前編
とりあえず1回目の投稿です!
初めて物語作るので、できるだけ短く纏めて試行錯誤しやすくしたい…!
設定作るだけでクソ時間かかったし、制作期間はできれば2週間以内に終わり切りたいけど…いけるんか?
気品、知性、風格、力。
魔王とはそれら全てを持ち、圧倒的な暴力とカリスマによって抑圧する、ただ一人の支配者。
…しかし、誰もかれもが魔王に従うわけではなかった。
「貴様ーーー!吾輩が誰と知っての狼藉かーーー!」
普通に裏切られてしまった。
完全に不意を突かれて片腕を失い、幾重もの魔術による縛りをつけられる。そうした厳重な弱体化を施された結果、魔王は逃げの一手を選ぶ他なかった。
血だまりの痕跡を作りながらも、魔王はがらんどうな一室へとたどり着く。石造のその部屋の隅では蜘蛛が巣を張り、見てわかるほど埃が目立つ。永年とはいかずとも、数年は放置されたのだろうと推測できた。
「クソッ…!やはりこの手を使うしかないのか!」
追手を確認し、苦い顔でそう呟く。
魔王の最後の手段がここにはあったのだ。
入り口からみて右横にある壁を、拳の側面で八つ当たりのように叩く。そうすると、壁が衝撃で弾け飛ぶと共に、中から小さな空間が出て来る。それは額縁があれば隠れるほどの小さな長方形の隙間であり、その真ん中には黒く濁った拳大の水晶玉があった。魔王はそこに手を翳し、赤い霧のような魔力を捧げる。それは奔流の如き流れを作りながらも、明確に水晶玉の中に流れ込む軌跡を作り出した。そうして数瞬の後、水晶玉が赤に満たされて鈍く光る。
ガタンと音がしたのを確認し、部屋の奥側を見やる。そこには、地面のコントラストに溶け込むよう赤黒く霞む魔法陣があった。
魔王はその魔法陣に手を当て、ブツブツと魔術の詠唱始める。それと同時に魔法陣が鈍い光を帯び始め、鮮明な赤が部屋中を柔く侵食していく。
しかし、魔王の詠唱を掻き消そうとするかの如く、コツ、コツ、コツと足音が聞こえ始める。それは段々と反響を大きくし続け、やがて真後ろから響き始めた。
「それで、抵抗は終わりなのですか?魔王陛下?」
妖艶に発されたそれには敬称が含まれるものの、その愉悦の顔を見れば多分に嘲笑が含まれることがわかる。人一人分はあろうともする竜の太い尻尾をパシンと打ち付け、手に持つ扇で口元を隠す。
嫌な笑みを浮かべるこの女は、国の宰相であった。
「さて、陛下。最後の悪足掻きなのですが…」
宰相は軽く片手を上げた後に、ずぶりと魔王の胸中を貫く。魔術の光を血飛沫が覆い隠した。
「ブチ殺させて頂くことで、確実に阻止させていただきます」
ドサリと倒れる魔王。魔法陣が隠れるぐらいに、簡単に血溜まりができてしまう。
「あなたが他にどんな能力を持っているか不明な以上、部下に殺させるのが1番安全にはなりますが…」
宰相はコツコツと足音を鳴らながら魔王の目前で右往左往する。
「陛下を傷つけられるほどの部下は、この場に間に合っておりませんのでね。陛下の素晴らしい足止めの成果ですよ!おめでとうございます!」
にこやかな笑みを浮かべ、「パチパチパチパチ」と、声に出して手を叩く。そうしたかと思えば、百面相のようにすぐさま眉を寄せて疑問顔作り、人差し指を頬に突き出す。
「…もって後数分といったところでしょうか?…さて、陛下は一体、どのような手段でこの状況を打破して下さるのでしょうか?」
無駄に会話を長引かせているように見えるこの女。しかしその実、一切の抜かりも油断も無かった。
即死させなかったのは魔術によるダメージの反転を警戒し、万が一でも自分が助かる目を残すためのもの。会話を続けているのも、味方を待って万全の状態を期すためのもの。
中途半端にダメージを与えたのは、未知の詠唱を発動させない、或いは長引かせて時間を稼ぐためのもの。
万が一の予定外を補足し続けていたのだ。
「わかっているとは思いますが、陛下。あなたの能力の5割は封じ、その上でワタクシには絶対的な防御を施させていただいております。あなたにワタクシを傷つける手段などありません」
宰相は、死に体の敵を依然として魔王と見続けていたのだ。
相手の持てるカードを確実に把握し、その手札を封じた上で確実に潰す。それが宰相という人物だった。
宰相は魔王がとれる最善の一手一手を確実に潰し続けている。逃げ道などない、そのように思えたが…。
「……ずっと、温めていた魔術……」
魔王の呟きに反応し、思わず警戒をとる宰相。
血反吐を吐きながらも「ククク…」と笑う魔王。息も絶え絶えで宰相をギラリと睨み、そのぼろぼろな体を震い立たせた。
