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75.既知との遭遇

(ふぅ、気を引き締めなおさないとな……)


 いつまでも自分の懐事情の環境を気にしたって仕方がない。

 さも当然のようにヴァンティエール家につけておけば何とかなるんじゃね?と開き直った俺は当初の目的であった貴族同士の対談に備えて心を落ち着かせていた。


 コトンッ


「お待たせ致しました。クーヘン・ショコラーデでございます」

「ありがとう」


 そんな俺のもとへ例の新商品『クーヘン・ショコラーデ』が運ばれてくる。


「ご苦労様……あぁ、あと私にはカフェーを頂戴」

「畏まりました、オーナー」


 正面に座るエルさんのもとにも『クーヘン・ショコラーデ』が運ばれていた。


(カフェーってなんだ……?)


 エルさんの発言中の未知の単語『カフェー』に疑問を覚えながらも俺は目の前に置かれた『クーヘン・ショコラーデ』を見る。


「……ほぅ」


 そして思わず驚きのこもったため息を吐いた。

 しかし、俺のその反応がお気に召さなかったのか、エルさんは若干拗ねた振りをしながら話しかけてくる。


「あら?驚かないのね。このお菓子を見た貴婦人方は誰一人例外なく二度見していたのに。驚かすことが出来なくて残念だわ」

「いえいえ、心の臓が口から飛び出るくらいには驚きましたよ。これほどまでに黒いお菓子は初めてなので」

「それが本心でないとしても面白い例えね」

「紛れもない本心ですよ」


 努めて冷静に冗談ぽく返答する俺。

 だが内心、本当に心臓が飛び出してきそうなくらいには驚いていた。


(おいおいマジかよ……これがこの世界にあるなんて聞いてねぇぞ)


 純白の皿の真ん中。

 真上から少し押しつぶした円柱型の茶色みがかった黒いスイーツ。

 香る甘く、どこか香ばしい、懐かしい匂い。


 ―――どこからどう見てもチョコレートが使用されたケーキがあったからだ。


『クーヘン・ショコラーデ』が来るまでの待ち時間に聞いたエルさんからの説明でもしやとは思っていたが、まさか本当にそのもしやが起こり得ようとは。


 驚きのあまり若干震える手を何とか抑えながらフォークを握り『クーヘン・ショコラーデ』改め『チョコレートケーキ』を切り分ける。


 そしてフォークを突き刺して口に―――ではなくまずは鼻に近づけて一呼吸。


(間違いない。少し香りが弱い気もするけどこれは俺の知っているチョコレートだ)


「……香り高いですね。…それにこの『ショコラーデ』でしたっけ?元が木の実だなんて信じられない」

「そうでしょ?」


 嗅いだ以上感想を言わなければ失礼に当たると思ったので、演技を入れながら感想を述べるとエルさんは嬉しそうにする。


 ―――ささ、食べてみなさい。おったまげるわよ!


 勿論こんな言葉遣いはしていないが目でそう訴えかけてくるのでフォークの先に突き刺さったケーキを鼻の前から口の中へ移動させる。


 モグモグ、モグモグ


 舌に広がる確かな甘みを噛み締め、鼻から抜けるカカオの香りを堪能する。


 そこで俺は首を傾げた。もちろん心の中ではあるが。


(確かに美味い。紛れもなくチョコレートだ―――でも足りない。俺が知っているチョコレートには程遠い……)


 そう、チョコレートの完成度が低いのだ。

 しかし、これに関しては仕方がないとしか言えない。


 そもそも俺の知っているチョコレート―――つまり21世紀の地球における完成されたうえで磨かれ続けてきたチョコレートはレベルが高すぎたのだ。

 そのようなチョコレートとついこの前発見されたばかりの『ショコラーデ』。

 似て非なるものである。


 逆に発見直後でよく元地球人である俺にチョコレートであると思わせれたな、と称賛したいくらいだ。


 しかし、俺の中でのスイーツとしては欠陥品であることに変わりない。


「―――あら、お気に召さないようね」


 そんな俺の内心を敏く感じ取ったエルさん、いやフィリグラン伯爵が俺に問いかけてくる。

 その声色は先ほどまでの優しくも凛としたものではなく、威厳とナイフのような鋭利な美しさを孕んでいた。

 およそ子供に向けていいような声じゃない。俺を一人の貴族として見ている証である。


(ここからが本番か……)


 前世の俺にはなかった貴族の青い血が第六感を発揮し警戒の信号を発する。


 来るぞ、備えろ―――と。

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