第41話「未来へ」
私がリビングに入った瞬間だった。
ソファの横に立っていたお姉ちゃんが、私の顔を見て目を見開いた。
「……ミオ!?」
一拍遅れて、表情が一気に崩れる。
「おかえり! 帰ってきてたの!?」
驚きと嬉しさが混ざった声。
次の瞬間には、もう私の目の前まで来ていた。
そして――。
そっと、私の頬に手を添える。
「……元気、だった?」
心配と安堵が入り混じった顔。
その表情を見た瞬間。
ああ――って思った。
懐かしい。
この感じ。
ちゃんと、お姉ちゃんだ。
その実感と同時に、胸の奥で何かが弾けた。
「……っ」
視界が歪む。
気づいた時には、涙が零れていた。
「え、どうしたの? 大丈夫? なにかあった?」
慌てて顔を覗き込まれる。
「ううん……大丈夫……」
首を振る。
「ただいま……お姉ちゃん……」
声にした途端、また涙が溢れた。
どうしよう。
何から話せばいいか分からない。
会ったら話そうって思ってたこと、いっぱいあったのに。
頭の中に並べてきた言葉が、全部ぐちゃぐちゃに混ざっている。
「……ぐすっ……今までのこと……話したい……」
やっと絞り出した言葉。
お姉ちゃんはすぐに頷いた。
「うんうん、聞くよ?」
優しく手を引かれる。
「ミオ、こっちおいで」
連れられるまま、ソファに座る。
胸の奥に溜まっていたものが、ゆっくりと浮かび上がってくる。
私は、ぐちゃぐちゃになった感情と言葉を、一つ一つすくい上げるように話し始めた。
病院を辞めたこと。
引きこもっていたこと。
血が怖くなってしまったこと。
クロと出会ったこと。
スキルが目覚めたこと。
薬師として歩き始めたこと。
ギルドでの出会い。
仲間。
支えてくれた人たち。
活動が評価されて、上級薬師になったこと。
そして――。
あの子のお母さんに、会いに行ってきたこと。
うまく伝えられているか分からない。
言葉は何度も詰まり、順番もぐちゃぐちゃだった。
それでも、お姉ちゃんは一度も遮らなかった。
ただ、頷きながら聞いてくれていた。
話しているうちに、気づく。
私は、本当に沢山の人と出会ってきたんだって。
支えてきたつもりだったけど――
きっと、それ以上に支えられてきた。
こんなに温かいものを受け取っていいのかなって思うくらい。
そう思ったら、また涙が溢れた。
今まで、必死に耐えなきゃって思ってた反動かもしれない。
感情が、止まらない。
その時。
「……辛かったね」
お姉ちゃんの声が、すぐ近くで響いた。
「ミオ、頑張ったんだね」
優しく、頭を撫でられる。
その手の温もりに耐えきれなくなって、私はお姉ちゃんに抱きついた。
子供みたいに、声を上げて泣いた。
ようやく、話せた。
それだけで、胸の奥に溜まっていた重たいものが、すっと軽くなる。
気づけば――。
途中から話を聞いていたお母さんまで泣いていて。
二人に抱きしめられながら、私は思った。
ああ――。
私、幸せ者だなぁって。
「にゃ~」
足元から、優しい声。
クロが見上げていた。
よかったね、って言ってくれているみたいで、私は泣き笑いになった。
その日は、夜遅くまで姉妹で話した。
昔の思い出。
くだらない日常の話。
お姉ちゃんの恋バナ。
そして、お父さんの変な行動の話で、二人で大笑いした。
こんな風に笑い合ったの、何年ぶりだろう。
気づけば私は、昔みたいにお姉ちゃんの肩にもたれていて。
そのまま、抱き合うようにして眠りに落ちていた。
◆
――翌日。
「身体には気を付けるのよ?」
お母さんが、少し寂しそうに笑う。
「またゆっくり帰ってきなさい。クロちゃんもまたね」
「にゃにゃ!」
クロが元気に返事をすると、二人とも頬を緩めた。
「ミオ、また姉妹水入らずで話そう!」
お姉ちゃんが言う。
「昨日言ってたカフェ、今度来たら行こうね」
「うん!」
私は大きく頷いた。
「お母さん、お姉ちゃん、ありがとう! また来るね。お父さんにもよろしく伝えといて!」
私は小さく二人に手を振る。
「じゃあ、また!」
新幹線に乗り込み、窓際に座る。
扉が閉まり、ゆっくりと動き出す。
ホームに立つ二人の姿が、少しずつ遠ざかっていく。
しばしのお別れ。
そして――出発だ。
「さぁ、帰ろう」
私はクロを抱き上げた。
「皆のいる街へ」
「にゃ~!」
力強い返事。
きっと私は、これからも悩む。
辛い思いもする。
それでも。
たくさんの人に支えられて、
そして、誰かを支えていく。
もう私は、一人じゃない。
家族がいて。
仲間がいて。
隣には、クロがいる。
小さくてもいい。
ちゃんと前に進もう。
その道がどこに繋がっているかは、まだ分からないけど。
クロとなら、どこまでも行ける気がするから。
その日――。
窓の外に広がる空に、虹がかかっていた。
それはまるで、これからの私たちの未来を祝福してくれているようだった――。
あとがき
見て下さりありがとうございます!
手探りながら、自分の好きと読者様の好きが重なるそんな境界線上の物語を目指してます!
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