「ク…ククク…馬鹿目が…。吾輩の…目的は、…初めから、死ぬことにある…」
魔法陣の輝きが最高潮に達し、光の線が右往左往する。
初めはよくわかっていないように目を細める宰相だった。しかし、だんだんと言葉の意味を理解したのか、やがて目を見開いて驚愕を作る。
「この紋様…貴様ッ!まさか!」
『ルミナ・ヴィタ・ノーヴァ』
ほくそ笑みながら呪文を唱えきる魔王。慌てて魔王の頭を片手で握りしめ、リンゴを握り潰すかのように『ぱきゅん』という音を立てて握り潰す。内容物がぴゅるるると果汁のように飛び出し、その土台となる身体が崩れ落ちる。魔法陣は光を失っていた。
その光の終焉を見終えた宰相は、既に入れ物として機能していないそれを見落とし、青筋を立てながら拳を握る。
「彼奴奴…あらゆる手札を警戒してはいたが、…それでもなお…、まさかこのような手段までをも持っていたとは…」
そう言って、暗くなった魔法陣を見下ろす。
魔王の最終手段とは、この魔法陣を利用した転生魔術であった。
暗転した視界にはやがて光が差し込み、それが脳内に目の前の景色を届ける。
目の前には、自身を抱く女が一人、若い男が一人、顔に皺が入った老婆が一人。…そして、褐色で、赤ちゃん特有の丸っこくて小さな手のひらがある。魔王自身の手だ。
このまま自身の能力、知識を活用し成長できさえすれば、再び魔王の座を取り戻すことも十分に可能に思えた。
「(勝ったな!ガハハッ!)」
そう将来に確信を持つ魔王。
…しかしどうしてだろうか。
ヒトも魔王も、今の自分にできることは、環境が変わっても出来るものだと無邪気に信じ切ってしまう。
魔王の次の人生とは、はたしてまた魔王として生きれるものなのだろうか?
「(しかしこの親ども、なぜ子供が生まれたというのにこんなに顔を強張らせているんじゃ?)」
運命を決めるサイコロとは、神にも、魔王にもわからないものであった。
━━━━━━━━━━━━━
この現実に、『感動』は無い。
例えばそう、生物とは、遺伝というプログラムに操作される物体でしかない。全ての感情と行動は、遺伝子が自身を複製するために存在する。そんな感情や行動に振り回されたとしても、最終的に残るものなんて、何も無い。
例えばそう、どれだけ血の滲む努力をしたとしても、それが叶うかは運次第だ。自身の能力値は遺伝と環境で決まり、それらが全部揃っていたとしても、運が良くないと思うような結果は得られない。はたして、そんなものに自身の苦しみを捧げる必要なんてないだろう。
例えばそう、どれだけ拒もうが望もうが、現実は簡単に壊れる。人間はすぐに死ぬ。繋がりは簡単に壊れる。環境も関係も、すぐに変わる。大切だと勘違いしていた現実は、簡単に壊れるだろう。
例えばそう、人間は生まれながらに一人で、すべてのことは自己責任だ。性善説なんて当然間違いで、誰もかれもが自分のことで精一杯。人間は、生まれながらに自己中として作られる。
そういう虚無感を、僕は『現実』と呼んでいる。
現実に感動は無い。
「ちょっと!おい!そこのおまえ!」
公園のベンチでぼんやりと座る僕に声がかかる。ハツラツとした少年の声だった。
なんとなしにあやたかのラベルにある俳句を見ていたが、下げていた頭を上げて前を見る。
そこには、僕と同い年程度の少年の姿があった。特に顔に覚えがなったため、疑問を強くしながら「どうしたんだい?」と首をかしげる。
「ちょっとさ!おれのけんきゅう?ってぇやつを手伝ってほしいんだよ!」
「けんきゅう?」
「なつやすみの自由研究だよ!ほれ!みてみろよ」
そう言った少年は、両手を両ポケットに突っ込み、ぐぐぐーっと無理矢理にナニかを握りしめて取り出す。無理矢理引っ張ったせいか、少しポケットの端が破れていた。
「ほら!これ!」
両手を僕の目の前に突き出し、その手を開く。
…がしかし、とんでもなく汚かった。思わず顔を顰める。手の中に入っていたのは、数種類のお菓子と惣菜類、そして…虫の死骸。そんなものをどうするのかと、思わず背筋を振るわせて聞いた。
「蟻の好きな食べ物を調べるんだよ!ペットボトルのキャップに食べもんを一個ずつ入れてさ、どれに1番蟻が集まるのかなってさ!」
少年は、「ほら、お前のペットボトル」と言って、僕が握っていたものに指をさす。
「キャップがいっこたーりなくてさー!飲み終わったら貸してくれよ!」
ああなるほど、と深く納得する。「今でも大丈夫だよ」と、ペットボトルのキャップを外し、中のお茶を一気に飲み込む。「はい」という一言と共に手首のスナップをきかせ、キャップをキャッチボールの容量で軽く投げた。少年は慌ててキャッチする。
