表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦うのは怖いので、黒猫《クロ》と一緒に薬師ヒーラーとしてスローライフを謳歌しますっ!  作者: 烏羽 楓


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/45

第38話「今ならきっと……」

 静かな午後。

 窓から差し込む柔らかな光が、作業机の上を静かに照らしている。

 埃一つない木目の上には、フラスコやビーカー、刻み途中の素材が整然と並び、部屋の中にはほのかに薬草の香りが漂っていた。


 私は、いつものように部屋に籠もり、研究と調合に勤しむ。


 フラスコの中で、淡い色をした薬液がゆっくりと揺れる。

 刻んだ素材を慎重に計量し、配合比率を確認しながら魔力を流し込んでいく。

 反応を確かめるために、耳を澄まし、目を凝らし、わずかな変化も見逃さない。


 この光景自体は、少し前までと何も変わらない。

 けれど――今までとは、確かに違ってもいた。


 ――上級薬師。


 その肩書きを得てから、扱える素材の幅が一気に広がった。

 今までギルドの許可が下りなかった希少素材や、魔力反応が極端に不安定なものも、正規の取引対象として認められている。


 机の端には、以前なら見ることすら出来なかった素材が並んでいる。

 強い魔力を帯び、扱いを誤れば薬師自身が危険に晒されるようなものばかりだ。


「……やっぱり、感触が違う」


 素材に触れた瞬間、指先から流れ込んでくる情報量が、以前とは比べものにならない。

 魔力の流れ方。

 内部に抱え込んでいる癖。

 どこを刺激すると、危険な反応が起きやすいのか。


 それらが、言葉になる前の感覚として、自然と頭に浮かんでくる。


 それは単なる慣れや経験だけじゃない。

 私自身の力も、確実に底上げされていた。


 《癒やす者》のスキルレベルは3へ。

 《鑑定》のスキルも、いつの間にか2に上がっている。


 その影響は、はっきりと分かるほど大きかった。


 調合中に起こりがちな、ほんのわずかなズレ。

 素材同士の相性の微妙な歪み。

 そういったものを、失敗する前に察知できるようになった。


 素材の情報を、数値や文字ではなく、“意味”や“方向性”として理解できる感覚。


 結果として、成功率は大幅に上がった。

 失敗作を前に頭を抱え、夜遅くまで落ち込むことも、随分と減っている。


「特に……《鑑定》は、大きいね」


 以前は、名前と大まかな性質しか見えなかった。

 今は違う。


 対象の“状態”。

 今どんな立ち位置にあり、どんな変化の途中にあるのか。

 完璧ではないけれど、ぼんやりと輪郭を掴めるようになっていた。


 私は、ふと視線を横に向けた。


 ベッドの上で丸くなっている、小さな影。


「……クロ」


 名前を呼ぶと、ぴくりと耳が動いた。


「にゃ?」


 相変わらず、何も知らないような顔でこちらを見てくる。


 私は作業の手を止め、ゆっくりとクロの方へ歩み寄った。

 胸の奥で、ほんの少しだけ迷いが生まれる。


 けれど、それを振り払うように、心の中でスキルを発動させた。


「――鑑定」


 視界に、情報が浮かび上がる。


 

 【名 前:��Ƙ��(クロ)】

 【種 族:��(”現状”は、魔獣)】

 【魔力反応:超高濃度/安定】

 【危険度:――】


 

「……やっぱり」


 私は小さく息を吐いた。

 以前、コンテスト会場で黒服に言われた言葉が、はっきりと脳裏をよぎる。


 ――魔獣。


 あの時は、否定する根拠がなかった。

 クロの正体について、何一つ分からなかったから。


 でも、今は違う。


「“現状は、魔獣”……か」


 その表記が、はっきりと示している。

 クロは、ただの魔獣ってわけじゃない。


 今の鑑定レベルでは、これ以上の正体までは見えない。

 けれど少なくとも、魔獣という枠に収まる存在ではないということだけは、確信できた。


「まったく……クロは、何者なんだい?」


 私はベッドに腰を下ろし、クロをそっと抱き上げる。

 柔らかい毛並みと、規則正しい鼓動が伝わってくる。


「にゃにゃ」


 すっとぼけたような表情で、クロは喉を鳴らした。

 拍子抜けするほど、いつも通り。


「クロはさ、悪い魔獣さんなんかじゃないよね? 突然ぱくって、私のこと食べたりしないよね?」


「にゃーん」


 尻尾をゆっくり揺らしながら、否定するように鳴く。

 その仕草があまりにも穏やかで、私は思わず笑ってしまった。


「ふふっ」


 正体が分からなくても。

 危険度が表示されなくても。


 私が、ここまで来られたのは、間違いなくクロとの出会いがあったからだ。


 孤独だった頃。

 不安で立ち止まり、何度も諦めかけた時。

 この子の存在が、私を支え、少しずつ変えてくれた。


 薬師としての道を選び、歩き続けられたのも――

 隣にクロがいたから。


 そして。


 これから進む道にも、クロがいる。

 それだけは、はっきりと分かっている。


「……そろそろ、かな」


 私は、ぽつりと呟いた。


「にゃぁ?」


 クロが首をかしげる。


「私も……過去に向き合う時かな、って」


 それは、ずっと胸の奥にしまい込んでいた想い。

 考えないようにしてきた記憶。


 ボソッと呟いて、クロをぎゅっと抱きしめる。


 胸の奥で、静かに覚悟が固まっていく。


 逃げていたわけじゃない。

 ただ、向き合う勇気がなくて先延ばしにしてきた。


 でも、今なら――。


 会いに行こう。

 あの子に――。


 クロは何も言わず、私の腕の中で大人しくしていた。

 その温もりが、背中を押してくれる。


 大丈夫。

 クロが居れば、私はきっと前に進んでいける。

あとがき


見て下さりありがとうございます!

手探りながら、自分の好きと読者様の好きが重なるそんな境界線上の物語を目指してます!


続きが気になると思ったら、

評価、ブックマーク、リアクション等

よろしくお願いします!


――誰かの心に刺さる、そんな物語を貴方に――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