後日談
リシューは、調理室の隅に置かれた丸テーブルで、パットが用意したタマゴサンドと、ポタージュスープ、コーヒーゼリーを全部食べ終えるとごちそうさまと手を合わせた。
向かいに座るパットは、しゃべることと食べることを繰り返しながら、それでも食事のマナーはリシューに厳しく教えられていたので、音をたてることもなく一応品よくふるまっていた。
「俺は、このホワイトブルーをジェット郵便で送ってくる。お前はゆっくり食べていろ」
食器類を洗浄乾燥機に入れると、倉庫へ向かうべく席を立った。
「はあい、もぐっもぐっ、ごっくん。ねぇ、リシュー、タマゴサンドっておいしいね。毎日食べてもあきないよ。ねぇ、リシュー、そう言えばニワトリとヒヨコってどっちが先に生まれたの? もぐっもぐっ、ごっくん。ボク、何度考えてもわからないんだ」
「――んなもの導師さまにでも聞いてみな」
相変わらずのパットの調子に呆れるやら、安心するやら大股で歩きながら郵便はどこに閉まったか考えていた。
倉庫の片隅の小箱の中にそれはあった。
かつては遠距離恋愛の恋人たちのために造られたその郵便は、両手を広げたくらいの大きさで性能は高くミニ宇宙船と呼ばれた。
受取人の名前と顔をインプットし、目的地を設定するだけで宇宙を駆け巡る。
生き物以外何でもOKで、そのほとんどが手紙や贈り物で占められていた。
燃料は希少な資源を使用したのでコストはものすごく高く、販売は徐々に減少していったが、細々と造られ使用する人もわずかにいたのである。
その郵便が売れ始めたころ、リシューの父が遠く離れた星で入院している妻のため二機購入し、家族の誕生日やクリスマスプレゼント、そして結婚記念日と行事があるたび品物やメッセージカードを送ったりしていた。
ある日、一機が突然行方不明となった。
受取人以外の者が無理にこじ開けると特殊な品物以外は、すべてのデータごと消滅する仕組みになっていたので、親子は二人そろって安心したのだった。
父は、若いころのような熱烈なラブレターまがいの文を人に読まれなくて良かったと、リシューは粘土でウサギを作ったが意味不明のモンスターになり(それでも父は気持ちが大事だと誉めた)それが人に見られなくて良かったと胸をなでおろしたのである。
それからは、かわいいきれいな既製品のプレゼントを贈ろうが、暗黙の了解となった。
残りの一機を眺め思い出にふけっていたが、おもむろにふたを開け、茶色の袋いっぱいはちきれんばかりに詰めこんだホワイトブルーを少しだけななめにして、中に押しこんだ。
そして、簡単なメモ書きをすき間にはさみこんだ。
〝パル、宝石を頼む。
それから、驚くことにパットが生きていた! きらめく石のおかげか?
今度会う日まで元気で。リシュー〟
受取人はリラ星のパルとインプットし、本人確認は、以前送ってきた彼のデータを使用した。そして、荷物搬入口の横にある小さな窓口に放りこみ、宇宙へ送る準備にとりかかった。
ふたを閉める際、リシューは石を手に乗せ祈るように言った。
「あんたが本当に王を決める石なら、俺の願いを聞いてくれ。パットは外してほしい。あいつには、あいつの人生がある。もしかしてあいつが生きているのは、あんたのおかげかも知れないが……ひどい言い方だが、あんたの星のことは、あんたたちで解決してくれないか。パットは巻きこまないでほしい。それに――あいつは真面目だがノーテンキだ。いい奴だがノーテンキだ」と能天気を強調して送り出した。
「無事につくといいな」
一抹の不安とそれでも無事につくという妙な安心感があった。
(あのホワイトブルーは特別な石だ。何といってもあのミラクルの星の石なのだから、な)
リシューは心の中でつぶやき、パルの手に届くことを祈った。
そうして――幽霊船とのニアミス、はぐれ隕石群からの脱出と様々な困難を乗り越え、ジェット郵便はリラへ着いた。
「パルさまーっ! 郵便が届いております!」
