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戦うのは怖いので、黒猫《クロ》と一緒に薬師ヒーラーとしてスローライフを謳歌しますっ!  作者: 烏羽 楓


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第24話「小さな冒険者と一枚のチラシ」

 ――新年会から、一週間が経った。

 

 年が明けてからの時間は、思っていた以上にあっという間だった。

 気づけば、部屋の机の上には薬草の束と瓶、それからノートがいくつも広がっている。

 

「……うん、やっぱり面白い」

 

 私はページをめくりながら、思わず小さく声を漏らした。

 サキさんからもらった新しい調合書。

 最初はさらっと目を通すつもりだったのに、気づけば夢中になって読み漁っていた。

 

 基礎の再整理から、応用的な配合比率の考え方。

 素材同士の相互作用や、わずかな魔力調整による効能の変化。

 どれもこれも、今の私にとっては宝の山だ。

 

「へぇ……こういう組み合わせもあるんだ」

 

 ページの端に、自分なりのメモを書き込みながら、頭の中で何度も調合をシミュレーションする。

 

 読み進めるうちに、自然と「次はこれを試してみよう」「あれと組み合わせたらどうなるかな」と、考えが膨らんでいった。 

 そして――。

 

「……あ」

 

 ふと、あるページで手が止まる。

 そこに載っていたのは、見覚えのある名前だった。

 

【活力ポーション(改良型)】

【疲労回復】

【一時的な身体能力補助】

【過剰摂取注意】

 

「……これ」

 

 思わず、その文字を指でなぞる。

 配合比率、調合工程、安定化の方法。

 書かれている内容は、私が普段作っている活力ポーションとほとんど同じだった。

 

「私の……だよね、これ」

 

 胸の奥が、じんわりと熱くなる。

 もちろん、世界には同じような考えに辿り着く薬師がいても不思議じゃない。

 

 それでも、自分が積み上げてきたものが、こうして「形」として載っているのを見ると――。

 

「……ちょっと、嬉しいな」

 

 小さく笑いながら、私は調合書を胸に抱きしめた。

 

「にゃ」

 

 足元から聞こえた声に視線を落とすと、クロがこちらを見上げている。

 

「ふふ。クロもそう思う?」

 

「にゃっ」

 

 短く鳴いて、誇らしげに尻尾を揺らすクロ。

 その様子に、思わず頬が緩んだ。

 

 ――よし。

 今日は納品もあるし、ギルドに行こう。

 気持ちを切り替えて、私は出来上がったポーションを丁寧に箱に詰めた。


 

 ◆


 

 いつものように、ギルドの扉を開ける。

 平日の昼間ということもあって、新年会の時ほどの賑わいはない。

 それでも、依頼の相談をする冒険者や、受付で並ぶ人の姿は途切れず、相変わらず活気に満ちていた。

 

「こんにちは」

 

 挨拶をしながら中に入ると――すぐに、見覚えのある後ろ姿が目に入った。

 

「……あ」

 

 タケルさんだ。

 しかも、その隣には、見慣れない二人の姿。

 背はまだ低く、装備も新品同然。

 年齢は……十代前半くらいだろうか。

 私の視線に気づいたのか、タケルさんが振り返る。

 

「お、ミオじゃねぇか」

 

「こんにちは、タケルさん」

 

 近づくと、タケルさんはにっと笑った。

 

「この前は世話になったな。ポーション、本当に助かった」

 

「いえ……無事そうで、よかったです」

 

 その言葉に、タケルさんの隣にいた少年が一歩前に出た。

 

「えっと……!」

 

 元気いっぱいの声。

 

「俺、マサトです! 十五歳です!」

 

 その勢いに、思わず目を瞬かせる。

 続いて、少年の後ろから、そっと顔を覗かせる女の子。

 

「……あ、あの……アカネ、です。十四歳……」

 

 兄の背中に半分隠れるようにして、小さく頭を下げた。

 なるほど。

 聞いていた通りの兄妹だ。

 

「こちらこそ、ミオです。よろしくね」

 

 そう言って微笑むと、マサトはぱっと表情を明るくした。

 

「実は今回のポーションを用意してくれた薬師が、このミオなんだ」

 

