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58.『迅雷』のおすすめ

「アル、だめよ?」

(ちぇっ、バレたか。)

 リア姉の手を引きそのまま会場の外に出ようと出口に近づいていくが途中でリア姉に気づかれ、今度は逆に手を引かれてディーおじさんと話している父上のもとへと連れていかれる。


 誕生会は後半戦に突入していた―――。


 皆が場の雰囲気を楽しみ始め、楽しそうな声が少しずつだが聞こえるようになってきたころだ。

 リア姉も初めはずっと貴族モードでいたが今は所々で素の自分を出したりして楽しんでいる。リア姉と同い年か少し上の貴族の子弟たちが微笑むリア姉を見て顔を赤らめたり、ポーズをとって気を引こうとしていたりなど結構うざい。美人さんって大変なんだな。


「お~、リア嬢久しいな!少し見ないうちにえらく別嬪さんになったのぉ。」

 ディーおじさんが俺とリア姉の接近に気づくなりすぐにその巨体を振り向かせトレードマークのたてがみの様な髪の毛を揺らしながら話しかけてきた。


 ―――ディーおじさんと初めて会ったのは忘れもしない1歳の北方連盟集会、じいちゃんの肩の上でだ。

 何故かあの時気に入られたらしく、以来毎年開かれる北方連盟集会の他にもたまに会い話している。直近では近衛騎士団長オルデンとの稽古中に「邪魔するぞ~」と入ってきたときだ。


 シアンドギャルド要塞最高司令官のじいちゃん、王都の魔導学園で教師をしているばあちゃん、かなり前に当主の座を息子に譲り自由を満喫しているディーおじさん、平和なスレクトゥで事務処理と訓練を行うオルデン、それプラス俺が今度師事を受ける予定の『拳神』は王立学園での友人らしい。

 この中でダントツに暇なディーおじさんが次に暇なオルデンのもとを訪ねた時に偶然俺がいた。そういうわけだ。

 ディーおじさんが譲った当主の座というのはヴァンティエール家を筆頭とした北方連盟でナンバー2を務めるブリッツシュラーク=シュトゥルム侯爵家のものだ。

 かの侯爵家はばあちゃんとルッツさんの生家――カーティス伯爵家と同様に魔法の名門であるが、魔法全般に関して比類なき実力をもつカーティス家とは違い、雷魔法という唯一無二の魔法だけを極めた家である。

 雷魔法はブリッツシュラーク家の門外不出の魔法だ。分かっていることはそれが複属性魔法であるということだけ。

 一度リア姉と一緒に「教えて~」と頼んだところ「それはできん」と言われたことがある。超真面目な顔で。

 そんな門外不出の雷魔法を自由自在に操り学園で、戦場でと暴れまわったディーおじさんは『迅雷』の二つ名を持っている。

 実際に見たことはないのだが、何でも雷を放つだけでなく身に纏い身体能力を向上させるらしい。

「お久しぶりです、ディーおじ様。綺麗だなんて恥ずかしいですわ。」

「はっはっは、本当のことだからな。―――学園の方はどうだ、楽しいか?」

「ええ、それはもう。」

「それは良かった。…そうだ聞いてくれ、マクシムの奴が手紙でうるさいのだ。この前は――」


(たてがみがぶわって逆立つのかなぁ。)

 そんなことを思いながらいつもより気持ち少し整えたくらいのたてがみを眺め、楽しそうに会話する二人に放置される俺。

 先ほどのロドヴィコ叔父様との会話で疲れていたから丁度良かった。

 父上はというと二人の会話を聞いて微笑んでいながらもある一点に注意を向けている。

 おばあ様たちの方向だ。多分次くらいに挨拶の順番が回ってくるのだろう。タイミングを見計らっているようだった。

 そして、そのタイミングとやらになったのか楽し気に話すリア姉とディーおじさんの間を割って入っていく。


「ディーウィット殿、私はこれから義母上と義兄上のところへ挨拶に参らねばならないのです。二人をお願いすることはできますか?」

「王妃殿下のところへ行くのか。‥相分かった、任されよう。」


 リア姉との話をやめたディーおじさんは真剣な顔をしていた。貴族の世界というのは切り替えの早い人が大成する世界なのかもしれない。


「よろしくお願いします。―――アル、迷惑をかけるなよ?」


 父上は去り際に俺を見て釘を刺してきた。

 今日はルッツさんとの会話中に食事していたディーおじさん・ティバルト・グングの三名を見ていたり、エルさんと一緒に父上をからかったり、リア姉と会場のど真ん中でおじい様の言葉に大きく返事をしたり……と色々やっているので悔しいが何も言い返せない。


