夏の祭りにて希う
「声劇台本」兼「会話小説」です。
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私個人の規約は以上です。では、ごゆっくりお楽しみください。
上演目安時間
〜40分
設定
紫苑( シオン)
性別:女
その他
「おたふく」のお面
18 歳
都会に憧れる田舎娘
莉羅( リラ)
性別:女
その他
「キツネ」のお面
17 歳
快活少女
透菖( トウショウ)
性別:男
その他
「天狗」のお面
17 歳
おちゃらけムードメーカー
按司( アンジ)
性別:男
その他
「戦隊」のお面
17 歳
根暗引きこもりゲーマー
砂糖を摂取すると頭の回転が良くなり、話し方が理知的になる
配役表
紫苑:
莉羅:
透菖:
按司:
紫苑「祭りばやし。人の雑踏。綿あめを片手に花火を見たり、友達とはぐれたり。そんなテレビに出てくるみたいな夏祭りとか一回行ってみたかったなぁ」
莉羅「よっすー。今年もおたふく面なのは紫苑ちゃんかなー?」
紫苑「そのキツネのお面は莉羅ちゃんだー!!遅いよー!!」
莉羅「時間ぴったりだよー!!紫苑がはやすぎるんだってばー」
透菖「ちょいとそこのお面付けたお嬢さんたち。俺らと遊ばない?」
紫苑「やだナンパ?ちょっと、そういうの初めてで困っちゃうな―」
莉羅「紫苑、よく見て。透菖と按司よ」
紫苑「は?…」
透菖「怒っちゃやーよ」
按司「ぼくたちが最後?」
透菖「みたいだな」
紫苑「ふたりして遅れてきて何よそれー」
按司「ごめんね、紫苑ちゃん。透菖くんがどうしてもっていうから」
透菖「お前だってノリノリだったじゃねーかよ!てか、俺ら遅れてねーぞ」
按司「というか、まだ集合時間前だし」
莉羅「え、じゃあ私の時計壊れてるじゃん!!もー、最悪なんだけど…」
紫苑「今度一緒に新しいの買いに行こうよ」
莉羅「いいね!行こう!」
按司「で、でも、受験勉強あるの忘れたらだめだよ」
紫苑「いいじゃん別にさー!てか、按司は呼んでないし」
按司「そ、そうだね。あはは…」
透菖「安心しろ。俺も呼ばれてないぞ」
紫苑「なんかみんな変わってないね」
透菖「按司なんかまだ戦隊のお面付けてるしな。それ俺らが子供の頃のやつだろ?」
按司「い、いいだろ別に。かっこいいものは何歳でもかっこいいんだから」
透菖「しかもグリーンて。ぱっと見地味だし、よく売ってたな」
按司「透菖くんこそ天狗じゃん。怖いよ」
透菖「ばっか!これがいいんだろ?わかんないもんかなあ?」
莉羅「まーまー、今日はどこから回る?」
透菖「近いところからでいいだろ。ここからなら、ほら。あそこにヨーヨー釣りがあるな」
按司「ぼ、ぼくは射的がいいな。最新ゲーム機あるみたいだし」
透菖「お前は射的屋の景品を必ず落としていくから出禁になっただろ」
按司「あっ……。かなしい」
莉羅「紫苑は?紫苑はどこから行きたい?」
紫苑「私はお腹空いたから、まずは焼きそばとたこ焼きからかなぁ」
透菖「さすがの食い意地だな」
莉羅「ちゃんと他の屋台も周ろうね?」
紫苑「もう!揶揄わないでよ!」
透菖「わりぃわりぃ。んじゃ、まずは腹ごしらえと行くか」
紫苑「焼きそば~♪たこ焼き~♪楽しみだなー」
透菖「食い意地だけは昔から変わらないよな」
紫苑「あっち!あっちにトウモロコシとはしまきも売ってるよ!」
莉羅「そんなにたくさん食べるとまた太るよー」
紫苑「またってなによ!太ってないもん!成長期だもん!」
透菖「ん?按司のやつどこ行った?」
按司「綿あめ売ってたから」
透菖「おわっ!?お前、もうちょっと普通に出て来いよ。てか、せめて情報くらい共有しろよ」
按司「そんなことより、糖分の摂取のほうが迅速に行われなければならないだろ」
透菖「そういやこいつ、甘いもの食うとこうなるの忘れてたわ」
