第36話「世代を紡ぐ光」
二日ほど経ち、そろそろタケルさんやリナさん達が帰ってくる頃だろうと思い、私はギルドに顔を出した。
何事もなければ、今日か明日には戻ってくるはず。
そう分かっていても、無事を確認するまでは、やっぱり少し落ち着かない。
昼を少し過ぎた頃だった。
いつもより人の出入りが少なく、受付前もどこか穏やかだ。
昼食を終えた冒険者たちがまばらに腰を下ろし、依頼書を眺めたり、仲間と談笑したりしている。
そんな中で、見覚えのある二つの影が目に入った。
「あ」
思わず、声が漏れた。
マサトくんと、アカネちゃんだ。
二人とも装備は軽めで、武器もきちんと手入れされている。
表情は明るく、歩き方にも余裕がある。
少なくとも、無事に帰ってきたことは一目で分かった。
「おかえりなさい」
声をかけると、二人は揃ってこちらを振り向いた。
「ミオさん! ただいま戻りました!」
「た、ただいま……です!」
少し噛みながらも、アカネちゃんははっきりそう言ってくれた。
その声に反応したのか、近くにいたタケルさんとリナさんもこちらに気づき、歩み寄ってくる。
「おー、ミオも来てたのか」
「ミオちゃん、こんにちは」
「タケルさん、リナさん、こんにちは! 無事でよかったです」
本当に、その一言に尽きる。
二人とも元気そうで、疲れはあるはずなのに表情は晴れやかだ。
なにより、マサトくんとアカネちゃんの顔つきが、出発前とは少し違う。
今回の冒険で、なにかを掴んだ。
そんな手応えが、その表情から伝わってきた。
「二人とも、怪我はなかった?」
「はい! 全然!」
「ちょっと疲れましたけど……大丈夫、です!」
アカネちゃんが、少し照れたように笑う。
その仕草が、ほんの少しだけ自信に満ちて見えた。
「ダンジョンはどうだった?」
私がそう尋ねると、マサトくんは一度視線を上に向け、考えるように間を置いてから答えた。
「……正直、すごく勉強になりました」
「というと?」
「前は、敵が出たらどう動くかで頭がいっぱいだったんですけど、今回は戦う前に“どう戦うか”を考える時間があって……」
その言葉に、リナさんが満足そうに頷いた。
「事前に立ち回りを決めるだけで、危険は減るからね。その感覚を掴めたなら、引率した甲斐があった」
「タケルさんたちが前で全部受け止めてくれたのも、とても大きかったです」
マサトくんがそう言うと、タケルさんは少し照れたように頭を掻いた。
「まあ、俺たちの役目だからな。とはいえ、後ろからの魔法支援がなかったら、楽勝ってわけでもなかったけどな」
「それはお互い様さ」
二人のやり取りは、どこか自然で、息が合っている。
私はその様子を見て、小さく笑った。
……ちゃんと“二人で行く”意味があったみたいだ。
「アカネちゃんは、どうだった?」
そう聞くと、アカネちゃんは少しだけ胸を張った。
「魔法のタイミング、前より分かるようになりました……! 前に出すぎると危ないって、ちゃんと分かりましたし」
「そっか。えらいえらい」
思わず、頭を撫でそうになるのをこらえる。
クロが、私の肩の上で「にゃ」と鳴いた。
「クロも、そう思うよね」
「にゃにゃ」
アカネちゃんが、ぱっと顔をほころばせた。
「いい経験になったみたいだな」
タケルさんが、しみじみと呟く。
「リナと引率して正解だった」
「そうだね。二人とも、確実に成長している」
そう言ったリナさんは、ふっと表情を緩めた。
ギルド内の空気は、穏やかだ。
薬師も冒険者も、こうして小さな成功体験を積み重ねながら成長していく。
マサトくんもアカネちゃんも、きっといつかは、タケルさんやリナさんみたいになるんだろう。
世代を紡いで、新たな光となっていく。
私の活動もまた、その流れの中にある。
ほんの一端でも、誰かの成長を支えられているなら。
それだけで、胸の奥が温かくなる。
「ミオさん、ちょうど良かった!」
その時、サキさんが受付の奥から声をかけてきた。
「どうかしました?」
「先ほど、こちらが届きまして」
サキさんの手には、見覚えのある一通の封筒があった。
「……コンテストの、結果通知です」
一瞬、周囲の空気が止まる。
「え!?」
「もう来たのか」
「思ったより早いな」
タケルさんとリナさんが、顔を見合わせる。
あんなことがあったから、もっと時間がかかるものだと、勝手に思い込んでいた。
マサトくんとアカネちゃんも、興味津々といった様子でこちらを見ている。
「今、開けますか?」
サキさんの問いに、私は一瞬だけ迷ってから、頷いた。
「……せっかくなので、みなさん一緒に」
「お、立ち会いか」
「なんだか、こちらまで緊張してくるな」
クロが、私の肩でそわそわと動く。
「にゃ?」
「大丈夫、大丈夫」
自分に言い聞かせるように呟きながら、封筒を受け取る。
ゆっくりと封を切ると、紙の擦れる音が、やけに大きく感じられた。
「……」
中身を取り出そうとした、その時。
「「ミオさんが、受かりますように……!」」
マサトくんとアカネちゃんが、ほぼ同時に言った。
思わず、笑みがこぼれる。
私は小さく深呼吸をして、紙に指をかけた。
結果がどうであれ、ここまでやってきたことは変わらない。
それでも――。
周囲の視線を感じながら、私は通知を開いた。
あとがき
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