キャップを確認した少年が笑顔になるや否や、「お前いまひとり?」と言って僕が座っているベンチの隣に座り込み、肩を組んでくる。非常に馴れ馴れしいやつであった。
「そういやさ、お前いま何してんの?ひとりで公園なんかきても、面白くもなんともないだろ?」
「…別にひとりじゃないよ。爺ちゃんと来てるんだよ」
少し離れているところでは、筋骨隆々とした爺さんと、犬につけたリールを持つおばさんが駄弁っている。僕はそこを指差し、「ほら、あそこ見てみて」少年に伝える。
「あのおばちゃんは謎だけど、あそこにいる爺ちゃんと来てるんだよ。今は休憩中。最近はこうやって、定期的に爺ちゃんと公園に散歩しにきてるんだよ」
そう言って少年の顔を見る。少年は、興味なさげに「ほーん」と一言だけはっし、「じゃあお前いま暇だよな!」とキラキラした目でいう。感情が態度に出過ぎである。
「暇なんだよな!」と念押しに確認してくる少年の圧に負け、面倒な予感を抱えはするが、つく嘘が思い浮かばず、渋々と「ま、まあそうだね」と肯定を示す。
それならと、少年は立ち上がって僕の腕を掴む。無理矢理に立たせようとして、「じゃあおれのけんきゅうを手伝ってくれ!」と強引に引っ張りこむ。
「いやー!たすかるよー!友達全員さ、なんか『バニーガーデン』?っていうやつをやるって言って聞かなくてさ…。ひとりでやんのかぁってちょっと萎えてたんだよ!」
なぜか勝手に研究を手伝わせられることになっていて耳を疑う。
「ちょ!他にも暇そうに遊んでる人いるよ!」と反射的に掴んでいる手を引き離そうとしたが、普段から運動なんてせず、読書か勉強かゲームしかしていないインドア派の自分に抗う術などない。
「ぐはぁ」と声にならない悲鳴をあげたが、一切の容赦遠慮なんてない。引っ張られるままにベンチから滑り落ち、流されるがままに運ばれた。
「おお!ここに巣があるじゃん!」
しばらく運ばれた後、いつの間にか雑草が生い茂る場所に来た。土の地面にはぽつぽつと蟻が点在し、その中心には小指が入りそうな程度の穴があった。
少年は歓喜をあげると共に、すぐさまに用意したであろう荷物を広げる。そうして食べ物の名前が書かれている紙を等間隔で敷き、その上にキャップを置く。渋々と僕もそれを無言で手伝った。
最後にキャップの上に一個ずつ汚い食べ物を配置して、「よし!」と満足げに少年は頷く。
虚無顔でされるがままの僕に、「なあ、どれが1番食われると思う?」と少年が笑いかけた。
「おれはな…」と飴を指差し、「無難にこおゆういかにもなやつだと思う!」と興奮気味に話す。その後もしばらくはそんな感じだった。少年は、好奇心に任せて僕に話し続ける。
そんな顔を見ていてやっと気づく。…他にも子供は居たのに、何故わざわざ見ず知らずで味気なさそうな僕に話しかけたのか?
疑問ではあったが、ここでやっとわかったのだ。
『誰でもいいから、自分の考えを誰かに話したい』
少年を見る限り、そんな理由が浮かんできた。
僕に声をかけたのは、きっと少年のこの性分のせいだからなのだろう。
と、ふとここで、少年が捨てずに持っていた、飴が入っていた袋に目がいく。袋には『キシリトール』と書かれていたのだ。
「ねえ、この飴ってなんの飴なの?」
そう聞くと、少年は動きを止めた。そうしてピンときてなさそうな顔で「確か…のど飴かなんかだった気がする…」と適当そうに話す。
「多分、この飴は食べられないはず」
今だはてな顔の少年をよそに、「見てればわかる」と勝手に自己完結させた。
そうして数分後、結果は予想通りのものとなった。飴だけを避けるようにして食べ物に群がる。そこにあるのは当たり前の現実だった。
「な、なんでこうなったんだ…!?やっぱのど飴だったのがだめだったかな!?」
困惑する少年をよそに、僕は一匹の蟻の足を摘んで持ち上げた。
「蟻は人工甘味料を食べないんだよ」
僕はそう言って、摘んで持ち上げた蟻の触角を弾く。
「蟻は触覚で食べ物を見分ける。その過程で、蟻は人工甘味料を食べ物だと認識できないんだ」
「ん?よくわかんないけど、蟻はこれを美味しいと感じないの?一応甘いのに?」
僕はキャップに入っている飴を摘んで持ち上げた。
「…蟻は人工甘味料を食べ物と認識できないから、仮にコレが美味しいものだったとしても、一生かかってもコレを食べようとはしない」
なぜ僕はこんなくだらないことを解説しているのだろうか?