按司「”甘いもの”ではなく”砂糖限定”だ」
透菖「へいへい」
莉羅「そういえば!按司さっき射的したいって言ってたよね?」
紫苑「言ってたけど、出禁にされてるんでしょ?」
莉羅「でも、私たちって、ほら、これあるじゃん」
透菖「お面がどうかしたのか?」
莉羅「お面してるから顔は割れてないってことだよ」
按司「なるほど。つまり、お面を取れば顔を知らない分、実質出禁解除というわけだな。盲点だった」
莉羅「こうなった按司ってさ、言ってることは頭良さそうなんだけど馬鹿だよね」
按司「非摂取時と比較すると回転効率が良くなる分物事の整理はしやすくなるが、砂糖の摂取だけで知力が変わったらそれこそ問題だろ。ドーピングじゃあるまいし」
紫苑「ダメだよ。おばあちゃんがお祭りに行くときはお面をしなきゃダメだって言ってたし」
莉羅「でもさ、私たちって紫苑のおばあちゃんの言いつけのせいで一回も素顔でお祭りに来たことないじゃん。他のお客さんだってお面してないしさ、別にいいじゃん」
紫苑「でも、おばあちゃんが言ってたし、何か理由があるはずでしょ。それに、今更お面外すのはなんかちょっと……恥ずかしい」
按司「そんなことはどうでもいい。ぼくは射的がやりたいんだ。別にお面をしなかったからといってどうなるわけでもないだろ」
透菖「お面を外したらどうなるんだ?」
紫苑「わからない」
透菖「わからないってことないだろ」
紫苑「おばあちゃんはただ、お祭りに行くならお面をしなさいとしか…」
按司「じゃあいいだろ。ぼくは先に行くぞ」
透菖「あ、おい!待てよ!!行っちまいやがった。あいつ本当に引きこもりか?」
莉羅「砂糖が切れたらさすがに帰ってくるんじゃない?」
紫苑「綿あめ片手に走っていったからたぶん探しに行った方がいいと思う」
透菖「つってもよ、射的屋のところにいるなら俺らものんびり行けばいいんじゃね?」
紫苑「そうかな……。そう、だよね」
透菖「何も心配することないって。あいつの服装も覚えてるし、最悪あいつが俺ら見りゃすぐわかんだろ」
莉羅「そんなにお面のことが心配なの?」
透菖「飯食うときにお面ずらしてんだから外すぐらいどうってことねーって」
莉羅「そうそう。それにさ、なんだかんだ言って私たちって高校生最後じゃん?ラストジェーケーってやつ?高校三年生の夏は一生に一度なんだからちょっとくらい特別な思い出にしてもいいじゃん?」
透菖「単位が足りてたらの話だがな。留年したらもう一年高校生できるぞ」
紫苑「じゃあ受験勉強やり直しじゃん!やだー」
莉羅「そこ心配するんだ。でもたしかに、ちょっぴり単位やばいかも」
紫苑「私は大丈夫だけどね」
莉羅「えー、なんでよー!」
透菖「莉羅は遅刻しすぎなんだよ。その点、紫苑は出席率だけは良いけどな。勉強は普通だけど」
紫苑「透菖のくせに生意気だぞー」
莉羅「そーだそーだ!昔は私たちに泣かされてたくせにー」
紫苑「いや、泣かせてたのは莉羅だけだよ」
莉羅「あれー?そうだっけ?」
透菖「そんな昔の話は忘れとけな」
紫苑「あー、話してたらご飯食べ損ねちゃった…。この先ってまだ食べ物系のお店あったっけ?」
莉羅「毎年出店場所はランダムだから、もしかするとあるかもね」
透菖「そうだな。まだまだ射的屋も見えてこないし、かなり奥まで続いてるんだろうよ」
紫苑「じゃあさ、ついでに本殿まで行ってお参りしてかない?」
莉羅「それいいかも!お参りするのすっごくひさびさ~」
透菖「なんだよ、正月とかに行かねーの?」
莉羅「そりゃ初詣には来るけど、友達と行くのは久しぶりってこと!別ってことわかんないかなー」
透菖「わからん!」
莉羅「さっすが灼熱ゴリラ君は乙女心がわからないってねー」
紫苑「灼熱ゴリラ!?」
莉羅「うちの学校でね、透菖のことは灼熱ゴリラって呼ばれてるんだよ」
