ごめんね
ここよりずっと遠いところの宇宙に、「さよなら」を集める男がいました。
男は大きなガラス瓶を持って星から星を旅していました。
ある星では、夕日が沈む前に空に言った「さよなら」を瓶に詰めました。また、ある星では花が枯れる前に地面に言った「さよなら」を捕まえました。
男はまた新しい星に着きました。全てが銀色の小さな星です。
そこには小さな女の子がたった一人で座っていました。女の子は銀色の繊細な時計をずっと巻き戻していました。
「私は昨日に追いつきたいの」
短針を回しても長針を回しても景色は変わりません。
「置いてきたものを取りに行かなきゃいけないのに……」
女の子は悲しそうに言いました。
その様子を見ていると男も悲しくなって、ガラス瓶を少しだけ開けました。
すると春になる前の少しだけ冷たい風が吹きました。
「これは何?」と女の子は目を丸くしました。
「君が追い越そうとしている昨日だよ」
「ただの風じゃない……」女の子は口を尖らせていました。
「何を忘れたの?」
「昨日ひどいこと言っちゃったの。その言葉は今もあの子と一緒にいるから。」
「……取り戻したいのは、その言葉かい」
男は静かに問いかけました。
女の子は迷いながら頷きました。
「でも、時間は戻ってくれなかった」
その声はまだ諦めようとしているのに、どこか諦めきれていませんでした。
それを聞いて男はまた少し瓶を開けました。
「『さよなら』は別れるためだけの言葉じゃないんだ」
今度は二人をあたたかい風がふわりと包みました。
「今度は何?」
「『ごめん』や『またね』になりたかった『さよなら』だよ」
女の子は目を大きく見開きました。
「どうやったら『ごめんね』になるの?」
「言葉は形を変えられるんだ。昨日の言葉を無くせなくても、昨日に届くことはある」
男はそう言って瓶の中から小さな光の粒を取り出しました。
「君がそれを望むなら」
女の子は光に向かって呟きました。
「ごめんなさい」
そうすると光は崩れてどこかに飛んで行きました。
銀色の空が少しだけ輝きます。
「あの子のところに届いたかな?」
男はうなずきました。
「昨日は消えないからね」
すると、時計がかちりと音を立てて少し進みました。初めて、時計は前に進んだのです。
「時計が動いたわ」
「君が昨日を追いかけるのをやめたからだよ」
男はガラス瓶の蓋を閉めながら言いました。
「本当に大切なものは追いかけちゃいけないよ。手放しても残るものを覚えておけばいい。」
女の子はその言葉を噛み締めました。そして首を傾げたけれど、口を閉じて頷きました。
「ありがとう」
少しはにかみながら女の子は言いました。
「この言葉は変わらないわ」
鉛色の星にも、少しだけ色が戻った気がします。
男はまた別の星に行くために旅立ちました。
ガラス瓶の中にまた、新しい光が揺れています。




