勇者ラージュ、異世界ギルドをスパイシーにする
――受付嬢よ、覚悟せよ。インド式挨拶は距離が近い。――
◆
魔物襲撃をスパイスで撃退した翌日、俺は街の中心にある巨大な建物――冒険者ギルドへ向かった。
ギルドといえば、異世界テンプレの宝庫である。
◎無愛想な受付嬢
◎ガラの悪い冒険者
◎主人公を舐めてかかる上級者
◎なぜか都合良く居合わせる美少女ヒロイン
◎そして、“勇者の潜在能力に気づく老人マスター”
こういうの全部、だいたい揃っている。
インド人として心の準備も完璧だ。
「よし、今日もスパイシーに行くぞ」
ギルドの扉を押し開けると――
「……なんか、思ったより普通だな」
中はきれいで整然としていた。
冒険者たちも意外と真面目に依頼を読んでる。
……ちょっと拍子抜けだ。
「あなたが昨日の……インドの勇者様ね?」
振り返ると、茶髪のポニーテールの少女が立っていた。
白と紺の制服を着た、どう見てもギルド受付嬢だ。
「こんにちは。勇者ラージュです。
インド式挨拶、していい?」
「え……インド式?」
「こう!」
俺は両腕を勢いよく広げ、ハグしようとした。
「きゃあああああああああああ!!!」
少女は全力で逃げた。
「あ、ダメ? 日本でもあんまりダメだったけど」
「い、異世界でもダメです!!
距離感が、ちょっと……!」
なるほど。インド式は文化の壁が高い。
「それで、私が案内します。ギルドの説明を……」
「説明しなくていい。“ギルド案内シーン”は長いと読者が飽きるから!」
「読者……?」
「あ、気にしないで。俺、たまにメタいこと言うから」
「意味わかりません……」
◆
だが、受付嬢――ミナによる説明はやっぱり必要だった。
というのも、俺のスキル《スパイス創造》は、魔法属性としては異常に分類が難しく、ギルドとしても扱いづらいらしい。
「ラージュさんの魔法は……攻撃? 補助? 料理?」
「全部です」
「全部……?」
「インド映画って何でもアリだからね」
ミナは頭を抱える。
「とりあえず登録は完了しました。
今日は簡単な依頼から受けてみてください」
「オッケー。じゃあ、まずは――」
俺が掲示板に近づいた時だった。
「おい新人! 邪魔だ!」
肩をどつかれた。
振り返ると、筋肉ムキムキの大男が睨んでいた。
きた。
ギルド舐めプ上級者イベント
「おまえ、昨日の隅っこの騒ぎのやつだろ?
スパイス? ハッ、笑わせるぜ。料理人の間違いじゃねえのか?」
「まあ……料理人でもあるけど、勇者でもあるよ」
「んだと!? おまえ、俺たちベテラン冒険者と同じ場所に立てると思うなよ!」
大男は周囲の冒険者たちに向かって吠える。
「おい見ろよ! こいつ、肌が濃いし髭が濃いぞ!」
「それもう偏見だよね!?」
そこへミナが止めに入る。
「バロンさん、やめてください!」
「ミナちゃんよぉ……俺はな、弱い奴が嫌いなんだよ。
特にな、見たこともない国から来た異国のガキなんざ――」
「はい、ザマァカウンター入ります!!」
「は?」
「あなた、今から俺に負けて見直すイベントの人だから!」
「負けるか!!」
◆
そのまま、ギルド訓練場で模擬戦をすることになった。
冒険者たちが見守る中、バロンは巨大な斧を肩に担ぎ、不敵に笑った。
「料理勇者よぉ。おまえ、後悔すんなよ?」
「後悔は俺しない。するのはあなたの胃袋だ」
「胃袋……?」
「だって、スパイスだからね!!」
バロンが斧を振り下ろす――!
「《スパイス創造》ッ!」
俺の手に現れたのは、赤く輝くチリパウダー。
「目を閉じろ!!
インド式フラッシュバン、《デリーレッド》!!」
「がああああああああ!!!?」
バロンは目を押さえて倒れ込んだ。
「い、痛えええ!! 目がああああ!!」
「いた……?」
ミナは口元を押さえて震えた。
「ラージュさん……今、バロンさんに……唐辛子を……?」
「そう。“目に入ったら死ねる唐辛子”だよ。デリーの伝統」
「伝統なの!? インド怖い!!」
バロンは涙を流しながら地面に貼り付いた。
「ゆ……勇者さま……覚えてろ……!!!
だが……こ、これだけは言わせてくれ……」
「お、来るな? 見直しセリフ」
「カレー……
カレーは……認める……! あれはうまい……!!」
「そこ!? そこ評価するの!?」
周囲の冒険者はどっと笑い、拍手が巻き起こる。
「勇者様すげえ!」
「スパイスだけでバロンを倒したぞ!」
「インド……やっぱり魔境……!」
ミナも微笑んだ。
「ラージュさん、あなた……本当に強いんですね」
俺は親指を立てて言った。
「当たり前だよミナ。
インド人の戦いはいつだって――
スパイスから始まるんだ」
こうして俺は初のギルドザマァを華麗に達成した。
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