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2話

 侍女に何とか頼み込んで、ランカロは一つだけ手がかりを教えてもらった。それは、ラウラウは横長のトランクケースを必ず持ち運んでいるらしいということだった。


 ランカロは首を傾げた。ランカロ自身は魔法の才能がいまいちだが、ラウラウは魔法の使い手だったはずだ。収納魔法があるのだから、わざわざ荷物を持たなくてもいいのでは? 何はともあれ目印になるなら良いかと、ランカロは深く考えることを止めた。


 ラウラウを意地でも探し出してやると意気込んで、腕の立つ護衛を兼ねた侍従一人と御者とともに、ランカロは馬車で屋敷を出発した。もちろん公爵家の人間だとは分からないようにして。


 トランクケースを持った金髪の女性という手掛かりで、ラウラウの足取りは案外簡単に追えた。どうやらラウラウは、自分で馬に乗って移動しているらしい。この馬もラウラウが実家から連れてきたものだ。


 ラウラウは結婚式前から、ミオーダー公爵家の屋敷に滞在していた。ラウラウが馬のところに行ってそわそわしていると、ランカロは使用人達から何度か報告を受けたことがあった。恐らくラウラウは前々から、このことを計画していたのだ。


「せめて私に言ってから出て行け」


 馬車の中でランカロが文句を言う。これを聞いた侍従は、ランカロがラウラウを徹底的に避けていたのに、無茶なことを言ってるなと思った。ラウラウと接触するのを避けるために、ランカロはゴミ箱の中に潜んだことまである。


 ラウラウの足跡を追って、何日もかけてランカロ達が辿り着いた場所は、東の国境近くの街だった。街の中を馬車でゆっくりと移動し、ひとまずは街の中心部へと向かう。


「大きな街道しか通っていないとはいえ、ここまで全く魔獣に全く出くわしませんでしたね」


 ランカロは窓の外を見ながら、侍従の言葉に無言で頷く。魔獣と戦わずに済むのなら、それに越したことはない。


 魔獣。それは普通の生物とは別の生態系を築く、魔力を持った生物の総称だ。


 魔獣の特徴の一つに、普通の武器や魔法で攻撃しても倒すことができないことが挙げられる。魔獣を倒すために人々が長年をかけて創り上げた武器、それが魔武器だ。


 魔武器を製造できる職人は少なく、必然的に魔武器は貴重なものとなる。また魔武器と人にも相性があり、魔力があれば誰もが使える代物ではない。


 現在国内の魔獣の討伐を行っているのは、主に王国軍だ。戦争も無く平和な現在だからこそである。ただ魔獣が集中的に出現すれば、討伐に王国軍の手が回りきらないこともあるのだ。そこで一部の領主は対魔獣用の私兵団を持つが、諸々の事情からどちらかというとかなり少数派だ。


 ランカロが窓の外の景色から視線を正面に戻すと、侍従の膝の上に置かれた刀が視界に入った。この刀は魔刀だ。公爵家ともなれば、使用人の中に貴重な魔武器使いもいる。


 街の中に入るまでは、馬車は森や林の中を進んでいた。警戒中だったという理由もあるが、収納魔法が使えても侍従は決して魔刀をしまおうとはしない。


 魔武器使いの多くは、魔武器を収納魔法に入れることを極端に嫌がる。収納魔法が魔武器に影響するからと言うが、魔武器使いにしか分からない感覚だ。


 国境近くのこの街がラウラウの目的地だと判断して、ランカロはラウラウを探し始めた。宿屋に滞在しているのではないかと聞き込みを始め、二件目の宿屋で聞き込みの成果は早速出た。