透菖「いつの間にかそんな名誉あるあだ名で呼ばれていてな!俺も人気者の仲間入りってやつだ!」
紫苑「名誉あるのそれ…」
莉羅「ないよ。私が広めただけだもん」
透菖「発信元はお前かよ!」
紫苑「そっか、三人とも同じ学校だもんね。やっぱり羨ましいなー」
透菖「今更だな」
莉羅「そうそう。それに、紫苑のお母さんが私たちと同じ学校行くのもう反対してたからね。今更仕方ないよ」
透菖「それに紫苑は俺らと違って頭が良いからな。そっちの方を進めるのは親としての意地みたいなのもあるんだろうよ」
莉羅「まあ、お互いに高校三年生なわけだしさ、一緒の大学目指せばいいじゃん!」
紫苑「そうだね……!じゃあ、大学は一緒のところ行こうね!!」
透菖「莉羅はその前に授業に出て単位取らないとな」
莉羅「うるさい!夏休み明けたらちゃんと出るし!」
紫苑「もしかして、後輩として接する準備しといたほうがいい?」
莉羅「だー!!もう!!二人してーー!!!私だって怒るんだからね!!」
紫苑「わーいわーい!おこったおこったー!」
透菖「それはいいんだが、さっきから気になることがあるんだよな」
莉羅「全然よくないけど!!」
紫苑「なに?気になることって」
透菖「この神社ってそんなにでかかったか?」
紫苑「そんなにおっきいイメージはないけど、なんで?」
透菖「なんで?ってお前、さっきからずっと歩いてるのに本殿どころか出店すら途切れやしない。いつまで歩いても店の灯と人の雑踏が続いてる。いくら何でも長すぎると思わないか?」
紫苑「言われてみれば…。そういえば、幾つか射的屋さんあったけど、按司っぽい人も見かけなかったし…」
按司「ぼ、ぼくならここにいるけど……」
透菖「おまっ!!いつのまに…」
按司「い、今だよ。な、なんかお面が外れなかったから引き返してきたんだ。そしたら、みんなの背中が見えたから」
透菖「背中が?俺らはお前を追いかけて神社の奥に向けて進んでいたんだから背中が見えるわけないだろ」
按司「で、でも、実際ぼくはみんなの後ろから来たわけで…」
紫苑「それよりも、お面が外れなかったってどういうこと?」
按司「えっと、そのままの意味だけど…」
莉羅「いや、外れないわけないでしょ?だって、普段つけて生活してないし」
透菖「そうだな。こうやって…。あれ?」
莉羅「なにしてんの?」
透菖「外れない…」
莉羅「はあ?」
透菖「ふぬぬぬぬぬぬぬぬうう……っはあ、はあ。やっぱり外れねーぞ」
莉羅「くだらない冗談やめてよね」
透菖「なにしてんだ?俺のお面に手なんかかけて…?」
莉羅「引っ張るの。揶揄ってるんだってこと証明してあげる」
透菖「ちょっと待て!落ち着けって!なんか感覚がおかしいんだよこれ」
莉羅「うるさい!いくよ!!せーのっ!」
透菖「あいだだだだだだだ!!やべで!やべ、やめろってば!!」
莉羅「全然剥がれないんだけど……。まるで顔に直接くっついてるみたい」
透菖「だからやめてくれって言ったんだよ」
莉羅「引っ張る前に言ってよ!」
透菖「言ったわ!」
莉羅「言ってない!!絶対に言ってない!!ね、紫苑!紫苑は今のやり取り聞いてたよね?私が正しいよね?」
透菖「言ったよな?俺絶対言ってるよな?どうなんだ紫苑?」
紫苑「えっと、感覚が変だとは言ってたけど…」
莉羅「ほーら言ってないじゃん!!」
透菖「それがそういうことなんだよ!やっぱり馬鹿じゃねえか!」
按司「ね、ねえ透菖くん……」
透菖「なんだ按司?今忙しいんだからあとじゃダメか?」
按司「お面……お面……!」
莉羅「お面がどうしたのさ?はっきり喋ったら?」
按司「紫苑ちゃんのお面、外れてる……」
紫苑「えっと……普通に外れちゃった…?」
莉羅「付けておいて。絶対に外しちゃダメ」
紫苑「そうだね。うん、おばあちゃんもそう言ってたし…。なんでかわからないけど……」
