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戦うのは怖いので、黒猫《クロ》と一緒に薬師ヒーラーとしてスローライフを謳歌しますっ!  作者: 烏羽 楓


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第2話「黒猫との出会い」

 夜風が、カーテンの隙間からひゅうと吹き込んだ。

 少し肌寒い風に思わず肩をすくめて立ち上がる。

 気づけば、机の上に放置してた空のペットボトルが小さく転がっていた。


「……窓、ちゃんと閉めてなかったっけ」


 ゆっくりカーテンを開けると、細い街灯の光が部屋に差し込む。

 静かな住宅街。遠くのコンビニの看板がぼんやりと光り、ネオンの青がガラスに揺れた。


 夜の空気は、冷たいのにどこか懐かしい。

 長い間こもっていたせいで、外の匂いを忘れかけてた。

 アスファルトと風の混じった匂い――

 それだけで胸の奥が少しだけざわつく。


 外の空気って、こんな感じだったんだっけ……。


 指先が微かに震えた。けれど、不安ではなかった。

 むしろ、静かな夜が「もう一度歩いてみよう」と背中を押してくれているようだった。


 ――少しくらい、歩いてみようかな。


 誰かに見られて困るわけじゃないけど、メイクをしていない顔を隠すようにマスクをして、薄いジャケットを羽織る。

 ポケットに手を入れると、昔病院で使っていた小さなボールペンが入っていた。

 インクはもう出ないけど、なぜか捨てられずにいる。


 外に出て階段を降りると、冷えた空気が私の頬を撫でた。

 アスファルトの上を歩くたび、使い古された靴の乾いた音が小さく響く。

 服や靴も、前は好きでよく買ってたのに、最近はめっきりだ。

 

 どこかソワソワした気持ちを抱えながら人通りの少ない住宅街の道を歩く。

 ふと立ち止まり、空を見上げると白い月が、薄雲の間からのぞいていた。


 夜道を歩くのは、本当に久しぶりだ。

 風が頬に当たる感覚も、心臓が静かに鼓動する感じも、ずいぶん忘れていた。

 歩くたびに、少しずつ現実に戻っていく、そんな感覚。


 ……案外、外って悪くないのかも。


 そんなことを思いながら、小さな公園の前を通り過ぎた。

 子どもたちの声が聞こえないブランコは、月の光を受けて静かに揺れている。


 ――カサッ。


 乾いた音がした。

 何かが動いた気配に思わず足を止めて辺りを見渡す。


 公園脇のゴミ捨て場。

 視線を落とすと袋の影に、黒いものがうずくまっていた。

 夜の闇に溶けるような毛並み。その中で、かすかに光る――紫の瞳。


「……猫?」


 声をもらした瞬間、小さく鳴き声が返ってきた。


「にゃ……ぅ」


 震えるような、弱い声。


 街灯の下まで来てようやく気づいた。

 前足のあたりから腹部にかけて赤く濡れている。


 血。


 黒猫の身体から流れる血を見た瞬間、呼吸が止まった。

 心臓が早鐘を打ち、喉の奥がひりつく。

 視界が滲み、過去の記憶が押し寄せてくる。


 ――救急室。

 赤く染まる床。震える手。鳴り響くモニター音。

 助けられなかった少女。

 “あなたに任せたのが間違いだった”と、誰かが言っていた声。


 やめて……もう思い出したくない……。


 一気に掘り起こされる記憶に足がすくむ。

 逃げ出したい。けれど、逃げられなかった。


 黒猫は、じっと私を見上げていた。

 まるで助けを求めるように。

 痛みに耐えながらも、ただ静かに。


 その瞳の奥に、あの日の“あの子”の面影が重なる。 


「……怖いけど、放っておけない……」


 震えながらも、私は膝をつく。

 考えるよりも先に体が勝手に動いていた。

 

 冷たいアスファルトの感触、黒猫の不規則に乱れた呼吸、どんどん速くなる私の鼓動。全てが、やけに鮮明に感じる。


「大丈夫……だよ。すぐ助けるからね」


 自分でも信じられないほど静かな声で言いながら、手を伸ばす。

 指先がそっと黒い毛並みに触れた、その瞬間――。


 ぱぁ、と眩い光が弾ける。


「えっ……なに、これ……!?」


 手のひらから、淡い金色の光が溢れ出す。

 光は柔らかく、空気に溶けるように漂いながら黒猫を包み込むと血に濡れていた毛並みが、少しずつ元の艶を取り戻していく。


 あたりは静まり返り、聞こえるのは自分の鼓動と、黒猫の小さな呼吸だけ。

 アニメとかでしか見たことのない光景に思わず目を奪われる。


 私の手から溢れる光は春の日差しのように温かかった。

 黒猫の傷口がみるみる閉じていき、血の跡が消えていくと次第に穏やかな呼吸を取り戻した。


「……治ってる……」


 あまりの出来事に言葉が漏れる。

 おもむろに掌を見ると中央には、淡く光る紋様が浮かび上がっていた。

 その紋様は一瞬輝くと光を失い消えていく。


 今の……なに……?


 驚きながら、自分の手を見ていると黒猫が目を覚まし私の指先に頬をすり寄せてきた。

 さらさらの毛並みが少しくすぐったい。

 私を見上げるその瞳は、夜の街灯を映して――まるで宝石みたいにきらめいていた。


「綺麗……」


 思わずこぼした言葉に、猫は小さく鳴いた。


「にゃーんっ!」


 その声が、不思議と心を落ち着かせてくれる。

 あんなに怖かった血の匂いも、今はもう感じない。

 掌に残るのは、ほんのりとした温もりだけ。


 ――突然、頭の中に声が響いた。


 《【固有スキル:癒やす者】が発現しました》


「っ!? ……スキル……?」


 辺りを見回す。でも誰もいない。

 声は確かに聞こえた。外ではなく、内側から。


 スキルって……冒険者になるために必要っていう、あのスキル?

 人によっては身体能力が上がったり、魔法が使えたりするって――

 でも、まさか……私が?


 混乱と驚きが入り混じる中、不思議と恐怖はなかった。

 代わりに胸の奥が、じんわりと温かい。

 何かが目を覚ましたような、そんな感覚。


 黒猫が立ち上がり、私の足元に体をすり寄せてくる。

 その柔らかい感触に、思わず微笑んだ。


「助けたつもりが、助けられちゃったのかもね」


 黒猫は小さく「にゃ」と鳴いて、しっぽを一度だけ揺らす。

 まるで同意するみたいに。


 夜風が通り抜け、街灯が揺れる。

 その瞬間、黒猫の身体に一瞬だけ紫の光が走ったように見えた。

 まるで、闇の中に宿る小さな星みたいに。


「……不思議な子」


 黒猫は私の言葉に応えるように、もう一度鳴いた。


 にゃーん。


 私はゆっくりと立ち上がり、夜空を見上げる。

 空に広がる無数の星と、月の青白い光が、まるでこの子と私の出逢いを祝福しているみたい。


 そう感じて、視線を再び黒猫の方へと落とす。


「……一緒にくる?」


「にゃう!」


 私の問いかけに返事をして、ごろごろと喉を鳴らす姿に、思わず笑みがこぼれた。

 その小さな声が、夜の静寂の中で妙にあたたかく響く。


 止まっていた時間が、ようやく動き始めた――

 そんな気がした。

あとがき


見て下さりありがとうございます!

手探りながら、自分の好きと読者様の好きが重なるそんな境界線上の物語を目指してます!


続きが気になると思ったら、

評価、ブックマーク、リアクション等

よろしくお願いします!


――誰かの心に刺さる、そんな物語を貴方に――

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