「…任せてください。」

「…頼んだぞ?ディーウィット殿、では―――」


 何とか絞り出した俺の声を聴いて少し呆れながらも父上はおばあ様たちがいる方向へ歩いて行った。



◇◇◇



 父上が去り、俺、リア姉、ディーおじさんの3人でこれから父上が返ってくるまでの時間何しようかという話の途中、隣にいるリア姉が俺の服の裾をくいくいと引っ張る。身内じゃない女の子に是非ともやってもらいたい。

 リア姉が何か言いたそうだったので、耳を頭ごと近づける。

「(アル、私お腹がすいたの。アルもでしょ?ディーおじ様に案内してもらいましょ)」

 リア姉どうやら腹減ったらしい。ディーおじさんはともかく俺とリア姉は誕生会に参加してからここまでの数時間少しの果実水以外は何も口にしていないので納得だ。

 ただ、それくらい自分で言ってほしい。俺は疲れてるんだ、めんどくさい。

「(え~、リア姉が頼みなよ。)」

「(淑女がお腹すいただなんてはしたないでしょ?)」

 なるほど、でもその必要なくね?だって―――

「(ディーおじさんには本性バレてんだから――)痛って!」


「ん?坊主どうした。」

 俺の突然の悲鳴に何をしようかと俯きながら考えていたディーおじさんが反応する。


 ―――リア姉ヒールの角で俺の足踏みやがった。


「え、あ、いやぁお腹が痛くなるくらい腹ペコだからご飯とか食べられないかなぁと思って。ディーおじさんさっきヴィントホーゼ卿とヘクサゴーン卿と一緒に美味しそうなもの食べてたから俺も食べたいなぁって。はは‥‥‥。」

「そう言うことなら待ち時間は飯を食って潰すかのぉ。坊主がこう言ってるがリア嬢はどうする?」

「アルが言うのなら、私もついて行きますわ。」

(このやろぉ……)

 心の目で涼しげな顔をしているリア姉を睨むがそれだけにしておく。勝てないもの。


 行くぞ、と言い歩き出す巨人の後を追う。


「坊主は何をしでかしたのだ。」

 先ほどの俺と父上のやり取りのことだろうか。ディーおじさんが問いかけてきたので「いろいろと…。」と適当に応え「そうか。」「そうなんです。」と会話していると目的地に着いた。



(おぉ~~。)

 あたり一帯が料理料理料理だ。

 その一つ一つに超一流の料理人の魂と言えるような何かが宿っていると感じることが不思議とできる。料理が語り掛けてきているかのよう。

 隣にいるリア姉も淑女のたしなみとしてよだれを垂らさずにしているが、眼は宝石《料理》に釘付けだ。


「ほれ、」

 いつの間にか人数分の皿を持ってきたディーおじさん……ん?違う。倍以上はある。

「ディーおじさん、まだ食べるの?…お、ありがと。」

「ありがとうございます。」


 俺とリア姉に一枚ずつ皿を渡したディーおじさんは自分用の皿を6枚持っていた。


「ん?そりゃうまいからの。」


 ルッツさんとの会話の合間に見ただけでも相当な量をティバルトとグングと共に食べていたにもかかわらずまだ足りないらしい。燃費の悪い体だ。

 どれにしようかのぉ、と楽しそうに料理を見渡すディーおじさんには悪いが俺とリア姉はどれが何なのか分からないのでおすすめを聞くとしよう。

 俺と若手料理人だけが新料理を出しているわけではない。超一流の料理人たちも新作や既存の料理にアレンジを加えているのだ。

 ディーおじさんのように馬鹿食いできない俺たち子供は少ない数で当たりを引かなければならない。もちろんすべて美味しいに決まっているのだがやはりその中でも当たりはずれはあるだろう。


「ディーおじさん、どれがおいしかった?教えて。」

「ディーおじ様お願い。」


 リア姉もマジだ。

 光り輝く料理から一旦目を放し考え込むディーおじさん。

 長考している。

 頭の中であれでもないこれでもないと厳選してくれているのだろう。意識しなくとも期待が膨らむ。

 俺とリア姉が固唾をのんで見守る中、ついにディーおじさんが目をカッと開き料理の名を口にした。


「―――エッグベネディクト、エスカルゴ、タルトタタン…この三つが良かったのぉ。あっちだ、着いてこい!」

「聞いたことのない料理名ね、楽しみだわ‥‥‥アルどうしたの?早く行くわよ」


「ほっといてくれ…。」


 膨らみ切った期待が破裂する音が確かに俺の身体の中に響き渡った。


(その3つ、いやって程食ったんだって……。)


 少ない期間だったが何度もトライ&エラーを繰り返し若手料理人と一緒に頑張って創った料理が3つとも褒められたことは嬉しいが、嬉しくなかった――。

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