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戦うのは怖いので、黒猫《クロ》と一緒に薬師ヒーラーとしてスローライフを謳歌しますっ!  作者: 烏羽 楓


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第28話「試作第一号」

 ギルドから戻ると、私は買い込んだ素材を机の上いっぱいに広げた。


 薬草、魔物素材、加工用の副材。

 一つひとつは見慣れたもののはずなのに、こうして並べてみると圧倒される量だ。


 袋を開け、瓶を並べ、包み紙を解いていくうちに、机の上はすぐに埋まってしまった。


「……買いすぎた、かな」


 思わず、ぽつりと呟く。


 ギルドで素材を受け取ったとき、サキさんが目を丸くしていた理由も、今ならよく分かる。

 中には、普段なら滅多に店頭に並ばない希少素材も混ざっていた。


 競争率の高い時期に、よくこれだけ揃えられたものだと思う。


 当然、その分お金もそれなりに飛んでいる。


 頭の中で大まかな金額を計算してしまい、こめかみが少し痛くなった。

 けれど――。


「今は、考えない」


 ここで中途半端にケチって、結果が出せなかったら意味がない。

 出費は怖いけど、挑戦しないほうがもっと怖い。


 私は気持ちを切り替えるように、深く息を吸った。


「にゃーん!」


 クロが机の端に軽やかに飛び乗り、こちらを見上げて鳴く。

 素材だらけの光景が珍しいのか、尻尾を揺らしながら興味深そうに眺めている。


「うん。始めよっか」


 私は小さく笑って、調合作業に取り掛かった。


 今回作るのは、持ち歩きに便利な錠剤タイプのポーション。

 ベースはマナポーションで、徐放加工によって持続的にマナが回復する薬だ。


 錠剤なら、マナポーション特有の強い苦みも抑えられる。

 しかも、持続的に回復するなら、戦闘外だけじゃなく戦闘中でも使える。


 探索の合間。

 長期戦。

 連戦を強いられる状況。


 どれを取っても、需要は高い。


 ――理屈の上では、完璧だ。


 まずは素材をすり潰す。

 乳鉢に魔力を流し、力を入れすぎないよう注意しながら、円を描くようにすり合わせていく。


 粒が大きすぎれば抽出効果にムラが出るし、細かすぎれば後工程で扱いづらくなる。

 鑑定をかけ、粒度を確認しながら、少しずつ調整した。


 クロはというと、少し離れた位置から、じっとその様子を見守っている。


 すり潰した素材を、シトラス液に混ぜて火にかける。

 温度を上げすぎないよう、火加減は慎重に。


 柑橘の爽やかな香りが立ち上り、水分がゆっくりと飛んでいく。

 鍋の中身が次第に濃くなっていくのを、鑑定で確認する。


 その間に、ルミナフラワーと祈禱蘭から効能液を抽出した。

 花弁の色が変わるタイミングを見極め、雑味が出ないよう素早く処理する。


 抽出した液体を、ダンジョン産の蜂蜜と混ぜ合わせる。

 魔力の流れを鑑定で確認しながら、比率をほんのわずかずつ微調整した。


 火から下ろした濃縮素材に、効能液を加え――。


「……よし」


 全体を練り合わせると、手触りのある薬剤が出来上がった。


 粘度はちょうどいい。

 色合いも安定しているし、香りも悪くない。


「このまま、錠剤に……」


 私は用意していた道具に手を伸ばした。


 共鳴石。

 魔力を流すことで、微細な振動を生み出す魔石だ。


 本来は、鍛冶や素材加工の現場で使われることが多い。

 金属の内部構造を整えたり、素材同士を馴染ませたりするための道具。


 でも今回は、その共鳴石を上下で噛み合う凹凸状に加工してもらった。


 中に素材を挟み、魔力を流せば――簡易的な圧縮器になるはず。


 練り上げた薬剤を少量取り、共鳴石の間に慎重に置く。


 魔力を込めると、石が低く唸るように震え始めた。

 その振動が、じわじわと圧に変わっていく。


 形が整い、表面が滑らかになっていくのが分かる。


「……できた?」


 恐る恐る共鳴石を外すと、確かに錠剤らしい形になっていた。


 一瞬、胸が高鳴る。


 でも。


 少し時間が経つと、表面に細かな亀裂が走った。

 さらに乾燥が進むにつれ、そのひび割れははっきりと目に見えるものになる。


「……あ」


 嫌な予感がして、すぐに鑑定をかけた。


 効果は、ある。

 マナ回復量も、持続時間も、想定通り。


 でも――。


「崩壊が、不均一……」


 中まで均一に圧がかかっていない。

 水分が多すぎたせいで、表面だけが固まり、中が潰れている。


 時間差で崩れたり、逆に口の中で不自然に残ったりするだろう。


 これは錠剤じゃない。

 ただ固めただけの“塊”だ。


「にゃーん……」


 クロが近づき、割れた錠剤の匂いを嗅いで、露骨に顔をしかめる。


 試しに、ほんの少しだけ舐めたクロは、すぐに顔を背けた。


「にゃっ!」


「……苦い、よね」


 私は、静かに頷いた。


 練り物状のまま圧縮したのが、そもそもの間違いだ。

 錠剤にするなら、一度しっかり乾燥させて、粉末に戻す必要がある。


 粒度を揃え、水分量を管理してから、改めて圧縮する。

 じゃないと、内部まで均一な錠剤にはならない。


 ――でも。


 鑑定結果をもう一度見る。


 効果そのものは、間違っていない。

 発想も、方向性も、正しい。


「……惜しい、んだ」


 失敗はした。

 けど、これは行き止まりじゃない。


 私は、ひび割れた錠剤をそっと片付けながら、深く息を吸った。


 次にやるべきことは、はっきりしている。


 乾燥工程。

 粉末化。

 粒度調整。

 そして、被膜。


 やることは山ほどある。


 それなのに、不思議と気持ちは沈まなかった。


「……大丈夫」


 クロをそっと抱き寄せる。


「方向性は、合ってる」


「にゃ」


 小さな鳴き声が、肯定みたいに聞こえた。


 失敗した。

 でも、次はもっと良くなる。


 私は、割れた錠剤の向こうにある完成形を、はっきりと思い描いていた。

あとがき


見て下さりありがとうございます!

手探りながら、自分の好きと読者様の好きが重なるそんな境界線上の物語を目指してます!


続きが気になると思ったら、

評価、ブックマーク、リアクション等

よろしくお願いします!


――誰かの心に刺さる、そんな物語を貴方に――

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