1話 能力
能力
それは生まれながらにして所有する謎の力。どんな力か、どれほどの力かというのも人それぞれ。そんな何も分かっていない力を皆はどう思うか。もちろんそれ単体を見ればロマン溢れる不思議な力とは思うだろう。
そんな力を世界全員手に入れたら、どうなるのだろうか。また、複数の能力を持っていたら……
「少しは抵抗しろよ!!このノロマ!」
とある高校の一角でそう言ってるのは、陽キャグループのリダー的な立ち位置の奴だ。そして俺はそんな奴に教室で蹴り飛ばされている。まあ世間一般的に言ういじめというヤツだろう。しかし俺自身、迷惑以外の感情は湧かない。別に嫌と思ってもいなし、反撃しようと思えば出来なくはない。しかし、そうする事は面倒以外の何者でもない。周囲を見渡すと、この陽キャ、加藤誠司を指示する目線や雰囲気を感じるが多い。別に俺を擁護するやつもいなくは無いのだが、そういうやつは弱気なやつが多い。まあ要するに2次被害を恐れているのだろう。要するに味方がいないのだ。そんな状況で俺が反撃すれば周囲の人たちが向こう側に加勢するのは目に見えている。
俺は無駄な労力を使いたくない。故に俺はされるがままに何度も入れられる蹴りを正面から受ける。
「おい、お前ら何をしているんだ!」
そう言って、俺と誠二との間に教師が割って入る。誠二はその教師により取り押さえられ、地面にねじ伏せられていた。「うっ…」とうめき声を少しあげて唸っていたのは実に滑稽に見えた。そして、俺のと頃に女教師が近づいて来た。
「大丈夫だった?痛かったでしょう?」
「いえ、大した事無いです。」
優しく話しかけて来た女教師にそう言った俺に、女教師は「またそんな…」と呟きながら、心配そうにこちらを見ている。
アイツの今回のような行動に関しては今に始まった事ではない。パシリやいじめなんかは当たり前。その他にも、自分がやらかしたことを他人に擦り付けたり、他者の私物を勝手に盗んだりもしていた。特に俺は家族がいないため、当たりは他の人と比べかなりキツくなっていった。他の人の仕打ちに加え、激しい暴行なんかもかなりの頻度で繰り返していたため、教師陣もかなり手を焼いていた。そんなわけもあり、皆も誠二が押さえつけらえることに対し何かを感じているという事もない。
周囲の傍観者は、我関せず的な感じで、その場を去った。まあ教師が来た時点で周囲の人は逃げていた人が多かった。面白くなさそうにこちらを見ていた奴や、教師が来た事により安心し去っていった人もいる。しかし、その雰囲気は葬式のように静まり返っており、気まずくなった。流石に俺もこの雰囲気は望ましく無い。故に俺は自分の荷物を手に取り、俺こと柳田終夜はその教室を去った。
その後、俺は住宅街の真ん中を歩いていた。個人的には、無音の空間をただひたすらに歩くというのは、意外と好きだったりする。住宅街ではあるが、この辺りは高齢層しか住んでいないためわりと快適に歩くことができる。そうこう考えていると、目的地である墓地に着いた。そこには約50ほどの墓があり、俺はその中の一つの墓の前に立った。その墓には『柳田之墓』と刻まれており、個人の名前のところには『柳田亮介』、『柳田紅葉』、『柳田美咲』と刻まれている。俺の両親と妹の名前だ。両親が亡くなったのは2年前の事だ。理由は夜間の火事で、夜中の放火魔による焼死だった。妹は5年前、小児癌によって他界している。そのため現在は、両親の遺産とバイトでなんとか学費を払いながら生活している。
両親も生前は結構稼いでいた方だとは思う。なんせ年収800万だ。上級国民ほどではないが、平均年収より高いのではないだろうか。そして貯金総額2000万もあったため、コレを大切に使っている。妹と両親の保険金もあるため、金銭的な面はそこまで困ってはいないが、もちろん無駄遣いをするわけにはいかない。
母さんと父さんと、そして美咲との生活は、俺の今までの人生の中で最高に幸せだった。何気ない日常というのも、今になっては手に入ることはない。そう考えると、俺は自分の手を見つめ、拳を思いっきり握りしめた。
しかし、そんなことをいつまでも引きずっていいという訳ではない。俺は深呼吸でいったん落ち着き、鞄から線香を取り出してライターで火をつけ、そのまま供えた後に手を合わせ、目をつむり、目を開ける。
「よしっ」
俺はそう言い、その墓を去った。
墓でかなり考え事をしていたらしく、帰路に就く頃にはもうかなり日が沈んでいた。街灯はポツポツと明かりを付け始め、少し前まで聞こえていた子供達の遊ぶ声が聞こえなくなった。
平和だ、と内心で呟き名がら足を踏み出そうとしたその瞬間……