「横長のトランクケースを持った、金髪の女性を知らないだろうか?」

「おお、うちに泊まってるよ。兄ちゃんはラウーちゃんの知り合いかい?」


 人の良さそうな宿屋の店主はランカロを疑うことも無く、あっさりと条件に合う女性の存在を認めた。ラウーとはラウラウの偽名なのだと、ランカロは瞬時に察した。


「そうだ。彼女は今どこに?」

「朝から近くの山に行ったよ。魔獣が出るから危ないと言ったら、出会ったら逃げるから大丈夫だって。何でも採石に行くとか何とか」


 ランカロは宿屋の主人に礼を言ってから宿屋を出た。宿屋を出た途端、ランカロは何の準備もせずに近くの山に向かって走り出した。宿屋でラウラウが帰ってくるのを待つという発想は無かった。


 ランカロは完全に『君を愛することは出来ない』とやっと言えるハイに陥っていたからだ。何とも嫌なハイである。


 またこの時ランカロに置いて行かれた侍従は『大変キレのあるフォームでしたが、それはそれとして勝手に一人で突っ走らないでもらえませんかね』と後にキレ気味に語った。


 丸腰のランカロは一人で山の中を駆け抜けた。だが、そんな簡単に山の中にいるたった一人の人を、探し出せるわけがない。またここまで全く魔獣に出くわさなかったこともあって、魔獣の心配をすっかり忘れていた。


 前方の草むらががさがさと動き、ランカロは我に返った。今魔獣に襲われれば、非常に不味い。死ぬ。侍従を置いて、一人で突っ走って来てしまったので万事休すだ。


「人の反応があると思って来てみれば、何故貴方様がここに?」


 草むらから顔を出したのは、魔獣ではなくランカロが探し求めたラウラウだった。


 ラウラウが着ているのは、詰襟型のベルソニア領の私兵団の団服だ。スレンダーなラウラウには良く似合っている。また金色の美しく長い髪は、全てキャスケットの中にしまわれていた。


 そんな中でランカロはある物に目を奪われた。ラウラウが手に持つもの、それはライフル型の魔銃だ。ラウラウも魔武器使いだったことが、たった今判明した。でもそれよりも今大事なことは。


「や……っと……捕ま…………た。……。ぜーはー、わ……しは…………きみ…………愛する……ぜーはー……こ………………でき……な…………ぜーはー」


 ランカロはやっと言えた。ラウラウに言ってやった。だが言われた方のラウラウは、ショックを受けるでもなく困惑した。 


「こんな所まで追いかけて来て、何を言っているのですか? そんなことを私に言うためにわざわざ? 息切れしてちゃんと言えてもないですし」

「こ……で……な…………い……ぜーはー」

「すみません。何言っているか分からないです」


 何か言い返す元気もランカロにはない。ラウラウは大困惑だ。


「おっと」


 ラウラウは自分が歩いてきた方を振り返り、持っていた魔銃をさっと構えた。まるでランカロを守るかのように。


「こんな、国境近くで、君は、一体何を?」


 ようやくまともに話せるようになったランカロが、ラウラウの後ろ姿に尋ねた。


「魔銃を持っているのですから、何ってもちろん」


 ラウラウの構えた魔銃が、軽い発砲音を発する。


「魔獣狩りです」


 ラウラウがランカロの方を振り返る。ラウラウが襲いかかって来た獅子型の大型魔獣の眉間を魔銃で打ち抜くと同時に、ランカロのハートもずきゅんと射抜かれていた。


 その後ランカロを追って来たキレ気味の侍従と合流し、魔獣狩りが再開された。狩りはラウラウの独壇場で、魔刀使いの侍従の出る幕は全く無かった。


 ラウラウの魔獣狩りは単純だ。山の中を彷徨い歩き、魔法で近くの魔獣を探知しおびき寄せ、魔銃で撃ち殺す。魔獣から採れる魔石はとりあえず回収。ただそれだけを延々と繰り返す。採石という表現は、あながち間違いでもなかった。


 ラウラウとランカロは日が暮れ始めるまで魔獣を狩りつくしてから、ラウラウが滞在している宿屋へと戻った。正確に言えば、ラウラウが魔獣を狩るのを、ランカロと侍従はただ見ていただけだが。

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