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戦うのは怖いので、黒猫《クロ》と一緒に薬師ヒーラーとしてスローライフを謳歌しますっ!  作者: 烏羽 楓


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番外編②「勇者の遠征記録より」

 薄暗い石の回廊に、乾いた足音が反響する。


 ここは北米大陸に存在する超大型迷宮――通称《大迷宮》。

 現在到達階層、九十六層。


 世界中の冒険者が挑み、そして退いた領域だ。


「前方、反応三。大型」


 後方から賢者が低く告げる。


 直後、重戦士が盾を構え、剣聖が一歩前へ出た。


 そして現れたのは――。


 巨大な岩殻を纏った魔物。

 魔力を帯びた外皮は刃を弾き、通常攻撃を無効化する厄介な個体。


「……面倒な相手だな」


 剣聖が小さく舌打ちする。


 重戦士が受け止め、賢者が弱体魔法を展開。

 聖女が後方から回復陣を敷く。


 いつもの連携。

 だが――。


 長期戦は避けられない。


 俺は腰のポーチに手を伸ばした。


「ポーションを回す。各自一本」


 取り出したのは、透明な瓶。

 中で淡く光る液体。


 ラベルには、黒猫の意匠。


「例の薬か」


 賢者が興味深そうに目を細める。


「ああ。ギルド経由で回ってきたやつだ」


 通称――猫ポ。


 世界中の迷宮踏破者の間で、最近急速に評価を上げている回復薬だ。


 剣聖が一口で飲み干し、わずかに目を見開く。


「……なんだこれ」


「どうした」


「回復が速い。それに、副作用が出ない」


 重戦士も続けて飲む。


「体力の戻り方が自然だ。無理やり持ち上げる感じがない」


 聖女が静かに頷いた。


「魔力干渉が極めて少ないですね。回復魔法と干渉しません」


 賢者は瓶を透かし見ながら呟く。


「理論構造が特殊だ。既存の回復薬とは別系統……興味深い」


 戦闘は続く。


 だが、明らかに押し返せている。


 剣聖の踏み込みが鈍らない。

 重戦士の盾が下がらない。

 聖女の回復効率も落ちない。


 そして――。


「決めるぞ」


 俺は剣を構えた。


 連携が重なり、魔物は崩れ落ちる。


 轟音とともに、迷宮の空気が静まった。


 討伐成功。


 剣聖が息を吐く。


「助かったな、あの薬」


「ああ」


 俺も素直に頷いた。


 戦闘後の疲労が、驚くほど軽い。


 ただ回復するだけじゃない。

 “戦い続けられる身体”を保ってくれる。


 これは――戦術を変える。


 賢者が言う。


「この薬が安定供給されるなら、踏破速度は大きく変わるでしょう」


「聖女様の負担も減るね」


 重戦士の言葉に、聖女が苦笑する。


「それでも回復は私の役目ですから」


 俺は、空になった瓶を指で弾いた。


 カラン、と乾いた音。


「作り手の名前、知ってるか?」


「確か……」


 賢者が記憶を探る。


「東方圏の薬師だったはずです。若い女性だとか」


「女性?」


「ええ。しかも、固有スキル持ち」


 剣聖が口笛を吹く。


「それはまた、とんでもないな」


 重戦士が笑う。


「俺たちと同類か」


 同類。


 その言葉に、少しだけ考える。


 勇者、剣聖、賢者、聖女、重戦士。


 世界を救うために力を与えられた俺たち。


 だが――。


 薬で命を繋ぎ、誰かを救う者もいる。


 戦場の最前線ではなくとも。

 確かに、世界を支えている。


 俺は瓶を見つめた。


 黒猫のラベル。


 どこか、優しい目をしている気がした。


「……面白いな」


「何がです?」


 賢者が首を傾げる。


「俺たちは世界を救うために戦ってる」


「ええ」


「でも、この薬師は違う」


 瓶を軽く回す。


「目の前の誰かを救うために薬を作ってる」


 剣聖が笑った。


「そっちの方が人間らしいな」


「だな」


 俺も笑う。


 遠く離れた異国の地。

 会ったこともない薬師。


 それでも。


 この薬が、俺たちの背中を支えている。


 戦場の空気の中で、確かに感じる。


 作り手の意思。


 誰かを生かしたいという、真っ直ぐな願い。


 俺は空瓶をポーチに戻した。


 そして、前方の暗闇を見据える。


「……いつか」


 小さく呟く。


「このポーションの作り手に――会ってみたいものだな」


 迷宮の奥から、新たな魔力反応が立ち上る。


 俺たちは再び剣を構え、歩き出した。


 見えない誰かに支えられながら。


 まだ見ぬ未来へ向かって。

あとがき


見て下さりありがとうございます!

手探りながら、自分の好きと読者様の好きが重なるそんな境界線上の物語を目指してます!


続きが気になると思ったら、

評価、ブックマーク、リアクション等

よろしくお願いします!


――誰かの心に刺さる、そんな物語を貴方に――

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