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3 ドラゴン

 家に帰るとすぐにエスティールは鎧を脱いだ。

 現れたのは漆黒の髪に漆黒の瞳を持つ少女だ。大きな瞳は好奇心に輝き、白すぎる肌には細かい傷痕がたくさんある。お転婆の副産物だから本人は大して気にしていない。

 彼女の見た目は兄の冷酷で妖艶さ漂う美貌に瓜二つだ。違いは性別と色合いと雰囲気だ。兄が鮮やかで真っ青な色を纏っている分、彼女は地味とも言える。そして彼女は清純な趣を感じる心安らぐ気をまとう。人の良さが隠しきれていない、とも言える。

「お嬢様?」

 部屋の扉をノックする音にエスティールは「ちょっと待って」と答えると、いつもの簡素な作業用のワンピースに着替える。

「開けていいよ」

 その言葉に間髪入れずに扉が開く。現れたのは柔らかな栗色の髪の背の高い青年だ。切れ長の瞳は物憂げで、薄い唇は艶かしく誘うように赤い。

「リュカ、ただいま」

「お帰りなさいませ。ご無事で何よりでございます」

 鎧を回収し、魔法で収納したリュカにエスティールは抱きついた。平均身長のエスティールから見てもリュカの背は高い。

 そう言えば、とエスティールは王との謁見の間で会った背の高い近衛騎士を思い出す。焦茶色の髪に金色の混じった鳶色の瞳が綺麗な人だった。誠実そうな口元とか、目尻の色っぽいホクロとか、ああ言うのを好男子というのだろう、と彼女が反芻していると訝しげな目で見てくるリュカに気づいて咳払いをする。

「お兄様は?まだ戻ってないの」

「はい。お戻りは夕刻だと伺っております」

 リュカがエスティールの髪を手櫛で整えて、テキパキと結え直す。兄と同じ歳のリュカは彼女が幼い頃から彼女の面倒を見ている。今でこそ執事としてこの屋敷になくてはならない存在だが、彼女にとっては未だに兄と同じ存在で、護衛であり、従者であり、親友なのだ。

「お兄様のせいで酷い目に遭ったのよ」

 リュカに撫で撫でされていると落ち着いてくるエスティールは彼の匂いをすんすん嗅ぎながら呟いた。

「酷い目、というと?」

「王宮魔術師団の制服着た人がちょっかい出してきて。鎧のこと知っているみたいで攻撃してたらしいの。私は何にも気が付かなかったんだけど、その後引き止めようとしたみたいで手を直接触れようとして自爆してたんだけど、怖いよね。そういうの」

 戦ったり手を振り払ったり、そういう争いに関する人間同士の対応をエスティールはしたことがない。非常に恐ろしく感じる。

「お嬢様、それはどのような人相の男でございましたか。誰に手を出したのか相手に思い知らせてやらねばなりません」

「そうなの?もう一度会えば分かると思うけど、あんまり思い出したくないなあ」

「仰る通りですね。お嬢様の記憶に残るなど許せません。忘れて構いません。こちらでお調べして処置しておきますから、お嬢様は安心してお過ごしください」

 リュカの優しい眼差しにエスティールは大きく頷いて彼の胸に頭を預ける。すると柔らかい風が巻き起こり、部屋の中に青いローブ姿が現れる。

「リュカ、エスを甘やかすのは止めろと言ったはずだ。見ろ、この駄目人間具合を。お前のせいだぞ」

 エスティールを床へ放り出し、兄は呆れた顔で彼女を見下ろす。

 リュカは優雅な仕草で流れるように美しいお辞儀をする。

「お帰りなさいませ、旦那様」

「ああ。予定より早く戻れたから夕食(ゆうげ)はエスと共にする。それから厩に魔物を繋いである。世話をしてくれ」

「畏まりました」

 リュカはもう一度深くお辞儀してから、転がっているエスを立たせ、身なりを整えてやる。それから部屋を出て行った。

「お兄様のせいでリュカが足りない」

「十分だろ。って言うか、エス。あのまま変態みたいにリュカを独占しているようなら俺も見過ごすことはできないぞ。リュカにはリュカの仕事があるんだ。もう幼い頃とは違う。立派な雄の男をお前の変態行為に付き合わせるなんて当主として看過できん話だ」

「変態行為って、ひどい」

 ただリュカ吸いしていただけなのに。

「なんだ、違うのか。言い訳があるのならば聞いてやらんこともない」

 偉そうに腕を組んだ兄にエスティールは肩を落とす。

 なんだか機嫌が悪いようだ。こういう時は何を言っても駄目だと経験で分かっている。

「あの、お城からの依頼の話なんだけど」

 恐る恐るエスティールが切り出すと兄は頷く。

「ドラコンだろ」

「え、知って?」

「鎧の魔術を通してこの目で見ていたし、聞いていた。報酬に女を要求するかも、というのはどんな意味があるんだ」

 白い目で見られてエスティールは小さくなる。

「お兄様にそろそろお嫁さんをもらって欲しいと思うのよ、私。っていうか、見てたの?信じらんない」

「嫁、ねえ。俺よりもお前が先だろう。行き遅れたらリュカに迷惑をかけるだろう。あいつなら自分がお前の伴侶にと言い出しそうだ」

「それいいね!」

 嬉しそうに言ったエスティールの頭を叩くと兄は「リュカは諦めろ」とだけ言って部屋を出て行く。

「もう、何よ。人の気も知らないで。簡単にリュカを諦められたなら、もうこの家にはいないっての」

 エスティールは独りごちて、窓の方へ移動する。そこから裏手の厩が見える。リュカが兄に言われた通りに行って魔物とやらの世話をしているはずだ。

 様子を伺っているとリュカが厩から出てきた。腕には大型犬くらいの生き物を抱えている。それがどう見てもドラゴンと良く似た形で、本来なら王城よりも大きな姿のドラゴンが赤ちゃんサイズになってリュカの甘えているように見える。

 まさかね。

 エスティールは両目をモミモミしてから、もう一度窓から見える光景を眺める。

 やっぱりドラゴンだ。

 兄のすることにいちいち文句を言わない主義だが、これは事情を聞いておかねば後々騒動に巻き込まれかねない、と判断して彼女は兄の部屋へ向かう。




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