第26話「自分の強み」
扉に手を伸ばすと、わずかに軋んだ音とともに中へと開いた。
同時に、ちりん、と軽い鈴の音が店内に響く。
「いらっしゃいませぇ……」
気だるげな声が、奥から聞こえた。
しばらくして、カウンターの向こうから姿を現したのは、若い茶髪の男性だった。
無精ひげに、少しくたびれた白衣。
以前見たときとは雰囲気が違う。
どこか投げやりで、やる気のなさが滲んでいる。
――でも、間違いない。
「……ユウトさん」
その顔を見た瞬間、彼は露骨に顔をしかめた。
「うげっ……」
あからさまな反応に、胸がちくりと痛む。
「ど、どうも……」
思わず、こちらもぎこちなく挨拶してしまった。
するとユウトさんは、ため息混じりに手をひらひらと振る。
「今日は閉店だ。さっさと帰った帰った」
「えっ……」
いきなりの拒否。
でも――ここまで来たのには、理由がある。
はい、そうですか、と引き下がれるわけがなかった。
「あ、あの、迷惑なのは承知なんですが……!」
私は一歩、踏み出す。
「ユウトさんに、どうしても教えてほしい事があって、ここに来たんです!」
「はぁ?」
露骨に面倒くさそうな声。
「私、今年のコンテストに出るんですけど……どういうもの作ったらいいのか、分かんなくて」
「知らねぇよ」
即答される。
が、それでも私は止まらなかった。
「効果の高いポーションは作れます……。でも、それじゃ勝てない気がするんです!」
「だから、知らねぇって」
「ユウトさんなら、分かるんじゃないですか?」
言葉を重ねる。
「どうすれば、全国の猛者と張り合えるのか……!」
店内に、沈黙が落ちた。
ユウトさんは、しばらく私をじっと見つめてから、ドカッと椅子に腰を落とす。
「……どうして、そう思った」
低い声で、問いかけられた。
私は、息を整えて答える。
「ユウトさんは、まだ無名だった私のポーションに目をつけて……模倣して、利益を得ていました」
胸が少し痛む。
「正直、良い気持ちではなかったです。でも……それで利益を出せていたってことは、模倣する技術だけじゃなくて、“何を作れば売れるか”が分かっていたってことだと思うんです」
「……それで?」
「私がコンテストで勝つために、なにを作ればいいのか……教えてくれませんか?」
問いかけた瞬間。
ユウトさんは、突然、大声で笑い出した。
「ははははっ……!」
かと思えば、急に笑みを消し、真剣な表情になる。
「仮に教えたとして、俺に何のメリットがあるんだよ」
鋭い言葉。
「それに、たかがコンテストだろ。商売敵に頭下げてまで、勝ちにこだわる意味が分かんねぇ」
……確かに、そうだ。
私にとっても、ユウトさんは商売敵。
ユウトさんからすれば、なおさらだ。
助ける理由なんて、どこにもない。
それでも――。
「私は……」
言葉が、自然と溢れ出る。
「一度、何もかも諦めて、逃げていた時期がありました……」
声が、少し震える。
「それでも今こうして薬師として頑張れているのは、沢山の人に支えられて……私自身の頑張りで、誰かを救えているっていう事実があるからなんです」
気づけば、前のめりになっていた。
「そんな私を支えてくれた人たちの期待に応えたい。そして……もっと多くの人に、私という存在と、私の作るポーションを知ってもらいたいんです!」
言葉が止まらない。
「少しでも多くの人を、助けられるように……!」
なんで、こんなに熱くなっているのか、自分でも分からなかった。
ただ――。
今ここで、逃げるようなことだけは、したくなかった。
一通り話し終えると、ユウトさんは椅子に深くもたれかかり、大きくため息をついた。
「あー……くそ」
頭を掻きながら、ぼそりと呟く。
「……昔の俺も、同じ顔してたな」
「え?」
「なんでもねぇ。助言すりゃいいんだろ」
私は、思わず目を見開いた。
「今、どの段階なんだ?」
驚きつつも、私は今作っているポーションの状態と、考えている方向性を説明した。
しばらく黙って聞いていたユウトさんは、顎に手を当て、少し考え込む。
「……そりゃ、確かにダメだな」
ばっさり。
自分でもわかってはいたけど、改めて言われると心に刺さるものがある。
けど、裏を返せば、予想は間違っていなかったということ。
「品質が良くて効力の高い薬は、九州から来る常連薬師の十八番だ。まともにやり合っても、勝ち目はねぇ」
そう言って、机の上にいくつかのポーションを並べる。
「かといって、解毒薬だの変わり種で戦おうとするなよ?」
指で二本のポーションを弾き、倒す。
「それは東北の老舗の若頭が得意分野だ。付け焼き刃でどうこうなる相手じゃない」
残った一本をつまみ、私の前に差し出す。
「だから――お前にピッタリな選択肢は、これだ」
差し出されたポーションに私は、思わず息を呑んだ。
そこにあったのは――私が作った、活力ポーション。
「……え?」
「新薬を作れ」
その一言で。
自分の中で、何かが弾けた。
視界が、ぱっと開ける。
確かな手応え。
活路を見出した感覚。
なんで今まで、この発想が出なかったんだろう。
新薬を作るなんて、本来は途方もない研究の果てに辿り着く極地。
普通は、考えもしない。
でも――。
私には、鑑定がある。
配合のズレや、まだ名前のない効果の兆しまで、私は読み取れる。
それはきっかけさえあれば、他の人よりも現実的な選択肢になるということ。
これは、私の強みだ。
そして――唯一、勝てる道筋。
「……ありがとうございます!」
深く、頭を下げる。
「このお礼は、いつか必ず!」
そう言うと、私は店を飛び出した。
外の空気が、やけに冷たくて心地いい。
もう、時間はない。
新薬を作るなら、一分一秒も惜しい。
「――このチャンス、絶対にものにする! がんばろうね、クロ」
「にゃにゃっ!」
私とクロは、帰路を急いだ。
あとがき
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