表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦うのは怖いので、黒猫《クロ》と一緒に薬師ヒーラーとしてスローライフを謳歌しますっ!  作者: 烏羽 楓


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/45

第33話「私が向き合うべきもの」

 男は私の返答を書き留めると、ふっと小さく鼻で笑った。


「なるほどな。既存の素材を流用し、鱗粉で乾燥と安定化……」


 その言い方が、妙に引っかかった。

 確認というより、“照合”している。


 まるで、すでに似た情報を持っていて、そこに私の言葉を当てはめているみたいだ。


 ――やっぱり。


 この人たちは、ゼロから作ろうとしているわけじゃない。

 誰かが辿り着いた成果を、歪めて使うつもりだ。


 しかも、それを「効率よく」再現する前提で。


「詳しい効能については?」

「マナの回復量と、持続時間についてだ」


 私は一瞬だけ言葉を選び、慎重に答える。

 ここで口を滑らせれば、それだけで致命傷になる。


「緩やかに回復します。急激な変化は起きません」

「副作用は?」

「ありません。少なくとも、通常使用の範囲では」


 “通常使用”。


 含みを持たせたその言葉を、私は意識して付け足した。


 男は、その部分にだけ、ほんのわずかに反応した。

 眉が、刹那のように動く。


「……通常、か」


 嫌な予感が、胸の奥でゆっくりと形を持ち始める。

 この人たちは、“通常じゃない使い方”を、最初から想定している。

 そんな気がしてならなかった。

 

 まるで私に同調するように腕の中で、クロが低く唸った。


「シャーッ!!」


 今まで聞いたことがないほど、はっきりとした拒絶の音。

 威嚇というより、拒否。

 この場そのものを否定しているみたいだった。


 男が、クロに視線を向ける。


「その猫……いや、魔獣か」


 一瞬、空気が張り詰めた。


 魔獣――。


 その言葉に、胸の奥が強く跳ねる。

 思わず、クロの方に目を向けてしまった。


 クロが魔獣……?


 でも、そう考えれば思い当たる節はいくつもある。

 以前、鑑定したときに文字化けしていた部分。

 通常の動物とは明らかに違うステータス。

 そして、今この場で見せている、異様なまでの警戒心。


 だとしたら、本当にクロは――。


 ……いや。


 私は、首を振る。


 それでもクロは、私の大切なパートナーだ。

 名前も、温もりも、一緒に過ごした時間も、全部が本物。

 私たちが積み上げてきたものに、私がどうだとかクロがどうだとか、そんなことは一切関係ない!


 私は無意識に、クロを庇うように抱き寄せた。


「関係ありません」


 声が、少しだけ強くなる。


「……ふん」


 男は興味を失ったように視線を外した。

 けれど、クロの唸りは止まらない。


 クロは、私を守ろうとしているんじゃない。

 この人たちが持ち込んでいる“何か”を、警戒している。


 私は、その視線を追った。


 黒服の腰元。

 革袋の奥から、微かに漂う気配。


 おそらく――魔素。


 しかも、自然に溜まったものじゃない。

 澱んだ(よどんだ)濃さ。

 まるで、意図的に集めて、閉じ込めているような気配。


 私は、息を殺した。


 もし、仮に。

 もし、この人たちが――。


 持続的な作用を、マナではなく、魔素に変えたとしたら。

 考えただけで、背筋が冷たくなる。


 それは回復なんかじゃない。

 循環でもない。

 もっとおぞましい結末――。



 ――暴走だ。



「もういい」


 男が、メモを閉じた。


「お前から聞くことは、ひとまず終わりだ」


 “ひとまず”。その言葉が、胸に刺さる。


「今日はな」


 私は、何も答えなかった。代わりに、静かに問い返す。


「……あなたたちは、その薬を何に使うつもりなんですか」


 一瞬、周囲の黒服がざわついた。

 男は、ゆっくりとこちらを見下ろす。


「いい質問だ、薬師」


 口元が、歪む。


「だが――」


 低く、囁くように続ける。


「それを知るのは、もう少し先だ」


 次の瞬間、背後で重い足音が響くとギルドマスターたちが、ついに動いた。

 

 ギルドマスターは私たちと黒服の間に現れると、複数の魔力が重なり空気が震える。

 次の瞬間、ホール全体に魔力の波動が広がった。

 地面から、光の鎖が何本も伸び、黒服たちの足元を絡め取る。


「そこまでだ」


 張りのある声。

 場の空気が、一気に変わる。


「ここは、我々の管理下にある。勝手な“回収”は許可していない」


 ギルドマスターのひとりの言葉に、黒服の男は、肩をすくめた。


「今日は顔見せさ。目的は果たした」


 次の瞬間。


 黒服のリーダーが、対抗魔法を発動する。

 鎖が軋み、光がかき消される。


 黒服たちは、一斉に後退した。


「安心しろ」


 男は、最後に私を見て言った。


「お前の薬は、まだ奪わない」


「……まだ?」


「完成しすぎてるものは、使いづらくてな」


 その言葉が、胸に突き刺さる。


 完成しすぎている。

 それは、決して褒め言葉じゃない。


「また会おう、薬師」


 ドクロの紋章が、空中で砕け散る。


 次の瞬間。

 黒服たちは、霧のように姿を消した。


 ホールに残ったのは、混乱と、静まり返った空気だけ。


 私は、足の力が抜けそうになるのを必死にこらえた。


「……行った、の?」


 誰かの声が、震えながら響く。


 私は、クロを強く抱きしめる。

 この子が、まだ低く唸っている理由が、はっきり分かった。


 あの人たちは、薬を必要としているんじゃない。


 ――“歪んだ進化”を、欲している。


 私は、初めて強く思った。


 この薬は。

 この発想は。


 間違えば、世界を壊す。


 だからこそ――。


 私が、止めなきゃ。

 これは、私の役目だ。


 静まり返ったホールの中で、私は、薬師としての責任を再認識した。

 人を救えるということは、人を殺めたり、失わせることも出来るのだと――。

あとがき


見て下さりありがとうございます!

手探りながら、自分の好きと読者様の好きが重なるそんな境界線上の物語を目指してます!


続きが気になると思ったら、

評価、ブックマーク、リアクション等

よろしくお願いします!


――誰かの心に刺さる、そんな物語を貴方に――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