按司「で、でもなんで紫苑ちゃんだけ外せるんだろ…」
透菖「わからん。ただ、とりあえず今は嫌な予感がする。按司、お前はもう一度綿あめ食べとけ。その辺にあるだろ」
按司「わ、わかった」
透菖「莉羅はとりあえず紫苑から離れるなよ」
莉羅「あー、その……言いづらいんだけど……」
透菖「なんだよ?」
莉羅「按司が紫苑連れて行っちゃった……」
透菖「アホかあいつは!?」
莉羅「追いかけるよ!ぼやぼやしないで!」
透菖「言われなくても!」
按司「ただいまー」
紫苑「あれ?二人ともどうしたの?」
透菖「按司馬鹿野郎!!この野郎!!なんで紫苑を連れて行ってんだよ」
按司「お前が綿あめを買いに行けと言ったんだろ。一人じゃ持ちきれないから荷物持ちに連れて行った。それだけだが?」
透菖「どんだけ買うつもりなんだよお前…」
按司「少なくとも、頭が常に回転していられる量は摂取するつもりだが?」
紫苑「糖尿病まっしぐらだね」
按司「近々それについて病院で検査を受ける予定だったが、取りやめになった。ぼくは糖尿病にはならん」
紫苑「誰かに言われたの?」
按司「自分で決めた」
紫苑「そ、そうなんだ。お大事に」
按司「紫苑ちゃんには悪いけど、綿あめは渡せないんだ。持ってもらったのにごめんね」
紫苑「全然いいよ!ていうか、あんまり甘いの好きじゃないし」
莉羅「そうだよ!紫苑はどっちかというと焼きそばとかポテチのほうが好きな女の子なんだから!そんなのも知らないとかやっぱり按司は按司だなー」
透菖「なにでマウントとってんだよ。というか、それはマウントなのか?」
紫苑「お腹空いた……なにか食べない?」
透菖「そういえば何も食べてないよな」
莉羅「家で食べてこなかったの?」
紫苑「毎年お祭りで食べてるから今日もなにか屋台で食べようかなって」
莉羅「どうしよ、この辺なにか食べ物の屋台ある?」
按司「あっちとそっちと、それからあそこにあるぞ」
莉羅「どれどれ?なんの屋台?」
按司「全部綿あめの屋台だ」
莉羅「そんなことだろうと思った!」
透菖「飯なら今日は帰って食べたほうがいいんじゃないか?かなり混雑してきたからな」
紫苑「でも、もうちょっとみんなと居たいかも…。だって、みんなと会えるのはお祭りだけだし……」
按司「なにも急いで帰る必要もないだろ」
莉羅「そうそう。綿あめがこんだけあるなら、もう少し歩けばなにか食べ物系の屋台ぐらいあるって!ほら行こ?参拝もするんでしょ?」
紫苑「そうだね!はやく行っちゃおー」
透菖「相変わらず暢気だな」
按司「いいじゃないか。現状一年に一度しか集まれないんだ。いつも学校で顔を合わせているぼくたちとは違う。なにを焦っているのか知らないが、お面が外せないのは仕方ないだろ。張り付いているようだからな」
透菖「そうだが。それとは別件で何か嫌な予感がしてならない」
按司「具体的にどういった予感なんだ?」
透菖「紫苑だけがお面を外せたことに対して、一瞬周りの視線が集中した気がしたんだ」
按司「気のせいじゃないか?そもそも、事前にぼくたちが騒いでいたせいで事の成り行きを見ていただけかもしれないだろ?」
透菖「いや、やっぱり納得いかない」
按司「じゃあ気に留めとくだけにして、今は遊ぼうぜ。そのほうがいい」
莉羅「二人ともおそーい!紫苑ひとりでかなり先行っちゃってるよ」
透菖「莉羅、すぐに紫苑のところに行ってくれ。それから、絶対に紫苑から離れるなよ!」
莉羅「なんでー?」
透菖「なんとなくだ」
莉羅「わかった!じゃあ、先に行ってるから早く来なよ?」
按司「おい、透菖。巻き込むなよ」
透菖「悪いとは思うが、戦隊グリーンより役に立つと思うぞ」
按司「(舌打ち)。はやく追いかけるぞ」
透菖「おう!って、どこ行くんだ?」
按司「綿あめを全部食べてしまった」