ふと我に返り、隣の少年を見てみる。少年は興味深そうに、じーっと僕が持つ蟻を見ていた。
「蟻にはまともに学習する能力がないんだ。一応、餌場の位置とか餌の質を学習する時もあるけど、殆どの場合が短期的で、長期的な学習なんてしない。蟻の行動は9割が遺伝で、1割が環境って言ってもいいと思う」
僕は蟻の胴体も軽く摘むと、足と胴を反対に引っ張るようにして引き剥がす。なんの抵抗も感じなかった。
「蟻は痛みを感じない。嫌がってるように見えるのは、遺伝で元から作られている反射行動でしかない」
僕はそういって、蟻を指先ですり潰してしまう。『ぱきゅん』という音が聞こえた気がした。
「遺伝に支配されたままの行動をとり、自分が好きなものすら学習できない」
「まるでロボットみたいだ」
ああそうか。
やっとわかった。
少年と同じで、これは少年に言っていたわけではない。
僕は僕自身に言っていたんだ。
「…よくわからんけど…お前の方がロボットみたいだわ」
苦々しく呟く少年に思わず、「確かに…」と空返事してしまう。
「お前今何歳?」と唐突に質問をする少年。僕は首を傾げながら、「十歳だけど…」と答える。「年下かよ…こんな十歳児いやだ…」と、またもや顔を顰める少年。追従するように僕も、「うーん、確かに…」と言葉をもらした。
ふと、自分がすり潰した蟻を見てみる。
生まれに四苦八苦し、遺伝に振り回されて生きる。
少年の言う通りだった。
この蟻と僕に、一体どれほどの違いがあるのだろうか?
…そう、大した違いなんて無かったんだ。僕も、この蟻も。
ちょうど父さんと母さんも、こんなふうにすり潰されて死んでいる。
「だから意味なんてないんだよ」
こんな研究なんて。
そんな考えをもらした。
両親の死は、とても悲惨なものだった。
原因は、対向車線を走っていたトラックの暴走だ。
高速道路で運転していたにも関わらず、トラックが急な方向転換をした。そのように横暴な運転など対応できるはずもなく、トラックの前面が車に対して斜めに衝突し車を押し込む。運悪く、押し込まれた先には壁があった。車はトラックと壁に挟み込まれ、前席を押し潰す形で半壊した。
前席に座っていた両親は、当然のように即死だった。
車のボンネット部分から力に任せて変形し、すり潰され、そのままフロントガラスが弾けるように割れる。ガラス片の猛雨の中、衝撃はやがて操縦席にも到達した。いつの間にか両親は変形したドアやらトラックのフレームやらと板挟みになっていた。物量が両親の身体を徐々にすり潰し、気づいた時にはもう、『ぱきゅん』という音と共に両親の頭が弾け飛んだ。内容物はすぐさま霧散し、血とガラスがみぞれのように降りかかった。針を数箇所縫った程度で済んだ僕は、それはとても幸運だったのだろう。
…しかし不思議なもので、とても悲惨だということは分かっているのに、両親が最後にどんな顔をして、何を言っていたのかをはっきりと思い出せない。
何よりも、何一つとして悲しくならなかったのだ。
「こんなところに居たのか」
快活で酷い濁声の中に、確かな朗らかさを感じる声。なんだか無性に懐かしく感じた。
蟻の観察をやめてふと上を見上げると、背後に爺ちゃんが立っていた。
しわくちゃの顔で、いつものように口角を上げたニコニコ顔。見方によってはアホ面だ。それに反して肉体の方は筋骨隆々で、刃牙かどっかから出てきたのかと見紛うほど。
爺ちゃんは少年と少し話したあと、「そろそろ帰るぞー」なんて言う。そんな爺ちゃんに対し、僕はただただ「うん」と頷くのみ。いつも通りに流されるばかりだった。
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散歩道から帰宅する途中、手を繋いでいる孫の顔を見る。真っ暗な瞳孔。どこを見ているのか分からないし、何を考えているのかも分からない。
そんな何もない表情を見ていると思い出す。
娘とその旦那が事故に遭い亡くなったと知ったのは、忘れもしない、4年前のあの夏の日。ちょうど今日のような夏晴れだった。
連絡を受けた私は、思考を切り捨てるように遺体安置所へ向かった。
寝転がされた娘は即死だったらしく、当たり前のように顔を布で覆っていた。
職員に顔の布を取ってもらう許可を求めた。精神的にショックを受ける可能性があると説明を受けたが、皆同じ気持ちだった。
せめて、最後に一目だけでも顔が見たい…と。その気持ちが、私達に少しの勇気を与えたのだ。
…そのはずだった。
娘の頭部がひしゃげたその姿に、私も、誰も、声すら出せなかった。背筋が震え、喉の奥がきゅっと鳴るのを感じた。何も出来なくなった。
この時私が感じたものはなんだったのか。恐怖、緊張、絶望、はたまた、娘を殺した誰かへの怒りだろうか?
ぐるぐると思考が交錯した。
私は、娘の死に顔すら見れなかったのだ。
私の孫は、幸いにも軽症で済んだ。
角部屋の病室。夏だというにも関わらず、窓からは高所特有の冷たい風が入り込む。孫の寝床はそこに設置されていた。
病室特有のあらゆる白が、夏の日差しを乱反射する。孫はその光に囲われるように座っていた。
なんて声をかければいいのか分からなかった。
ついさっき娘の死に顔を見た私でさえ、ここまで心が乱雑になるのだ。目の前で親を亡くしたこの子は、一体どのような心境なのだろうか?
