表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/28

第四章  聖なる真実  7 

『お前の母さんはな、風に舞う花びらみたいにかろやかに、速く、高く跳ぶんだぜ。俺は、その姿に一目ぼれしたんだ。何でも、テラとかいう星のニ……ニン……何とかって血をひいているとか。お前が身軽で素早いのは、母さんのおかげだ。感謝するんだぞ』

『ああ、わかってる』

『ハルカ母さんはな、心が綺麗で、美人で、朗らかで、料理上手で……』

『またかよ。親父ぃ、おふくろを好きすぎるのもほどがあるだろう。美化しすぎだって、また怒られても知らないぜ。いいかげん、毎日子どもの前でのろけるのやめろよな。聞いているこっちが恥ずかしい』

『ガハハ、いいじゃないか。本当のことだ。それに家族の前だから言うんだ。やさしい奥さんとかわいい娘に恵まれた俺は幸せもんだと思ったら、ついついうれしくてな……』


 リシューは、ずいぶん昔のある日の会話を思い出していた。

(ああ、そうだな。親父の言う通りだ。おふくろに感謝だ)

 まるでスローモーションのように相手の動きがわかり、右、左へと瞬時にふわっと跳びながら攻撃をよけ、銃を撃つ。一人また一人と倒していった。

 後はパルとダール、数名の親衛隊を残すだけとなった。

 

 そして、最後の黒マントの一人から銃をはじき飛ばすと、彼は腕をかばいながらその場に倒れこみ、リシューは前へ飛び出た。


「お前の部下たちは、後二時間は手がしびれて、ペン一本さえ持てないだろうぜ。ああ、軽く足にもふれたから当分動かせないぜ。さあ、観念して肚を決めろ」

 銃を一同に向け、ダールの前でぴたっと止まった。


「王位を返すと言え。断れば、お前を撃つ――そう、確かにこの型は旧いが、いろいろ応用が効いて最新機能を備えているんだぜ。たとえば銃口を同時に左右に回せば人など簡単に手にかけられる。さあ、王子たちを自由にしろ!」


 銃撃戦の興奮がさめやらぬ中パットは、うずくまる青マントの人々の横を走り抜け

「リシュー、終わったんだね」

 いつものようにコートの裾をつかみながら、にっこり笑った。


 ダールは、せせら笑いを始めた。

「戯言だな。今頃この騒ぎを聞きつけ、精鋭部隊が居城に詰めかけてくるだろうからな。フォックス、それまでの命だ。誰もわしに逆らうことはできないのだ。なぜなら、石が手に入った今こそわしは、リラの真の王なのだ」


「違う! 二人の王子が生きている限り、お前は王になれない。いや、させるものか。俺の手で叩き潰してやる!」

「愚かだな。お前も流言飛語を信じたのか。だが、無理だ。あの二人は、もうこの世にいないのだから」

 

「何だと!! ま、まさか、手にかけたのか!?」

 驚愕に打ちふるえるリシューの背中をいやな汗が流れた。

「そうだ、生きていては困るのでな。レミとファルダには死んでもらったよ」

「こ、この人非人め! もう容赦はしない」


 やむを得ず人を傷つけることはあっても、命まで奪わないのが彼女のモットーだった。

 だが、今、初めてそれを破ろうとしていた。


 怒りをこめながらかまえると、パルが立ちふさがった。

「どけ、パル! そんなにその男が大事か」

「ええ。それ以上にあなたが――あなたに人を殺めてほしくないので」


 パットは、今のリシューとダールのやりとりに口もきけず体中をふるわせていた。

 ぎゅっとコートをつかむ手が強くなり、顔が真っ青になっていた。

 心臓がドクンドクンと激しく鳴っている。

(し、死んだ……レミが……ファルダ……が?)

