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戦うのは怖いので、黒猫《クロ》と一緒に薬師ヒーラーとしてスローライフを謳歌しますっ!  作者: 烏羽 楓


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第23話「新年会」

 ギルドの扉を開けた瞬間、いつもとは違う熱気が一気に押し寄せてきた。

 

 暖炉の火の匂いと、料理の香ばしさ。

 重なり合う話し声と、時折弾けるような笑い声。


 床を踏み鳴らすブーツの音さえ、今日はどこか楽しげに響いている。

 

「……わ、すごい人」

 

 思わず声が漏れる。

 視界いっぱいに広がるのは、見慣れた顔と、初めて見る顔。


 冒険者、受付、支援職――立場も装備もばらばらなのに、今は同じテーブルを囲み、同じ時間を楽しんでいる。

 新年会という言葉が、これ以上なく似合う光景だった。

 

「にゃっ」

 

 キャリーバッグから顔を出したクロが、きょろきょろと周囲を見回す。

 人の気配が多いからか、耳がぴくりと動いている。

 

「大丈夫だよ。今日は楽しい日だからね」

 

 そう声をかけると、クロは小さく喉を鳴らした。

 それだけで、胸の奥にあった緊張が少しほどける。

 

 私は辺りを見渡す。

 

 ――いた。

 人混みの向こう、長テーブルのひとつ。

 リナさんが笑いながらグラスを傾け、その隣ではタケルさんが大きな身振りで何かを話している。

 さらに奥には、受付嬢のサキさんが、料理を配りながら談笑していた。

 

 あの輪の中に、私の居場所がある。

 そう思えたことが、少し前の私には考えられなかった。

 

「あ、ミオちゃん!」

 

 こちらに気づいたリナさんが、ぱっと表情を明るくして手を振る。

 

「こっちこっち!」

 

 クロを胸元に抱え直しながら、私は人の間を縫ってそのテーブルへ向かった。

 

「明けましておめでとうございます」

 

「おめでとう、ミオ」

「来てくれて嬉しいよ」

 

 次々にかけられる言葉が、自然と心に染みていく。

 こうして迎え入れてもらえることが、こんなにも温かいなんて。

 

「……実は、皆さんに渡したいものがあって」

 

 私は少しだけ姿勢を正し、持ってきた布袋をテーブルの上に置いた。


 布をほどき、中から取り出したのは、淡く光る黄色の花。

 

「祈禱蘭です。この前、ダンジョンで採ってきました」

 

 一瞬、場の空気が止まる。

 

「……え?」

「祈禱蘭って、あの?」

「この時期の……?」

 

 次の瞬間。

 

「まじかよ!」

「すごいじゃないか!」

「縁起物じゃない!」

 

 声が一斉に弾けた。

 驚きと喜びが混ざった反応に、胸の奥がじんわり温かくなる。

 

「年末年始に贈るといいって聞いたので……。いつもお世話になってますし」

 

 そう言うと、リナさんが花を見つめながら、ふっと優しく微笑んだ。

 

「このタイミングで祈禱蘭もらえるなんて、縁起がいいな。なぁ、タケル」

 

「……このタイミング?」

 

 思わず首を傾げると、タケルさんが少し照れたように頭をかいた。

 

「実は、明日から新人冒険者の引率なんだよ」

 

「新人……?」

 

「しかも十五歳の男の子と、十四歳の女の子の兄妹パーティーなんですよ?」

 

 サキさんが補足するように、にこやかに言う。

 

「……え、その引率、タケルさんで大丈夫ですか?」

 

 一瞬の沈黙。

 

「どういう意味だよ!」

 

 即座に飛んできたツッコミに、テーブルは爆笑に包まれた。

 肩を揺らして笑う皆を見て、私もつられて笑ってしまう。

  

 笑いが落ち着いた頃、タケルさんが少し真剣な表情でこちらを見る。

 

「なぁ、ミオ。ちょっと頼みがあるんだけど」

 

「なんですか?」

 

「金は出す。新人たちに持たせるポーション、いくつか見繕ってくれねぇか?」

 

