したのか、彼の指に寄って来て金魚鉢の内側で口をぱくぱくさせている。

彼はそんな金魚を興味なさそうに見下ろしながら、

「なら、話は簡単だ。うんと絶望するといい。遠いところまで行けるよ」


*・*・* 


 高校時代、生物は決して得意ではなかった、と私は思い返す。ほこりっぽくかび臭いにおいのする生物室が苦手だったし、限界原形質分離だの局所生体染色法だの、長ったらしい用語が多くて嫌になる。

 そんな生物の授業で、しかし忘れられないことが一つだけあった。それがラットを使った絶望に関する研究の話だ。

 まず、二匹のラットに電気ショックを加える。一方のラットには逃げ道を与えるが、もう一方のラットには与えない。そしてそれぞれのラットを水そうに入れる。生まれながらにして泳ぎ方を知っているラットだが、絶望を知った後者は溺れ死ぬ、という話だった。

 私はその話を面白いと思った。豚の目の解剖などやらずに、こっちの実験をさせてくれればいいのにと思った。

 寒い日だった。スライドを使った授業をすることが多い生物室の窓には真っ黒なカーテン――裏地は緑色をしていた――がかかっていて、教室の中心にはガスストーブが燃えていた。出席番号の関係で私はいつも教室の後ろの窓際の席に座っていた。私は授業中に居眠りするような生徒ではなかったが、さして勉強熱心というわけでもなかったので、教師から注目されないのをいいことにいつも窓の外を見ていた。流しのついた四人座れる長机に頬杖をついて。

 金魚鉢と村尾先輩の指先を眺めながら、私はそんなことを思い出していた。金魚鉢の中の水草の緑色が、夏の日差しを背にして眩しいほど鮮やかだ。そして水そうの世界の主人である金魚が、つまらなそうに私たちを見ていた。永遠に閉じられることのない、ガラス玉みたいな瞳。真琴先輩の分厚いまぶた。村尾先輩の表情は夏の日差しに隠れていてよく読み取れなかった。

 すぐに目の前の映像が生物室に切りかわり、想像の中の自分と目が合う。長く黒々とした髪を頭の高い位置で一つくくりにした彼女は、不機嫌そうな顔をしていた。実際、あの頃の私はいつも退屈していたし、無意味に絶望してもいた。

現在と過去が交差して、頭の中がくわんくわんする。

私は今でもまだ、あの場所にいるのかもしれない。


*・*・*


絶望する方法は、別になんでもよかった。

ただ、手近にあったのがそれだっただけで。

電柱のように突っ立っている彼に、私は自分から口づけをした。金魚鉢に触れていた彼の手に自分の手を重ねて。おもいきり体をひねり、もう片方の腕を彼の首に巻きつけるようにして。

彼は驚かなかったし、私もまったくためらわなかった。とるにたらないこと、という気がした。

彼が眼鏡を外す。私がちょっと驚いた顔をすると、

「伊達なんだ」

と、静かに呟いた。彼は春の来ない森の泉みたいな瞳をしていた。

村尾先輩は手際が良かった。ほかの誰かと比べたわけではないが、少なくとも彼は途中で口ごもったり、手を止めたりというようなみっともないことはしなかった。するするとよどみなく。川が流れていくみたいに。そこには苦痛もなければ感動もなく、ただ空っぽの躰があるだけだった。自分の重さ――四十五、六キロある――がすべてだ。容赦ない夏の熱気に晒される三十五℃の体温こそ現実だ。

「ここ、シャワーがなくてごめんね」

村尾先輩はそう詫びた。おかしなことだと思う。大学の美術室にシャワーがないのは彼のせいではないし、だいいち誘ったのは私なのに。

「私、帰りますね」

私はさっさと服を着た。さらっとしたベージュのワンピースのファスナーに手をかけたとき、こういう時男女はゆっくりと余韻に浸るものだ、と思い出したが、もう一度服を脱ぐのは億劫だった。

私の一連の動作を黙って見ていた彼は、私が鞄をつかんで部屋を後にしようとしたときに一言だけ声をかけてきた。

「いいものは書けそう?」

 怠そうな声だった。彼はまだ何も身につけていなかった。

「書けなくても、いろいろ勉強にはなりましたから」

そう言うと、彼はおかしそうに笑った。


*・*・*


一日一日がしっかりと熱を増し、夏休みが間近に迫っていた。もちろん、真琴先輩からの連絡はない。そのことに私は慣れつつあった。私にできることは毎週のメールだけだ、と開き直ってもいた。村尾先輩ともあの日以来会っていなかった。

私は絶望には慣れっこになってしまったと思っていた。のど元を過ぎて熱さを忘れたのだと。とんでもない勘違いだった。

そのことを思い知らされたのは、高校時代の友人と歓談しているときだった。

「あのね、由乃。話したいことがあるの」

「なに?」

彼氏ができたの。

そう聞こえた。

「……そう」

 小さな声で、ようやくそう口にしたけれど、それはほとんど機械的な反応で、私はなんだか自分がひどくまぬけな人間になってしまったように感じた。

「由乃に一番に聞いてほしくって。おどろいた?」

「……ええ、でも大丈夫よ。おめでとう」

頭の動きが鈍く、選ぶ単語があまりに平易で、口もぼんやりとしか動かない。

ここがいつぞやのファストフード店であることや、目の前の人物が瑠璃子であることや、今が夏で瑠璃子の薄着もだいぶ周囲になじんできたことやなんかをひとつひとつぐちゃぐちゃに思い出した。食べかけのポテトが赤いカップからあふれ、トレイの上に散らばって、広告の印刷された薄紙に油染みを作っている。染みのある部分の紙が透けて、下からトレイの濃い緑が覗いていた。