 瞳にいっぱい涙を浮かべると、リシューにしがみついた。


「ど、どうして……どうして、そんなひどいことするの? レミたちパパとママに会いたいって、言ってたんだよ。ひどい……ひどいよ……」

「パット!?」


 一瞬、パットの瞳が金色に変わった。

 大勢の兵士が乗りこんできた時、軽い振動とともに床がグンと持ち上がり、縦と横に大きく揺れ動いた。


「地震だ!!」

 誰かがそう叫んだ次にはすぐさま明かりが消え、予備ライトが天井と壁にともっていく。シャンデリアが振り子時計のように激しく揺れ、天井にあたった部分が砕けて、破片が床に飛び散った。

 悲鳴と物のぶつかり合って壊れる音があちこちで聞こえ、騒ぎを益々増大させていった。

 波のように床が大きくうねるすさまじい地震に、人々は戦意を失い助けを求めた。


「待て、ダール!」

 地震直後パットに

「テーブルの下に隠れてろ!」と叫びその場に倒れたリシューは、よろけながらもすぐ起き上がり、ほうほうの体で逃げるダールの後を追った。

 まだ足元は揺れが続き、上から白いもやに混じって建物の細い破片が矢のように降ってきた。


 咳にむせると、何度も倒れながら前へ進んだ。

 あっと叫ぶ間もなく天井が崩れ、扉の前に大きな塊がどんと落ちてきた。

 退路を断たれた人々から絶望の叫びがもれ、自分の銃ではこの大きな塊は無理だと判断した瞬間

「リシュー、これを」

 パルは、大型銃を投げ渡した。


 リシューはその銃をつかみ、伏せろと叫びながら力強くレバーを引く。すると、塊は音を立てて粉々に砕け散った。

 すぐさま後ろに待避し、腕と銃で細かい破片から頭をかばった。

「お見事です」

 パルはにっこりほほえんだ。


 彼のほうには目もくれず、銃を肩から下げると、廊下を走り出した。

 力強い手でリシューを引き止め、平然とした様子でたずねた。

「どこへ行くのです?」

「俺は、ダールを倒す。そのためにここへきたんだ。放せ!」


「おやめなさい。あなたの手を汚すことはありません。これは、我がリラの問題。いずれ、罪人(つみびと)は、その罪を償う時がくるのです。その前に、裏切者の私を成敗するのが先でしょう――サフラン」


