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88.悩める美姫

 アマネセル国首都、スーペルノーバにそびえ立つ白亜の城の一室。


 王の間とは違い、非常に繊細かつ優美なセンスを感じられる部屋の中で一人の美姫が頭を抱えていた。


「セレスティナ様、お加減が優れないようでしたら…」

「構いません、続けて下さい」

「……畏まりました。―――今より2週間前の午前。アルトアイゼン王国はシアン・ド・ギャルド要塞に『迅雷』・『拳神』・『極魔』の3名が入場したとのことです」

「ありがとうございます。下がってくれて結構です」

「はい……失礼致します」


 報告をした女騎士は主であるセレスティナの顔色が優れないことを気にかけながらも、主の要望に応え部屋の外での見張り役に戻る。


 そこまでをしっかりと見届けてからセレスティナはベッドに横たわりポツリとつぶやいた。


「はぁ、『迅雷』・『拳神』・『極魔』――この三名に元からいた『修羅』、王都より帰還してきた『槍聖』。何かがあればすぐさまやってくる『万魔』に『無形』……強いわけです」


 決して人前では弱音を吐かない気高く賢い美姫セレスティナは珍しく心の嘆きを口にする。

 しかし、すぐさま起き上がりドレスのしわを伸ばしいつもの様子に戻った。


「それでも……それでもやらねば。民の犠牲が無に帰してしまう……」


 覚悟なのか虚勢なのかわからないその一言を自分に聞かせ部屋を出る。

 そして勇者たちが訓練を積んでいる場所へ向かう。


 セレスティナが声をかけたのは勇者の訓練を監督する教官役の騎士だった。


「進捗状況は?」

「はっ、さすがは勇者。近い未来、一人一人が一騎当千の猛将となること間違いなしです!……と申し上げたいところですが難しいところです」


 その騎士は大きな声で勇者を褒めたたえた後、周りには聞こえない声でセレスティナに事実を伝える。

 アマネセルは勇者の召喚自体には成功し、優れた適正値を持つ複数の勇者を保持することに成功した。

 しかし、誤算もあった―――。


「それは勇者に戦いの素質がないということですか?」

「いえ、そのようなことはございません。むしろ一人一人が猛将となり得る素質を有しております。…問題は心の方にございます」

「心、ですか……」

「はっ、彼らの元居た世界は争いがほとんどなく平和な世界だったそうです。故に殺しに忌避感を抱いている。適正値がいくら優れていようとも心が脆ければ戦に出ても呑まれるだけ。―――無駄死ににございます」


 騎士の言う通りいくら身体能力が優れていようと才気に溢れていようと心が戦士として育たたない限り戦いの場では通用しない。

 むしろ、錯乱状態に陥った勇者《兵器》が敵味方もろとも吹き飛ばす可能性だってある。

 制御不可能な兵器《勇者》を戦地に投下するほどアマネセルの軍部《《末端》》は馬鹿ではなかった。


「そうですか……彼らもまた被害者なのですね……」


 セレスティナは粗削りながらも片鱗を見せつつある勇者たちを見つめる。


「えぇ……。しかし―――」

「分かっていますよ。それでも彼らには働いてもらいます。幸いなことに勇者の育成は私に一任されていますし、アルトアイゼンは様子見に徹しています。時間はある。……どれほどの時間があれば勇者は真の勇者となりますか?」

「はっ!少なくとも1年、万全を期すのであれば2年は必要かと……」


(かかりますね……)


「……わかりました。頼みましたよ?」

「はっ!」


 勇者の近況報告を聞いたセレスティナがその場を後にしようと訓練場に背を向けようとしたその時、セレスティナを見つけた訓練中の勇者たちが駆け寄ってきた。


「あっ、セレスティナ様じゃーん!」

「お、おい!セレスティナ様に不敬だろ!」

「え、いいじゃん。勇也もこの前……」

「うわぁーーー!やめろーーー!」

「こら!お前ら!鍛錬の最中だぞ!戻れ!―――申し訳ございません王女殿下。後でしっかりと言っておきますので…」


 セレスティナに近づいてきていた勇者たちがわー!と蜘蛛の子散らすように散らばっていき自分の訓練に戻っていく。

 その様子を見てセレスティナは叫んだ。


「いいのです……皆さまーー!頑張ってくださーい!悪しきヴァンティエールを倒すのです!」


「「「「「「おおーーー!!!」」」」」


(私もあの人たちとそう変わりませんね…………)


 一点の曇りもない勇者たちのその眼差しがセレスティナには眩しかった。

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