透菖「お前本当に健康に気をつけろよ」
按司「今更だ」
紫苑「あ、居た!」
透菖「うおぅ!!また後ろからか!」
紫苑「あれー?前に進んでたはずなんだけど…なんでだろう?」
透菖「莉羅はどうした?」
莉羅「いるよん」
透菖「お前も後ろから出てくるな!!びっくりするだろ!!」
莉羅「それよりさー、ちょっと聞いてほしいんだけど」
按司「財布でも落としたのか?」
莉羅「ちゃんとあるよ!そうじゃなくて、このお祭りのこと!」
紫苑「なんかね、ずっと同じ場所をぐるぐるしてるみたいなの」
透菖「同じ場所を?どういうことだ?」
莉羅「ほい、じゃあこれ持ってて」
透菖「ひも?」
莉羅「いいから持ってて!放したらダメだからね」
透菖「あ、おい!!」
按司「よくあの走りで人にぶつからないものだ」
透菖「全くだな」
莉羅「でも当たらないのすごいでしょ?」
透菖「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!なんで毎回俺の後ろに来るんだよお前は!!」
按司「透菖くん、ひもは放してないな?」
透菖「おう。ちゃんと持ってるぞ。ほら、この通り……あれ?なんでお前後ろにいるんだ?」
按司「確かにひもは前に伸びている」
紫苑「たぶん、あそこの鳥居より向こう側に進むと、こっちの入り口の鳥居に戻されるみたいなの」
透菖「入り口?あんなに歩いたのに入り口にいるわけないだろ?」
按司「いや、入り口だ。後ろにはいつもの階段しかないぞ」
透菖「じゃあ、俺らは気づかないうちに入り口に戻ってきたのか?」
紫苑「そうじゃなくてね、たぶんなんだけど……」
莉羅「神隠しってやつじゃないかな?」
透菖「神隠しだと!?おい按司、神隠しってなんだ?」
莉羅「いや知らないのかーい!」
按司「神隠し。簡単に言うと”人ならざるモノが行う誘拐行為”だな」
莉羅「さっすがオカ研部長様!物知り~♪」
按司「オカ研じゃないし、そもそも部活には入ってないの知ってるだろ」
莉羅「てへぺろ」
按司「それはともかく、もしもこれが神隠しなら、ほかの客も同様に神隠しされていることになるが……」
紫苑「いや、たぶん……それはないんじゃないかな……?」
按司「なぜそう思うんだ?」
透菖「そんなもん、周り見てみりゃ簡単な話だぞ」
莉羅「みんなお面つけてるんだ」
紫苑「でも、たぶんお面じゃない」
按司「なるほど、面倒なほどにファンタジックだな」
紫苑「さっき透菖が言ったタイミングで帰ればよかった……」
透菖「怖いのか?」
紫苑「お腹空いてるの!」
莉羅「この範囲内に食べ物のお店無かったんだよね」
透菖「でも、さっきは焼きそばだのなんだのがあるって言ってなかったか?」
莉羅「そういうお腹が膨れそうなものに限って無くなっちゃってるの。かわりにお面屋さんが増えたよ」
按司「これはチャンスなんじゃないか?」
紫苑「なにが?」
按司「ここが隔離された特殊な空間であるなら今なら射的屋の出禁も関係ないだろうか?」
透菖「アホかお前!」
紫苑「按司のアホ!略してアホ!」
按司「それは略したのではなくただの罵倒だ…」
透菖「とりあえず、その辺の人に話聞いてみるしかないな」
莉羅「それは難しいと思うけどね」
紫苑「なんで?」
透菖「おまっ…俺のセリフ取るなよ…。それで、どういうことなんだ?」
莉羅「さっき思いっきり走ってたじゃん?あの時に何人かぶつかったんだよね」
按司「ぶつかったようには見えなかったが?」
莉羅「伊達に陸上部のエースやってないからね!どんなもんよ!」
紫苑「莉羅ちゃん陸上部のエースなの!?」
透菖「エースどころか体育の授業すらまともに出てないだろ」
莉羅「でへへー」
紫苑「だまされたー。いつもの莉羅ちゃんだったー」
莉羅「それはともかくさ、ぶつからなかったの!」
