中二病剣士、スパイスに敗れる
――闇も光もスパイスの前では平伏す。――
◆
ギルドで初ザマァを決めた翌日、
俺は街はずれの訓練場でチリパウダーを撒き散らしながら自主練していた。
「ふっ……カレーの香りが風に乗る……。
今日も世界は平和だ」
「いや平和ぶっ壊してるのあなたですからね!」
ミナ(受付嬢)がツッコむ。
だが俺は胸を張った。
「インドの平和はスパイスから始まるんだよ」
「意味がわかりません!」
そんな時――
空気が急に冷え込んだ。
◆
「……聞こえるか。愚かな者どもよ」
訓練場の中央に、黒い影が立っていた。
黒衣。漆黒のマント。銀色の長髪。
そして大きな片眼帯。
完璧な“中二病キャラ”である。
「私は《虚無を喰らう剣姫》ニコル……
闇に選ばれし者だ」
「名前めっちゃかわいいな!?」
「(ギルド来るの間違えてない?)」
ミナの突っ込みを無視して、ニコルは剣を構えた。
「昨日、スパイスで街を救ったと聞いた……
だが、それは偽りの力!
真の強者とは、“闇”を背負う者……!!」
「そっかそっか。はいはい、テンプレ中二病ね」
「テンプレ……!?」
「なろうでよく見るよ。
カタカナ技名、黒いマント、片眼帯はガチャSSR級の中二病セット」
「やめろ! 私だって……!
好きでこうしてるわけじゃないんだから!!」
「え、そうなの!?」
◆
ミナが耳打ちしてくる。
「ラージュさん、この子ね……
本当はただの冒険者なんだけど、
“厨二こじらせすぎて友達がいない”って噂の……」
「あー、なるほどね。つまり――」
「な、何を話している!」
「(かまってほしいタイプだ)」
「黙れぇぇぇぇぇ!!!」
ニコルが剣を向けてきた。
「勇者ラージュよ!!
貴様の“スパイスの力”……試させてもらう!!」
「オッケー。インド式模擬戦ね?」
「違う! 闇の決闘だ!!」
「はいはい」
◆
◆決闘開始
黒い風が吹き、落ち葉が舞い上がる。
「来いッ! 闇を裂く剣、《アビス・ブリンガー》!!」
ニコルの剣が黒い軌跡を描いた。
……エフェクトだけはめちゃくちゃカッコいい。
「すごい……! あれ本物の闇魔法……?」
「いや、ただの煙玉だよ」
「やっぱり!?」
俺はスッと手を前に出した。
「《スパイス創造》ッ!」
現れたのは――
まばゆい黄金色の粉。
「なっ……その光は……何だ……?」
「ターメリックだ」
「カレーの粉ーッ!?」
「これが俺の闇……じゃなくて、スパイスだ!」
◆
「くらえ!!
インド式目潰し、《ターメリック・ジャッジメント》!!」
「やめ……やめろおおおおおお!!?」
ニコルは目を押さえその場で転げ回る。
「ぐああああああああ!!
眩しいッ!!! いや、痛いッ!!
あとなんかカレーっぽい匂いするぅぅぅ!!」
地面でもがきながら、涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃだ。
「ミナ、止めなくていいの?」
「いや……なんか、ちょっと笑っちゃって……」
「それな」
◆
数分後。
「……私の、負けだ」
片膝をついたニコルは、
完全に敗北した中二病キャラのそれだった。
「くっ……認めたくはない……
だが……貴様のスパイス……
闇を超える……!!」
「そこまで言われると嬉しいな」
「くそぉ……ッ
負けたのに……なんか……カレー食べたくなってきた……」
「あ、デレ期入った?」
「入ってない!!」
「はい入ったー」
「入ってないって言ってるだろ!!(赤面)」
◆
ミナがニコルの肩にそっと手を置く。
「ニコルちゃん……
友達ほしかったら、ラージュさんのパーティに入れば?」
「は? やだ!!」
「やだ(加入フラグ)」
俺は笑って手を差し伸べた。
「来いよ、ニコル。
闇を抱えてようが中二病だろうが、
インドのスパイスは全部受け止める」
「……っ
……ば、馬鹿じゃないの……?
でも……まあ……その……」
銀髪が揺れ、長いまつげが震える。
「……一応、仲間になってあげてもいい……」
「はい加入確定!!」
「うるさい!!!」
◆
こうして――
俺のパーティに新たなヒロインが加わった。
黒衣の中二病剣士、
《虚無を喰らう剣姫》ニコル。
闇の力は弱いが、
ツッコミどころは世界最強だった。
そして俺は思う。
――この世界、スパイスでだいたいなんとかなるな。