「こ、こんな時に本名を呼ぶな。親父は何で教えたのか。それより、一度も俺を撃ってこなかったお前のことは後回しだ」

 先程ダールに命じられたパルは確かに銃をかまえたが、全く見当違いの壁を撃った。リシューはその時点で彼が裏切者じゃないとわかり、急遽狙いを変えたのだった。


「償いのためなら、あなたは充分苦しんだはずです。わが君も……」

「そんな悠長なこと言ってられるか」

 手を振り払うと駆け出した。が、再び揺れた大きな振動に壁にぶつかり、床にたたきつけられた。


 爆音に加え、遠くのほうから人々の鬨の声が居城内にこだました。

「反乱軍が攻めてきたようです。大丈夫ですか?」

 リシューを助け起こしながら、言った。


「はん、味方がだろ。うれしそうだぜ」

 パルは、ただ静かに笑った。


 振動、砲撃音、そして、居城に広がる火の乱舞。

 パルは横倒しになっているガレキに近づくと、すき間からはみ出たマントに気がつき眉をひそめた。

「この塊の下にあるのは……この緋色のマントは……神が、裁きを下されたのか」

 私室で緋色のマントを身につけていたのは、ダール王一人だけだった。

 パルは天を仰ぐように目をつぶり、その場にうずくまった。


「ダールなのか?」

 後ろから声をかけられ、かすかにうなずくと、厳かに祈りの言葉をつぶやいた。

 リシューはしばらくふらふらする頭を押さえ、あっけないダールの最後に呆然となっていたが、ただならぬ気配に右前方を見ると一兵士がパルを狙っているのに気づき

「パル、よけろ!」と彼をかばいながら床に倒れこんだ。


 よけるのが精いっぱいでゴロゴロ転がった拍子に膝を打ち、腕をぶつけたが、彼女は唇をかみしめただけで何も言わなかった。

 応戦しようとしたが、他を威圧するグエル総司令官のだみ声にさえぎられた。

「よさぬか! パル殿は味方だぞ!」

 兵士を怒鳴ると、パルに近づき一礼をした。


「パル殿、おけがはございませぬか?」

「はい、大丈夫です。彼女に助けていただいた」

 リシューをちらと見つめて笑い、いつものように静かにたずねた。

「それで――手筈はどのようになっているのでしょう?」


「かねてからの計画通り狼煙を上げ、じきに王宮殿目指して人々が集まってくるでしょう。もちろんギオー砦からも。軍隊はほとんどの者が我々の味方ですぞ。皆、この時を待っていたと……。とうとう、決行の日がきたのですな。これで亡き王さまや王子さまたちの無念が……」

 しわの刻まれた顔に、一粒の涙がこぼれた。


「パル殿のおかげでございます。ばらばらになった人々の心を一つにまとめ、そして、敵を欺くために味方を裏切る真似をなさって、今までどんなに辛かったことか。お察ししますぞ。しかし、それもようやく公にすることができるのですな」

「皆の力です――運良く地震が起きたのは、神の加護。この機に乗じ、王宮殿を取り返しましょう。チャンスは、今をおいて他にありません。一気に攻めこむのです。反抗する者は捕らえ、投降する者は拒まず仲間として迎えるように」

「心得ております。パル殿――よいか、パル殿こそ真の指導者。我々の味方だ。以後、軽はずみな者が出ないよう皆に知らせるのだ」

 グエルは、パルを襲った兵士に伝えた。

 彼は申し訳なさそうにして謝罪しようとしたが、パルがそれを止めにっこり笑ったので深々と頭を下げ、グエルの言葉を伝えるべく急いで立ち去った。


 パルが残っている人々にダールの死を告げ、迫りくる火の勢いに逃げるよう指示を出している時、リシューはてっきり側にいると思いこんでいたパットがいないことに気がついた。

 一瞬、いやな予感に血の気が引いた。

「パ、パットどこにいる!? どこに隠れている、返事をしろ!!」

 

 うろたえながら周りを見渡したが、その姿はどこにもなかった。

 一縷の望みのようにパルを見た。

 騒ぎ声に混じって、みしみしと鳴る建物、そしてパチパチと物を焼き砕いていく焦げた匂いがさらに不安を増していく。


「王の私室で異星の少年を見かけませんでしたか?」

 パルはすかさずグエル総司令官にたずねた。が、彼は気の毒そうに首を振った。

「――いいえ。兵士を救助した際見回しましたが、私室には誰も、誰もいませんでした」


 その言葉を聞くなりリシューは、パルの制止を振り切り脱兎の如く駆け出した。

(はぐれたんだ。どこだ……どこでだ)

「パット!! どこで気絶してる、どこにいる、パット、返事しろ!!」

 なかば半狂乱のようになって、火の中をくぐり抜け、煙にむせながら捜し回った。


「パット……」

 火の粉が吹雪みたいに舞い、息苦しかった。

のどが熱くて痛く、名を呼ぶたびひりひりして何度もむせた。

 熱風に意識がもうろうとしていた時、炎に巻かれた柱が気味悪い音をたてて倒れてきたのである。

 パルがとっさにリシューの腕をつかまらなければ、彼女はその下敷きになっているところだった。 


「パルさま、早くお逃げ下さい! この居城はもうだめです。焼け落ちます!」

 駆けつけた兵士が逃げ道を指し示しながら力の限り叫んだ。

 それでもバリバリと崩れる轟音に消されがちだった。

 

 パルは無言のままリシューを抱え、無理矢理その場から連れ出した。

「放せ、放してくれ!! パットがこの中にいるんだ……パット……パーットォーッ!!」

 絶叫は、暗闇に浮かぶ紅蓮の炎にのみこまれていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