瑠璃子は恋人の人となりを、私が聞きもしないのに楽しそうに話している。彼女の話を整理すると、彼――瑠璃子は恋人の名前を明かさず、代わりに恋人を「カレ」と表現した――は彼女がマネージャーをしている野球サークルの二年生で、経済学部にいるそうだ。逞しい体と少年のような心の持ち主――年上の男が子どもみたいだなんて冗談じゃない、と私はげんなりしたのだが――で、ちょっと強引なところがあるのだが、そこがまた「萌え」なのだと言う。瑠璃子が告白されたのはおとといの夜で、昨日は「あまりのことでぼーっとしちゃって」何もできず、今朝になって、「前のカレと別れた時に由乃には愚痴を聞いてもらったから」私には話そうと決めたらしい。

ものの一分間の要約にまとめられてしまうような話を、たっぷり二時間もかけて瑠璃子は話す。彼がどんなに自分を愛してくれていて、自分がどんなに彼を愛しているのか。どんな時に彼の愛を実感するのか。次のデートの約束などなど。そんなことを周囲の人間に明かしてどうなるのだろうと思うのだが、まあ、年頃の女性が恋人の話をするときというのは一般的にこういうものなのだろう。

私はええ、そう、などと差し障りのない相槌を打ち、時々目を見開いたり首を傾げたりといったジェスチュアもまじえながら、頭の中では全く別のことを考えていた。

真琴先輩をあきらめよう。これ以上続けたってきっと無駄だ。

目の前にいる、ばら色のほほをした近くて遠い友人の姿を眺める。彼女が注文したアップルパイは開封すらされていない。すでに冷めてしまっていることだろう。

――この間まで、「男なんて信じらんない」と言っていたのに。

その笑顔は矛盾に満ちていて不可解で、見惚れるくらい美しかった。


*・*・*


彼と出会って、五ヶ月が過ぎようとしていた。それはそのまま私の恋の期間だった。

進展がないのは分かっていた。自分が一人ですべて動かさなければならない恋だということも、それでいて、そこまで必死になって手に入れたいほどの魅力を、私が真琴先輩に対して全く感じていないことも。

それでも、私は彼から離れようとはしなかった。離れられなかった。それはとてもかなしいことだった。誰かを嫌いになることよりも、嫌いになれないことのほうがもっとずっとつらい。

近頃私の携帯電話にはこまめに迷惑メールが入る。文芸サークルのメーリングリストに登録するため、パソコンからのメールも受信するようになったからだ。多いときは一コマの講義の間に四、五通入っている。私はそれらを大事な要件のメールが流れてしまわないうちに削除しておかなければならなかった。

迷惑メールを削除し続けると、最後には彼からのメールにたどり着く。

もちろん、私は彼からのメールをわざわざ削除したりしない。けれど、積極的に読み返すこともなかった。自身が過去を後生大事にとっておくような女ではないことを、誰よりも私がわかっていた。

真琴先輩からのメールは百通近くあった。私が彼に送ったメールは、それよりもほんの少し多いはずだ。彼はそれを読み返したことがあるだろうか。

ほんの短い間だったが、私は彼との恋愛にそれは夢中だった、とひとりごちてみる。

恋をしている、という、どこまでも幸せな幻想。奇跡のような時間の堆積。

たとえば、少し朝寝坊をしてしまったとする。最初の講義に急げば間に合わないこともないが、朝ご飯を食べる時間も、ぼさぼさの髪にアイロンをかける時間もない。私の耳に、さぼってしまおうか、と悪魔がささやく。けれど、それを彼が邪魔するのだ。同じ大学に通っているんだから、普通に生活していれば会えるよ、と言った、どこまでも善良なあの顔。よく言えば嫌味がなく、悪く言えば特徴のない普通の声。大学でなんて会えたためしがないのに、私は何度だって彼を信じてしまう。次の瞬間には寝癖のついた髪のまませわしなく歯ブラシを動かしているのだから、重症だ。

私の欲望が、たぶん深すぎたのだろう。恋をする自分を過大評価しすぎていた。彼という人を過信しすぎていた。

瓦解がいつから始まったのかはわからない。彼がいつから私の絶望だったのかもわからない。けれど私はずっと昔から、恋や想い人というものが、いつだって肯定的に受け入れなければ保てないものだと知っていた。疑い始めた途端、彼とのすべてが流され過去になってしまうと理解していた。だから信じていた。彼を。彼に恋をしていた私を。とても苦しかった。

そういう時間をこえて、私はここにいた。新しい恋を始めるには、あと百年くらいかかりそうだ、と思う。いったん覚悟を決めてしまえば心は穏やかに澄み渡り、不思議と焦りはなかった。

ディスプレイに焦点を合わせる。

――最後くらい、読み返したほうがいいのだろうか。

こんな時でさえ彼を振り返ろうとしない私は、本気で誰かを愛することのできない欠落者だろうか。

知りたいことはたくさんあった。彼に尋ねたいことは、星の数より多い。

ぴろりろりろりん♪

ぼんやりとディスプレイを眺めていると、またあの着信音が聞こえた。アドレスとタイトルを見ただけで開封する気が失せる。これまでも何度か私にメールをよこした出会い系サイトからだった。

もう、メールの相手がだれであろうと私はがっかりしなかった。ほかの指に比べてほんの少し先のとがった右手の人差し指で、迷わず削除ボタンを押す。たいしたことではない。ものの数秒の作業だ。画面はまた、彼からのメールを受信箱の一番上に表示する。迷惑メールは二十分おきくらいに律儀にやってきた。まるで生理みたいに。私の彼へのメールのように。


*・*・*


受信と削除を三回ほど繰り返した時、ふっと目の前が明るくなった。

私はまた、自分が独りになる時が来たことを知った。


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