第10話「人との繋がり」
ギルドの扉をくぐると、今日も明るい声とざわめきが広がっていた。
そんな中、カウンターの奥でいつものようにサキさんが忙しそうに書類を整理している姿が目に入った。
「こんにちは、サキさん」
「ミオさん! こんにちは。調子はどうですか?」
「えっと……その、今日は少し相談があって来ました」
私は両手を胸の前でぎゅっと握る。
サキさんが不思議そうに少し首を傾げると微笑んで席に案内してくれた。
「それで、一体相談とは?」
「実は……ポーションを作る素材を、もう少し安定的に手に入れたいんです。ダンジョンに自分で行けたらいいんですけど、やっぱり怖いし……戦えないので」
「なるほど。確かに素材は安定しないと困りますね」
サキさんは顎に手を当て、少し考えるように目を細めた。
「だったら、冒険者さんに採取依頼を出してみるのはどうでしょう?」
「採取依頼……ですか?」
「ええ。欲しい素材を指定して、ギルド経由で依頼を出すんです。冒険者が集めてきた分を報酬と引き換えに受け取る仕組みですね」
そんなことができるんだ……。
初めて聞く仕組みに、思わず目を丸くする。
確かにその方法なら、自分がダンジョンに行かなくても素材が手に入る。
「ただ、依頼を出すには少し手数料がかかりますけど……それでもミオさんには合ってると思いますよ」
「はい、ぜひお願いしたいです!」
私が身を乗り出したそのとき――背後から落ち着いた女性の声がした。
「サキ、猫ポは入荷してるか?」
振り返ると、長い銀髪をひとつに束ねた女性が立っていた。
背筋の通った姿勢に、涼やかな眼差し。
どこか冷静で、空気を変えるような存在感を持っている。
「リナさん、こんにちは。入荷してますよ」
サキさんがすぐに笑顔で応じる。
猫ポって、なんだろう……?
首を傾げる私に気づいたのか、サキさんがくすっと笑った。
「“猫ポ”って、ミオさんの作ったポーションのことですよ。瓶の封に黒猫のシールを貼っているでしょう? それでみんな、猫ポーションって呼んでるんです」
「えっ、そうなんですか!?」
思わず目を丸くした。
黒猫のシールは、単なる目印のつもりだったのに――そんな呼び名までついていたなんて。
「ふふ、可愛い名前ですよね」
「……なんだか、照れますね」
頬をかきながら笑っていると、視線を感じて顔を上げる。
リナさんがこちらをじっと見つめていた。
真っ直ぐで、少し探るような瞳。
「もしかして、あなたが“猫ポ”を作っている薬師か?」
「え、あ……はい。一応、そうです」
答えた瞬間、リナさんの表情がぱっと明るくなる。
そして、私の手をがしっと掴んだ。
「そうか! あなたのポーションは、とても効くし、味もいい! 重宝してて、いつも助かってる!」
「え、えぇっ!? そ、そんな……ありがとうございます!」
いきなりの賛辞に、顔が熱くなり胸の奥がじんわりと温かくなった。
“直接ありがとう”と言われるのは、やっぱり嬉しい。
「それにしても……今、素材の相談をしていたのか?」
「はい。実は素材がなかなか集まらなくて……安定供給できる方法を探してて」
私が答えると、リナさんは腕を組んで少し考え込む。
「それなら、私のパーティが請け負おうか? 採取には慣れてる。何をどのくらい必要か教えてもらえれば、見積もりも出せる」
「えっ、いいんですか!?」
「もちろん。あなたのポーション、うちのメンバー全員が愛用してるんだ。恩返しだと思ってくれ」
リナさんの言葉に、胸が熱くなる。
でも、すぐに現実的な考えがよぎった。
「うぅ、でも……依頼料が高くなりすぎたら、ポーションの値段が上がっちゃうし……」
私は小さく唇を噛む。
素材を安定させたい。でも、コストが上がるのも避けたい。
どうすればいいんだろう。
「どうした? わからないことがあればなんでも話してくれ」
リナさんが穏やかに声をかける。
私は意を決して、正直に悩みを打ち明けた。
「素材の数が多くて、全部依頼したら費用がかさみそうで……。でも、足りないと作れないものもあるし……」
リナさんは“んー”と唸り、ちらりとサキさんを見る。
「サキ。依頼って、達成報酬じゃなく成果報酬制もあったよな?」
「はい。ミオさんの場合は、その方式が合うかもしれませんね。指定した素材ごとに単価を設定して、納品分をギルドが立て替え払いする形です」
「え、そんなこともできるんですか!?」
「もちろん。ミオさんのように継続的に使う人は、この方式が多いですよ。その分、ギルドも素材管理しやすくなりますから」
「ぜひ、それでお願いします!」
思わず声が弾んだ。
サキさんが微笑みながら、すぐに依頼書の作成に取り掛かる。
「いい案が見つかってよかったですね。私も、ミオさんのポーションがもっと生産されるのは嬉しいです」
「ありがとうございます!」
「私たちも協力するから安心して任せてくれ。猫ポの素材、きっちり集めてくるよ」
リナさんが軽く笑い、私の肩を叩いた。
「はいっ、本当にありがとうございます!」
胸の奥がじんと熱くなる。
少しずつでも、自分の作ったポーションが誰かの役に立って――
こうして、人との繋がりを作っていける。
もっと頑張って作っていかないと……!
私は笑顔で頭を下げた。
サキさんは書類にペンを走らせ、リナさんが手を振る。ギルドの中には穏やかな空気が流れていた。
――その日を境に、“猫ポ”という小さな名が、冒険者たちの間で静かに広がっていった。
あとがき
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