沈黙聖女と過保護王子
-女神リュカに仕えし聖なる者、その身に呪いを宿し魔を祓う-
帝国カリュシオン。女神リュカを信仰し、その御使いである聖女を生み出す。
聖女は生まれた時から呪いにかかっており、解呪されることはない。けれど、その呪いに魔を封じることで邪気を祓える。
魔を呪いに封じることにより、宿主である聖女が蝕まれることはない...ある一点を除いて。
今代の聖女は、リドル伯爵の長女メディナ。
柔らかな金の髪に、聖女にしか現れない薄紅の瞳。呪いに蝕まれないために、物心ついた頃から魔を払う訓練を重ねてきた。
そんなメディナの婚約者は、この国の第一王子ラティス。メディナが生まれ、聖女だと分かってすぐに婚約が結ばれた。
あまりに幼い婚約に、周りの大人はどうなることかと心配していたが、3歳の時にそれは杞憂だと安心した。
お茶会のおやつとして出たケーキを、ふとラティスがメディナの口に差し出した時、なんの疑いもなくパクリと頬張ったメディナの幸せそうな顔に衝撃が走り、そこからせっせと世話を焼くラティスの姿があった。
それは16になった今も変わらず、むしろご飯以外も世話を焼きたがるようにまでなった。
「ほら、メディナ。口を開けて」
「ありがてぇ」
「もー、ほら。また口にクリームが付いてる」
「なんだって?いやぁ、いつもいつもすまねぇ」
「可愛い僕のメディナ。そんなことは気にせずにたんとお食べ」
今日も王宮の庭で、ラティスとメディナの2人は交流を深めるお茶会を開いていた。
愛しそうに目を細め、せっせとメディナの口へケーキを運ぶラティス。嬉しそうに甘受するメディナの姿を、微笑ましく見ているメイドと護衛。ただ、その中で配属されたばかりのメイドがメディナの姿をギョッとした目で見つめていた。すぐに年配のメイドが肘でつつき、注意を促す。
「あの、メディナ様って...」
「あれが呪いよ。なぜか、代々の聖女様は皆、ああやって口調がおかしくなるの。だから、王族の方々やご家族様以外の前では沈黙されているの」
「あぁ!だから、沈黙の聖女なんですね!」
「呪いの内容は、王族か王族に仕える一部の者だけだから、「あの、メディナ様って...」
「あれが呪いよ。なぜか、代々の聖女様は皆、ああやって口調がおかしくなるの。だから、王族の方々やご家族様以外の前では沈黙されているの」
「あぁ!だから、沈黙の聖女なんですね!」
「呪いの詳しい内容を知っているのは、王族か王族に仕える一部の者だけだから、情報の扱いには気を付けなさい。うっかり誰かに話せば...分かるわね?」
表面を取り繕いながら、メイド同士コソコソと交わされる会話にチラリと一瞥をくれると、すぐに愛するメディナへと視線を戻す。もしメディナの害になるようであれば、すぐさま処分出来るように、頭の中で早々にスケジュールを組み立てる。時折、人前で話せないメディナを馬鹿にする者が出てくる。その度に、ラティスはメディナに分からないようこっそり処分してきた。
魔を払わねば国は生きていけないのに、どうしてメディナを馬鹿に出来るのかラティスには全く理解できない。
「そういや、こないだ来た商人は来なくなっちまったのかい?」
「あぁ、イズール商会かい?彼らなら、隣国に渡る途中邪気に取り込まれてしまったようだよ」
「そうか...。アタイがもう少し頑張りゃよかったね。面目ねぇな...」
「メディナはもう十分頑張ってるんだから、これ以上頑張って体を壊したら、それこそ皆が困ってしまうよ」
「そうだな...。ありがとよ」
(メディナが聖女だからって、進んで壊したがるような奴はいらないよね。王族の婚約者に手を出せば、この国で生かしておくはずもないのに)
周りの空気が一気に冷え切り、メイドや護衛が緊張する中、メディナだけはモソモソと美味しそうにケーキを食べている。
そんな姿にラティスの空気も一気に和らぎ、またメディナの世話へと戻っていく。
新人メイド含め、その場の人間はメディナの重要性を改めて認識し、その後のメディナの外出には専属チームまで組まれたという。
(それにしても、僕が一番の邪気だなんて...。護衛や騎士団たちも面白いこと言うよね)
楽しそうに笑うラティスと同時期、騎士団含め護衛たちは謎の寒気に襲われていたとかいないとか。
(その後の王宮にて)
国王「例の商会の件だが……」
ラティス「はい。メディナに過度な負担を強いる可能性がありましたので」
国王「……そうか。ならば仕方あるまい」
ラティス「ご理解いただきありがとうございます、父上」
国王「お前は本当に、あの子のこととなると容赦がないな」
ラティス「当然でしょう? 僕の大切な婚約者なのですから」
☆☆☆
メディナは、小さい頃には自分の口調が周りと違うことに気づきませんでしたが、少しずつ大きくなるにつれ口を閉ざすようになりました。
そんなメディナをラティスは溺愛しています。
ここまでお読み頂き、ありがとうございました。