 タケルさんが、少し得意げに言う。

 

「ええっ!?」

 

 マサトは目を丸くし、アカネは驚いたように口元を押さえる。

 

「す、すごい……」

「本当に、ありがとうございました……!」

 

 深々と頭を下げられて、私は慌てて手を振った。

 

「そんな……普通のことをしただけだから」

 

 でも、その様子を見ていると、自然と胸が温かくなる。

 

 ……なんだか、微笑ましいなぁ。

 

 少し緊張しながらも、これから冒険者として歩き出す二人。

 タケルさんが引率を引き受けた理由も、なんとなく分かる気がした。

 

 そのとき――。

 

「あ、ミオさん」

 

 後ろから声がかかる。

 振り返ると、サキさんが一枚の紙を差し出してきた。

 

「これ、見てください」

 

「……?」

 

 受け取ったチラシに目を落とす。

  

『全国対抗ポーションコンテスト』

 大きく書かれた文字に、思わず声が出た。

 

「ポーションコンテスト?」

 

「はい。毎年開催されているんですけど、薬師にとっては結構大きなイベントなんですよ」

 

 サキさんはにこやかに続ける。

 

「ミオさん、参加してみませんか?」

 

「え、私が?」

 

 開催日は、一ヶ月後。

 胸の奥で、期待と不安が同時に膨らむ。

 自分の実力は、どのくらい通用するんだろう。

 失敗したら、恥をかくかもしれない。

 考えれば考えるほど、足がすくみそうになる。

 そのとき。

 

「にゃ」

 

 ひょこっと、クロが机の上に姿を現した。

 そして――。

 

 ペシ。ペシ。

 チラシを、小さな前足で叩く。

 

「にゃー」

 

 そのまま、じっとこちらを見つめてきた。

 

「……クロ」

 

 まるで、「やろうよ」と言っているみたいで。

 さっきまでの迷いが、すっと消えていく。

 

「……そう、だよね」

 

 私は顔を上げて、サキさんを見る。

 

「私、やってみます。参加させてください!」

「にゃにゃっ!」

 

 クロも元気よく鳴く。

 それを見て、サキさんは嬉しそうに笑った。

 

「分かりました。じゃあ、登録しておきますね!」

 

 胸の奥が、少しだけ高鳴る。

 結果がどうなるかなんて、分からない。

 でも――。

 

 やれるだけ、やってみよう。

 自分の実力も、ちゃんと知りたいし。

 そして、もっと良い薬を作れるようになりたい。

 クロが肩に飛び乗り、喉を鳴らす。

 

「一緒に頑張ろうね」

 

「にゃ!」

 

 ギルドを出ると、冬の空気が頬にひんやりと触れた。

 空は高く澄み渡り、遠くで誰かの笑い声が微かに響いている。

 

 全国対抗ポーションコンテスト。

 口に出すと、まだ少しだけ実感が湧かない。

 

 自分がそんな大きな舞台に立つなんて、少し前の私なら考えもしなかった。

 

 でも今は、不思議と逃げたい気持ちはなかった。

 怖さがないわけじゃない。

 失敗するかもしれないし、他の薬師との差を突きつけられるかもしれない。

 それでも――。

 

「……やってみたい、って思えるんだよね」

 

 呟くと、クロが「にゃ」と短く鳴いた。

 その声が、背中をそっと押してくれる。

 

 新しい調合書。

 これまで積み重ねてきた経験。

 そして、そばにいてくれるクロ。

 

 全部を使って、今の自分にできることを、精一杯やってみよう。

 

 空を見上げると、冬の星が静かに瞬いていた。

 まるで、「大丈夫だよ」と言ってくれているみたいに。

 私は小さく息を吐いて、前を向く。

 

 一ヶ月後。その日を迎えたとき、私はどんな景色を見ているんだろう。

 少しだけ高鳴る胸を押さえながら、私は家路を急いだ。

あとがき


見て下さりありがとうございます!

手探りながら、自分の好きと読者様の好きが重なるそんな境界線上の物語を目指してます!


続きが気になると思ったら、

評価、ブックマーク、リアクション等

よろしくお願いします!


――誰かの心に刺さる、そんな物語を貴方に――

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