 その言葉に、胸の奥で何かがすっと定まった。

 迷う理由は、どこにもなかった。

 

「いいですよ」

 

 そう答えると、サキさんがすぐに頷く。

 

「じゃあ器具と部屋、用意しますね。素材もギルド持ちで」

 

 案内された別室に入ると――なぜか。

 

「……あの」

 

「ん?」

 

「ついてきちゃった」

 

 リナさんとタケルさんが、当たり前のように後ろに立っていた。

 

「なんだかんだ、ミオちゃんが調合するところ見るの初めてだなぁ」

 

「言われてみたら、確かに」

 

 その様子を見て、サキさんが小さく笑う。

 

「ミオさんがタケルさんを助けた時も、ここで薬を作ってたんですよ」

 

 一気に頬が熱くなる。

 

「そ、そんな……」

 

「照れるなって」

 

 軽く笑われながら、私は深呼吸をして、指先を器具に伸ばす。

 

 こうして人に見られながら調合するのは、正直、少し緊張する。

 失敗する気はしないけれど、それでも無意識に背筋が伸びた。

 

 ――大丈夫。

 いつも通り、やればいい。

 

 クロが足元でちょこんと座り、じっと私を見上げている。

 その視線に、ふっと肩の力が抜けた。


 

 ――鑑定。


 

 視界に浮かぶ情報を一つずつ確認しながら、手を動かし素材を一つずつ選別していく。


 表示される数値と特性を頭の中で整理しながら、必要な分だけを選び取る。

 

 薬草を刻む音。乳鉢を回すリズム。フラスコの中で、液体が静かに混ざり合っていく様子。

 集中が深まるにつれ、周囲の気配が遠のいていく。


 ここには、私とクロ、そして目の前の素材と薬だけ。

 

 回復ポーションは安定性重視。

 万能解毒薬は即効性を優先して。

 活力ポーションは、飲みやすさも考えて少しだけ香りを整える。

 

 ――引率をするタケルさんと、まだ若い新人たち。

 無事に帰ってきてほしい。

 

 そんな気持ちを込めるように、最後の魔力調整を行う。

 

 ふわり、と。

 フラスコの中で光が揺らぎ、やがて静まる。

 

 一本、また一本。

 

 確かな手応えを感じながら、薬を完成させていく。

 最後の栓を閉じた瞬間、張りつめていた集中がほどけた。

 

「ふぅ……完成っと」

 

 思わず漏れた声に――

 

「ミオ! お前すげーな!」

「この速さで、この精度……こんなの私も初めて見た」

「また一段と腕、上げましたね」

 

 次々にかけられる言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなる。

 

「にゃっにゃっ!」

 

 何故かクロが誇らしげに鳴くのを見て、思わず笑ってしまった。

 まるで自分のことみたいに喜んでいる。

 

 ――ああ、ちゃんと役に立てたんだ。

 

 その実感が、何より嬉しかった。

 ポーションを丁寧に梱包し、タケルさんに手渡す。

 

「本当に助かる。ありがとうな」

 

「いえ。無事を祈ってます」

 

 その言葉に、タケルさんは力強く頷いた。

 やがて彼らはギルドを後にする。

 

「そろそろ、私たちも帰ろっか」

 

「にゃ〜」

 

 席を立とうとした、そのとき。

 

「あ、そうだ!」

 

 サキさんが思い出したように声を上げる。

 

「最新の調合書、出たんですよ。よかったら」

 

 差し出された一冊を受け取り、思わず目を輝かせた。

 

「……ありがとうございます!」

 

 ギルドを出て、夜道を歩く。

 

「新しい調合書……どんなことが書いてあるんだろ」

 

「にゃ」

 

 クロの返事に、自然と笑みが溢れた。

 

 またひとつ、できることが増える。

 またひとつ、世界が広がる。

 そんな確かな予感を胸に、私は家路についた。

あとがき


見て下さりありがとうございます!

手探りながら、自分の好きと読者様の好きが重なるそんな境界線上の物語を目指してます!


続きが気になると思ったら、

評価、ブックマーク、リアクション等

よろしくお願いします!


――誰かの心に刺さる、そんな物語を貴方に――

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