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59.ヴァンティエールではない天才

結局、数ある料理の中からど・れ・に・し・よ・う・か・な・か・みさ・ま・の・言・う・と・お・り・な・の・な・の・な―――と適当に選び、おそらく外れと思われる料理を詰め込んだ俺はその後、大満足な顔をしたリア姉と共にディーおじさんから戻ってきた父上に引き渡された。


 ディーおじさんが来た道を戻っているのを見送る。

 つまりはそういうこと。あの人はどれだけ食べるのだろうか。


「二人とも楽しかったか?」

 おばあ様と叔父様への挨拶を終えたからなのか少し顔色の良い父上が聞いてくる。

 ディーおじさんのおすすめを大層気に入っていたリア姉は「はい、お父様。とても楽しかったですわ。」と笑顔で応え「それはよかったな。―――アルは楽しかったか?」と父上の再度の質問に俺は「…はい。」と答えた。




 腹がパンパンの状態でもやらねばならないことはまだある。

 おじい様登場直前に各伯爵家とは挨拶を交わし終えたけれども、このパーティに参加している貴族家は伯爵家の他にもいるため挨拶周りはまだ終わらない。



「久しぶりだねベル。元気にしていたかい?」

「ああもちろんだ。そちらこそどうなんだ、ギル。」


 後半戦最初の挨拶相手は今現在、父上と仲良く会話している銀髪優男貴公子――ギルベアト・ネルフ・ゼーレ=ゼ―シュタット公爵代理だ。

 代理というのはその名の通り公爵家当主の代理のことを指す。

 なのでギルベアト本人は次期ゼーレ公爵でしかないが今夜限り公爵家当主と同格の存在というわけだ。この会場内でおばあ様、ロドヴィコ叔父様に次いで上から3番目の身分である。


 何でも父上とは学園時代からの付き合いらしい。父上の友人なのだ。

 また、名に『ゼーレ=ゼ―シュタット』が入っていることと《《次期》》公爵であることからギルベアトはおばあ様に対して妙に弱腰だったあの宰相の孫だということがわかる。


「子供が生まれたそうじゃないか、本当におめでとう。名前は確かリュカだよね?『光を与える者』か……随分と大きく出たじゃないか。」

「はっはっは、ヴァンティエールだからな。」

「はは、その言葉だけで納得させられてしまうよ。」


(父上があんな風に笑うこともあるんだ…。)

 あそこまで大きく笑う父上を俺は見たことがない。貴族としての一面でも家族に向ける一面でもない、新しい父上の一面を見ている気がする。


 俺とリア姉を完全に放置して話し込むお二人さん。

 仲がよろしくて結構結構、にこにこしているだけでいいのでこちらとしてもありがたい。

 話も飛んでこなそうなので二人の会話が終わるまでの間ぽけーッと待っていよう。




 ―――大体20分くらいかな?

 昔の思い出話に花を咲かせていた二人だったがギルベアトの方がふと思い出したようにポケットへ手を突っ込み丸っこい何かを見て「もうこんなに経ってしまったのか。」と言っている。

(あ、懐中時計だ…。いやはや、何処の世界にも天才はいるもんだ)

 一人感心しているとギルベルトの翡翠色の目が俺の蒼色の目と初めて合った。


「いや、すまないね。つい懐かしくなってしまって…。初めましてオレリア嬢、アルテュール君。私はギルベアト・ネルフ・ゼーレ=ゼーシュタットというんだ」


 ギルベアトが挨拶してきたのでまずはリア姉が「初めまして――」と自己紹介しようとしたところでギルベルトが「すまない」と手のひらをリア姉に向け中断させる。


「―――申し訳ないのだが実はこの後用事があってね、時間がないのにベルと話し込んでしまったよ。二人ともこの度はおめでとう。ベルの友人として心からお祝いさせてもらうよ。」

「「…ありがとうございます。」」


 どうやらお急ぎのようだ。そしてそのお急ぎになってしまった原因がお喋りにあるらしい。

(なにやってんだよ…)

 リア姉もそう思ったから俺と同じでお礼の言葉が出るまでに一拍を要したのだろう。


 子供二人に呆れられていると気づかないギルベアトは先ほど懐中時計が出てきたポケットに手を突っ込み何やらガサゴソしている。


「あれ?おかしいな…。…あ、つながった。―――二人にお祝いの品があるんだ。受け取ってくれるかい?」


「「……喜んで。」」


 公爵代理からの願い事を断れるわけない俺たち二人は控えめに了承する。返答に二拍遅れたのはポケットガサゴソと意味の分からない独り言の分だ。

 そして―――

「お、あった。」


 ポケットに手を突っ込み嬉しそうに声を出す貴公子がとりだしたのは明らかにポケットに《《入らない大きさ》》の色紙で梱包された二つの箱だった。


「「!?」」


(なんじゃそりゃっ!)


 人は本当に驚くときは声すら出ないらしい。

 何かの幻覚を見せられているのではないか。目を擦りパチパチとする。しかし、目の前には確かに二つの箱があった。


「はぁ…。ギル、私は知らんぞ。」


 父上は驚くのではなく呆れていた。どうやらこの摩訶不思議な現象を何度も見たことがあるらしい。あと、知らんぞってなんだ?


 俺の脳内に浮かんだ新しい小さな疑問はすぐに解決される。


「ゼーレ公爵代理閣下。あなたですか、私の魔法を組み替えたのは…。」


 後ろから声がしたので振り向くとそこにはいつの間にかルッツさんがいた。

 怒っている。

 口角が上がっていて一見すると笑っているように見えるのだが目が笑っていない。


(絶対、ギルベアトだ・・・)


 あの摩訶不思議な現象はギルベアトの魔法によるものだろう。

 そしてその魔法は先程の独り言の最中にルッツさんのこれまた何かしらの魔法を突破して使われた。

 しかもルッツさんの魔法は誕生会の治安を守るためのものだと予想できる。

 俺も魔法使って注意されたもの。


「あははは・・・。それでは」

 ギルベアトは自分がやってしまったことを理解したのだろう。

 わざとらしく笑い退場していった。


(なんでゼーレ公爵はあの人を代理として送り込んできたんだろう・・・。)


 ギルベアトにもらった箱を抱える俺の脳中にまた新たな疑問が生まれた。


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