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87.化け物たち

 アルテュールとの話が終わり、政務の一部を妻アデリナに任せたベルトランは馬車に乗り、王国北西の要――シアン・ド・ギャルド要塞に向かっていた。


「通ってもいいかな?」

「っ……もちろんでございます!」


 辺境伯本人の突然の来訪に驚く門番の横を通りベルトランは要塞内に入ってゆく。

 そして歩くこと十数分、ようやくお目当ての部屋にたどり着きドアを開ける。


「遅れて申し訳―――」

「なんじゃとっ、貴様が知ったような口を利くでないわ!」

「はっはっはっ、そうひがむでない」

「僻んでおらん!わしはただ……」

「うるさいなぁ、爺さんたちいい加減にしてくれよ」

「「わしらを年寄り扱いするでないわ!!!」」

「おぉ、来たか『槍聖』殿。早速で悪いがこいつらを止めてくれないかね?」


 何が原因かは知らないが口喧嘩をする老人が二人。

 それを生意気な口調で煽る若者が一人。

 私は知らないとベルトランに解決を丸投げする老人が一人。


 部屋の中は地獄だった―――。


 全ての人間に対して話をすることなど無理だ。

 そう判断したベルトランはまず自分に話しかけてきた老人の相手をすることにした。


「これはどういった状況なのでしょうか、シュトラール殿」


 シュトラール殿と呼ばれた男は面倒そうに口を開く。


「マクシムとディーが王都でお前さんとこの嫡男の作った菓子を食べたか食べていないかで揉めているのだよ。どうにかしてくれ《《槍聖》》殿」

「はぁ、そのようなことで……あと、以前から申し上げている通り『槍聖』と呼ぶのをやめてくれませんか?」

「槍聖殿は槍聖殿だ。なぁ槍聖殿」


(あぁ、やはりこの御仁は苦手だ……)


『槍聖』とはヴァンティエール辺境伯でありロストルム流槍術師範代でもあるベルトランの二つ名だ。

 今から約10年前、師範代に昇格し、『槍聖』と言う二つ名を国王陛下に与えられ少し浮かれていたベルトランはこの男――ジークフリート・グスタフ・シュトラール=シュトラーレンに挑み、手も足も出ないうちに負かされた。

 その時より『槍聖』と会うたびに呼ばれ、揶揄われるのだ。

 以降、ベルトランにとって『槍聖』という二つ名は誇りではなく、若気の至りによってできた弱点そのものとなった。


(先ほどアルに揶揄われたばかりだというのに……)


 ベルトランは目の前で自身の父親とその親友が争っているにもかかわらず、一時放って自分はそんなに揶揄われやすい人間なのだろうか、と真剣に考える。


 が、一人の若者によって現実に戻された。


「ねぇ、ベル。そんな真面目な顔して実にくだらないことを考えている途中で悪いんだけどさぁ。あの二人うるさいからそろそろ何とかしてくんない?」


 その若者――ウィルフレッドは非常に面倒だといった顔を隠すことなく白い髪を揺らしながらベルトランのもとへやってきた。隣には見たことがない10代前半の少女を連れている。


「ウィル、その子はなんだ?緊張感のかけらも存在しないがここはアルトアイゼンの最前線だぞ?」

「あぁ、それについては安心して。この子は僕の弟子だから―――強いよ」

「ほぅ……」


 ベルトランはウィルフレッドに『強いよ』とまで言わせたその少女に興味を持ち見つめようとして、先ほどアデリナに怒られたばかりだと自分を律する。

 別に律する必要などないのだが今日一日でいじられ過ぎたベルトランは過敏だった。


「で、父上たちの争いを止めるのだったな」


 再びウィルフレッドの方を見たベルトランがそうつぶやく。


「あぁ、そうそう。頼むよ」

「分かった―――父上」

「む?なんじゃ、来ていたのかベルトラン。そうだ聞いてくれ、こ奴が先ほどから――」

「いやいや、マクシム。おぬしが悪い」

「……なんじゃと?」

「お?やるか?」


 ベルトランが話しかけて一度止んだ口喧嘩であったがすぐさま再開される。

 忘れてもらっては困るのだがここは王国北西の要、シアン・ド・ギャルド要塞。その中心最高司令官の一室である。

 決して口喧嘩をするためにある場所ではない。

 しかも今の状況は前例のない『勇者』襲来が大いにあり得る過去にないほど緊迫した状況下。


「―――ふざけるのも大概にしていただきたい」


 流石のベルもそりゃキレるな。


 怒れる親友ベルトランの後ろで事の成り行きを見守っていたウィルフレッドはそう思いながら、おぉ?いいぞ、と心の中ではやし立てる。

 が、次の瞬間。その余裕は呆れに変わった。


「父上、アルとリアに今の醜態を話しますよ?」

「なっ!貴様、それは卑怯だぞ……!」

「くはははっ!ざまぁないなマクシム!」

「ディーウィット殿はマルティナ嬢に話します」

「おいっ!ベル坊!」


 マクシムは大人びた二人の孫の冷たい視線を想像し、ディーウィットは今年で7つになるひ孫に嫌われる未来を想像して黙る。告げ口されてたまるものか、と。


 まさかの呆気ない幕引き。


「槍聖殿、よくやった」

「えぇっと……ベル、ありがとう……」


 注意を受けたにもかかわらず揶揄い続けるジークフリートと若干引き気味なウィルフレッドに感謝されたベルトランはそこでようやく席に着いた。


「さぁ、今後について話し合いましょう……」


 ベルトランのその声でようやく、化け物たちによる化け物たちに対する会議が始まった。

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