第15話「クロの行先はダンジョン!?」
最近、クロの様子が少し変だ。
夜になると、こっそり部屋から抜け出して、朝になる頃に戻ってくる。
しかも――必ず、何かを咥えて。
乾燥させた薬草、魔石の欠片、見たこともない花のつぼみ。
どれも、調合に使えそうな素材ばかりだ。
「クロ……これ、どこから持ってきてるの?」
問いかけても、クロは「にゃー?」ととぼけたように鳴くだけ。
その尻尾の先が、なぜか少しだけ誇らしげに揺れていた。
最初は偶然かと思っていたけれど、三日、四日、そして一週間。
毎晩、欠かさず素材を持ち帰ってくるのだ。
まるで、私のために持ってきているかのように――。
「……うーん、気になる」
ある晩、私は決心した。
今日はクロの“おでかけ”の秘密を、こっそり追ってみよう。
夜の街は、昼間とはまるで違う顔をしている。
灯りの消えた路地裏を抜け、足音を殺しながらクロの後ろ姿を追う。
クロはすばしっこくて、影のように動く。
街の外れにある林の中へ入り、やがて小さな丘の方へ進んでいった。
その途中、私の靴が小枝を踏んで“パキッ”と音を立てる。
クロがピタリと止まり、鋭い紫の瞳がこちらを振り返った。
や、やば……! バレた?
息を止めて木の陰に隠れると、クロはしばらくこちらを見つめ――
しかし、何事もなかったかのように前を向いて歩き出した。
「……ふぅ、危なかった」
こっそり安堵の息をつきながら、私は再び後を追った。
やがて、木々の間にぽっかりと開いた洞窟の入口が現れた。
黒くぽっかりと口を開け、まるで夜の底に続いているようだった。
「……ダンジョン?」
まさかとは思ったけれど、どう見ても自然洞窟じゃない。
入口には、冒険者ギルドのマークが刻まれた古びた看板が立っていた。
『危険区域:入場には許可証が必要』
「えっ、嘘……クロ、まさかここに?」
目を凝らすと、黒い影――クロの小さな姿が洞窟の奥へと入っていくところだった。
「ちょ、ちょっと! 危ないってば!」
慌てて追いかけようとしたが、すぐに足が止まった。
冷たい空気が肌を撫で、洞窟の奥からはかすかな風の音が響く。
けれど――クロが無事に戻ってこれるのなら……きっと大丈夫、だよね?
そう自分に言い聞かせて、私は一歩、暗がりの中へと踏み込んだ。
中は思ったよりも広く、足元の岩は滑らかで天井からは水滴が“ぽたっ、ぽたっ”と落ちる音が響いている。
そして何より――壁一面に生えた苔が、淡く緑色に光っていた。
「わ……すごい……」
現実とは違う、“幻想的”という言葉がぴったりの空間。
まるで夜空の星がそのまま地面に降りてきたみたいで、怖さよりも美しさが勝っていた。
苔の光を頼りに、慎重に進む。
ところどころに薬草のような植物が生えていて、思わずメモを取りたくなる。
「こんな環境、自然じゃ考えられない……。もしかして、このダンジョン、まだ誰も探索してない?」
そんなことを呟きながら進んでいくと、前方に小さな影が見えた。
ピンっと立った耳、しなやかな尻尾――クロだ!
思わずクロの名前を声に出しそうになるのをこらえ、距離を保ちながらついていく。
クロは軽快に岩の上を跳ね、狭い道を抜けて、さらに奥へ奥へと進んでいった。
そして――急に視界が開ける。
そこには、小さな川が流れ、緑の草木が一面に生い茂っていた。
洞窟の中とは思えないほど明るく、どこからともなく柔らかな光が降り注いでいる。
上を見上げると、天井の一部が割れ、そこから光が差し込んでいた。
「なに……ここ……」
まるでファンタジー映画のワンシーンのようだった。
川辺には青く透き通る花が咲き、小鳥のような魔獣が水面をついばんでいる。
風も吹いていないのに、草がふわりと揺れていた。
その光景に、私は言葉を失った。
「すごい……」
気がつけば、ぽつりと呟いていた。
「にゃーん」
足元からクロの鳴き声がして驚いて下を見ると、いつの間にかクロが戻ってきて、私の足元にすり寄っていた。
「あ、ばれちゃったか」
「にゃにゃーん!」
まるで「遅いよ!」と言っているみたい。
クロは尻尾を立てて前へ歩き出した。
「え? まだ行くの?」
クロは一度だけ振り返り、鳴いてからまた進む。
仕方なく、私はその小さな背中を追った。
やがてたどり着いたのは、一際大きな木の根元だった。
洞窟の天井から光がちょうど差し込んでいて、まるで神殿のような雰囲気。
クロは木の幹をするりと登り、枝にぶら下がる赤い実をぺしぺしと叩いた。
ボトリ、と音を立てて落ちた実を、私は慌ててキャッチする。
「わっ……え? あたたかい?」
手の中の実は、ほんのりと熱を帯びていた。
リンゴのように見えるけれど、形はいびつで、うっすらと魔力の光が滲んでいる。
「これ……なんだろう? こんな素材、本には載ってなかったような……」
クロは満足そうに「にゃー」と鳴き、枝から軽やかに降りてくる。
その様子がまるで、「これを取りに来たんだよ」と言わんばかりだった。
「クロ、もしかして……これを取りに?」
「にゃにゃっ」
得意げな表情。まるで“褒めて”と言っているようで、私は思わず笑ってしまう。
「もう……心配したんだから。でも、ありがとう」
そう言って木の実を胸に抱いた、その瞬間――。
――ギャギャッ!
耳をつんざくような叫び声が洞窟内に響いた。
心臓が一瞬で凍りつく。反射的に振り返ると、森の暗がりから小さな影が次々と姿を現した。
皮の鎧をまとい、錆びたナイフや棍棒を構える、緑色の小鬼たち。
数を数える暇もなく、五体ほどのゴブリンがこちらを睨みつけていた。
「う、うそ……モンスター……!?」
息が詰まり喉が乾く。
頭の中で“戦えない”、“逃げられない”という言葉が渦を巻いた。
私は、武器なんて持ってない。
冒険者じゃない。ただの薬師なのに――!
ゆっくりと、ゴブリンたちが近づいてくる。
光を反射して、刃がぎらりと光った。
あとがき
見て下さりありがとうございます!
手探りながら、自分の好きと読者様の好きが重なるそんな境界線上の物語を目指してます!
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