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エピローグ

初めて入る聴罪室は少しひんやりしていた。

薄暗い部屋で、僕ははじめて彼と顔を合わせた。


「ではあなたは異星人なんですね?母星の外交交渉は期待できませんか?助けてもらうことができるんじゃないですか」


彼はまっすぐ僕を見つめ、でもあきらめたように言った。

「駄目なんです。ここと星交がないために僕は偽造書類を使って来てしまったので、正規のルートで助けることはできないと突き放されてしまいました。とにかく今月中には処刑が執行されると聞いています。ただでも遅れているためにドラゴンが落ち着かないらしく部族の人々も怯えていて、どうにもならないとコーディネーターの人に匙を投げられてしまいました。もうどんな手をつかっても、刑の執行を止めるのは無理なんだそうです」


隅の寝茣蓙の周りには習作のようなスケッチが数枚散乱している。

黒く光るドラゴンの群れ、睨むドラゴン、羽ばたくドラゴンの絵。

僕はドラゴンにはまるで興味はないが、それにしても彼が描いたのであろう絵は素晴らしい出来栄えで、僕は思わずその一枚を手に取った。

彼は、気にいった絵があれば是非持って帰ってくれと言う。

どれも見事なタッチの絵でなかなか選べないでいる僕に、彼は一枚の絵を示した。

「よければこれを持って帰ってください」

それは、見ようによっては、微笑んでいるかのようにみえるドラゴンの絵だった。


「異星人のあなたがどうしてこんなことに?何故、罪人を処刑から逃すような危険な行為をあえて他人のためにしたのですか」

僕は最初からの疑問をぶつける。


彼は静かに答えた。

「僕は確かに見過ごすことはできました。見て見ぬふりをして、些細な罪、罪とすらいえない行為をおかした人が水刑に処されるのを黙って見ていることもできました。でも、もしそれを選べば、僕はきっと生きながら死ぬことになる。実は、あるように見えていても選択肢なんてなかったのです。そしてそういう事態に陥ったとき、陥った当人にしかわからないこともある。当事者にならなければわからないことがあるのです。」


彼は言った。


「あなたには今、選択肢があるのかもしれない。でも実はないのかもしれない。あなたの今置かれた状況についてわかるのはあなただけ」


そして、彼は僕を見つめる。

その瞳はドラゴンのように静かに燃えており、やや微笑んでいるかのよう。


僕は彼から目をそらせないでいる。



END



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