『爺ちゃん』
棒立ちしていると、孫の方から声をかけてきた。
『父ちゃんと母ちゃんは、死んだんだよね?』
現実を受け入れられないのだろう。無理もない。事態が唐突過ぎて、私ですら未だ夢見心地なのだ。子供がこんな現実を受け入れられるはずがない。
…しかし、それが分かったところでかけるべき言葉など見当たらない。まともに顔すら見れなかった。
『死んだ…死んでしまったんだ』
そう言い淀むしか出来なかった。口に出して初めて実感が湧いた。そうか、死んだのか…と。気がつけば、私は嗚咽を漏らしながら泣いていた。
『…だよね…。ふつうは泣くんだよね…』
返ってきた返事はおかしなものだった。
思わず涙を止めて顔を上げる。
ようやっと見れた孫の顔は、悲しみにくれて涙痕ができていたわけでもなく、恐怖に顔を引き攣らせていたわけでもない。当然、幸せそうに微笑むわけでもない。
ただただ単純に、何も分かっていないようにきょとんとしていた。
『どうして僕は、涙が出ないんだろう?』
明らかな異常を感じた。
このぐらいの年齢の子は、まだ死という概念を理解できていないとも考えた。…いや、それとはまるで違う。理解し難い、不条理なナニカを感じた。
嫌な汗が出た。このままそのナニカを見落とせば、それこそ今よりも酷い地獄を見る気がする。そんな恐怖と絶望が入り混じったざわつきだ。
私は、そのざわつきに突き動かされるがまま、孫を連れて病院の医者に助けを求めた。すると、とある精神科の医者を紹介される。促されるがまま、神頼みのように私は助けを求めた。
『現実感喪失症候群という精神病です』
医者が判断したナニカはそれだったようだ。
『簡単に言えば、夢の中にいるように現実が不安定に感じられ、周囲の世界の現実をうまく認識できなくなるという、乖離性障害のひとつになります』
つまり、ことのいきさつはこうだ。
現実感喪失症候群を引き起こすトリガーは様々ある。その一つとして挙げられるのが、強いショックを受けることだ。事故のショックにより、孫は現実感喪失症候群に陥った。
現実感喪失症候群の典型的な症状として、『見ているものが写真のように見える』、『自分のことなのに、まるで他人事のように感じてしまう』などがある。それらのような症状の結果、孫は現実の認識を歪めてしまい、親の死を正しく死だと認識出来なくなった。悲しみさえないほどに。
なんとも胸糞の悪い話だ。
私が娘の最後の顔を見れなくなるばかりか、孫には死の認識さえさせてくれない。
圧倒的な不条理に、思考と感情が纏まらなかった。
こんな不条理を引き起こしたクズに復讐をすればいいのだろうか?
…いや、そんなことをしてしまったら、この子のケアは一体誰がするのだろうか?
…そもそも、この病気になったのは不幸中の幸いだったのではないか?両親の死を、こんな幼い年齢で直視せず済んだとも考えられるが…。はたして、そんな理由付けにどれほどの価値があるのだろうか?
頭に考えが浮かんでは消え、浮かんでは否定し、目まぐるしく回る感情と思考の奔流に呑まれる。
しかして、それらを押さえつけながらも時間は過ぎていく。
孫は早々に退院し、それに合わせて葬儀が行われた。
葬式の後にあった孫の後見人決めも、私が申し出たこともあり、思いのほかすんなりと終わるものだった。
そうして数ヶ月がたった。
孫との二人暮らしは思いのほか楽だった。無論、孫がとても大人しく、家事の手伝い等もしてくれていたおかげではあるが。
…ただひとつ、この時疑問が生じた。確かに元々大人しい性格ではあったが、今のように本やネットを読み漁るような子ではなかったのだ。それもエンタメ系だけでなく、私が普段読むような学術誌などにも手をつけ始めていた。
単純に疑問がでた。孫の中で一体、どのような心境の変化が起きたというのか?