透菖「はいはい。自慢話はまた後でな」
莉羅「違うよ!なんか、すり抜けたっていうか?」
按司「どうやら物理的干渉が不可らしいな。さっき試した」
莉羅「えっと?ぶつりてき……?難しい言葉使わないでよ!」
紫苑「知らないとまずい範疇だよ莉羅ちゃん…」
莉羅「………し、知ってたし?」
透菖「まあ、莉羅の頭の悪さが今更露呈したところで手遅れなわけだが、人に干渉できないのであればひとまず安心じゃないか?」
紫苑「そうでもないと思うよ」
莉羅「なんで?」
按司「さっきからぼくが綿あめ買えてるからだろうな」
透菖「確かに、干渉できないのであれば買い食いなんてできないんだろうからな。なにか条件でもあるんだろ」
紫苑「屋台じゃない?屋台で買い物をするときだけ干渉できるとか?」
莉羅「試してみる?」
透菖「試すなら綿あめ以外のところのほうがいいな」
按司「どうしてだ!」
透菖「お前が散々買ったおかげで証明出来てんだよ」
紫苑「みんな、お金いくら持ってる?」
莉羅「ゼロ」
透菖「同じく」
按司「さっき全額使った」
紫苑「……誘った手前こう言うのもなんだけど、みんな何しに来たの?」
莉羅「紫苑ちゃんに会いに来た!」
透菖「散歩のついで?」
按司「綿あめと射的のため」
紫苑「按司の目的はなんとなくわかってたけど、二人は本当に何しに来たの…」
莉羅「浮かれてたらお財布忘れちゃった」
透菖「散歩に出る直前に思い出したからお面だけ持ってきた」
按司「絶句しているところ悪いが、今何時だと思う?」
透菖「もったいぶる言い方してないで早く言えよ」
按司「集合時間から変わってない」
莉羅「え?按司の時計も壊れたの?」
按司「そうだといいんだけどな。莉羅ちゃんの時計は?」
莉羅「私のは…。あれ?私のもさっきと同じ時間で止まってる!」
透菖「俺もだな。紫苑はどうだ?」
紫苑「いやっ、なんか今日はいらないかと思ってたから持ってきてなくて…。ごめん」
透菖「別に謝る必要もないだろ。持ってきてないものは仕方ないからな。まあ、三人中三人ともの時計が止まってるんだ、あったところで変わりないだろうな」
紫苑「そうだね。うん…」
莉羅「紫苑、どうかしたの?」
紫苑「なんでもないよ。お腹空きすぎてちょっとふらふらするだけ」
莉羅「それかなりヤバいんじゃない?やっぱり綿あめでも食べたほうがいいよ!」
按司「確かに、空腹からくるめまいなどは低血糖が原因であることが多いため、砂糖の塊をより摂取しやすくした綿あめは適切な判断だな。ぼくのはあげないが」
莉羅「一個ぐらい別にいいでしょ!ケチ!」
按司「最後の一つなら既に食べ終えたんだ。悪いな」
透菖「絶対思ってないな」
紫苑「いいよいいよ。ありがとう」
莉羅「でも変だよね」
透菖「なにが?」
莉羅「透菖はお腹空かないの?」
透菖「いや全く」
莉羅「私もなんだよね。しかも、ご飯食べて来てないのに」
透菖「そういえば、俺も飯食ってなかったな」
紫苑「按司はどうなの?」
按司「ぼ、ぼくもお腹空いてないよ。ご、ご飯も食べてない」
透菖「もう砂糖切れたのか」
莉羅「あんなにいっぱい食べてたのに……本当糖尿とかならないでよね?」
按司「し、心配になってきた……」
紫苑「今度病院にでも行きなよ」
按司「う、うん。そうする」
透菖「それで、なにが変なんだよ?」
莉羅「だから、紫苑以外お腹空いてないってこと!」
透菖「そんなもん個人差だろ。そもそも、紫苑の食い意地からして比較対象にならねーしさ」
紫苑「殴るよ?」
莉羅「透菖さいてー」
透菖「んなっ!そういうつもりで言ったんじゃ…」
按司「ほ、他に捉えようがないよ」
透菖「理路整然と話す按司も腹立つが、この按司に言われるともっと腹立つな」
按司「ふひっ、草」
莉羅「てか、神隠しって誘拐みたいなやつって言ってたけど、家に帰れるの?」
