第20話「聖夜のギルドホール」
――12月の夜。街は光に包まれていた。
窓の外には雪がちらちらと舞い、通りには赤や金の装飾が揺れている。
そんな中、ギルドのホールも例外ではなかった。
天井には光るオーナメント、テーブルには手作りの料理やケーキ、そして香ばしい七面鳥の匂い。
「わぁ……! まるでレストランみたい!」
ギルドの扉を開けた瞬間、私は思わず声を上げた。
部屋の中央には大きなツリーが立ち、その足元でクロが早速飾りにじゃれついていた。
「ミオちゃん、こっちこっち!」
リナが手を振る。
彼女は赤いワンピースに白いマフラーを巻いていて、いつもの鎧姿とは違う柔らかい雰囲気だ。
「リナさん、すっごい似合ってます!」
「ふふ、ありがと。今日は鎧じゃなくてクリスマス仕様よ。こういうのもたまにはね」
そんなやり取りをしていると、奥からタケルが大きな皿を抱えて現れた。
「おう、そっちのテーブル空いてるか? ほら、ターキーだぞ!」
香ばしい匂いが一気に広がる。
「え! これ、タケルさんが焼いたんですか?」
「俺が? んなわけねぇだろ、厨房のマスターだよ! でも味見係は俺だったけどな!」
笑い声が弾ける。
ギルドの夜は、少し早めのクリスマスパーティの始まりだった。
グラスが何度もぶつかり、談笑が絶えない。
お酒が進むにつれて、いつも冷静なリナが――。
「ねぇミオちゃん……ミオちゃんって、ほんと、えらいよねぇ……」
隣で、完全に酔っぱらったリナがテーブルに頬をすり寄せてくる。
「え、えらいって……?」
「だってぇ、ちゃんとお礼言えるし、笑顔かわいいし……リナねぇ、ミオちゃんのこと、ほんと好きぃ〜」
「リ、リナさん!? お酒強いって聞いてたのに!」
「ひっく……今日は特別〜。メリークリスマスなの〜♪」
タケルが苦笑しながら肩をすくめる。
「リナはワイン三杯が限界なんだ。ほっとけ」
「三杯でこれですか……!」
ふと視線を向けると、クロがタケルの腰の装具にぶら下がっていた。
鈴のように金属パーツを叩きながら、器用にぶらんぶらんと揺れている。
「お、おいクロ! それ外せ! 高かったんだぞ!」
「にゃーにゃっ」
「ちょっ、引っ張るなって! ――あああ!? 外れたぁ!?」
カチャリという音と同時に、装具の留め具が見事に外れて床に転がった。
ギルド中が一瞬静まり――そして爆笑の渦に包まれる。
「クロ、やっちゃったね……!」
「にゃああああ〜(どやっ)」
私は腹を抱えて笑いながら、壊れた装具を拾い上げた。
「あとで私が直しておきますね!」
「……ほんと頼むわ。こいつ、笑って済むのミオだけだからな……」
やがて時間が経ち、暖炉の火がやわらかく揺れていた。
誰もが頬を赤くして、満ち足りた笑みを浮かべている。
「ねぇミオちゃん」
リナが、カップを揺らしながら言った。
「最近、なんか雰囲気変わったよね。前より……自信に満ちてるというか」
「えっ、そ、そうですか?」
「うん。前は少し遠慮がちだったけど、今のミオちゃんは“何かを掴んだ人”の顔してる」
その言葉に、胸の奥が少し熱くなった。
――青い実のことは、まだ誰にも言っていない。
でも、《鑑定》を手に入れて、私は確かに前より強くなれた。
「実は……この前、新しいスキルを授かったんです」
「ええっ!? また!? そんなことあるの!?」
「たまたま、運が良かっただけですよ。……でも、それで少し、自分に自信がついた気がして」
「すごいなぁ……やっぱりミオちゃんって、只者じゃないんだね」
リナが笑う。タケルも驚いたようにグラスを置いた。
「スキル二つ持ちって、ほとんどいねぇぞ? それ、ギルド史に残るレベルだ」
「そんな……おおげさですよ!」
「いいや、すげぇことだ。……ま、今日は祝いの日だし、めでたい話は多い方がいい」
その言葉に皆が笑い、再びグラスがぶつかる音が響いた。
夜更け。
気づけばテーブルの上は空の皿とグラスでいっぱいになっていた。
リナはソファでクロを抱いたまま寝息を立て、タケルは床で丸太のように横になっている。
私は片づけをしながら、ふと立ち止まる。
暖炉の炎が静かに揺れ、赤と金の光が部屋を包んでいた。
その温もりが胸に染みる。
「……なんだか、学生の頃みたい」
思わず笑ってつぶやいた。
誰かと一緒に笑って、語って、夜を越す――そんな時間を過ごすのはいつぶりだろう。
クロが膝の上に乗ってきて、小さく喉を鳴らす。
「にゃ」
「うん……ギルドに入って、ほんとによかった」
外では、雪がしんしんと降り続けていた。
私はクロの背を撫でながら、静かな幸福に包まれる。
――クリスマスの夜は、優しい夢のように更けていった。
あとがき
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