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49.お仕置きだ

 ルーリーが寝ていたことからわかる通りもうすでに子供たちは寝ていていい時間だ。比較的元気にふるまっている俺もさすがに今日は疲れているのでばあちゃんが部屋から退出して数分間グンター達とお喋りした後自分の部屋に帰るために部屋を出る。

 ちなみにだがミラは子供たちの部屋で今日は寝泊まりするらしい。随分となつかれていたようなので問題ないはずだ。朝起きた時のルーリーの慌てようは気になるが。


「若様、右です。」

「…つまずいただけだ。」

「歩きづらいようでしたら改装を上奏じょうそう―――」

「やめてくれ」

かしこまりました。お気を付けください。」

 このやり取りだけを見ればおじい様なんかは「反省しておるのか?」と言ってきそうだ。ただ俺はこれくらいがちょうどいいと思っている。プライベートの場でも外と同様に堅苦かたくるしくされたらたまったもんじゃないのでしっかりするのはおおやけの場所だけで十分だ。時と場所さえわきまえればそれでいい。

 このことは王宮中の帰り道で堂々とハッツェンとマリエルに伝えた。それを聞いていた父上は苦笑していたが…。


 問題なく・・・大きな問題は特になく自分の部屋に着き、中に入る。すると―――

「おかえりなさいませ、アルテュール様。」

 謹慎きんしん中のハッツェンが出迎えてくれた。

 俺が彼女に下した罰はきわめてシンプル―――「誕生パティーが終わるまで屋敷から外に出るな」だ。

 裁量さいりょうは王妃殿下と父上に任されたのだ、文句は言わせない。たとえそれがぱっと見軽くてもだ。

 それにこの罰は対外的に発表したものでもないので内容も結構適当。屋敷にこもらせていれば外の人間は屋敷内でどんな罰が行われているのかを知る術がないし、仮に聞かれたとしても(誰が聞いてくるかは知らんが)俺は「それはもうとんでもなくきつい罰ですよ。」と言えば良いだけだから、厳しくする理由が見当たらない。

 ただ一応屋敷内の使用人に示しを付けなければならない。これがないと使用人たちに「あ、ミスってもほとんどおとがめないのね」と誤解されかねないからだ。なのでハッツェンは屋敷の中で罰ゲームみたいな量の仕事をこなすことになっている。

 今は俺の部屋の掃除だっけかな?ちなみにハッツェンには日に3回俺の部屋を掃除するようにと言ってある。ほこり一つ残すなよ、と付け加えて。―――あぁ、なんて厳しい仕事内容なのだろうか…。

 もちろんこれ以外にも仕事は山ほどあるのだが彼女は極めて有能なので、少し優秀くらいの人間ならば音を上げてしまうような仕事量でも余裕でこなす。


 つまりはほぼ罰なし。彼女は罰を与えなくても十分に反省したし、同じような過ちを繰り返すほどの間抜けでもない。罰というのはそれができない者のためにあるのだ。

 であれば体裁ていさいを整える以外の罰は不必要だろう。このやり方が間違っていれば父上が止めてくれるはずだ、「それは違うぞ」と。しかし馬車の中で報告しても止められなかった。問題ないということだ。


 それよりも、だ―――。

「ハッツェンなんだその口調は。俺は先ほど王宮で何と言った。」

 彼女はいつも俺のことをアル様と呼ぶが、今彼女の口から出てきた呼び名はアルテュール様だった。

「・・・屋敷の中では何時も通りの口調で良い、と。」

 正解だ。俺は馬車へと続く帰りの王宮内でそう伝えたはず。

 ハッツェンがしゅんとしているのでやめてあげたいが、こればかりは譲れない。なので強めに問い質す。

「わかっているじゃないか。じゃあなんだ今のは。」

「申し訳ありませんでした。アル様」

 悲痛ひつう面持おももちで呟くハッツェン。彼女は真面目だ。だからこそ自らの失態で主人である俺に恥をかかせてしまった自分なんかが…、などと思っているのだろう。流石にアル様呼びがいやでいやでたまらないからの表情ではないはずだ―――え、違うよね…?。

