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戦うのは怖いので、黒猫《クロ》と一緒に薬師ヒーラーとしてスローライフを謳歌しますっ!  作者: 烏羽 楓


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第37話「責任と期待」

 私は、封筒から取り出したばかりの通知書を、改めて両手で持ち直した。

 指先に伝わる、少しだけざらついた紙の感触。

 ついさっきまで、ただの一通の手紙だったはずなのに、今はやけに重く感じられる。


 手触りの残る紙面には、丁寧な文字で結果が記されていた。


「……えっと」


 思わず、声が漏れる。

 気持ちを落ち着かせるように、もう一度、最初から読み直した。


 ――全国対抗ポーションコンテスト。

 応募総数、数百点。

 その中から選ばれる入選作品は、ほんの一握り。


 改めて文字にすると、その厳しさが現実味を帯びて胸に迫ってくる。

 私は、ゆっくりと視線を先へ進めた。


『貴殿の新薬は、効能および実用性の面において、現段階ではなお改良の余地があると判断いたしました』


 ……うん。

 そこまでは、正直予想していた。


 完成度は高いとは自負していた。

 でも同時に、粗削りな部分が多いことも、自分が一番よく分かっている。


 安全性。

 汎用性。

 コスト。

 供給体制。


 冷静に見れば、課題はいくつもあった。

 だからこそ、覚悟はしていた。

 きっと、ここで終わるのだろう、と。


 だから――。


『しかしながら、本新薬は既存のポーション理論にとらわれない、新たな可能性を見出した点において、極めて高い評価に値するものです』


 その一文で、胸の奥が、わずかに跳ねた。


 一度、静かに沈めたはずの感情に、再び火が灯る。

 それは、ほんの小さな火種かもしれない。

 それでも、期待せずにはいられなかった。


 早くなる鼓動を落ち着かせるように、小さく深呼吸する。

 そして、淡い期待と共に再び視線を走らせた。


『その功績を鑑み、本作を単なる落選とするには惜しいと判断し、今回特別賞という別枠にて選出することといたしました』


「……特別、賞……?」


 思わず、声に出してしまう。

 言葉の意味を、頭が追いかける前に、音だけが零れ落ちた。


 周囲で様子をうかがっていたタケルさんが、目を見開く。


「特別賞?」

「え、それって……」


 サキさんも、思わず身を乗り出した。


「評価は、どう書かれてるんですか?」


「えっと……」


 私は、少しだけ声を整えてから、続きを読み上げた。


『また、ポーションの新たな可能性を見出した功績を称え、賞金とは別に、貴殿を上級薬師として認定することを、ここに記します』


 一瞬、言葉の意味が頭に入ってこなかった。


「……え?」


 まるで、別の誰かの話を聞いているみたいだ。

 理解が追いつかないまま、封筒の中へ視線を落とす。


 そこには、もう一通の用紙。

 しっかりとした厚紙の登録証と、金属製の資格カードが収められていた。


 それらを取り出した瞬間、空気が変わる。


 カードの表面には、はっきりと、私の名前が刻まれていた。


《上級薬師 (ひいらぎ) (みお)


「……上級、薬師?」


 間の抜けた声が、口から零れる。


 次の瞬間。


「ええええっ!?」

「上級薬師!?」

「すごいじゃないか!」


 周囲が、一気にざわついた。

 驚きと喜びが混じった声が、いくつも重なる。


 タケルさんが、勢いよく肩を叩いてくる。


「おいおい、特別賞に加えて上級認定って、かなりの評価だぞ! 普通、そう簡単にもらえるものじゃない!」


「おめでとうございます、ミオさん!」


 サキさんの声には、心からの祝福がこもっていた。


「ギルドとしても、誇らしいです! これで正式に、上級薬師ですね」


「おめでとう、ミオちゃん!」


 リナさんも、静かに微笑む。


「努力が、ちゃんと形になったということだ」


「ミオさん、すごい……!」


 マサトくんとアカネちゃんも、目を輝かせてこちらを見ている。


「すごいです! 本当に!」

「わたし……上級薬師なんて、初めて見ました!」


 次々と飛んでくる祝福の言葉に、頭が少し追いつかない。

 嬉しいはずなのに、どこか現実味が薄くて、ただ立ち尽くしてしまう。


「……あ、ありがとうございます」


 そう返すのが、精一杯だった。


 手の中の資格カードは、ひんやりとしていて、ずっしりと重い。

 確かな重みがあるのに、まだ夢の中にいるみたいで。


 私は、しばらくの間、そのカードをじっと見つめていた。


「……」


 上級薬師。


 それは、単なる肩書きじゃない。

 任される仕事も、扱える薬も、関わる人も――すべてが変わる。


 本当に、自分に務まるんだろうか。

 そんな不安が、喜びの隙間から、じわりと胸に広がっていく。


「にゃ」


 その時、小さな感触が、手の甲に触れた。


 見ると、クロが前脚を伸ばして、私の手にそっと触れている。

 心配そうな目で、じっとこちらを見上げていた。


「……クロ」


「にゃ……」


 その鳴き声は、いつもより少し低くて、落ち着いている。


 大丈夫。

 そんなふうに、背中を押されている気がした。


「……うん」


 私は、小さく頷く。


「もっと、頑張らないとだね」


 クロは、満足そうに「にゃ!」と鳴いた。


 上級薬師に認定されたということは、期待されているということ。

 同時に、それだけ大きな責任を背負うということでもある。


 今の自分に、どこまで出来るかは分からない。

 失敗することも、迷うことも、きっとある。


 それでも。


 これまでと同じように、目の前の誰かを助けるために。

 一つ一つ、出来ることを積み重ねていけばいい。


 タケルさんやリナさん、サキさん。

 そして、マサトくんやアカネちゃん。


 たくさんの人に支えられながら、ここまで来た。


「……これからも、よろしくお願いします」


 自然と、そんな言葉が口をついた。


「おう、任せとけ」

「こちらこそ!」


 笑顔で返ってくる言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。


 私はもう一度、資格カードを握りしめた。


 それは、ゴールじゃない。

 新しいスタートだ。


 誰かを助けるために。

 この街の日常を守るために。


 私は、薬師として――

 これからも、歩いていく。

あとがき


見て下さりありがとうございます!

手探りながら、自分の好きと読者様の好きが重なるそんな境界線上の物語を目指してます!


続きが気になると思ったら、

評価、ブックマーク、リアクション等

よろしくお願いします!


――誰かの心に刺さる、そんな物語を貴方に――

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