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勇者ラージュ、異世界ギルドをスパイシーにする

――受付嬢よ、覚悟せよ。インド式挨拶は距離が近い。――



 魔物襲撃をスパイスで撃退した翌日、俺は街の中心にある巨大な建物――冒険者ギルドへ向かった。


 ギルドといえば、異世界テンプレの宝庫である。


◎無愛想な受付嬢

◎ガラの悪い冒険者

◎主人公を舐めてかかる上級者

◎なぜか都合良く居合わせる美少女ヒロイン

◎そして、“勇者の潜在能力に気づく老人マスター”


 こういうの全部、だいたい揃っている。


 インド人として心の準備も完璧だ。


「よし、今日もスパイシーに行くぞ」


 ギルドの扉を押し開けると――


「……なんか、思ったより普通だな」


 中はきれいで整然としていた。

 冒険者たちも意外と真面目に依頼を読んでる。


 ……ちょっと拍子抜けだ。


「あなたが昨日の……インドの勇者様ね?」


 振り返ると、茶髪のポニーテールの少女が立っていた。

 白と紺の制服を着た、どう見てもギルド受付嬢だ。


「こんにちは。勇者ラージュです。

 インド式挨拶、していい?」


「え……インド式?」


「こう!」


 俺は両腕を勢いよく広げ、ハグしようとした。


「きゃあああああああああああ!!!」


 少女は全力で逃げた。


「あ、ダメ? 日本でもあんまりダメだったけど」


「い、異世界でもダメです!!

 距離感が、ちょっと……!」


 なるほど。インド式は文化の壁が高い。


「それで、私が案内します。ギルドの説明を……」


「説明しなくていい。“ギルド案内シーン”は長いと読者が飽きるから!」


「読者……?」


「あ、気にしないで。俺、たまにメタいこと言うから」


「意味わかりません……」



 だが、受付嬢――ミナによる説明はやっぱり必要だった。


 というのも、俺のスキル《スパイス創造》は、魔法属性としては異常に分類が難しく、ギルドとしても扱いづらいらしい。


「ラージュさんの魔法は……攻撃? 補助? 料理?」


「全部です」


「全部……?」


「インド映画って何でもアリだからね」


 ミナは頭を抱える。


「とりあえず登録は完了しました。

 今日は簡単な依頼から受けてみてください」


「オッケー。じゃあ、まずは――」


 俺が掲示板に近づいた時だった。


「おい新人! 邪魔だ!」


 肩をどつかれた。

 振り返ると、筋肉ムキムキの大男が睨んでいた。


 きた。


 ギルド舐めプ上級者イベント


「おまえ、昨日の隅っこの騒ぎのやつだろ?

 スパイス? ハッ、笑わせるぜ。料理人の間違いじゃねえのか?」


「まあ……料理人でもあるけど、勇者でもあるよ」


「んだと!? おまえ、俺たちベテラン冒険者と同じ場所に立てると思うなよ!」


 大男は周囲の冒険者たちに向かって吠える。


「おい見ろよ! こいつ、肌が濃いし髭が濃いぞ!」


「それもう偏見だよね!?」


 そこへミナが止めに入る。


「バロンさん、やめてください!」


「ミナちゃんよぉ……俺はな、弱い奴が嫌いなんだよ。

 特にな、見たこともない国から来た異国のガキなんざ――」


「はい、ザマァカウンター入ります!!」


「は?」


「あなた、今から俺に負けて見直すイベントの人だから!」


「負けるか!!」



 そのまま、ギルド訓練場で模擬戦をすることになった。


 冒険者たちが見守る中、バロンは巨大な斧を肩に担ぎ、不敵に笑った。


「料理勇者よぉ。おまえ、後悔すんなよ?」


「後悔は俺しない。するのはあなたの胃袋だ」


「胃袋……?」


「だって、スパイスだからね!!」


 バロンが斧を振り下ろす――!


「《スパイス創造》ッ!」


 俺の手に現れたのは、赤く輝くチリパウダー。


「目を閉じろ!!

 インド式フラッシュバン、《デリーレッド》!!」


「がああああああああ!!!?」


 バロンは目を押さえて倒れ込んだ。


「い、痛えええ!! 目がああああ!!」


「いた……?」


 ミナは口元を押さえて震えた。


「ラージュさん……今、バロンさんに……唐辛子を……?」


「そう。“目に入ったら死ねる唐辛子”だよ。デリーの伝統」


「伝統なの!? インド怖い!!」


 バロンは涙を流しながら地面に貼り付いた。


「ゆ……勇者さま……覚えてろ……!!!

 だが……こ、これだけは言わせてくれ……」


「お、来るな? 見直しセリフ」


「カレー……

 カレーは……認める……! あれはうまい……!!」


「そこ!? そこ評価するの!?」


 周囲の冒険者はどっと笑い、拍手が巻き起こる。


「勇者様すげえ!」


「スパイスだけでバロンを倒したぞ!」


「インド……やっぱり魔境……!」


 ミナも微笑んだ。


「ラージュさん、あなた……本当に強いんですね」


 俺は親指を立てて言った。


「当たり前だよミナ。

 インド人の戦いはいつだって――

 スパイスから始まるんだ」


 こうして俺は初のギルドザマァを華麗に達成した。



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