「うっ、」
俺は強い痛みを心臓に憶え、その場に蹲った。心臓が約得るような痛み、頭が全く回らない。呼吸に意識を向けないのすぐに意識が飛びそうだった。とりあえず助けを求めなくてはと考えたものの、体が全く動かない。そうこう考えているうちに、意識がどんどん薄れていく。そして抵抗も虚しく、すぐに意識委が飛んだ。
「んっ…」
そう声を発しながら目を開けると、そこは真っ暗の世界だった。一応足は着いているが、まるで宇宙にいるかのように360°全方位が真っ暗な空間がそこに広がっていた。そんな空間に、ただ一人目の前にある玉座的な椅子に足を組んでいる女性がいた。白髪で、白い衣服を身に纏った貫禄ある雰囲気だった。
「…ほう、今回は当たりを引いたようじゃな。」
そう言う女性は、かなり貫禄のあるような声色をいていた。
「妾の名はエレボス。創造を司る神じゃ。」
思わず「何言ってんだ、コイツ」と言いたくなる発言に、俺は動揺を隠せないでいた。
「神、神ねぇ。お前がどうなのろうと俺の知ったことじゃ無いけど......かなり痛いぞ?」
俺がそうバカにしたように答えると、エレボスは笑って答えた。
「よく言われるわ。妾とて事実を述べているだけにすぎん故、そう言われてもどうしようもないのじゃ。」
そう前置きをして、この自称神神を名乗る女は、再度話し始めた。
「この度は其方に力を授けに来たのだ」
「......力?」
「そうじゃ。この度其方らの世界に災が降り注ぐ。その対抗策として神が人間に力を授けるのじゃ。そして妾はその...そうじゃな。其方の世界で言う代表取締役的なものじゃ。」
...話のスケールがいきなり大きくなったな。
「…そもそも、何で俺なんだ?」
「この力はな、何かしらの感情が抜きん出て高い、もしくは少ないかで強さが変わってくるのじゃよ。其方の場合は憎悪であるな」
......そういうのもお見通しって訳か神というのも多少は信憑性が全くないという訳ではないな。
そう、確かに俺は憎悪を抱いている。俺の家族を殺したこの世界に、そして俺の親を殺すような人間に。
「そう、その憎悪だ。その力を使い、この世界の呪縛から解き放たれてみよ。」
エレボスがそう言いながら、右手を前に突き出した。
「解放」
その瞬間、エレボスの手と俺の勝負が光り、それと同時に体が軽くなる感覚がした。そして、もう片方の手に青い光をまとわし、もう一度呪文を唱える。
「授与」
そう言った瞬間、また更に力が湧いて出てくるような感覚がした。
「これがお主の力よ。存分に使うがよい。」
…んなこと言われても…
「感覚で分かるかよ。」
感覚で力を把握しろなんて高等テクできるわけないだろ。
「…まあ良い。お主の力は…」
そうして、エレボスは俺の能力に説いて述べていった。
「どうよ。かなり負い能力ではないか。」
そう言っているエレボスは、心なしかかなり上機嫌に見える。
エレボス曰く、この力とやらは異端技能、通称異能力と呼ばれる力だった。
「…まあ確かに言い能力ではあるが…」
「なんじゃ、不満でもあるのか?」
「いや不満ではないんだが……異能力5つて…まあ不満ではないんだけども……」
そう、通常一人の人間に対し、能力は1つまで。それに対し俺は5つの能力が宿っていたのだ。最初に使ったのは体に宿っていた力を引き出す魔法、そして次に使った魔法が力こと能力を引き出す魔法だったらしい。(もう魔法について突っ込むのはやめた。)
まあとりあえず、この力を使いこなすしかない。
「ありがとな。世話になったわ」
「良い良い。お互いにWin-Winの関係故、気にする必要はない。」
そう言った瞬間、意識がいきなり反転した。
……この感覚、マジで嫌いだわ。
ふと、急に目が覚めた。そこは、先ほど俺が倒れた所で、周囲の明るさからして大体1〜2分程度しか経っていないことがわかる。しかし、先ほどエレボスがくれた遺能力の感覚はいまだに残っていることで、先ほどのアレエレボスとの会話が夢では無いということが分かる。
まあそんなことは良いのだ。エレボスはおそらく教えてくれないだろうから聞かなかったが、最初に言っていた災いとやらがどう言ったものなのか、それ自体がわからないのだから、エレボスが何を望んでいるのかがわからない。
しかし、それを答えはすぐに知ることができた。周囲に大量の魔力が出現した。
「コレは......そうか。コレが災いか。」
タイミング的にコレがそうであろう。しかしこの後どうなるかがわからないな。
この事件は、世界に大きな混乱を招く事になる。この世界の生物の半分以上の人が死んだ。
この事件は、後に魔力之津波と呼ばれるようになった。