「うん、それでいいんだハッツェン。ごめんな強い言い方しちゃって。」

 責めるようにした後で優しくする。DV癖へきのある彼氏みたいじゃないか・・・。

「いえ、私が悪いので…。」

 一応の納得を見せてくれるハッツェンだが思考がネガティブな方向に駆け出している。

 そして情けないことに俺はどうすることもできない。何を言っても彼女は「はい、分かりました。」と言うからだ。

 義務的にアル様と呼ばれても何も嬉しくない。友達がいないガキ大将がお前は俺の友達だ!っていうのと同じだからね…。それは悲しすぎる。

 以前と同じくアル様と呼ぶのが当たり前だと思ってほしいのだ。

(しょうがない。―――行けマリエル、君に決めた!)

 マリエルに目線でそう言う。

 当のマリエルは一瞬「?」という顔をしたが、俺とハッツェンの両方を交互に見て俺が何を言わんとしたのかを察してくれた。偉いぞマリエル。

 ただマリエルから出た言葉は俺が期待していたものではなかった。


「ハッツェン。私はまだ若様とあなたと出会って間もないのですがこれだけはわかります―――今のあなたの態度が一番若様を不快にさせる。王宮でのものよりもずっと…。」


(え、強くない?言い方。)

 慌ててマリエルを赤と白のボールに戻そうとするが時すでに遅し、既に技は放たれてしまっている。

 俺はただハッツェンを慰めてあげて欲しかっただけなのに…。これでは逆効果では?そんなことを思っていた時期がありました。

「そうですね…。マリエルの言う通りです。アル様を悲しませてどうするのですか―――よしっ」

 脳内で「不快」を「悲しみ」に勝手に変換へんかんし、頬をパチンと自分の両手で叩き気合を入れているハッツェン。可愛い。

 気が付けば暗かった顔がいつも通りの表情に戻っていた。

「すみませんでしたアル様。切り替えます。」

「お、おう。そうだな、そうするといい」

「はいっ。」

(なんだかよくわからないがとりあえずマリエルーーーグッジョブ。)

「アル様、お部屋の清掃が終わりました。今日の業務はこれにて終了です。―――お休みなさいませ。」

 マリエルと揃って「お休みなさいませ」と言い部屋から退出しようとしているのを引き留める。

「待ってハッツェン。」

「どうしました?」

(うん、よかった)

 いつも通りの反応に戻っていることを確認できて少しホッとする。じゃなくて…。

「マリエル、ハッツェンは今俺を悲しませてしまったと言ったよな?」

 少し意地の悪い表情をつくりながらそんなことを言う。

「はい、間違いなく言っていました。」

 そんな俺に対して小悪魔モードのマリエルは妖艶な笑みを浮かべながら返して来る。

 二人の大根役者による猿芝居だ。

「ご主人様を悲しませるいけないハッツェンには罰が必要だよな?」

「はい、確かに」

「へ?」

 とんとん拍子で進んでいく劇にハッツェンはついて行けない。

「よしっ。いけないハッツェン、お前に罰を与えよう。―――俺が寝るまで傍にいること、これを命じる。お仕置きだ…。」

 俺の意味不明な発言に一瞬目が点になるハッツェン。マリエルはいつの間にか小悪魔モードが解けて呆れていた。

 しかし俺は止まらんぞ、数時間離れていただけでハッツェン成分が枯渇こかつしているのだ。


「分かりました。いけないハッツェンにお仕置きをくださいませ、アル様。」

 混乱から立ち直ったハッツェンがベットに座り手を広げて微笑みながらそう言ってくる。彼女も立派な大根役者になったようだ。

「夜は長いぞ、とてもつらい思いをすることになりだろう。その心意気あっぱれだ…。いざ尋常じんじょうにライドオン!」

 なに言ってんだろう…。

 迷言めいげんを吐くや否や俺はハッツェンのもとに駆け出しその柔らかな太ももの上に飛び乗り、彼女のぬくもりといい香りに包まれてすぐに寝てしまった。

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