私は、直接に聞いてみたのだが…。そうして出た答えに、私は、今なお答えが出せずにいる。
『この現実に感動は無い』
それを確認するためだよ、と。そんな返答だった。
『例えばそう、生物とは、遺伝というプログラムに操作される物体でしかない。全ての感情と行動は、遺伝子が自身を複製するために存在する。そんな感情や行動に振り回されたとしても、最終的に残るものなんて、何も無い』
『例えばそう、どれだけ血の滲む努力をしたとしても、それが叶うかは運次第だ。自身の能力値は遺伝と環境で決まり、それらが全部揃っていたとしても、運が良くないと思うような結果は得られない。はたして、そんなものに自身の苦しみを捧げる必要なんてないだろう』
『例えばそう、どれだけ拒もうが望もうが、現実は簡単に壊れる。人間はすぐに死ぬ。繋がりは簡単に壊れる。環境も関係も、すぐに変わる。大切だと勘違いしていた現実は、簡単に壊れるだろう』
『例えばそう、人間は生まれながらに一人で、すべてのことは自己責任だ。性善説なんて当然間違いで、誰もかれもが自分のことで精一杯。人間は、生まれながらに自己中として作られる』
『そういう虚無感を、僕は『現実』と呼んでいる』
しかしそれは、自分を救うためなどではなかった。
『現実に感動が無いとすれば、僕が感じていることの説明がつくんだ』
『父さんと母さんが死んで、僕は悲しくならなかった。それはつまり、僕は感動をしなかったということだ』
『感動とは、良い悪い含めて心が動くこと。僕が感じた、不安とか、寂しさとか、嬉しいとか。そういったもの全ては本来、遺伝子を優位に作るために作られた偽物でしかない。』
『人間は、感動がある方が遺伝子が残しやすいんだ。家族だとか親戚だとか、そういったものに愛着を持ち、普通はそれらを守ろうとする。自分の遺伝子を残せなかった時の保険のために、近しい遺伝子を守るために。自分一人生存するより、一族全員が生き残る方が、よほど近しい遺伝子を残せる可能性が高いんだ』
『…別に、そんなものどうでもいいことなのに』
『他のみんなが泣いていたのは、そんな偽物を誤認していたからだ。本当は、現実にそんなものなんて存在しない。あるのは虚無だけだ。』
『だから僕が悲しくならないのは仕方がない』
『感動が無いなら僕が悲しくならなかったことは正しいことのはずなんだ』
『初めから、そんなものは存在しなかったんだ』
『自分が本当に好きなものなんて存在しない』
『初めからいらなかった』
『生まれてくる子供も、別に僕じゃなくてもよかった』
『だからしかたなかったんだ』
『こんなに無駄な不安を感じるくらいなら、初めから生まれなければよかった』
『だからこの現実に、感動は無い』
それは、自分を正当化するためだけの言い訳だ。
しかし、そんな妄想の否定などできるはずもない。
…何故ならば私自身、現実に対する感動を忘れてしまったからだ。
妄想と切り捨てることが出来なかったのだ。
私はそっと孫を抱きしめた。
本当なら、私が感動を教えなければならない。
でも出来なかった。
…私は、この子と共に成長する必要があるのだろう。
そうだ、神頼みではいけない。私がこの子を助けなければいけないのだ。
その日から、私は変わることを決意した。
孫の病気を治すため、年金暮らしをやめてアルバイトを始めた。稼いだ金で美味しいモノを食べさせたり、楽しいところに連れていった。楽しさを覚えれば、病気の改善に役立つと考えた。
散歩に連れて行くようにもした。良い景色と適度な運動で、少しでも改善に向かえば良いと思った。
…しかし、それでも孫の病気は治らなかった。
時々、孫を抱きしめるようになった。そういう時は毎回、いつもの『きょとん』とした顔をする。
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散歩から帰ったあと、僕は逃げるようにして自室に入り浸る。
いつもの流れだった。
本棚が入り口から左隅に一個、右の窓際にベッドが一個、真ん中に丸型の小さなテーブルが一個と、6畳ほどの僕の部屋はそんなシンプルな様相をしている。
…しかし、部屋の家具や置物のシンプルさと相反するように、床は乱雑としたものだった。
左手にある本棚はほぼ使わない。読んだ本を全て床に置いていたところ、気づいた時にはもう、教科書や学術誌、小説、漫画なんかが乱暴に散らばっていた。
本だけでは無い。丸テーブルの横にはゴミ箱があるが、そんなものは無視せんとばかりにペットボトルや紙くず等が放り捨ててある。
…自分でも片付けなければとは感じるのだが、なぜかその気は起きない。たまに、爺ちゃんが部屋に入った時に一緒に片付ける程度だ。
散乱とした部屋の中、ゴミに埋もれているゲーム機を無造作に手に取った。有名なファミリー層向けのゲーム機だ。
おもむろにベッドに転がり込み、仰向けで電源を入れる。起動したゲームはファンタジー系のRPGソフト。
爺ちゃんが大学の先生だったので、その影響で少し前までは爺ちゃんが持っている学術誌や小説ばかりだったが、最近はこういったものでも暇をもてあそんでいるのだ。
ぼーっとゲーム画面を見つめていた。
そうするとふと、蟻の観察を一緒にした少年との会話を思い出す。
少年は、蟻という未知に好奇心を持ち、感動をしていた。
僕にとってのこのゲームは、少年にとっての蟻と同じようなものなのだろうか?