紫苑「いや、帰れないんじゃないかな…」
透菖「同感だな。人間でも何かしらの目的があって誘拐するわけだし、今すぐとはいかなくても、このままなんの反応も無く家に帰れるとは思えない」
莉羅「ゲームとかならシュバっと解決して、ササっと脱出!とかありえそうなのにねー。そういえば、按司ってゲーム好きでしょ?」
按司「えっと、好きだけど…」
莉羅「こういう脱出ゲームとかホラーゲームの定番の脱出方法ってないの?」
透菖「ゲームでできるからって実際にできるとは限らないだろ」
按司「げ、ゲームとかだと、定番なのは……」
莉羅「うんうん!」
按司「ごめん…。わかんない……」
莉羅「えー!!」
按司「ぼ、ぼく、ホラーとか苦手で……FPSとかならやってるんだけど」
莉羅「えふぴーえす?」
按司「ファーストパーソン・シューティングゲームの略で、バトロワゲーとか、有名実況者とかやってるよ。他にも世界大会とかあって、近年だとeスポーツも増えて来たし、プロゲーマーとか昔は夢みたいなものが実際に職業としてできて来たし、今すごい熱いんだよ!!莉羅ちゃんも興味あるの?やる?ぼくのおススメはーー」
透菖「(割り込み)熱いのはお前だよ。莉羅困ってんじゃねーか。しかも話逸れてるし」
按司「えっ、あっ、ごめん……」
莉羅「またいつか一緒にやろうね」
按司「ありがと…」
透菖「けっきょくまた振り出しか…。俺らのお面も取れないし、どうしろってんだよ…」
紫苑「なんで私だけ取れるんだろうね」
透菖「さっぱりわからん」
紫苑「意外とお面の紐をきつく縛ってるだけだったりして」
透菖「そういえば、俺らのお面って紐無いな」
按司「言われてみれば…」
紫苑「え、じゃあどうやってつけてるの?糊?」
透菖「そんなわけあるか」
莉羅「なんかもう顔の一部みたいなんだよね」
紫苑「顔の一部っていうか、外れないならそれが顔なんじゃないの?」
莉羅「えー、でも私たちの顔はわかるでしょ?」
紫苑「さすがにわかるよー…………あれ?」
莉羅「どうしたの?」
紫苑「おかしいな…。思い出せない…?」
透菖「莉羅、やめとけ」
紫苑「なんでだろ、久々に会ったからかな。おかしいよね」
莉羅「ううん。おかしくないよ」
透菖「おい莉羅!」
按司「透菖くん。今は莉羅ちゃんに任せようよ…」
莉羅「紫苑ちゃん。驚かないで聞いてほしいんだけど…」
紫苑「うん。なに?」
莉羅「それと、聞いたあとで否定とかもしないでほしいの」
紫苑「わかった?」
莉羅「私たちのお面ってね、紫苑ちゃんが覚えてる顔なんだ」
紫苑「えっと、え?」
莉羅「紫苑ちゃん。私たちみんなね……」
紫苑「莉羅ちゃんもお腹空いたんだね」
莉羅「違うよ、紫苑。ちゃんと聞いて!」
紫苑「違わないよ!莉羅ちゃんはお腹が空いた。だから、面白い話でもして気を紛らわそうとしてるんだよ」
莉羅「違うよ。お腹は空いてない。空かないよ」
紫苑「そうじゃないとおかしいもん。そうであってもおかしいけど、おかしいんだよ…」
透菖「紫苑、お前いい加減にしろよ!」
紫苑「さっきは莉羅ちゃんを止めようとして、今度はそっちの味方?」
透菖「だから、誤解が無いようにちゃんと話すから少しじっと黙って聞いててくれよ。莉羅が話すことを否定しないって約束だろ」
紫苑「否定なんかしてないよ。茶化して揶揄ってるんでしょ?何も間違ってない」
莉羅「茶化しても揶揄ってもないの。お願い、真剣な話だからちゃんと聞いて」
紫苑「聞きたくない」
莉羅「ねえ、お願いだから…」
紫苑「いや。絶対に聞かない」
按司「………あ、あのさ、紫苑ちゃん」
紫苑「なに?按司までおかしなこと言うの…?」
按司「その……ありがと。ぼくらを忘れないでいてくれて」
紫苑「……いるもん。みんなまだいるもん……」
按司「紫苑ちゃんだけ時間が経過してる。だ、だからお腹もすくし、お面も外せる」