パルと若者たちは、資材を元にかつてのメインロードのでこぼこだった道をきれいに整備し、赤レンガを敷き詰めているところだった。
近くでは元総司令官のグエルの指示に従い、彼の部下や民人たちが何軒目かの家の土台に取り組んでいた。
「差出人は、シルバーフォックスさまです。巡視艇から連絡を受けて着陸地点に向かったところ、すでに到着していたのでその速さに驚きました。これがかの有名なジェット郵便なのですね。初めて見ました。あっ、長々と申し訳ないです。どうぞ、外のゴミはすべてきれいに取り除きましたので、開けていただいても大丈夫ですよ」
青マントの若者は、あこがれのまなざしでパルを見ながら、郵便をていねいに渡した。
「ふふっ、ありがとう。面倒をかけたね……その後、カインたちからは、まだ連絡はないのですか?」
「はい。まだ何も」
「そうですか……もし、あったら伝えて下さい。いつでも君たちの帰りを待っていると」
パルたちのやり方に異を唱え失踪した教え子たち五名のうち説得に応じた者は、三名のみ。残りの二人は物資を運んできた他星の貨物船にもぐりこみ、すでにリラからいなくなっていた。どこに行ったのか未だ消息不明だった。
「はい、心得ております」
快く返事をすると忙しそうに立ち去った。
パルは額にはりついた前髪を払い、汗をぬぐった。
その名を聞いた時からパルの顔が一段と明るく輝いていたので、側にいたリィトムたちはにっこりと笑い
「ラアダ(先生)、休憩にしてください。朝からずっと働きづめでしたからね。あそこの木のベンチが空いていますよ」
最初に建てられた一軒の家近くにあるベンチを指ししめした。
「ふふっ、じゃ、悪いけど少しだけ外れるよ」
リィトムと教え子たちは、ラブレターだとひそかにささやき、あたたかい目でパルの後ろ姿を見送った。
――ルルル ウケトリニンサマ ホンニント カクニンシマシタ
ニンム カンリョウ パピーッ――
ひざに乗せた郵便のライトがすべて消えたとたん、ぱかっと前面のふたが音をたてて開いた。そこに茶色のからっぽの袋と一枚の紙があるだけで石はなかった。
リシューからのメモを見たパルは目を見開いて驚き、そして少し笑い、夢見るようにつぶやいた。
「ホワイトブルーは、本当の持ち主のもとへ行ったのでしょう。でも、人の命にかかわるなんて初耳ですが……いずれにしても、パット君が生きていてくれて本当に良かったですね、サフラン。あなたは一人じゃない。私としては少々妬けますが」
メモを小袋にしまう際軽くキスをし、大事そうに折りたたんだ。
それこそがパルにとって、かげがえのない宝物となった。
ちょうどそのシーンをチラ見していた教え子たちは、後、彼らの中で熱く語られる恩師の恋愛物語の一つとなった。
黄の月の変から復興をとげて数年後――
ホワイトブルーは、ある一組の夫婦から生まれた子どもの頭上に燦然とあらわれた。
白きマントをまとう民から選ばれた女の子はやがて王としての教育を受け、周りの協力もあってめきめきと頭角をあらわし、リラの民に繫栄と心の豊かさをもたらした。
気高き白き女王と呼ばれた彼女は、やがて人格者となった前王の息子と婚姻を結ぶ。
女王の父親の名は、リィトム(自称、賢者の一番弟子)、母親の名は公にされなかったが、元衛生士とのことだった。
女王の周りには優れた人材が集まり、脇を固め彼女をもりたてていく。
そのほとんどがパルの教え子たちだったが、彼はその現状を目にすることなく、すでにかねてより希望していた宇宙へ旅立った後だった。
己の信念のため、愛する恋人に会うために。
宇宙に降りそそぐ光は、人々の想いとともに今日も銀の海を駆け抜け、幾つもの夢とロマンの物語を紡いでいくのであった――
―――END―――
最後までお読み下さりありがとうございました。
最後まで書けたのは、皆様方のおかげです。
素人の作品を、しかも見ず知らずの方が読んで下さったことに感激しています。
少しでも楽しんでいただけたら、こんなうれしいことはありません。
本当にありがとうございました。




