第11話「肉球印の証明書」
リナさんたちの協力もあって、素材の供給は見違えるほど安定した。
毎日のように新鮮な薬草や魔物素材が届き、私はますます調合に精を出すようになった。
瓶が並ぶ机の上を眺めていると、なんだか研究室に戻ったような気分になる。
でも今は、あの頃と違って――心が穏やかだ。
「よし、これで今日の分も完成っと」
ポーションの栓を閉め、私はキャリーバッグに詰め込む。
クロがその横で、しっぽを揺らしながらこちらを見上げていた。
「はいはい、ちゃんと一緒に行くからね」
「にゃっ」
そんな返事を聞きながら、私はギルドへ向かった。
ギルドの扉を開けると、少し懐かしい声が耳に入った。
「――あれ、ミオじゃないか!」
「えっ、タケルさん! お久しぶりです!」
受付近くで談笑していたタケルさんが、手を振ってこちらへ歩いてくる。
あの日以来の再会だけど顔色もよく、元気そうだった。
「この前の活力ポーション、本当に助かったよ! おかげで遠征中もバテずに済んだ。ありがとな!」
「いえいえ、こちらこそ使ってもらえて嬉しいです。今、量産に向けて準備中なんです。もう少ししたら安定して出せると思います」
「そうか、それは楽しみだな!」
そう言って笑うタケルさんだったが、ふと声のトーンを落として話し始める。
「……ただ、最近ちょっと気になる噂を聞いてな。ネット経由で“猫ポ”の偽物が出回ってるらしい」
「えっ……偽物、ですか?」
思わず息をのむ。
タケルさんは眉を寄せて続けた。
「効き目は本物より劣るが、悪くはないらしい。それでいて安い。だから、買う人が増えてるみたいなんだ」
その言葉に胸の奥がきゅっと締めつけられる。
思い返せば、最近ポーションの売上が少し落ちていた。
まさか、それが原因だったなんて――。
「そんな……どうしたらいいんだろう」
考え込んでいると、クロの鳴き声が聞こえた。
「にゃーん!」
「ん? クロ、どうしたの?」
視線を向けると、クロがキャリーバッグからいつの間にか抜け出していた。
しかも――足が黒いインクまみれだ。
「あ、ちょっ、クロ! それはダメ!」
慌てて駆け寄ると、クロがぺたぺたと受付カウンターの上を歩いていく。
真っ白な書類の上に、小さな肉球の跡がいくつも残っていた。
「ああああ……すみませんサキさん! クロが……!」
すぐに抱き上げて頭を下げる。
けれどサキさんは苦笑しながら、汚れた書類を見つめていた。
「いえいえ、大丈夫ですよ。……でも、なんだか可愛いですね、これ」
彼女の視線の先には、綺麗に並んだ肉球スタンプ。
その跡を見つめて、サキさんがぽつりと呟いた。
「……もしかして、これ、使えるかもしれませんね」
「え?」
「偽物対策です。猫ポの瓶と一緒に、この肉球の印を“証明印”として付けるんです。本物には“クロちゃんの証”がある――そんな形でブランドを守るみたいな」
「なるほど……! 確かに、それなら見分けがつきますね!」
タケルさんも腕を組み、感心したように頷く。
「面白いじゃないか。クロの肉球印付きが本物ってわけだな」
「ふふっ、なんだか可愛いけど、いいアイデアかもしれません」
私は思わず笑顔になった。
サキさんの発想は、まさに“猫ポ”らしい。
家に戻ると、私はさっそく作業に取り掛かった。
証明書のデザインを考え、コピーをいくつも作る。
そして、机の上に以前クロが持って帰ってきた赤い実を取り出した。
「この実、いい香りなんだよね。インクにして使ってみようか」
すり鉢で丁寧に潰すと、ほのかに甘い香りが部屋に広がる。
それをインクに混ぜ、小さなスタンプ台を作った。
「クロ、ちょっと手を貸して?」
「にゃ?」
クロの前足をそっと掴み、スタンプ台にぽんと押す。
そして、証明書の隅に軽くタッチさせる。
――小さな、赤みがかった肉球の跡。
ほんのり甘い香りが残り、見た目も可愛い。
「よし、いい感じ!」
その作業を何度も繰り返し、完成した証明書を瓶に添える。
これで“本物の猫ポ”の証ができた。
クロが隣で尻尾を揺らしながら覗き込む。
「よし、これで少しでも“こっちがいい”って思ってくれる人が増えたら嬉しいね」
「にゃーんっ!」
その元気な返事に、思わず笑みがこぼれる。
――小さな黒猫の足跡が、“猫ポ”という名を守る証。
クロと協力して完成させるポーションって、なんだかいいかも。
私はそんなことを思いながら、外を眺めるクロに視線を向ける。
窓から流れ込んだ風が、私とクロを応援するかのように優しく頬を撫でた。
あとがき
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