紫苑「神隠しにあったから、なんかちょっと場所がおかしいんだよ。鳥居の外にも出られないじゃん」
透菖「奥の鳥居を抜けたら本殿に、入り口はそのままの意味だな。だから出口をふさいだんだろ」
紫苑「なにそれ。じゃあ神隠しは私がやってるみたいじゃん。お面が外れないのも、帰れないのも私のせいで、お腹減ってくたびれてるのは自業自得じゃん。そんなバカみたいなことしないよ」
按司「し、紫苑ちゃんの言う通りだよ。透菖くん」
莉羅「ダメだ、私も頭混乱してきた」
按司「紫苑ちゃんにとって、ここが一番思い出の強いところなんだよ。み、みんなであそんだりした思い出。だ、だから、これは神隠しじゃないよ」
莉羅「神隠しってさっき言ってなかったっけ?」
按司「そ、それはそれで、これはこれというか…。というか、ぼく言ってないし」
透菖「言い出したのは莉羅だろ。責任転嫁すんなよ」
莉羅「そうだっけ?あははー」
紫苑「神隠しだろうとなかろうと、今が楽しいならそれでよくないの?」
透菖「現に腹が減ってるんだろ」
紫苑「でも、ここにはみんなの好きなものがあるじゃん」
透菖「按司の綿あめぐらいしかないぞ」
紫苑「そうだった…。綿あめの印象しかなくて…」
莉羅「按司のせいじゃん」
按司「ぼ、ぼく何も悪くないのに!」
紫苑(呼吸が厳しくなるくらいの大笑い)
莉羅「紫苑ちゃんが壊れちゃった……」
透菖「叩いたら治らないか?」
按司「や、やめようよ。き、機械にも悪手だし」
紫苑「はー。なんかこんなに笑ったの久しぶりかも」
莉羅「……もう大丈夫なの?」
紫苑「うん。もう大丈夫。……みんな、ごめんね」
透菖「今更謝られてもな…。この空間の意味暴露された後だとなんかこっちが申し訳ない気ぃするわ」
按司「で、でも、ぼくは去年来れなかったから、ちょっと嬉しかったよ」
透菖「お前だけじゃなくて、俺ら三人ともだけどな」
莉羅「私、また来年も来るよ!」
紫苑「うん。また来年。今度は私もちゃんと行くよ。だから、去年みたいに誰も来ないのはナシだからね!」
紫苑「焼きそば、たこ焼き、はしまきとトウモロコシ。それから、綿あめ。天狗、ヒーロー、キツネのお面。よし、準備完了!約束通りちゃんと来たからね!」
紫苑「今年のお祭りはね、すごいんだよ!」
紫苑「今年はね、花火、上がるんだって!花火だよ?すごくない?」
紫苑「今年は、うちの両親が自治会長してて、意外と予算余ったからって花火上げることにしたんだってさー。ほら、うちの両親ってすごい可愛がってくれるからさ、大学に入ったお祝いにって。大げさだよね」
紫苑「でも、結構予算を無理やりねじ込んだみたいで、計算上だと年度末には結局ちょっと足りないんだって。大胆だよね」
紫苑「そろそろ上がる時間だけど……あっ!」
紫苑「………みんな、見てるかな。ううん、見てるよね。私もう大丈夫だから。だからね、行ってきます」
どうも、はじめましての人から既知の人までこんにちは。枢さんです。
最近はYouTubeで配信したりしなかったりの日々を送っています。
さて、今回の台本ですが、とある人からの依頼で作成することになり、無事上演が完了しました。
最後まで読んだうえで「なんのこっちゃこの話?」と思う人も、そう思わない人もいるとは思います。
ネタバラシをすると、人間のお面というのは紫苑だけなんですね。
こう、直接的な表現をいかに避けて話を演出するかというチャレンジをひそかに長年続けてるんですが、たぶん一ミリも上達してませんね。
さて、次回ですがいつになるかわかりません。年内には投稿します。
理由としては、今ちょっとした声劇の企画をやってまして、この台本を含めた10本をね、上演しようと思ってます。
興味ある人は僕のTwitterを覗いてみてください。
ではまたどこかで。