表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦うのは怖いので、黒猫《クロ》と一緒に薬師ヒーラーとしてスローライフを謳歌しますっ!  作者: 烏羽 楓


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/45

第18話「蒼い世界」

 ――静寂の中で、風の音だけが静かに響いている。


 気付いたら私は、どこか知らない場所に立っていた。

 足元には鏡のような水面。空と地面の区別がつかない。

 ただ、すべてが青く染まっていて、空気すら淡い光を含んで揺らいでいた。


「……ここは……どこ?」


 声を出しても、音が水に吸い込まれるように消えていく。

 息を吸うと、冷たい水のような感覚が喉を通り抜けた。

 目を閉じていたはずなのに、まぶたの裏が光っているような――そんな感覚。


 ふと、足元の水面に波紋が広がる。

 それは、風が吹いたからではない。

 “何か”がこの世界に入ってきたような、そんな圧を感じた。


 ゆっくりと、何かが浮かび上がってくる。

 それは――猫のような影だった。


「……クロ?」


 けれど、違う。

 確かに姿かたちは似ているのに、どこか違う。

 毛並みは影のように透け、身体の輪郭は揺らいでいた。

 

 その瞳は深海の底のような青で、じっとこちらを見つめている。

 やがて、その影が口を開いた。


『汝、視る者となる覚悟はあるか』


 耳ではなく、頭の中に直接響く声。

 音ではなく、“意味”そのものが流れ込んでくるような不思議な感覚。

 それは懐かしく、どこか温かかった。

 まるで、クロの声が心に直接語りかけてくるようで――。


「……視る、者?」


『真実は、姿を変えて隠れる。だが“視る”者だけが、それを掴む。この目を得る者は、虚構の膜を超えて世界の理を知る。』


 青い光が周囲に舞い、私の胸元から微かな光が溢れ出す。

 それは、あの青い実――。

 光の粒が実の形を取ったまま、ゆっくりと私の目の前に浮かぶ。

 その周囲を、青い猫の影が静かに回る。


『選ぶのは、汝自身だ。視る力は、祝福か、呪いか――』


 圧倒されるような気迫。

 世界そのものがその言葉に反応して震えた気がした。

 水面に映る自分の姿が揺らぎ、波紋が広がっていく。

 だけど、不思議と怖くはなかった。


「……はい。私は、視たいです」


 声に出した瞬間、胸の奥で何かがほどけた。

 誰かのために。

 もう、無力で立ち止まりたくない。

 見えなかったものを見て、守れるようになりたい。


『よかろう――では、その瞳に刻もう。』


 光が、私の身体に流れ込む。

 視界が白く染まり、熱がこめかみの奥で弾ける。

 目の奥が焼けるように熱く、でも痛くはなかった。

 むしろ、それは心臓の鼓動に合わせて広がる“生の熱”のよう――。


 まぶたの裏に、何かが焼き付くような感覚。

 そして、声が最後に告げた。


『――《鑑定》、汝に授ける。』


 光が弾け、世界が反転する。

 音が戻り、現実の空気が肺を満たした。



 ◆

 


 ――次の瞬間、私はベッドの上で飛び起きた。


「っ――はぁ、はぁ……夢?」


 息が荒い。心臓が痛いくらいに脈打っている。

 でも――夢じゃない。

 視界の端に、青い光がふわりと揺れていた。

 まるで“まだあの世界の名残”が、ここに残っているようだった。


「なに、これ……」


 視線を動かすと、机の上の薬草の上に、薄い光の文字が浮かんでいた。


【名称:マルベール草】

【品質:中】

【用途:回復薬の基礎素材】


「……っ!?」


 思わず声が漏れた。

 次に視線を動かす。

 瓶詰めにしたポーションにも、文字が浮かぶ。


【初級治癒ポーション】

【効能:軽度の外傷治癒・疲労回復】

【品質:良】


「見える……! 素材の情報が……!」


 まるで、ゲームのステータス画面みたい。

 でもこれは、現実だ。

 言葉を発した瞬間、情報の光が少し明滅し、私の意識に溶けていく。

 

「クロ……まさか、これが……」


「にゃっ」

 

 クロがベッドの足元で眠そうに顔を上げ、私を見上げて鳴く。

 まるで“そうだよ”と言っているみたいに。

 

 その仕草が妙に誇らしげで、思わず笑ってしまう。

 

 私は胸の前で手を握った。


 これが――新しいスキル。


【新スキル:《鑑定》を習得しました】


 視界に青いウィンドウが浮かび、私のスキル欄に文字が追加されていく。

 その瞬間、心の奥で何かが“開いた”ような感覚が走った。

 まるで世界の輪郭が少しだけ鮮明になったような――そんな感覚。


「……ありがとう、クロ。私、また一歩進めた気がする」


 クロは嬉しそうに尻尾を振る。

 その動きが、月明かりを受けて淡く光った。


 私は机に並ぶ素材をもう一度見つめた。

 ひとつひとつの素材に、確かな“名前”がある。

 それを“視る”ことができるだけで、世界の見え方がまるで違う。

 素材たちが、まるで「私はここにいる」と語りかけてくるようで、胸がじんわりと温かくなった。


「これで……もっと良いポーションが作れる。もっと、誰かを助けられる」


 その言葉を口にした瞬間、青い光がひときわ強く瞬いた。

 それは祝福のようでもあり、決意への返事のようでもあった。


 光がゆっくりと消えていく。

 けれど、胸の奥の熱はまだ冷めなかった。


 私は小さく息を吐き、微笑んだ。


 クロが「にゃ」と短く鳴き、私の隣に丸くなる。

 夜の静けさの中、私はそっと目を閉じた。

あとがき


見て下さりありがとうございます!

手探りながら、自分の好きと読者様の好きが重なるそんな境界線上の物語を目指してます!


続きが気になると思ったら、

評価、ブックマーク、リアクション等

よろしくお願いします!


――誰かの心に刺さる、そんな物語を貴方に――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