…いいや、違うだろう。
これは一度始めたものをずるずると続けてしまう、ただの惰性からくるものだ。ちょうど、動画サイトで流れてくる動画をダラダラと見続けるようなもの。少年の正常な好奇心とは比べることすら烏滸がましいだろう。
現実に感動はない。
…しかし不思議なことに、最初に本物だと勘違いしているのならいざ知らず、初めから偽物とわかっているものならば、なぜだか居心地が良かったのだ。
少年の時も、葬式の時もそうだった。皆が感動をするのは、他人との繋がりを本物だと勘違いしているからに他ならない。だから皆誰かの行動に感化され、誰かの言葉に不安を覚える。きっと、それらを感動と呼んでいるのだろう。
しかし、所詮どこまでいっても他人は他人で、生き物とは元来孤独なものなのだ。
皆、初めから勘違いをしているのだ。
それに気づかない、或いはそれから目を逸らし続けているから感動が存在するなんて勘違いをする。そして、感動が無いと知って虚無に陥る。
初めから無いとわかっていれば楽になれるのに。
…しかし不思議なことに、このように整合性がとれる思考にも関わらず、ふとした瞬間に正体不明の不安が蠢くのだ。
なんの不安感かはわからない。ハエに蛆を植え付けられたのかのような、そんな不快な感覚だけが常に胸中に残り続ける。ヒトが感じることに、正しさなんて関係ないんだろう。なんて面倒な性質なのだろうか。
僕はこの思考を早々に切り捨てた。適当なところでゲームの電源を落とし、部屋の明かりを消す。結論が既に決まっているのに、向き合うだけ時間の無駄でしかない。
ゆっくりと瞼を下ろした。もう寝なければいけない。
明日からもまた、同じような毎日が続くのだから。
ーーーーーーーーーー
蝉が泣き喚き、夏の暑さと湿気が陽炎を作り出す。
いつもの如く散歩の途中で公園のベンチに座り込み、だらんと空を仰ぐ。しかしいつもと違うことに、この日は特別に暑かった。そうすると、自然と喉が渇いてくる。
一口、二口、三口と、気がつけば無我夢中でお茶を飲み耽っていた。気がつけば即座にペットボトルのお茶は空になる。お茶がこぼれるように二、三回逆さにして振ってみたが、水滴がぽたりと落ちるのみだった。
少し遠くにいる爺ちゃんをみやる。毎度お馴染みのよく分からないおばちゃんと雑談していた。散歩する度に毎回毎回おばちゃんに絡まれる爺ちゃんだが、このおばちゃん、別に親戚というわけでも旧知の中でも無いらしい。爺ちゃんすら誰かわかっておらず、本当に謎に絡まれるのだ。
年寄り同士のこのフットワークの軽さはなんなのだろうかと、そんなことを思いながら立ち上がり、お茶のペットボトルを近くのゴミ箱に捨てる。
夏の日差しは容赦がなく、先ほど摂取した水分を即座に吸い取って汗へと変えてしまう。
お茶を飲んだばかりだというのにもう既に喉が渇いていた。…いや、お茶だからこそ余計に喉が渇いてしまうとも考えられるが…今この際では、そんなたらればは既にどうでもよくなっている。
兎にも角にも水が飲みたかった。
水を買ってもらおうと思い爺ちゃんの方を見てみる。まだ楽しげに話をしていた。
ここ最近は徐々に会話の時間が伸びている感じがするが、話が合うのだろうか?
そんな会話を邪魔するのも忍びないと思い、公園の給水機を使うことにした。
給水機は、今いる西の芝生エリアとは真反対の東のアスレチックエリアにあった。
この公園は大きいとまでは言えないが、西の端から東の端まで徒歩数分程度かかるぐらいの規模感であり、そこそこ歩く。そのため今まではあまり給水機を使ってはいなかったが、今回はこの微妙な時間を潰したかった。だからこそ、この絶妙な距離感がちょうどよかったのだ。
ゆったりと立ち上がり、一度爺ちゃんの方を確認する。こちらのことには気づいていない様子だ。
そのままそそくさと道沿いに進み、公園中央に向かって進む。
公園の周囲は清潔感のある緑に覆われている。どこもかしこもヒトの手が入り、定期的に手入れが入っているのが見受けられる。
しかし、中央にひっそりとある公衆トイレは別だった。若干の古臭さと、周囲にある無造作な植物で覆われており、そこにヒトがよりついていないことを簡単に想起させる。実際、このトイレを使っているヒトをこれまで見たことがない。
そんな陰気じみたトイレを最短で抜けた先に、目的の給水機はあった。
周囲の木の葉の揺れをぼーっと眺めながら歩く。そうして数分の後、気がつけば目の前に小汚い草木の塀が現れる。
人ばかりの高さはあろうその塀は、往々にして夏の熱風と蝉の騒音により揺れ動く。それに合わせ、そこに巣食う蜘蛛や名前も知らない害虫もまた細かく震える。
塀は公衆トイレの周囲を囲い込み、反対の東の道からトイレの入り口へと続く道以外を完全に塞いでいた。
僕はその塀にそる形で回り込み、東のアスレチック側へ移動しようとしたのだが…。
『………ァ…』
蝉の鳴き声と木の葉の騒めきに紛れてはいるが、それとはまた異質の何かが耳の奥に引っかかった。
思わずと立ち止まり、どこから音がするのかと耳を澄ます。
「………ごめ…さ…………」
小声ながらも高く幼い声がぶつぶつと聞こえる。この枝葉でできた塀の中からだった。
