第30話「開催!全国対抗ポーションコンテスト!」
――コンテスト当日。
朝の空気は澄んでいて、吐く息が少しだけ白い。
街はいつもより人が多く、行き交う冒険者や薬師たちの足取りも、どこか浮き足立って見えた。
「……ついに、だね」
小さく呟くと、腕の中でクロが「にゃ」と短く鳴いた。
私の胸元に収まりながら、いつもより周囲を警戒するように耳を動かしている。
今日は、全国対抗ポーションコンテスト。
薬師にとっては、一年に一度の晴れ舞台だ。
私は深く息を吸い、会場へと続く通りを歩き出した。
◆
会場の前には、すでに長い列ができていた。
受付の前には参加者専用のカウンターが設けられ、薬師証の確認や出席登録が進められている。
「次の方、どうぞ」
呼ばれて一歩前に出ると、係員が事務的な笑顔でこちらを見た。
「お名前をお願いします」
「ミオです」
薬師証を差し出すと、係員は一瞬だけ目を落とし、すぐに頷いた。
「確認できました。こちらが出席登録証です」
続いて、もう一人の係員が小さな木箱を差し出してくる。
「こちらが、提出用のポーション容器になります。完成品と効能について用紙に記載後、一緒にお預かりします」
私は、事前に用意していた用紙と包みを取り出した。
中身については、何も言わない。
瓶の形も、ラベルも、必要最低限。
ただ、確かにそこに“私の新薬”は入っている。
係員がそれを受け取り、丁寧に封を施す。
「確かにお預かりしました。それでは、会場内へお進みください」
「……はい」
短く答え、私は一歩下がった。
ここまで来た。
もう、引き返せない。
「にゃ!」
クロが、私の腕の中で小さく鳴く。
それが合図みたいで、私は自然と背筋を伸ばした。
◆
会場のロビーは、すでに賑やかだった。
「ミオ!」
聞き慣れた声に顔を上げると、手を振って駆け寄ってくる人影がある。
「タケルさん、リナさん……!」
冒険者の二人に続いて、少し遅れてサキさんの姿も見えた。
「おはよう、ミオちゃん。今日はよろしくね」
「はい……! 来てくれて、ありがとうございます」
応援に来てくれたことが、素直に嬉しい。
胸の奥が、じんわりと温かくなる。
「緊張してる?」
リナさんにそう聞かれて、私は苦笑した。
「……してないって言ったら、嘘になります」
「はは、それでいいんだよ。ここに立ってる時点で、もう十分すごいんだから」
タケルさんの言葉に、少しだけ肩の力が抜ける。
そのときだった。
「……へぇ。ちゃんと来たんだな」
少し投げやりで、それでいて耳に残る声。
振り向くと、そこに立っていたのはユウトだった。
「ユウトさん……」
「よう。顔色は悪くねぇな」
軽口みたいな口調だけど、視線は私をじっと見ている。
「で?」
短く、核心を突く。
「完成したのか?」
一瞬、胸が強く脈打った。
ここで曖昧に笑って誤魔化すこともできた。
でも――それは、したくなかった。
私は、はっきりと頷く。
「はい」
そして、続ける。
「薬師界を、ひっくり返します」
自分でも驚くくらい、声は落ち着いていた。
「……私の薬で」
一瞬、場が静まり返る。
ユウトは、目を細めて私を見つめたあと、ふっと口角を上げた。
「……言うじゃねぇか」
「私も”プロ”ですから」
それだけ返すと、クロが「にゃ」と誇らしげに鳴いた。
その直後――。
『――間もなく、コンテストを開始いたします。参加者および関係者の皆さまは、会場内へご移動ください』
アナウンスが、ロビーに響き渡る。
「始まるね」
サキさんが、静かに言った。
「行こっか」
私は、クロをしっかりと抱きしめて、皆と一緒に会場へ向かった。
◆
会場は、まるで劇場だった。
半円状に配置された客席。
正面には大きなステージがあり、重厚な幕が垂れ下がっている。
私たちは案内に従い、二階席へと向かった。
そこからは、ステージ全体を見下ろすことができる。
席に腰を下ろすと、胸の鼓動が急にうるさくなる。
照明が、ゆっくりと落とされていき、ざわめいていた会場が、次第に静まり返った。
そして――。
ステージだけが、明るく照らされる。
低く、荘厳な音楽が流れ始めた。
一人の司会者が、スポットライトを浴びて現れる。
「皆さま、本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます!」
張りのある声が、会場に響く。
「これより――全国対抗ポーションコンテストを、開催いたします!」
大きな拍手と歓声が上がった。
「まずは、今回の審査員をご紹介いたしましょう」
司会者が手を広げる。
「東部大陸代表、大手冒険者ギルド《白鷲》ギルドマスター!」
「南部交易都市連盟より、薬師ギルド統括長!」
「北方辺境区画を束ねる、戦術支援ギルド代表!」
東西南北、上は北海道、下は沖縄に至るまでの各地方を代表するギルド。
その錚々たる代表の名前が次々と呼ばれ、そのたびに会場が沸き上がる。
「……すごい人たちばっかりだね」
思わず呟くと、クロが私の胸元で身じろぎした。
「にゃ」
大丈夫、と言われている気がして、私は小さく笑った。
審査が始まり参加者のポーションが、一つずつ紹介されていく。
司会者の説明とともに、瓶が掲げられ、審査員が実際に口にしたり、スキルを使ったりして効能を確かめていく。
中には、私と同じ鑑定スキルを持つ審査員もいた。
評価は厳正で、容赦がない。
次から次へと現れる薬は、どれも興味を引くものばかりだ。
純粋に回復量を極限まで高めたもの。
特定の状態異常に特化した薬。
戦場での即応性を追求した改良型ポーション。
「皆、すごい……」
思わず、そう漏らす。
正直、レベルの高さに圧倒される。
でも――。
「……やっぱり」
私は、心の中で続けた。
予想していた通りでもあった。
全体の傾向としては、既存のポーションを突き詰めた上位互換か、状態異常系に対する変わり種が多い。
同じ土俵で戦っていたら――。
「……勝てなかった、よね」
そう、確信していた。
方向性を変えたのは、正解だった。
「では、次のポーションです!」
司会者の声が、再び響く。
舞台袖から、係員が慎重に運んできたのは――。
見覚えのある、小さな瓶だった。
私の、新薬。
心臓が、大きく跳ねた。
クロが、ぎゅっと私の服を掴む。
「……来た」
私は、息を潜めてステージを見つめた。
幕は、もう上がっている。
あとは――その先を、見届けるだけだった。
あとがき
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