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16.アイゼンベルク城にて

時は約ひと月前に遡る―――


ヴァンティエール辺境伯領より南―――王都アイゼンベルクの中心<黒狼の鉄城>の異名を持つアイゼンベルク城の一室にて一人の老人が頭を悩ませていた。


「むぅ、如何したものか・・・」


何度目かわからない唸り声をあげ、くすんだ金色の髪をかき上げる。

細められた、海のように深い蒼色の瞳。一目で傑物だと判断することができる。


しかし彼は今大変悩んでいた。

「パパ、お誕生会行っちゃおっかなぁ~」


そう、彼は今、眼に入れても痛くないほど可愛がっていた娘と去年生まれたばかりの娘の息子が参加するパーティーに行くかどうか悩んでいたのだ。


「あなた様、ご自分の御立場を考えてくださいませ。 あなた様が行けば最悪の場合国が傾きます。」


そう言って老人を窘めているのはプラチナブロンド碧眼の美女。

黒の薄いネグリジェしか着ていないことからここが二人の寝室であることが分かる。

そのネグリジェはミニアチュールのような繊細な刺繍が施されており実際に、これ一枚で平民の給与一年分が吹き飛ぶ。


「しかしなぁ、イアマ。アデリナの誕生会なのだぞ、しかも6歳と1歳の孫が二人もいる。ここで行かずして何が父親だ」

「あなた様はあの子の父親である前にこの国の父でございましょう。しかも、お誕生会ではありません。北方領主たちの会合でしょう?あなた様が行って如何致しますか、余は北部の味方であると高らかに宣言なさりますか?孫の顔を見る前に、先代の方々の顔を見ることになりますよ?」


「・・・」


ど正論で論破され、老人は黙る。ぐうの音が出ないとはこのことだ。


しかし老人―――アルトアイゼン王国第21代国王フリードリヒ7世。

クローヴィス・エディング・アダルフォ・シュヴァルツ=ヴォルフ=ディア―ク=アイゼンブルクは少しの間を置き、何とか言い返す。


「じゃ、じゃがイアマ、わしはどうしても行きたいのじゃ。最近はアデリナに会っておらんし、6歳のオレリアと1歳のアルテュールは会ったことすらないのだ。わしおじいちゃんだぞ。聞くところによればマクシムは参加するというではないか。あ奴、最前線の最高指揮官じゃぞ!?おぬしの言いたいこともわかる。しかし、しかしじゃ。わしもおじいちゃんなのだ。お忍びで行けんかのぉ・・・」


クローヴィスが情けない声で王妃イアマに問いかける。

実にしょうもない言い争いであるが、クローヴィスは本気だ。


「オレリアはともかく、わたくしもアルテュールには会ったことがないのですよ。

わたくしも我慢しているのです。それでもというのであれば、わたくしは止めません。対アマネセルで団結している北方の貴族たちに囲まれてきなさい。―――それを見て焦る他方の貴族たちが団結して一大勢力になり、王権を蔑ろにするようになった結果、国が乱れ、オレリア、アルテュールを含めた国の子供たちが未来に憂いを持つような国にする覚悟があなた様にお有りでしたら、どうぞご自由に。」


あり得なくはない未来を語るイアマ、そこにあるのは憂いではなく怒りだった。


(いかん、キレとる)


クローヴィスは虎の尻尾をかかとで思い切り踏んづけたことに今更ながら気づく。


イアマとて、キレたいわけでキレているのではない、彼女とて人の母であり祖母でもある。娘の第3王女アデリナやその子供たちにも会いたい。

しかし、己の立場がそれを簡単には許してくれない。


王妃には多くの仕事がある。後宮を取りまとめたり、大事な場面で国王である夫クローヴィスを陰ながら、時にはその横で支えなければならない。この他にも沢山やることはあるのだ。


それなのに公の場では誰よりも頼りになる貴高き夫クローヴィスはここ1か月毎晩のように問いかけてくる。


「アデリナや孫たちの誕生会へ行ってはならぬか?」と。そして「いけません」とイアマが言うとしゅんっとなりいじけだす。

―――そりゃキレる。


そんな、おかんむりの最愛の人イアマをクローヴィスは全身全霊でなだめ後、「はあ」とため息をつきながら一筆したためる。


未だに未練たらたらであった。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




そして今、遠い北の地で未練たらたらの国王による手紙が勅使の者により代読される。


「国王陛下のお言葉である!」

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