純粋な好奇心というよりも、奇異の存在に対して思わずと振り返るような、そんな驚きにより動かされる。
音が出ないよう、慎重に手で枝葉を掻き分けて塀に目が少し出るくらいの穴を作る。そうして覗くと、トイレと塀の間に畳二枚分ほどの空間がぽっかりと空いており、そこには少女が一人と二人の少年がいた。
細長い銀髪に褐色の肌。ルビーのように赤い瞳がそのつり目を映えさせていた。ちょうど、昨日やったゲームに出てもおかしくないような、少女はそんなファンタジー感を持った特別な容姿だ。
…しかし同時に、そんな容姿とは反対に少女の服装は見窄らしいものだった。
ぶかぶかで肩が少し出ている白いTシャツは、所々で薄汚れて灰色になっており、首元や袖口なんかはびろびろ。下は今にもズリ落ちてきそうなほどにずんだれた黒い短パンに、百均で済ましたような下駄っぽいサンダル。よくよく見てみればその美しかったはずの髪も薄汚れ、二、三日は風呂に入っていないような不清潔に見える。
…しかして、ある意味ではそれも仕方がないのかもしれない。
特別に見えた少女は、周りからしてみれば異質過ぎたのだろう。少女は二人の少年からリンチされていたのだ。
少年のうちの一人はジャイアンのように骨太な背丈をしており、うずくまる少女を足蹴にしていた。
もう一人は反対に骸骨のような骨身の健康不良児そうな少年で、彼は地べたに這いつくばる少女を枝でツンツンと突く。まるで芋虫に触るかのようにだ。
「ごめんなさい」と謝り続けてなお、少女が許されることは無かった。
ダンゴムシのように丸まる少女は、惨めに呻き続ける。見ていられず、思わずと目を逸らしてしまう。
少女と少年達は、一ミクロンもこちらに気づく様子はなかった。少しこちらをみれば気づけそうな穴なのだが、どちらも自分のことに一杯一杯で周りが見えていないようだった。
…と、その時だ
少女は悔しげに唇を噛みながら「くしょう…」と呟いたかと思うと、徐ろに少年達の顔に弱く開いた掌を向ける。
…この時は思いもよらなかった。
まさか一瞬の空白の後に起こるそれが、僕の人生における最高の衝撃で、最低の日々の始まりになるなんて。
「ルミナ・フルゴル」
瞬間、まばゆいた!
そう、それはまるで閃光弾のようだった!
夏の日差しを忘れさせるほどの赤白の光が、少年達の顔を中心とし、光で集中線を作りながら球体を成す。
球体は少女の指の隙間から漏れながらも徐々に膨らんでいき、やがてその光は弾け飛ぶ。
いやに眩しくて、いやに激しく、いやに優しい。
気づけば僕はその光に夢中になっていた。
まるで光に群がる蛾のように、僕はその光が膨張するさまに集中する。
ふと、周辺視野で捉えた少年達が、両手で目を押さえながら倒れているところを見つけた。
…そう、ぶっ倒れてしまっているのだ。
「あ」
気づいた時にはもう遅かった。
「ぐあぁぁぁぁ!目があるぁぁぁー!」
その瞬間、僕の目には痛みとも痒みとも取れる衝撃に襲われ、思わずと瞼をギュッと閉じた。
掻きむしるようにして手の根元を瞼にぶつける。足元はフラフラとして今にも倒れそうだが、微かな理性が寸前のところで足を食い止めさせる。
何をしたのかはわからない。
しかし、ただ一つ言えることがある。
アイツはやばい。
そう本能が訴えかけているのだ。
そんな衝動が僕を突き動かし、今すぐにその場から逃れようとする。
そうして体を反転させようとするが…もう既に手遅れのようだった。
「な、な、な、なんでみられてるんじゃー!」
そんな絶叫が聞こえたかと思えば、草木の塀を掻き分けて、とてつもない勢いで僕の顔面にナニカが飛び込んでくる。
僕は「へぶっ」と情けない声を漏らして吹き飛ばされ、そのナニカに覆い被されながら二、三度地面とバウンドした。
バウンドが落ち着いた後、ゆっくりとまだ霞む目を開ける。
眼前にはクローズアップされた手と、隙間から漏れる小さな女の子の顔。
僕はアイアンクローをされたようだった。
僕は鳴り止まない心臓を抑えるよう、必死に少女の手越に呼吸をしようとする。
少女も同様、ぜぇぜぇと顔を真っ青にしながら息を吸い込んでいて、ヤツも僕と同様に呼吸を整えている。
一連の流れは、ヤツも相当にこたえたようだった。
あたり一面にセミの声が響く。しかし、ひどく脳みその中は静かだった。
暫くした後、体力に一旦の整理がついたのか、少女は全く怖くはない顔で僕に凄んだ。
「きしゃまーー!われの魔法をみたなーーー?」
まほう?
…魔法……?
目の前の少女が言ってる意味が分からなかった。
そんなものが実在するはずもない。
あるはずがない。
あったらおかしいのだ。
続け様に、少女は有名なあのゲームのスライムみたいに口を開け、引き攣った笑みを浮かべる。
そんなへにゃへにゃ顔で僕を見たかと思えば、
「へ、へへへ…ちょーっとこっちこいやー」
などと、陰気な声色で言う。
対応に困った僕は、無言で息を飲むのみ。
なんなのだろうか、コイツは…。
辺り一面に蝉の声が響き、心臓の音と共振する。
喉の渇きなんて、もう忘れていた。
そうです…設定に時間がかかったということは、本編でも時間がかかるということです…。
気づかなかった…。コレ早く終わる?
物語作りムズ過ぎてまーじで発狂しそう…。
下手したらプログラミングよりもムズイ。




